押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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動かぬ海の城(後編)

「交換方法を教えるぞ……」

 

 更衣室にて潜水服に着替えた私達は応急工作員から修理の仕方を指導してもらう。

 事前にドローンで破損箇所を見た所、舵は全壊、スクリューに至っては根元から食い千切られている様な状態だった。本来であればドック入りしなければならない程の破損、工作員の説明も覚束ない。彼らの業務の範疇を超えているのだ。

 イージス艦は非常にデリケートな兵器だ。破壊されたスクリューもぶった切って溶接するだけでは駄目らしい。私にもっと魔力があればヒールの対象を無機物に拡大して一発で直せたのだが……

 

「理解出来たか?」

「私は分かりました。魔女様は……」

「……彩芽、お願いする、です」

「了解です」

 

 先程背中を任せると言ってしまった手前非常に恥ずかしいが、ここは彼女に任せて私がその背中を守る事にしよう。この作業はこれからの真弓達の運命を決める重要な作業なのだ。

 そこで目の前の彼が言った。

 

「自分も共に作業をしよう。一人より二人でやった方が早く済む」

「でも、危ない、ですよ」

「俺だって自衛官。君達の様な子供にばかり無理をさせてはそれこそ末代までの恥だ」

 

 そう言うと彼もヘルメットを被る。

 正直なところ彩芽だけの方が守り易いのだが……まあ、真弓の魔法による援護もあるし何とかなるだろう。

 

──いや、何とかするのだ。私が。

 

「では、行く、ですよ」

 

 そう言うと、私達は紅く濁った海へと飛び込んだ。

 

 

──────

 

 

「ほ、本当に行ったんだ……」

 

 咲良達三人が海に潜ったという報告を聞いた真弓はその勇敢さに絶句する。

 確かに自分も魔法使いとなり魔物相手に戦う力を得た。しかし陸で戦うのと水中で戦うのとでは全く勝手が違う。完全武装の兵士が血に飢えた鮫相手に水中で勝てるのか、という話だ。

 だが、それでも咲良と彩芽、更には魔法使いではない応急工作員までもが潜った。彼女はぐっと拳を握り締める。

 

 と、その時だった。

 

「レーダーに感! 敵襲です、十二時から六時の方向、距離2キロ、数は不明!」

「こちら上部見張り台、魔物らしき生物が接近中! 数およそ50、60……依然として増加中!」

「総員戦闘配備。真弓」

「は、はいっ! 装着、"装填"!」

 

 報告を受けた東郷の指示で真弓は魔装──旧帝国海軍の士官服を身に着け、腰に提げられた軍刀を抜く。そこから放たれた魔力は『まや』の兵装に纏わりつく。

 猶予は少ない。この空間ではレーダーの類は効きが悪く、殆ど目視圏内の敵しか感知出来ない。自衛官達が慌ただしく動き回り、主砲やCIWSが迫りくる魔物へ向けて旋回する。

 それだけではない。空中に四門の30.5cm砲、七門の15.2cm砲、十門の7.6cm砲、八門の4.7cm砲が出現しそれぞれが魔物に向けられる。

 

「全門斉射ァ!!」

「ッてぇーーっ!!」

 

 やがて全ての準備が整った頃に土方が叫び、それに呼応して真弓が刀を振り下ろす。

 刹那、轟音と閃光が空間を満たす。全ての砲門が同時に火を噴き、無数の光弾が水面に着弾し激しく水柱を立てていく。紅く濁った水面が赤黒く染まり、しかし魔物の進撃は止まらない。

 

『こ、こちら右舷デッキ! 艦尾に巨大な影を確認!!』

「ッ、まずい! 魚雷発射!!」

 

 敵は海面付近のみを泳いでくるのではない。当然ながら深い位置から襲ってくるものもいる。

 土方は焦った様な声で指示を飛ばす。艦尾には作業中の三人がいるのだ。

 

 そうしてまやに装備された短魚雷が発射されようとした──瞬間。

 

 キンッ。

 

「ッ……な、なに今、一瞬……」

「う、海が、割れた……?」

 

 真弓と土方が呟く。彼らの目には、艦尾付近の海面がほんの一瞬だけ切れた(・・・)場面を映していた。

 その直後、ぷかりと両断された魔物が浮かび上がってくる。まるで刃物で斬ったかの様なその断面は、誰がどう見ても先程潜った魔女がやった物だった。

 

「あ、あんな事出来るんだ……あんな大きな魔物を……」

 

 両断されたそれは全長40メートル程の首長竜の様なシルエットをしている。その後も次々と死体が浮かび上がり、それを目にした者達はどれだけ魔法が無法な存在であるのかを再認識する。

 

……実際には咲良は一切魔法を使っていないのだが、世の中には知らない方が幸せな事もある。

 

 

──────

 

 

 海へと潜り、修理を開始した直後魔物達の襲撃が始まる。大方私達の臭いでも嗅ぎ付けたのだろう、想定内だ。私は修理中の二人を庇う様に剣を構える。

 不意に直下に気配を感じる。

 

