ようこそグラドル幼馴染みがいる教室へ 作:nightマンサー
混合合宿が行われている古い木造校舎の隅で、私―――佐倉愛里は現在進行形でパニックに陥ってました。
「あ、えっと…その……」
「……すみません、失礼します」
上手く言葉が出ずしどろもどろになる私を、目の前の先輩―――元生徒会書記の橘茜先輩は一瞥した後、一言そう言って立ち上がり足早に去ろうと私の横を通り過ぎる。
―――
「―――あのっ!1人で無理、してませんかっ…!?」
気付けば私は、自分でも驚く位の大声で橘先輩に問い掛けていた。その場に立ち止まり振り返った橘先輩の目は見開かれていて、先程の私の言葉が核心を突いていたことを物語っていた。
「……今の私は、そこまで分かりやすいんでしょうか」
「あ、いや、その……重なったんです。1人で全部しようと、無理をしてた昔の私と」
橘先輩の自嘲気味の言葉に、私は感じたことをそのまま言葉にしていた。
「あの、何に困ってるのか私には分からないですけど、誰かに相談とか……」
「―――困っていません。それに……余計な事で堀北くんにこれ以上負担をかけることを、私自身が許せないんです」
そう決意を固める橘先輩の姿が、先程よりも鮮明に昔の私と重なる。
―――そのやり方は悲しい結果になるのだと、身をもって知っていた。
「……守られるって凄く嬉しいのに、それが続くと何も出来ない自分に悲しくなりますよね」
「っ!どうして……」
「その……私も昔、そう思っていた事があったから、少しだけ分かります」
恐らく心の内を言い当てられた事で顔が驚愕に染まる橘先輩とは対照的に、私の心は落ち着きを取り戻していた。
(今の橘先輩は、昔の私と凄く似てる……)
自分の無力さを痛感し、そんな自分に手を差し伸べて助けてくれる大切な人がいる。そして、そんな大切な人に助けてもらうばかりの自分が情けなくて、必死に強くあろうと無理をしている。
「1人で無理して強くなろうとするのは、駄目なんです。守ってくれた人は……橘先輩に無理してほしいなんて、思ってない筈ですから」
「それ、は……でも………」
何かを考えるように目を伏せる橘先輩。きっと、また頼ってしまうことに後ろめたさがあるのだと思う。その罪悪感を私では消せないけれど―――
「―――大丈夫です。橘先輩がその人と積み上げてきた信頼は、無くなったりしません」
―――橘先輩とその人との繋がりの強さに、目を向けさせることは出来る。
「………そう、ですね」
暫くして、先程よりスッキリした表情で橘先輩は呟くと、改めて私に向き直った。
「確か1年生の佐倉さん、でしたよね?」
「あ、は、はい!えっと、その……偉そうなこと言ってすみません!」
頭を下げてお礼を述べる橘先輩に慌てながら答えると、橘先輩は口を抑えて笑った。
「ふふっ。先程まであんなに堂々としてたのに、別人みたいですね」
「えっ!?あの、その、伝えるのに夢中で……」
「―――大丈夫です、ちゃんと受け取りましたから。声を掛けてくれて、ありがとうございます」
そう言ってしっかりとした足取りでこの場を去って行く橘先輩の後ろ姿に安心していると、壁掛け時計が視界に入り夕食後の自由時間終了が迫っていることに気付いた。
(早くお手洗いを済ませないと…!)
その後、急いでトイレを済ませて女子の共同部屋へと向かう最中―――
「おや?これは奇遇ですね―――佐倉愛里さん」
―――Aクラスの坂柳さんに、話し掛けられた。
◆
自由時間終了間際になっても共同部屋に戻っていない愛里を探す為、分棟の出入り口へと続く廊下を私―――伊吹澪は早歩きで進んでいたが、そこまで心配はしていなかった。
(どうせ虎城と話が弾んで、ギリギリまで一緒に居たから遅いだけだろうけど……)
合宿中は逢える時間が限られているから仕方ないかと諦めた所で、分棟の出入り口に2つの人影が見えた。1つは探していた愛里、もう一人は―――
「っ、ちっ!」
瞬間、私は駆け出す。幸い距離はそこまでなかったため、瞬く間に愛里とその人物の間に割って入る事が出来た。
「み、澪ちゃん…?」
「おやおや。随分乱暴に割り込まれましたね」
愛里が驚いたように見てくるが後で説明することにして、今は余裕の笑みを浮かべる目の前の
「愛里に何か用なわけ?
