ようこそグラドル幼馴染みがいる教室へ 作:nightマンサー
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それでは、どうぞ!
───夏休みが刻一刻と近付くある日の放課後。
ケヤキモールにある本屋で俺───鬼頭隼はファッション雑誌を物色しながら思考を巡らせていた。
(坂柳が退学するのは予想外だったな……)
Aクラスで卒業することを考えた時、俺は葛城よりも坂柳の方が勝率が高いと判断し坂柳に付いたが、坂柳は1年も経たずに退学。葛城が頑張っているが、現状Bクラスに甘んじている形となる。
(葛城が龍園と虎城に勝つ想像は今は出来ないが、葛城以外に今のBクラスでリーダーをやれる者はいない。葛城を補佐するのが最善か……)
幸いなのは次の無人島試験ではその龍園達と同盟を組んでいるため、1位を取れる可能性がかなり高いことだろう。
───そんな考え事をしており、周りへの注意が散漫していたことが原因だったのか。
「あっ……!」
「む?」
ファッション雑誌を取ろうとした手に、誰かの手がぶつかる。反射的に視線を向けた先には、同学年で知らぬ者はいない程の有名人物───佐倉愛里が驚いた表情で俺を見ていた。
「えっと、Bクラスの鬼頭くん……ですよね?」
「……あぁ」
おどおどしながらも問い掛けてくる彼女に肯定を返す。数日前、主力となる小グループの面々は軽く顔合わせを行ったため一応顔見知りにはなっていた。
「……邪魔をした」
次の特別試験で手を結んでいると言っても、プライベートで別クラスの敵と話すことは何もない。
「っ……あ、あの!」
そんな俺を、彼女は呼び止めた。それに驚いた俺が立ち止まり振り向くと、彼女は先程俺が取ろうとしたファッション雑誌を見せてくる。
「その……ファッションに興味があるんですか?」
その言葉に俺は内心で呆れと少しの怒りが湧く。
「こんな顔の奴が、ファッションに興味があるのは可笑しいか」
「え?」
「……いや、何でもない」
つい口から出た言葉を俺はすぐさま取り繕った。この顔つきのお陰でファッションに興味があり、夢がファッションデザイナーだと伝えると驚かれ納得されないことには慣れていたが、久しぶりだったため思わず漏れてしまった。改めて、その場を立ち去ろうとし───
「───そんなことないです!」
大声で否定されたことに驚き、再び立ち止まってしまった。
「私もファッションのこと勉強することがあって、その……ファッションは新しい自分を見つけたり、自分にほんの少し自信や勇気を与えてくれるものだと思うんです。だから、誰が興味を持っても可笑しいなんてことないと、私は思います」
真っ直ぐに俺の目を見ながら語る彼女の目は真剣そのものであり、本心から言っているのが伝わってくる。顔合わせした時や先程までのおどおどした姿とはまるで別人のような意志の強さも感じられた。
(……これほどの人物を、あんな手で潰そうとしていたのか)
「───認めよう。俺は、最初に付く相手を間違えた」
坂柳に従っていた過去が消えることはない。しかし、今後の糧にするため彼女に聞こえない程度の声量で宣言した。
「……?あの?」
「何でもない。……俺は、ファッションデザイナーになるが夢だ」
「っ!その、素敵な夢だと思います...!」
その後、
◆
───無人島特別試験開始まで1週間を切ったある日。
彼氏である清隆くんの部屋で私───椎名ひよりは、清隆くんの隣に座り読書をしていました。
「……」
「……」
───隣同士に座って、お互い読書をする。世間一般の恋人同士の行為ではないかもしれませんが、私はこの時間がとてもかけがえのないものだと感じています。
(特に無人島特別試験が通知されてから、
そう思い横目で清隆くんを盗み見る。清隆くんは読書に集中しているからか、私が見ていることに気付いていません。その横顔を見つめながら、私はあることを考えていました。
───清隆くんは、誰にも言えない秘密を抱えている。
私がそう感じたのは、清隆くんと恋仲になる前。去年行った清隆くんの誕生日パーティーから少し経ってからでした。
『今回のお話も面白かったですね』
『あぁ。過去の出来事と現在の出来事の緻密な繋がりには驚かされた』
『そうですね。私も、幼い頃から本を読んでいたから今の読書の好きな私があるので分かる気がします。綾小路くんは小さい頃、どんなことをしてましたか?』
『……そうだな。親が厳しかったから、勉強以外だと習い事だけだったな』
いつものように本の感想を話した後、流れで幼い頃の話題になった時の清隆くんの表情と回答が、まるで無色のキャンパスのように何処か無機質に感じたのです。
『……すみません。もしかして、綾小路くんは過去の話をしたくなかったでしょうか』
『いや、椎名が謝ることじゃない。ただ、過去についてあまり面白い話じゃないとオレ自身が思っているだけだ。だから、出来れば聞かないでくれると助かる』
そう告げた清隆くんに、私は了承を返しました。当時の私は話したくないことの1つや2つくらい誰でもあると当たり前のように受け入れていましたし、そんな疑問よりも清隆くんと過ごす時間が心地良いと感じていたので全く気になりませんでした。それは清隆くんと恋人になった今も、全く揺らいでいません。
(推測でしかないですが、清隆くんは私が察していることに気付いていると思います)
───だから、私は待ちます。清隆くんが話したくなるまで、いつまでも。
───隠し事があったとしても、清隆くんは私の大切な人ですから。
「……?ひより、どうかしたか?」
私が想いに耽っていると、私の視線に気付いた清隆くんが問い掛けてくる。それに対して私は、偽りない本心を吐露する。
「いえ。ただ、清隆くんと一緒に居られる。こんな幸福で満たされた時間が長く続けばいいなと……そう、心から思ったんです」
「……オレも、ひよりと同じ気持ちだ」
そうして私と清隆くんはどちらともなく顔を近付け、口付けを交わした。
───その後、2人は読書を再開することはなく。
───繋がる痛みを、甘く優しい愛情で乗り越えて。
───夜が明けるまで、お互いの体温を分け合った。
次回予告
伊吹澪「……まさか、連続で次回予告に出るとは思わなかったわ」
椎名ひより「すみません、澪さん。私の我儘に付き合わせてしまって……」
伊吹澪「別にいいわよ。それに理由が理由だから、ひよりがそう思うのも無理ないし。それじゃ、さっさと終わらせるわよ」
椎名ひより「はい。次回『Episode 67 嵐の前の静けさ』」
伊吹澪「───全く。うちのクラスのカップルは随分幸せそうじゃないの」