「……シーサーペント、大物、ですね」

 

 襲い掛かってきたのは大型の首長竜の様な見た目をした魔物、シーサーペント。全身を覆う分厚い鱗は如何なる攻撃をも通さず、泳ぐスピードは馬に匹敵する。その口からはウォーターカッターを放ち如何なる物も両断してくる……

 私は力を込めて剣を振る。水中では衝撃が伝わりやすく、斬撃も飛ばしやすいのだ。私の放った斬撃はシーサーペントの胴体を縦に両断し、血を溢れさせながら力なく浮かび上がっていく。

 

 次に襲い掛かってきたのは無数の小魚の様な魔物、ヴェンタニル。小魚と侮る勿れ、奴らは今着ている潜水服くらいなら容易に食い破り、人体の穴という穴から侵入して内部を食い荒らしてくる。

 彩芽達に群がられると面倒だ。私は指先を少し斬り血を流す。ヴェンタニルの群れはその臭いに引き寄せられ、私の方へと群がってくるのでそこを全て二枚におろす。一匹でも逃せば厄介な事になるので一秒くらいの間に丁寧に二千体程確実に殺す。

 

 その他にも半魚人(サハギン)、シーヴィシャップ、グレッグタートルなどレインフォートで見たことのある海魔共が大勢やってくるので悉く斬り落とす。

 

 そうこうする事十分、彩芽達の修理も大詰めという所で大物が現れる。

 

「クラーケン……」

 

 暗い海底から無数の触手が伸ばされる。

 タコにもよく似たそれの名は『クラーケン』。レインフォートにおける船の沈没原因第三位の大型魔物である。平均的な体躯は大体50メートル程だが……

 

「大きい……!」

 

 今、まやの直下に潜むそれは100メートルはあるのではないだろうか。あんなものに絡み付かれてはさしものイージス艦といえども一たまりもないだろう。

 どうやら真弓もこの存在に気付いたらしい。艦から四本の魚雷が発射され、クラーケンに向けて突き進む。やがて水底に閃光が走り、重低音と共に衝撃が来る。

 だが、シーサーペントならば致命打になり得たであろうそれもクラーケンには通じなかった様だ。仕方のない事だ、奴には衝撃の類は一切通じない。倒すには少々コツがいる。私は伸ばされた触手を斬り落としながら左手で杖を持つ。

 

「ふんッ」

 

 剣でクラーケンの本体までの水を押しのける様に斬る。

 

「"ヴァルエリクト"」

 

 そうしてほんの一瞬真空の道が出来た所に黒い電撃を放つ。瞬きすら遅い、そんな時間で電撃はクラーケンまで届きその体内を駆け抜け焼き尽くす。クラーケンの弱点は電気なのだ。

 水中で電気を放つと彩芽達にも被害が及んでしまう。だから態々真空の道を作ったのだ。普段ならシールドで覆えば済む話なので面倒極まりない。直接奴の元に行って体内から斬り裂いてもよかったがあまり彩芽達から離れたくはなかった。

 

 プスプスと焦げ付く大ダコ。カケルが見た時は美味しそうだののたまっていたが、今見てもやはり不気味にしか見えない。

 

 

 それ以降は大した襲撃も無く、修理が終わった私達は船へと上がる。

 上がった時、私の潜水服だけやたらとボロボロになっていたので彩芽が慌てていたが、単に私の動きに服が付いてこれなかっただけだと知って安心していた。他の人々は何やら引いていたが。

 

「全速前進」

「全速前進、ヨーソロー!」

 

 その掛け声で足元がガタン、と揺れる。見ると艦が少しずつだが進んでいる。どうやら修理は成功したらしい。

 皆が諸手を上げて歓喜する中、私達は帰る準備をしていた。

 

「二人共、本当に帰っちゃうんだね……」

「はい。姫星さんや、春子さんを見捨てられない、ですので」

「……そっか。うん、そうだよね。またいつか会う時があれば何でも言ってよ! ボクに出来る事なら何でもするからさ!」

 

 彼女が言う……また会う時、か。

 私は未来から来た人間で、恐らくあと数日で帰ってしまう。そして私の時代に生きている原初の十一人は……

 

「そうですね、次会った時は魔法使いで集まって……魔法使い女子会なんて開いたりして!」

「いいねそれ! 決定! その為にはまずこの危機を何とかしなきゃね」

 

 私が未来に思いを馳せている間、彩芽と真弓で話が弾んでいた。女子会か、魔法師が集まるとなると春子と十華族当主が集まる訳で、それはつまり御前会議の様になってしまうのではないだろうか。

 

「魔女様も、楽しみですねっ!」

「……そう、ですね」

 

 彩芽が目を輝かせて言うその言葉に、私は濁した返答しか出来なかった。




帰投中の箒にて……
咲良「彩芽、まやに残ってもよかった、ですよ」
彩芽「もうわざと言ってますよね、それ。私が魔女様から離れる訳ないって流石にもう分かってますよね?」


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