―――坂柳有栖。Aクラスで葛城と覇権争いをしている派閥のトップであり、夏休みに虎城を引き抜こうとした礼儀知らずだ。
(ひよりの言ってたことが当たったわね……)
『澪さん。愛里さんと同じグループにするので、出来るだけ愛里さんと一緒に行動して貰えますか?』
『それは全然いいけど、どういう訳?』
『もしかしたら、虎城さんが殆ど一緒にいないこの合宿を利用して悪意を持って愛里さんに接触する人がいるかもしれません。特に、各クラスのリーダーとそれに近しい人には注意しておいた方がいいと思いまして』
『なるほどね。わかった、出来るだけ愛里と一緒にいることにする』
小グループ作成直後、ひよりと会話した内容を頭に思い浮かべた。まさか夕食後の僅かな自由時間を狙ってくるとは思わず気が抜けていたと歯噛みする。
「此処で偶然お会いしたので、少しお話をしていただけですよ」
「あっそ。虎城に振られたから、次は愛里をスカウトしようって魂胆?」
笑み浮かべたままの坂柳を変わらず睨みつけると、坂柳は分かりやすく肩を落とした。
「
そう言って私達の隣を通り過ぎ歩き去って行く坂柳を最後まで見送った後、愛里に向き直る。
「愛里、坂柳に何か言われたりしなかった!?」
「え?えっと、少し話をしただけで、特にはなかったけど……」
「……そう。ならいい」
愛里の肩を掴んで慌てて聞くが、どうやら話し始めてあまり時間が経っていなかったようで一先ず安心した。
「そろそろ入浴時間だから、早く共同部屋に戻るわよ」
「……うん。ありがとう、澪ちゃん」
そう言って私は愛里を連れて共同部屋へ向けて歩き出す。
―――そうして安心していた事で、私は愛里が少し落ち込んでいたことに気付けなかった。
◆
―――混合合宿3日目の夜。
大浴場にて俺―――虎城優斗はジェットバスで身体をほぐされながら温まる感覚に癒されていた。
(やっぱり風呂は気持ちがいいな……)
そうしてリラックスしていると、湯船の一角が何やら騒がしくなっており人が集まっていた。何かあったのかとジェットバスから上がり、刺し傷が見えない様にタオルを巻いてから密集している箇所に足を運ぶとそこには綾小路と高円寺の男の象徴に感心するような、逆に呆れるような眼差しを向ける男達の姿があった。
「……まるでTレックス同士の対決のようだな」
誰かが発したその言葉は、場にいる男全員が頷いたように思える程に的を得ていた。
(そういえば、
ホワイトルームの最高傑作は男の象徴も最高傑作なのだと云われたイベントであるが、実物を見ると納得出来るほどに凄い。ちなみに俺自身の大きさは近場にいる面子だとクラスメイトの金田と同じ位だ。
「まさか日本人で私と互角の戦いを演じることが出来る者がいるとは驚いたよ、綾小路ボーイ」
高円寺が綾小路を讃えるように手を鳴らすのを横目に、ジェットバスに戻ろうと―――
「この中で勝負になりそうなのは、経験値でそこにいるタイガーボーイだけだと思っていたからねぇ」
「…っ!?」
そんな高円寺の視線と発言のお陰で、男達の視線が一斉に俺に集中するのと同時に納得したような表情になる。
「なるほど、確かに」
「虎城さんには佐倉さんがいるからな。そりゃ経験あって当然だよな」
「……そういえば、佐倉と虎城の馴れ初めを詳しく聞いたことはなかったな」
「やっぱりアレだけ仲が良いのは、特別な何かがあったりするのか?」
「Tell me your love story Brother」
「愛里との馴れ初めを話すのは、色々と恥ずかしいんだが……」
思わず口から溜息が漏れるが、ある意味無敵である男子高校生達がその程度で止まることはなく、俺が折れる形で愛里との出来事―――勿論、グラビアアイドルや刺された件を除いて―――を話した。
―――結果、龍園や高円寺といった一部の人物達以外から多くの羨望や感心、少しの嫉妬の視線を向けられることになったのだった。
読んで頂きありがとうございます!
愛里の成長は作者としても本当に嬉しくなります。
何故原作はこうならなかったんだ……(号泣
【参考】特別試験のルール改変は―――
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堀北、ちょっと黙れよ(改変NG)
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クラスポイント報酬・損害の増減のみ
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ルールの一部削除、又は追加
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俺は許すぜ、真鍋(改変OK)