TSテロリスト系改造済み少女兵士(原作知識持ち)   作:ウニダコ

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第一話

 闇の中を、男が走っている。

 

 伝統ある老舗で誂えた高級スーツは縒れに縒れ、見苦しい様をさらけ出している。

 普段であれば上品な艶を見せつけていたであろうアニリンカーフの革靴は、いまや泥にまみれてその上等さを失っている。

 明らかに走り慣れていないフォームで、全速力で夜の街を疾走する男。焦燥感と怯えに満ちた表情で走り抜けるその姿は、『鉄面皮』と称されていた普段の彼とは似ても似つかなかった。

 

「おのれ! おのれ! 畜生!」

 

 あてもなく、ただ本能のままに街を駆け巡る彼。今この瞬間にも追いすがっているであろう追跡者を撒くべく、狭苦しい裏路地に入り込む。

 

「くそ! 化け物! テロ組織の狗が! ふざけるなよ!」

 

 彼の脳裏には、つい数分前の光景が鮮明に再生されていた。

 

 議会の帰り道、送迎の車を運転していた秘書の頭に、突如花が咲いた。鉄分をたっぷりと含んだ、深紅の液体でできた花だった。

 コントロールを失った車は、そのまま壁に激突。タイヤはパンクし、走行はもはや不可能な有様であった。

 

 護衛についていた軍の治安維持部隊がすぐさま展開したが、時はすでに遅かった。どこからともなく投げつけられた柄付き手りゅう弾と、無慈悲に思える銃弾の嵐。護衛は全員躯を晒した。

 

 辛うじて一人生き延びた彼であったが、彼自身助かったとは考えていない。これだけのことをやる相手だ。十中八九、前大戦の休戦協定に調印した張本人である、自分を消すための襲撃だろう。彼はそう確信していた。

 

 近頃で多発していた、何者かによる要人暗殺事件。部屋の中、車の中、町の中。ありとあらゆる場所で殺された要人は、いずれも旧体制である帝政を廃止し、新政府である共和制の樹立に貢献した、主要な人物ばかりであった。

 

 その手口は様々で、標的が窓辺に寄った瞬間の外部からの狙撃、送迎車に爆弾を仕込み爆殺、夜間に邸宅を襲撃し暗殺……実に多種多様なありとあらゆる方法で、要人たちは殺されていた。

 

 被害者の共通点から、軍上層部は実行者を地下武装極右テロ組織、または極右的思想の持主だと推定。ただちに厳戒態勢が敷かれ、町では軍がその目を光らせ、議員たちには護衛がつくようになった。彼もその対象であった。

 

 所詮は暴力に訴えるしか能のない野蛮人、すぐに事態は収束する──表面ではそのように、常からの厳格な表情で発していた彼だったが、内心では恐怖していたと言えるだろう。そして今、その恐怖は現実のものとなった。

 

 必死にその肉体を走らせる彼。走って、飛び越え、くぐった先には──灰色の塗料が塗りたくられた、石造りの壁が現れた。

 

 慌てて、右と左を必死に探る。

 

 抜け道の類は、一切ありはしなかった。

 

 たまらずといった様子で、袋小路を逆戻りする彼。しかし何者かの石畳を踏みしめる音を聞き、思わず壁へ後ずさる。ドン、と壁は、彼の背中と結合した。

 

 震えてその身を壁に預ける彼とは裏腹に、段々とその音量を増す足音。彼はふところに忍ばせていた拳銃を抜き、袋小路の入り口へと照準を合わせた。

 

 照星と照門を目線と重なる直線に配置し、全神経を集中させる。足音から敵の位置を予測し、できる限り気配を消す。そして、下手人と思われる人影が見えた瞬間──彼は撃ちまくった。

 

 装弾された八発の弾丸が、人影へ瞬時に襲い掛かった。彼の腕前は座り仕事の人間にしてはたいしたもので、発砲後も銃口がほとんどズレていなかった。反動に振り回されず飛んで行った銃弾は、相手が尋常の人間ならば容易くその命を奪っていただろう。

 

 だがあいにく、()()は尋常ではなかった。

 

 それは一発目の弾丸を目視すると、超人的な反射神経でこれを回避。続いて発砲する男の姿を目にとめ、男が戦闘にかけては素人であり、なおかつこの瞬間に全弾を以て自分を屠ろうとしていることを刹那で推察。そして三発目が放たれるまでに、隣の遮蔽物へと身を隠した。

