押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
でも旧題も併記したせいで前代未聞の長さになってしまった
──君の家族は死にかけているよ。
少女を壊すにはその一言だけで充分だった。ただ眠っているだけだ、いずれひょっこりと起き上がってくる、そう信じ込んでいた壊れかけた少女には。
現実逃避によって何とか自我を保っている少女に現実を見せるとどうなるか、分からない者はいない。
「うぇ……あ……」
「姫星殿! き、貴様! 何を言っているか!!」
ノイズのかかる身体で乃木が姫星にその事実を教えた男を睨み付ける。だが、全てはもう手遅れだった。
姫星の目の前に広がるのは、包帯に包まれた重傷者達。
下半身が丸ごと嚙み千切られている者、四肢を捥がれている者、身体に巨大な裂傷が走っている者──いつ死んでもおかしくない、咲良によって何とか延命しているだけの瀕死の人間達。
「ママ、パパ、こはく……」
その中に、彼女の家族もいた。
母親は顔の上半分を血に塗れた包帯が覆い、右手足が無くなっている。父親は左脇腹をごっそりと食い千切られている。弟の琥珀は胴体を包帯で覆い尽くし、膝下が無くなっている。
その誰しもが、上下する胸元を見なければ死んでいると思ってしまう様な重傷者ばかり。
「いや、いやぁ……」
「姫星殿、落ち着け! まだ彼らは生きて」
乃木の姿が掻き消える。姫星の権能によって現世に現れている彼は、彼女がその力を振るえなければ現出し続ける事は出来ない。
彼女は自らの顔を手で覆い、叫ぶ。
「いやあああああああああッ!!!!!」
──────
───
─
姫星が倒れた──自衛隊が秘匿しようとしたその情報は、どういう訳か民間人に露呈する。
それと同時にある風潮が囁かれる様になる。
"魔法使いは危険だ"
精神が不安定な少女が軍隊にも勝る力を持つ。その少女が精神を病めば今回の様に無力になってしまい、仮に錯乱すればそれだけの力が民間人に向けられる事になりかねない。
魔物の脅威に晒されていればこんな風潮はすぐに消えていただろう。だがしかし、先日大きな魔物の襲撃を跳ね除けてから二日、殆ど魔物は襲ってこず民間人の中には楽観論を唱える者も多くなっていた。
現代人にとってはこの過度なストレスに耐えきれなかったのだ。広まる厭戦気分と、姫星の件を隠蔽しようとした事による自衛隊への不信感。
「皆さん! 魔法使いは非常に脆弱で危険な存在なのです! そんな存在に我々の運命を委ねていいものでしょうか!?」
政治家だという男が演説を行う。
民間人の三割がそれに同調した。残りは冷静に状況を判断し、男の言葉を馬鹿馬鹿しいと一蹴していたが、世論を動かすのはいつでもノイジーマイノリティである。
春子の声がその三割に聞き入れられる事は無かった。この状況において、彼女は彼らにとっての安心材料にはなり得なかった。
「どうして、こんな事に……!」
そんな状況下で彩芽は嘆く。
彼らはもう忘れてしまったのだろうか、自分達は未だ安全圏には逃げ出せていないのだ。少し周りを見渡せば分かる筈だ──依然として街は魔物で溢れかえっている事に。
ここは猛暑の砂漠にぽつんと湧いた小さなオアシスでしかない。水が湧き続けなければすぐに枯れてしまう。今、噴出点の一つが止まってしまっている事に皆は気付かないのか。
「兎に角、急ぐ、です……」
咲良が彼らから目を逸らして言う。
今、二人は姫星の元へ向かっていた。彼女を何としても呼び覚まさなければ皇居に明日はない。魔物を焚き付けているのが真祖なのだとしたらこの機を逃すとは思えない。
そして、全方位から向かってこられては確実に犠牲者が出てしまうだろう。仮に真祖本人が来た場合、その対処に咲良がかかり、後を彩芽と魔力無き自衛隊で支えなければならない。不可能だ。
否、もう一人いた。
「……!! あんな所に、なんで!?」
彩芽がある方向を見て驚く。
演説している男のすぐ脇に柊花音は立っていた。彼女は今日13歳の誕生日、魔法は既に発現している筈だ。
この状況を打破する鍵になるかもしれない。二人は箒に乗り彼女の元へと飛んでいく。
「え、魔女様……」
「な、何だね君は!」
隣に立っている男が驚いた表情をするが、そんな事は構わずに咲良は花音の手を引き、無理矢理箒に乗せる。
「なッ、ま、待て!!」
男が慌てるがもう遅い。三人を乗せた箒はそのまま姫星が寝かされている天幕へと到着した。
駆け寄ってきた山南に咲良は「姫星を起こす方法を見つけた」と言い、それを聞いた彼は安堵する。
「あ、あの……あ、あたしはどうしてここに」
「花音、貴女が鍵になる、かも、です」
「え?」
「取り敢えず……魔法、使える、ですよね?」
