押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
「お前なんて生まれてこなければ」
物心付いた時から、私は一体何回そんな言葉を浴びせられた事だろう。
至る所にカビの生えた薄暗く狭苦しい部屋。汁が焼き付いたカップ麺と曲がった吸い殻が散乱したそこに、私とその女は住んでいた。
それは男に捨てられた哀れな女の末路だった。溜め込んだ鬱憤は、同居していた反撃出来ないサンドバッグにぶちまけるしかない。
全てが変わったのは、あの日。
「きゃあああああ!?」
「たずぐぇっ」
「くるなっ、来るなああああッ!!」
街中に悲鳴が響き渡る。
突然現れた化け物共が人々を襲い始めたのだ。逃げ惑う人々が投げられた車に圧し潰され、警官が錯乱しながら銃を放つが全く通用せずに食い殺される。
そんな中、私は。
トン、と女の背を押した。たったそれだけの事で、女は怪物に身体を食い千切られて絶命した。
ゴロリ、と転がってきた頭部。恐怖と苦痛に歪んだ顔。これまで私を苦しめてきたモノ。
「……ハハ」
なんだ、こんなに簡単な事だったのか。
ぐしゃ、ぐしゃ、と顔を踏みつける。靴が血で濡れていく。
「アハハハハハ!!!!」
そして、女を殺した化け物がこちらに狙いを定め──
──気付けば、私は皇居に居た。
話を聞けば、どうやら食い殺される直前の私を鈴蘭姫星という少女が助けたらしい。彼女は魔法なる力を使えるらしく、攻撃の通じない化け物共を殺す事が出来るのだという。
私は恐怖した。英雄だの祀り上げられている少女に見られたかもしれないのだ。私の醜悪な一面を。実の母親を殺した場面を。だから私は暫くの間存在感を殺し、静かに過ごしていた。
結論から言えば、姫星は見ていなかった。だが、誰にも見られていなかった訳でもなかった。
「おい、そこのお前……いやあ、実に楽しそうに頭踏んでたな」
ある男にそんな言葉をかけられた時、私の心臓は跳ね上がった。
下卑た表情を浮かべる男は、私が女を殺した所から頭を踏み付けて笑っていた所まで全てを見ていたらしい。皇居は安全な場所だ。安全だからこそ、私は何一つ抵抗する事が出来ない。夜、チラリと胸元に見えたのが議員バッジだと知るのにはそう時間は要らなかった。
男は何やら焦っている様だった。姫星、そして新たに来た二人の魔女。彼女らの台頭は将来的に自らの地位を脅かすのだと考えて、何としてでも彼女らを貶めようと企んでいたのだ。
「お前、アイツらに取り入ってこい。お前なら出来るだろ」
今の私はこの男に全てを握られている。
姫星の契約神だとかいう何某に言えばきっと助けてくれたのだろう。中年の男が年端も行かぬ少女を脅して欲望の捌け口にしているなど、如何なる理由があろうとも大罪だ。遠目で見た彼は、いかにも厳正な判断を下しそうな宿老だった。
でも、この時の私には何一つ考える余裕など無かったのだ。
だから私は、あの二人に近付いてこう言った。
「お、お二人が魔法使いの方、ですよね? あたしずっと見てました、すっごくカッコよかったです!!」
私の名前は柊花音。
世にも醜い殺人者だ──今までも、これからも。
──────
───
─
『まや』での邂逅を終えた私達は皇居へと帰還した。危惧していた襲撃もなく、皇居は平和な一日であったらしい。
そうして食事をしていると、最近知り合った気まずい少女がやってくる。
「ご一緒してもいいですか?」
「あ、花音ちゃん。いいよー」
彩芽が嬉しそうに答え彼女──柊花音が私の隣に座る。
「そういえば、花音ちゃんの誕生日明日でしたよね。どんな神様と契約するんでしょう……」
「あ、そうでした! はあ、あたしが魔法使いに……!」
「そう、ですね……」
彼女の紫の髪を見るとやはり会長が出てきてしまう。ともすれば契約神は月読命だろうか? あまりこの世界の歴史には詳しくないので原初の十一人の契約神など覚えていないのだ。