 

 残りの弾丸はすべて、空を切ってその役目を失った。

 

 銃声と反動による一時的な麻痺状態の中、男は遮蔽物の陰から、一人の少女がなんでもなさそうに現れるのを目撃した。

 

 碧い瞳に、金髪のショートヘア。顔立ちは中性的に整っており、男とも女ともとれる顔立ちだ。しかしその小柄な体を包む男物の塹壕コートに浮かぶ僅かな起伏が、辛うじてそれを少女だと主張していた。

 

 子供。

 

 眼前の光景に、彼は軽いめまいを覚えた。以前にも国を騒がせた武装組織は多くいたが、その構成員は大半が成人の男性であった。敗戦に端を発した政治的な混乱を突いて、現体制に不満を持った労働者たちが武装蜂起したものだった。

 

 しかし少なくとも、その中に子供はいなかった。妙な思想にかぶれた大学生は混ざっていたらしいが、目の前のような小さい子供が参加しているなど。同程度の子供をもつゲルツベルガーにとって、その光景は現実とは思えなかった。

 

「財務相大臣、マルティネス・ゲルツベルガー議員ですね」

 

 少女から、色のない声が放たれた。まるで感情のこもっていない、冷たい声だった。目も、同じだった。

 

 一体全体、どんな経験をしたらこのような目をするようになるのだろう? 見たところ、まだギムナジウムに通うぐらいの年齢じゃないか。たった一度の青春を、思いっきり楽しむべき年頃じゃないか──ゲルツベルガーの脳裏に浮かんだのは、憎悪でもなく恐怖でもなく、そんな憐れみだった。

 

「沈黙は、肯定とみなします。ではさようなら」

 

 いつの間にか、少女の右手には拳銃が握られていた。ゲルツベルガーの使っていたものと同じ、軍でよく使われている自動拳銃だった。

 

 黒く冷血な銃口が彼を狙う。銃口は真っ暗な孔で、内部は暗闇に閉ざされている。彼女の瞳も、それだった。ただひたすらに続く闇。淀んだ虚無。

 

 いつの間にか、言葉が口を衝いて出ていた。

 

「……とても、つらいことがあったんだな。子供でも容易く、感情が消えた兵士になってしまえるほどの。

 子供がそんな目をしていては、ダメだ。君さえよければ、私と、一緒に」

 

 一発の、銃声。

 

 少女の手で放たれた9×19mm弾は、的確に心臓へと、吸い込まれた。

 

 銃撃されたゲルツベルガーは、目はカッと見開いたかと思うと──ドサリと、その身を石畳に力なく横たわらせた。

 

「すいません」

 

 朦朧とする意識の中、彼は少女が近づいてくるのを感じとった。

 

 やがて少女のブーツが目に入ると、頭上からは相も変わらず無感情な、起伏のない声が落ちてきた。

 

「私は、知っている道を数キロ歩くよりも。

 知らない道を数センチ歩くことのほうが、ずっと嫌いな人間なんです。

 だから、さようなら」

 

 彼女の拳銃が、さらに一発火を吹いた。

 

 銃弾は、ゲルツベルガーの頭蓋を貫き、脳をぐちゃぐちゃに損傷させていた。

 

 薄れていく自我。消えていく自意識。

 

 最後に彼が思ったのは、妻と息子の心配と。

 

 ──このような子供を産んでしまった、自分たち大人の不甲斐なさへの絶望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度だけプレイした、名前も覚えていないゲームでした。

 

 舞台は、戦争終結後の敗戦国。20世紀初頭のヨーロッパを思わせる世界観で、形式としてはビジュアルノベルゲーム。全体に漂う陰鬱とした雰囲気と、好評な事前評価に惹かれて購入、並びにプレイをしたものです。

 

 改造手術や洗脳を受け、兵士として戦うことを運命づけられた少女たち。そんな彼女たちと関わりあい、様々な物語を紡いでいく主人公。随所にみられる仄暗い設定と、それに負けず劣らず暗海な展開。

 

 当時、そういったものを好む時期の男子であった自分にとって、そのゲームはプレイに値するものでした。

 

