【宇宙世界0088年2月】
グリプス戦役と呼ばれた戦いは最後の決戦を向かえていた。グラナダに落ちるアクシズ付近に集結した各勢力の旗艦を含む艦艇、指導者、エース級を含む部隊の乱戦は佳境を向かえた。内部から脱出したクワトロはハマーンとの死闘を繰り広げていた。百式が五体満足に加え、アクシズ内から脱出する際にキュベレイのファンネルはカミーユのゼータが放ったビーム・コンフューズという奇策ですべて破壊されてしまっている。こうなれば赤い彗星と呼ばれた男の技量の前にはハマーンといえど苦戦は免れない。
「シャア!貴様はザビ家が憎いだけではないのか!?」
「今更何を言っている!?」
確かにシャアはザビ家に復讐する為にジオンの赤い彗星と呼ばれた男となって内部から倒す事に成功したのだ。ハマーンの指摘は間違いではない。しかし、ミネバを殺せばザビ家は絶えたのにそれをしなかったのはキシリアを討って区切りをくぎりをつけたからだ。だからシャアがザビ家が憎いだけだからアクシズに帰らないのは間違いで、それを認めない理由がハマーンにはある。
「やはりな!お前はザビ家が憎いだけだったのだ!だから私の元に・・・・っ」
「ハマーン・・・・っ」
二人は立場や思想の行き違いだけではなく、お互いに口に出せない者の名前がある。だからこそ、遠回りになっている。
【ナタリー・ビアンキ】
ハマーンにとっては姉であり、シャアにとってはアクシズにいた頃に自分が選んだ女性だが、当人達の行き違いの煽りで彼女は死んだのだ。
そして、シャアは【父】となっていたハズなのにと忌まわしき記憶が蘇ったが、私怨をぶつけ合う場合ではないとも理解していた。カミーユが自分やアムロにとってのララァであるフォウを救い出してから漸く自分を信じてくれたのだから。カミーユは、間も無くコロニー・レーザーが放たれるアクシズ内部に足留めしてシロッコとハマーン相手に刺し違えようとした。フォウを託そうとしてまでだ。そんなカミーユに対し?
『君は、フォウの元に帰ってあげて自分で彼女を守らねばならんのだ!なんでこれがわからん!?』
そう一喝して脱出させたクワトロのやる事は、最早一つだった。
お互い、エネルギーを使い果たす寸前な状況、少なくともシャアにはハマーンをこのまま生かして帰すワケにはいかない理由がある。それに加えて忌まわしい記憶を呼び起こされた事が性急に過ぎる行動に逸らせた。シャアは百式をキュベレイに体当たりさせるようにして、そのままアクシズの岩壁に押し付けた。そのままスラスターを全開にし続けて決して逃すまいとしただけではない、間も無くこの辺りにはグリプス2のレーザーが来るのだ。
「何をする気だっ!死ぬ気かシャア!?」
「ハマーン・・・・っ!お互い、古い血はここで断たねばならん!」
「シャア!離せシャア!貴様は、このアクシズ、で・・・・っ!」
ハマーンはシャアの揺るぎない決意を感じて息を飲んでしまった。
(すまんな、アルテイシア・・・・私は過去を清算せねばならん・・・・もう一度、お前に兄と呼んで欲しかったが・・・・)
シャアは、自分なりの清算を果たしてアムロとカミーユに後を託した。これで漸く会いにいける・・・・ア・バオア・クー以降に会える事が少なくなって来たララァに、ナタリーには顔向けは出来ないだろうが漸く!として、最後の宣告をした。
「ハマーン・カーン・・・・死んでもらう!」
「う・・・・っ、うわあああああぁぁぁっ!」
ハマーンは心底から恐怖して悲鳴を上げた。シャアからは自分を殺して全てを終わらす決意しか感じない、嘗てシャアを慕っていた頃より弱々しくなった自分にはお互い気付きもしなかった。
この日、アクシズがコロニー・レーザーにより進路を変えてグラナダが救われた戦いの後、グリプス戦役と呼ばれた戦いは集結した。
だが、エゥーゴの指導者たるシャアは戻らなかった・・・・只し、パプティマス・シロッコを倒して生還したカミーユ・ビダンは・・・・その報告に眉一つ動かさなかったと言う。
(行くんですか、大尉?)