状況を飲み込めない花音に咲良が言う。花音は暫く硬直した後目を伏せる。
「……いえ、どうやらあたしは魔女にはなれなかったみたいで「そんな事はない、です」
彼女の言葉を咲良はすぐに否定する。
「貴女は魔法師に、なれます。貴女は原初の魔法師、なのですから」
「げんしょ……?」
「……」
『原初の魔法師』──咲良が思わず口を滑らせたその単語に花音は首を傾げ、彩芽は黙ったまま何も言わない。彼女は右目のモノクルを取り魔力を集中させる。二つの瞳が妖しく光り花音の奥底に潜む姿を映し出す。
一つの目に二つの瞳、その不気味な姿に花音は息を呑む。それを気に留める事もせず咲良は話しかけた。
「……いるのでしょう。姿を現して、ください──
『──あらあら、随分と良い目を持っているみたいね』
突然耳元で聞こえてきたその声に花音と彩芽は驚く。気付けばそこに一人の女性がふわふわと漂っていた。
ふんわりとした青白い髪に翠玉色の瞳、人間離れした美貌をした彼女は手に持つ錫杖を鳴らし、咲良に近寄る。
『で、何の用かしら? 彼女に魔法を使わせろ、とでも言うつもり? 契約もしてない人間の命令なんて聞かないわよ?』
小馬鹿にする様な彼女に咲良は無言で手を向ける。
何か様子がおかしい、彼女がそう思った時には遅かった。
「"
『ひゃんっ!?』
咲良の掌から光の鎖が放たれ彼女の胸元に突き刺さり艶めかしい声を上げる。
花音が訳が分からないといった様子で唖然とする中、彩芽は魔力の動きから彼女が何をしようとしているのかを把握する。
「神様を掌握するなんて……そんな事、出来るんですね……」
『ちょっ、な、あ、貴女何なのよ、ひぃんっ!?』
「彩芽、花音、頼みがある、です」
彼女が喘ぐ中、咲良は二人に向き直る。
「私はこれから、姫星の中に入る、です」
「姫星ちゃんの、中に? 深層意識と直接話すって事ですか?」
「はい」
彼女は言う。
まず、花音が契約した神は『
人間の中というのはある種の領域内であり、例えるならば常に神域内に居る様なもの──以前月読命の能力で雲雀の中に入った時にはその権能で
「つまり、魔女様が行ってる間に皇居を守っておいてくれって事ですね」
「そう、です……負担をかける事になると、思う、ですが……」
サギリの能力で中に入っている間に姫星が殺されれば咲良も共に死んでしまう。真祖が見ているとするならばこのタイミングを逃すとは思えない。
ほぼ確実に大規模な侵攻が行われる事だろう。しかし"無限"を取り戻すまであと二日、その間姫星抜きで皇居を守り切れるかと言われれば……だからこそ、迅速に対応する必要がある。
現状の戦力は魔力が無く弾薬も心もとない自衛隊、魔法を使うかどうか分からない花音、そして彩芽。下手をすれば彩芽が一人で大量の魔物の群れと戦い、あまつさえ真祖と戦う事になるかもしれない。
その事実を知ってなお、彼女はただ一言だけ言う。
「任せてください」
確信なんて何もない。魔法だって使えない。仮に咲良が入ってすぐに真祖が襲って来れば彩芽は何も出来ずに死ぬだろう。
それでも、やるのだ。自分が全てを守ってみせる。確かな自信を感じ取った咲良は笑みを浮かべ、自らの箒、そして剣を彼女に渡す。銃弾が尽きた時はこれを使え、と。彩芽はその重みを噛みしめ、背に括りつける。
さて、次は花音だ。
姫星の中から脱出するにはアメノサギリの能力を持続させておく必要がある。発動はせずともよいが、花音には脱出するまでの間魔力を微量流し続けておいて欲しい、と言う。
それ自体は何ら難しい事ではない。アメノサギリの力も借りればその程度の魔力操作は赤子の手をひねるよりも簡単だ。魔法が発現したばかりの彼女でも並行して何かしらの魔法を発動させるくらいは出来るだろう。
「貴女は魔法が使える、です。自信をもって、彩芽に協力してあげて、ください」
「っ……」
咲良が話している間、花音は暗い顔をしたまま俯いているだけだった。
それに彼女は一抹の不安を抱いたが、こうしている間にも真祖による襲撃計画は進んでいるかもしれないのだ。あまり長話をしている余裕はない。
咲良は姫星に手を向け、呟く。
「"暁霧"」
姫星の胸元からモヤの様な物が現れ、咲良を包み込んでいく。
それが完全に覆い尽くす直前、彼女は彩芽に向け言った。
「──頼みましたよ」
「──必ず、守り抜いてみせますよ」
そうして彼女の姿は消え、直後、魔物の襲撃の報が入る。
第二次皇居攻防戦の始まりである。
大戦犯の男。処す。
次回、死闘
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5…10秒で終わるので高評価お気に入り登録よろしくお願いします。
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