南無阿弥陀仏と唱えてみれば   作:ハレテルン

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南無阿弥陀仏と唱えてみれば

 

(無理、か…………)

 

 押さえた腹部からは絶えず鮮血が溢れ、隊服を赤く染めてその隙間から掌に己の臓物の感触を覚えさせる。

 

「ごふっ…………」(何より、この毒……もう、長くない…………)

 

 溢れ出る血を吐き出して、自分の終わりを悟る。

 だが同時に、彼をこれまで生かし続けていた第六感が更なる脅威を警告してきて仕方が無かった。

 

 残された少ない時間の中で、自分の出来る事をする。

 そう決めた少年は師の得物を手に取った。

 

「借りていきます、師匠」

 

 己の得物だけでは足りない。というか、只管に頑丈性を突き詰めたその肉厚の刀身には亀裂が走ってしまっていた。無茶の代償だ。

 

 ズタボロになった隊服で無理矢理に傷口を塞ぐように腰へと縛り付ける。

 そして、駆けだした。

 

 明日(未来)は要らない。その代わりに、生き残った者達を先へと進めさせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩柱の継子である石見金吾(いわみきんご)は命を懸けた。

 元より、鬼舞辻無惨の最後っ屁で(はらわた)の飛び出るほどの致命傷を負った上に、彼の毒によって内臓から蝕まれてしまった結果その命は急速に削られていった。

 それでも、いやだからこそ彼は長い夜を駆け抜けた。少しでも多くの明日へと通じる命を送り出すために。

 故に、その最期にも後悔は無い。

 だが、

 

「ん…………?」

 

 石見金吾は()()()()()()

 仰向けに倒れた彼の視界一杯に広がるのは、透き通るかのような青い空。

 暫く頭の中身が追いつかなかった結果、空を眺め続けていた金吾だったが脳の処理が追いつくと同時に慌てて起き上がった。

 

「……傷が、無い?」

 

 腹部にあった大きな傷。内臓が零れ落ちるほどに広く、そして深かった傷なのだが触れてみれば痛みは無く隊服を捲ればその下には()()()()()()()()()()()()()()()()だけが鎮座していた。

 すわ、自分は“鬼”になってしまったのか、とも思ったが今彼が居るのは晴れ渡る青空の下だ。太陽光が燦々と降り注ぐ道のど真ん中。

 もし仮に、彼が自分の想定する怪物へと成り果てたのなら、今頃ぐずぐずに燃え溶けている事だろう。

 安心はできないが、それでも目下の問題は解決?した。

 それから、

 

「あ、これ師匠の……」

 

 手が触れた二つの得物。

 一つは、少し柄の短い大型の大鉈。元々金吾の得物であり、彼の膂力を存分に活かすために只管に頑丈で柄は短いが両手でも振るう事が可能な代物。

 それともう一つ。片手斧と棘付きの鉄球を長い鎖で繋いだ殺意しかない様な代物。こちらは、彼の師匠が愛用していたものであり、最終決戦の最終戦で金吾が拝借したもの。

 どちらも小さくない傷、特に大鉈の方は刀身自体に大きな亀裂が走っていたのだが今彼の周りで転がるそれらには傷一つ見受けられない。

 本当に、何が起きているのか分からない。

 混乱する金吾だが、とにかく動こうと大鉈は腰の後ろに。師匠の得物は鎖を纏めて腰の左側へと吊り下げた。

 そして立ち上がり、ふと気づく。

 

「羽織がねぇや」

 

 自身の体や隊服、得物が何故だか修復されている中、常に着ていた紺色の羽織が見当たらない。

 少し考え、金吾は当然かと頷く。

 というのも、彼の羽織を無限城内で紛失してしまった。具体的には、氷使いの鬼を相手に身代わりとして粉々に砕けた。

 

 立ち上がった金吾は、どうしたものかと考える。

 周りを見渡せば、見た事も無いハイカラな街並みが広がっている。東京も発展した土地だが、それ以上の街並み。

 何より、

 

(あの頭の上に乗ってる輪っかはなんだ?)

 

 自分をじろじろと見てくる少女たちと、彼女らの頭の上に浮いている光の輪の様なもの。

 見られる事は、どうでも良い。そもそも、この場に居る男女の比率がおかしいのだから気にするだけ無駄というものだから。

 得物を見せびらかすようにしない為に羽織が欲しいのだが、そもそもここがどこなのか分からない為に調達の使用が無い。

 更に更に、少女たちの気になる点はもう一つ。

 

(アレって、“銃”だよな?)

 

 弟弟子が持っていた銃とは更に毛色が違うが、それでもその特徴から少女たちの持つものが銃であると割り出していた。

 同時に、彼の第六感が警告を伝えてくる。

 顔を上げれば、黒いセーラー服の一団が迫って来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その通報を受けて、羽川ハスミはその怜悧な眉根を寄せる。

 

「不審者が居る、と?」

 

「はい。メインストリートの中心で、黒い詰襟の制服を着た男性が刃物を携帯して立ち尽くしているそうです」

 

 報告を持ってきた一年生の言葉を受けて、ハスミは思考する。

 男性。この“キヴォトス”において、その存在はかなりレアだ。

 

「………とりあえず、出撃しましょう。ツルギ、ついてきてもらえますか?」

 

 頷く血の滴る様なヘイローを宿した剣先ツルギを促して二人は外へ。

 メインストリート自体はそれ程遠くは無い。駆ければ一分と掛からず、歩いても五分も掛からない。

 