何故、そう思ってしまったかわからないカミーユは一人で静かになった宇宙を見続けていたと言う。
――――――。
(コロニー・・・・なのか?)
私、クワトロ・バジーナは気付くと何処かのコロニーに流れ着いていた。
途中で会いたかった顔が何故か暖かい・・・・そう、暖かいとしか言えない顔をしていたように見えたが、私に笑い掛けていてくれた気がするのだ。何故か、私はこのコロニーに見覚えは無いが、不思議だ・・・・暖かくて安らぎすら感じる。このコロニーは一体?
そうして、のどかな原っぱとやらを暫く歩いていたら背後から知っているようで違う気配が近付いて来たが、何故か振り向けない、どういう事かと考えていた時だった。
「あら、この辺りに【普通の人】は少ないと思っていたのですが?」
(っ!?)
忘れられない声だ・・・・しかし、どういう事だ?
私のせいなのだろうが、張り詰めたようなものが一切無い!私は振り向かなければならないとして声のした方を向いた。
「アルテイシア?」
思わず名を呼んだ。やはり近付いて来たのは知っている顔だが、まるで違う・・・・良い意味で大人びているとしか言えない表情であったが、私に掛けられた言葉は?
「【アルテイシア】・・・・私の名は【セイラ】ですが?」
【セイラ】
マス家に引き取られてからの名前・・・・だが、わかる。目の前にいるのは私の妹のハズなのだ。だが、どこか違う。
「迷子のようですね?」
「迷子・・・・」
まるで子供のような・・・・いや、私は良い大人とは言えんな・・・・そう思っていた時だ。
「あら、ごめんなさいね。この辺りは良く迷子とかくらいでは言い表せないお客様が多いのでつい・・・・」
「そうなのか?」
私は・・・・初めて見たのではないかと思う顔に自然に頷いてるかわからないでいた。アルテイシアがまるで普通の女性のように笑っているとは夢にも思わなかった・・・・地球で会った時に、全てが終わったら・・・・また会える事を望んでくれた・・・・結局、私はハマーンと刺し違えるのを選択してしまったが。
「とにかく、私は何故かここに来てしまった者だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうなの?なら・・・・ああ、そうだわ。私の兄さんが丁度【ムサイ】にいるハズだから、どこから来たかとかからお話ししては如何がです?」
【兄さんとムサイ】
兄さんがいると言うのも気になるが、一年戦争で良く知る戦艦の名、一体ここは?と思って付いていったら、確かにムサイだがどこか簡略化されている。私は客間に通されて、お茶を出されたのだが、何かがやはり・・・・と思っていた時にセイラは奥に声を掛けた。
「兄さん、ええと・・・・ここに迷い込んでしまったお人を連れて来たんだけど」
「またか、このパターンは何回目だろうな」
何故か他人とは思いたいが、思えん声がして、私の前に現れたのは・・・・・・・・何かの冗談と思いたい。
セイラと言うより、成人の半分にも満たない大きさの2頭身とやらにしたMSの玩具が普通の人間のように動いて喋っている。しかもその姿は。
「兄さん、今日は・・・・確か【シャア専用ザズゴググング】の姿なのね」
「うむ、他同様にたまにはこれにもならんとな」
【ザク】【ズゴック】【ゲルググ】【ジオング】
私が一年戦争で乗った機体を組み合わせた・・・・何かの冗談と思いたいとしか感じられない姿をしたものだった・・・・ララァ、アムロ、カミーユ・・・・誰でも良いから私を導いてくれ・・・・。
シャア、とにかくシャア。