だが、もし仮に月読命であった場合はかなり状況は楽になる。まあ輝夜の強さは本人の才能もあるのだろうが、出会い頭に幾つもの精神攻撃を仕掛けられるのは強力だ。
「あたし、強くなれると思いますか?」
「……ええ、思いますよ」
原初の十一人はそのどれもが強力な魔法師だった。少なくともそれだけは確実なのだ。
「明日魔法使いになったら、あたしに稽古をつけて下さい。あたし……強くなりたいんです」
「いい、ですよ」
「~~~! 後輩……ッテコト!? 私が姉弟子って事ですよね!」
私達の言葉に彩芽が目を輝かせて言う。
ふんす、と鼻息を鳴らし、得意げに胸を張る。
「まあ私もだいぶ魔力の使い方とか上手くなってきたと思いますし、どんどん頼って下さいね、花音ちゃん!」
「は、はい!」
「貴女はまだ、魔法も使えない、のに……」
「そっ、それでも魔力操作は基本のキですよっ!」
何やら知った様な口をきくが、確かに彼女の言う通りである。魔法の威力も精度も魔力操作技術に依存する。その点彼女は僅か数日で箒に乗って飛び回れるまでに成長した……教える側に回るには充分だ。
とまあそんな会話がありつつその日も終わり、私達はベッドに寝転がる。今日も結構身体を動かしたしよく眠れそうだ……
「……そういえば、魔女様」
そんな時、不意に彩芽が話しかけてくる。
「この前真祖に襲われた時に聞きそびれたんですけど、魔女様の剣って確か……」
「……"勇者"の物、ですが」
ああ、そんな話をした事もあったっけ。
真祖は勇者と戦った時の事を覚えていて、私が持っている剣がカケルの物だという事を指摘してきた。その時に私が言おうとした言葉は彩芽が発砲したからうやむやになったんだった。
でも、この話は正直な所したくない。あまり思い出したくもない。
だから私は一言だけ彼女に言う。
「勇者は──」
「──私が、殺しました」
「困るんですよね、そんなあやふやなので終わらせられると。モヤモヤしちゃうじゃないですか、どうせ魔女様の事だから何か事情があったんでしょう? 怒らないで下さいね、これからまた真祖が襲ってくるかもしれないのに不和の種残しとくなんて馬鹿みたいじゃないですか」
「うう……」
彩芽はそれでは終わらせなかった。いつの間にか私のベッドに移ってきていた彼女は私に乗りかかり顔を近付けて問い詰めてくる。
恥ずかしさで逸らした顔は彼女の手で強制的に戻される。
「わ、分かった、ですから……」
ああ、出会った頃のよわよわ彩芽は何処へ行ってしまったのだろうか。誰かのせいにしたいが私の顔しか出てこない。
仕方がないので十年以上前の記憶を掬い上げる。
「あれは、グロリアード浮遊大陸に招待された、時でした……」
そこからぽつ、ぽつ、と話していく。
グロリアード浮遊大陸、グロリアード王国の王都がある場所だ。旅をしていた私達はその王から直々に招待を受け訪れたのだ。
そして、私達は。
「罠に、嵌められました」
「罠?」
「国王の目的は、私の"無限"、でした。だからカケルとドルズの料理に毒を入れて、私を閉じ込めて、それで」
アリシアが居なくなっていた私達に、入念に仕込まれた罠に抗う術は無かった。
当時の私が扱えた最高火力はリグラ・グレンズであり、私を閉じ込めた"神器"を壊す事は出来なかったのだ。
──否、壊す方法はあった。私が開発途中だったある魔法を使えば。
でも未完成であるそれを使えば、瀕死の二人を巻き込む事は必至であった。
それを知っていて、彼は、カケルは。
私の脳裏に彼の最期の顔が浮かんで消える。
いつもの様に気丈な笑みで、ただ二音だけ言ったのだ。声は聞こえなかったけれど、口の動きで完全に理解出来た。出来てしまったから私は──
全部まとめて、吹き飛ばしたんだ。
花音と咲良に悲しき過去……
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