 しかし、それはあくまでたった一つの作品。

 最後まで楽しめはしたものの、自分にとっては結局数多あるゲームの中の一つ。“人生を変えた”や、“生涯を通しての逸品”などといった評価はふさわしくありませんでした。

 

 それにも関わらず、自分は今こうして、そのゲームの世界の一員として、生きているのです。

 

 不可解でした。

 

 どうせなら、もっと記憶に残っている他のゲームに転生させてほしかったものです。もし次元を超えての転生を手引きした存在がいるのなら、一言物申したい気分でした。憧れの二次元の世界に入れたというのは、少しうれしかったものですが。

 

 しかし転生先が、政治的な混乱期にある敗戦国で。

 

 自分が、テロ組織に体と脳をいじくりまわされた戦闘少女だというのは。

 

 いささか文句をつけざるをえない話でした。

 

「カーチャ、終わったか」

 

 背後から、聞きなれた抑揚のない声に、己の名前を呼ばれました。

 途端に、自分の意志とは裏腹に、奇妙な多幸感が脳を満たします。

 振り向けばそこには、いつも通り愛想のない、見慣れた顔がありました。

 

「はい、アルベルトさん。デルツベルガー蔵相の暗殺、完了しました」

「ああ。怪我は?」

「大丈夫です」

 

 彼こそが、この世界の主人公。

 組織の一員にして、私の管理役である退役軍人。カール・アルベルトでした。

 

「そうか……()()か?」

「はい」

「ふむ……」

 

 グレイグリーンのトレンチコートに身を包んだ彼はそう言うと、身をかがませて死体の顔を識別しました。脳に撃ちこみはしたものの、顔面自体は避けて撃ったので問題なく確認できることでしょう。いつものことです。

 

「よし、確認完了だ。車に戻るぞ。帰りにはいつも通り『医者』に寄るから、そのつもりでな」

「はい、アルベルトさん」

 

 確認を終えた彼はそう言うと、立ち上がって車の止めてある場所へ向かい始めました。車は捜査の足がつかないように、できるだけ遠くに止めてあります。これも、いつものことです。

 

 任務が出て、私が戦い、彼が確認し、車に戻り、『医者』に寄る。これまで何十回も続け、繰り返してきたことでした。

 今更変えようとも思わず、そもそも変えることができません。

 

 そういえば。

 いまさらですが、先ほど私が殺害したデルツベルガーという人物は。件のゲームの数あるエンディングの一つである、いわゆる“ハッピーエンド”に辿り着くために、そこそこ重要な人物であったような気がします。

 

 詳しくは覚えていませんが、複雑な経緯を経て主人公の告発を受けた彼は、組織の平和的かつ人道的な壊滅に強く尽力していました。そして組織の呪縛から解放された主人公たちは、郊外の小さな家で穏やかに余生を過ごすのです。

 

 殺してしまった今となっては、どうしようもありませんが。

 

 しかし、仮にそのことをもっと早く思い出していたとしても、自分がなにかアクションを起こすことはなかったことでしょう。

 

 変化は、怖いです。怖いのは、イヤです。

 

 イヤだから、変わらないのです。

 

 私はそういう人間なのです。

 

 だからたとえそれが、人間として許されない生き方であったとしても。

 

 私が変わることは、おそらくないでしょう。

 

「カーチャ」

「はい?」

 

 突然、前を歩くアルベルトさんが声をかけてきました。

 思わず反射的に聞き返します。

 

「……なにか、欲しいものはないか? お菓子でもおもちゃでも、なんでもいいぞ」

 

 普段の無表情な彼からは想像もつかないセリフ。

 頭を小さな困惑が踊り、同時に異常な歓喜が精神を襲いました。しかし全力でその感情の奔流を押さえつけ、脳内で書き上げた台本を読み上げます。

 

「いえ。私は、アルベルトさんが管理してくださればそれで充分幸せです」

「……そうか」

 

 彼はいつも通りの静かな声で、ただ一言、そう吐きました。

 しかし私の耳は、その裏に隠された罪悪感をはっきりと感じ取っていました。

 

 途端に、どす黒い負の感情が頭の中にあふれ出します。

 

 アルベルトさんに悪い思いをさせた管理人さんに気を使わせるなどあってはならないことだこの役立たずこの愚図しんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえ

 

 うるさい。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ああ、それにしても。

 