 果たして、そこに居たのは一人の少年だった。

 黒い詰襟の上着に、裾を絞った黒い袴。上着の背には滅の文字が入れられ腰の後ろには一振りの大鉈が収められた革のケースが下げられ、腰の左側には一纏めにされた鎖とその鎖が繋げられた片手斧と棘付きの鉄球が。

 頭の上にヘイローも無く、成程正しく異常事態、とハスミは頷く。

 

「とりあえず、話を聞きましょうかツルギ…………ツルギ?」

 

 返事が帰ってこない。後ろを振り返れば、その直後にハスミの傍らを黒い一陣の風が猛スピードで吹き抜けていった。

 

「キェエエエエエーーーーーッッッ!!!」

 

 得物である二丁のショットガンを手に、ツルギが猛然と少年へと襲い掛かる。

 猿叫の如し叫びと、そして殺気に振り返った少年は突っ込んでくるツルギを視認した瞬間に腰の後ろに提げた大鉈を抜いていた。

 放たれる散弾が、幅の広い肉厚の刀身に阻まれる。

 

「いきなり、何しやがる!!」

 

「血のニオイィイイイイイイイ!!」

 

 鉈が空を切り、散弾が金属に阻まれる或いは宙を焼く。

 時折交差する体術がぶつかり合えば鈍い音がした。

 

「ツルギと、互角……!?」

 

 ハスミ、戦慄。同僚の実力なら、よく知っている。

 戦力として、多くの猛者が居るここキヴォトスにおいても、剣先ツルギの戦闘能力は最強クラス。特に接近戦では、相手が潰れた缶と揶揄されるほどにボコられる。

 にもかかわらず、彼は真正面からツルギと相対していた。

 奇妙なのは、ツルギの発砲タイミングを完全に見切っている点。引鉄が引かれる瞬間には、その銃口と自身の間に鉈が割り込む、或いは彼自身が散弾の突き進む範囲に居ない。

 何度か交錯し、その瞬間に鉈が振り上げられる。

 

――――岩の呼吸 弐ノ型“天面砕き”

 

「きひっ!」

 

 踏み込みと共に両手で振り下ろされる一撃をツルギはバックステップで躱す。

 振り下ろされた一撃は、容易に道路を真っ二つに割り、岩盤を隆起させるほどの破壊力を発揮していた。

 もし仮に、無防備に受ければ真っ二つにされるだろう。

 血の引く光景を前に、ツルギの笑みはより苛烈に、そして深くなる。

 

「キィィィエエエエエエエエエエエ!!!!」

 

 更に甲高い声と共に猛然と襲い掛かる。

 銃声、剣戟、打撃音。風を切る音が何度も木霊し、その度にメインストリートは傷だらけの様相と化していく。

 

 そして、

 

「「…………」」

 

 鉈とショットガンの鍔迫り合い。真正面から睨み合う。

 

「キヒッ、何故だ?」

 

「あ?」

 

「三回。確実に頭を潰せる瞬間があった。だが、躊躇したな?」

 

「人を殺しが大好き人間みたいに言うんじゃねぇよ」

 

 押し合い。一瞬の気の緩みが生死を分けるであろう命の瀬戸際。

 しかしそれは、どちらともなく力を抜く事で唐突に終わりを告げた。

 

「とりあえず、お前は連れて行かなくちゃならない。私たちと来てもらう」

 

「縄でも括るか?」

 

「手錠がある」

 

 先程までの戦闘は何処へやら。彼は大人しくお縄に付き、ツルギの後を付いてくる。

 拳を交わして仲良くなる、というアレ。命を賭したやり取りは、自然とお互いの相互理解へと繋がったらしい。

 大騒ぎな一幕はこうして、幕を閉じた。

 

 膨大な始末書と共に。










一部鬼滅の刃ネタバレ有。注意されたし












石見金吾(いわみきんご)

年齢:十六歳

身長:百七十センチ

体重:八十五キロ

流派:岩の呼吸

概要
炭治郎たちの一年先輩。元々岩の呼吸の育手の下で修業し、鬼殺隊に入隊した後は、悲鳴嶼行冥の下で継子をしていた
甘露寺密璃と同じく特殊体質で、常人の数倍の筋密度と骨密度を備え圧倒的に体格に劣る岩柱相手でも腕相撲で善戦するほどの馬鹿力
性格は割とその場のノリと勢いで突っ込むタイプ。チンピラに近い。殴り合って分かり合うようなステレオタイプのヤンキー。だが、根は世話焼きで何かと周りを気に掛ける善人

特殊能力としてほぼ百発百中の直感持ち

得物:日輪刀

 大型の鉈の様な形状をしており、金吾の膂力に負けないよう刀身は分厚く頑丈さと堅牢性に主眼を置いたシンプルな作風
 刃渡りは六十センチほどで切っ先は無いが、その代わりに先端部にも刃がある。刃の形状は蕎麦切り包丁に近い


最終決戦では、上弦の弐である童磨と交戦。胡蝶しのぶの意思を尊重して彼女の作戦をサポートし、栗花落カナヲと嘴平伊之助の二人を守りながら童磨討伐に成功

その後、他柱たちと共に無惨戦に参加。内臓が零れる程の致命傷を受けるが、その場では即死せず、その後鬼化した炭治郎との戦いに悲鳴嶼の日輪刀をもって参戦。
鎖を用いた拘束を行って彼が人へと戻るのを見届け、自分の先が無い事を自覚し師匠の下へと戻ろうとしたところで力尽きる

 その後は、何の因果かキヴォトスのトリニティ総合学園の学区へと放り込まれる事となる





力尽きました
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