 この洗脳だけは、本当に苦しいです。

 

 

 

 

「……さすがカーチャちゃんだ。血圧も心拍数もいつも通り。拒否反応も、いつも通り無いに等しい」

「ありがとうございます、ルードヴィヒ先生」

 

 私がルードヴィヒ先生と呼んだその人は、シリンジに詰まっている溶液を、私の首へと注入しながらそう言いました。

 

 彼が注入しているのは、私たち改造少女にとって血液にも等しい、いわゆる『抑制剤』というものです。

 私たちは外科的手術や薬物投与によって、常人を超える高い能力を手に入れています。しかしそれによるデメリットも、当然存在しています。

 

 改造による弊害は、主に精神に現れます。幻聴、幻覚、自意識の喪失、そして解離。詳しい原理は不明ですし知りたくもありませんが、一説では改造や洗脳の生々しい現実感が、脳に悪影響を及ぼした結果だと考えられています。

 

 改造でいくら強力な肉体を持つ兵士を開発できても、精神が使い物にならなくては意味がありません。組織は必死になって解決法を模索し、そしてついに精神異常を抑えることのできる薬物の開発に成功しました。それこそが抑制剤ということです。

 

 その抑制剤も人体への拒否反応はすさまじく、対象に多大な負荷を強いて寿命を削るという代物なのですが。原作でとある改造少女が、暴れないように手術台に拘束された上で投与されていたのを思い出します。どういう訳か、私にそういった処置の必要はないのですけれど。

 

「終わりましたか」

「ああアルベルトくん、終わったよ。今日も変わらず、異常なしだ。一体なにが彼女をそうさせるのか、私には見当もつかないよ。君はどうだい?」

「……専門家が分からないことを、素人の自分が理解できるとお思いですか?」

「はは、それは無理だ」

 

 目の前でアルベルトさんと朗らかに会話する先生。

 

 黒縁のメガネやふにゃりとした表情。そばにいるだけで感じ取れるその温和な雰囲気から、ほとんどの人は彼をただの優しい町医者だとみなします。その裏の顔を、知らなければの話ですが。

 

 組織が擁する研究チームの筆頭。尋常の少女を改造人間へと改造する技術を確立し、それを私たちへと施したのは、紛れもなく彼なのです。人はみかけによりませんが、彼ほどそれが実感できる例は他に存在しないと思います。

 

 そんな彼ですが、原作ではどのルートにおいても悲惨な結末を迎えます。あるルートでは主人公に射殺され、あるルートでは野砲の直撃を受けバラバラになります。やってきたことの報いと考えれば、妥当なことなのでしょう。

 

 何にせよ、私にはどうでもいいことです。元々大して思い入れがあるキャラというわけでもなく、またあったとしても何かができるというわけでもありません。

 

 コートを羽織って、外の車へと向かいます。

 その途中で、たおやかな寝巻に身を包んだ、17歳ほどの少女と出くわしました。

 

「あ、カーチャちゃんこんばんは。また兄さんに看てもらっているの?」

「はい。ちょっと、体の調子が悪くて」

「そっか……大丈夫? どこか苦しくない?」

「平気です」

 

 彼女は、先生の妹さんであるエーデさんです。

 先生と違って、彼女は組織に属していません。私のことも、医者である兄に日常的にかかっている、体の弱い子供としか認識していません。ちなみにアルベルトさんについては、私の父か兄だと考えているようです。

 

 優しそうな顔をしておいて、その実裏では私のようないたいけな子供の体をいじくりまわしている先生ですが、どうやら妹さんにはそれを知られたくないようです。

 

 人間としてはとうに色々と道を踏み外している彼ですが、そのあたりの線引きはあるみたいです。単に組織の情報を知られたくないだけなのかもしれませんが。

 

「……ねぇ、それはそうと……カーチャちゃんがいるってことは、アルベルトさんも」

「はい、いらっしゃいますよ。奥で先生と話しています」

「やった! じゃあ私はこれで! お大事にね!」

「ありがとうございます」

 

 彼女はそう言うと、奥の診察室の方へ駆けていきました。

 恋愛経験の薄い自分でも見て分かる通り、彼女はアルベルトさんに惚れています。それはもう、ベッタベタに。

 

 思春期特有の、恋愛への憧れか。はたまた単に年上趣味なだけなのか──ちなみにアルベルトさんは21歳です──原作で見たときから違和感はありましたが、主人公は妙にモテます。担当の改造少女からは当然のように好意を持たれ、彼女のようなモブですらも彼も意識します。

 

 もっとも、改造少女は軒並み管理人に対して盲目的な愛情を無条件に抱くように洗脳されているので、モテるという表現は適切ではありませんが。

 

 ですが、自分はあまりその洗脳が効いていません。

 なぜなら、私の前世は男だったから。

 

 前世の私は、20歳程度でその生涯に幕を閉じました。平均寿命が80歳を超えていた前世において、20年という年月は一見短いものです。しかし20年程度でも、今世において洗脳に対し違和感を与えるのには充分でした。

 

 だって、気持ち悪いじゃないですか。

 

 バイセクシュアルでもないのに、男が男を愛するなんて。

 

 そしてそれは、女としての体に入れられ、洗脳を施された今でも変わりません。

 

 要するに、私は彼を愛せないのです。

 

 原作の1シーンを思い出しました。

 いつか、どこかの場所で。改造少女は主人公に、愛の言葉をささやきます。それが洗脳によるものか、それとも本心によるものか。主人公も、少女本人でさえも知りません。

 

 ですが主人公は、それに答えます。それは度重なる戦いのせいで身も心もボロボロになった少女を憐れんでいるからではなく、本心からその子を幸せにしたいと願ったからなのです。この一連の描写は本当に美しいものでした。

 

 しかし、私ではそのような場面を作り出すことはまず不可能でしょう。

 

 だから、せめて、エーデさんには。

 

 彼が幸せになるための、受け皿になってもらいたいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

『任務、ご苦労だった。次の仕事は一週間後だ。それまで休息をとれ。以上、帝国万歳』

「帝国万歳」

「帝国万歳」

 

 無線機から流れていた組織の人間の声が途絶え、部屋を静寂が支配する。

 

 その無線機の前にいる二人のうちの一人、カール・アルベルトは無線機の電源を切ると、その後ろに座る少女カーチャに向けて言葉を紡いだ。

 

「よし、今日はもう終わりだ。寝るとしよう。なにか飲むか?」

 

 近頃、彼は方針を変えていた。

 これまで彼は彼女に対して情など抱かず、まさに道具を扱うように彼女に接していた。しかし医者からはそれでは対象の精神に悪影響を及ぼすと諭され、飴を交える方針へと舵を切ったのだ。

 

 とはいえ、大事な青春を戦場で過ごした彼に、年頃の少女の喜ぶことなど分かるはずもない。しかたなく、欲しいモノを聞きそれを与えるという作戦に出たのだった。それも失敗してしまったが。そのため、これは二度目の正直といったところだった。

 

「あ……じゃあ、紅茶を、お願いします」

 

 一度目とは裏腹に、彼女はすんなり希望を申し上げてくれた。

 少々驚きつつも、お湯を沸かして茶を入れる。王国産の逸品。棚の奥に閉まっていた、とっておきの一品だ。

 

「いいぞ」

「ありがとうございます……ふー、ふー」

 

 おずおずとカップを掴み、彼女は吐息を紅茶に吹きかける。その姿はとてもかわいらしく、とても先刻までの、小銃を軽々と放ち手りゅう弾を投げつける姿とは似ても似つかなかった。

 

 罪悪感が、浮かび上がる。

 

 いくら人員が少ないからとはいえ、少女に銃を持たせて戦わせる。その異常性が分からないほど、人としての倫理観を失っている彼ではない。

 

 死んでいった戦友の命を許容できなかった。帝国のために戦ったはずが、その帝国は崩壊し、共和国などというものに上書きされた。こんなことは、間違っている。

 

 そんなことを考えて、この武装組織に入団した。

 

 しかし目の前の彼女を見ていると、そんな考えも疑問に思える。

 

 自分は何をやっているのだ? 少女を戦わせ、殺させるのが望みだったのか? こんなことに意味はあるのか──

 

 数舜考えて、結局答えはでなかった。

 

 今は、そんなことを考えている場合ではない。

 

 それにもう、こんなところまで来てしまったのだ。

 

 今さら戻ることは、できない。

 

 

 

 




あっやめてっ
ガン○リのパクリなんて言わないでッ
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