Dies irae 〜彼の地にて響く鎮魂歌〜   作:コズミック変質者

1 / 3
 この獣殿は影法師状態でも存在規模デカ過ぎて転スラ世界壊れかねないので、滅茶苦茶ナーフした状態で顕現してもらってます。

 『あらゆる総てをもってしても繋ぎ止めることが出来ない』

 とか言ってますけどコズミック変質者に言い包められて渋々我慢してます。
 要するに、今の獣殿は短髪の頃と同等なので死ぬほど手加減してる状態です。

 そのうちインフレが追い付いてきたら枷を外していく予定です。


ゼロに至るため

「何とも杜撰で蒙昧とした創造主も居たものだ。これほど歪んだ鳥籠を創り上げるのも、或いは才というものなのかも知れない」

 

 侮蔑、或いは言祝の如く紡がれた言葉は虚空へ溶けて消えた。そも、誰に聞かせるでもない独り言を彼が気にすることでもなかった。

 刹那の瞬間を極限まで引き伸ばし、その須臾を切り取った空間で彼は座して世界を俯瞰していた。

 

 暗黒に覆われた宇宙空間を覆う双蛇を従えたままに彼は、本来であれば知覚することは勿論、その存在を認めることすらありえない世界を観測する。

 

金色(こんじき)の星竜。誠に遺憾ながら未知である事に代わりなし。二度言うことではないが甚だしい事この上ないがね」

 

 彼が創り上げた回帰の理と比べ、何とも幻想的で不安定な版図に塗り上げられた世界を彼は酷評する。

 元来、世界とは独自の法則というものが存在する。それが当然であると、そうでなければならないという道理であり、それは彼の世界も聖竜の世界も例外ではない。

 

「よくも此処まで保ったものと感嘆の念を抱く。ああ、いやそうではない。この程度出来なければ創造主の名が泣くというものだ。

 価値あるものも無価値なものも平等に愛するという意味では我が友と気が合うかも知れないが」

 

 座したままに、枯れ木の如き情緒と凪の感情の隆起を以て彼は自身の同種(さかしま)を思い起こす。

 悠々と這いずる双蛇を撫でながら、彼は遥か遠くの可能性を模索する。否、彼からすれば探すという行為すら短縮することが簡単である。

 

「然るに創造主の崩御を皮切りに溢れてしまうのもまた道理。もの足りぬとばかりに溢れた物を拾い集める行為の、なんと無様なことか」

 

 くつくつと不気味に嘲笑する彼。

 老人のようにも若人のようにも、男にも女にも見える彼はそのどれとも似つかわしくない顔を貼り付けて言葉をこぼす。

 

「役者の一人ひとりが大根役者もかくいう演技であるが、愛しき女神が興味を示すのも時間の問題だろう。

 ならばどうするかなど決まっている。飾り立てるまでもないがあえて言おう」

 

 貼り付けた笑顔をそのままに、俯瞰した視点を動かすことなく、漣一つ立てずに感情を御して彼は内に秘める激情を吐露する。

 

「邪魔だ羽虫よ地に落ちよ。お前の世界を私は断じて認めない。

 私の判断は覆りはしない。この無謬の決断を以て雑魂の寄せ集めの悉くを蹂躙しよう」

 

 ゆっくりと這いずるばかりであった白虹を発する巨大な双蛇が彼の意志に従って牙を剥く。

 彼の発する激情を代行する形で、世界を飲み込まんとする蛇であったが、ふと動きを止めた。

 

「ああそうか、貴方もこれが気になるか」

 

「___無論。このような未知を独り占めしようなどとは、卿にしては酷く安直な行動と見える」

 

 彼の後ろに黄金は顕現する。

 彼の素性を知る者であれば、逆ではないかと困惑するであろうが、そんなものは論ずるに能わない。今この場において大事なのは『水銀の蛇』と『黄金の獣』の両巨星が揃い踏みしたという事実である。

 

 黄金の長髪を靡かせる男は、影法師のような彼と比べてあまりにも眩い光を放っていた。だがそれは、人々に希望を与える物ではなく、なにものも焦がし焼き払う破滅の極光であった。

 振り返ることなく黄金の獣へ語りかけた彼に並ぶように、獣は歩を進める。

 双蛇に睨まれていながら意に介す素振りを見せない獣は、未だ座す彼の前に立ち塞がると口を開いた。

 

「いつかこうして、見下げたことがあったな」

 

 顔を伏せた水銀の蛇。それを懐かしむような目で見下す黄金の獣。

 空間が軋み悲鳴を上げる。擦り切れる銅線のような嫌な音を響かせる空間を無視して彼も懐かしむように語った。

 

「ええ。貴方にとっても私にとっても、未来永劫忘れられない光景ですとも。それは永劫を繰り返した私が保証しましょう。

 ですが、一体どういう風の吹き回しですかな」

 

「いやなに。女神を守護する者としての責務を果たすのならば、現状私が最も適任だと思っただけのこと。

 そうでなければカールよ。卿が出るには道理が足りぬ上に、ツァラトゥストラ(あの男)が卿の言葉で女神の側を離れるとは思えん」

 

「然り。我ら親子は女神を至上とする同胞(はらから)であり同種。結果が同じであるが故に過程を追求するなど徒爾以外の何物でもない」

 

 そう言いながら、彼は黄金の主張を分析する。何が目的であるかは明白であり、そもそも彼がそれ以外の目的に興味をそそられるとは考えにくかった。何せ黄金の渇望を誘導したのは他でもない彼自身だったのだから。

 

「では、此度の殲滅。獣殿に委ねましょう。私は私でやるべきことを成さねばならない」

 

「承った。我が爪牙を以て女神の世界に安寧をもたらそう」

 

 獰猛な獅子を思わせる笑みを称え、座を後にしようとする黄金の背に彼は呆れたような声で呼び止めた。

 

「ああ、そのことですが貴方の爪牙達は此度の殲滅には連れて行けません。色々と事情が混み合っていましてね。

 貴方の総軍。特にエインフェリアに関しては連れて行かないで頂きたい」

 

「何故だ?」

 

「世界の許容範囲の問題ですな。彼の地は己の器から漏れ出した人柱を抑える力もなく、そこに私や獣殿が行ってしまえば、如何に制約の緩き世界とはいえ崩壊してしまうのは必定。

 要するに私や獣殿は存在が大き過ぎる。」

 

 両名共に平行世界を含めたあらゆる可能性を淘汰しかねない規模の魂を持つ者であり、たかが一つの世界で何方が一方の渇望が流れ出などすれば、その瞬間世界はその重圧に耐えきれず崩壊してしまうことだろう。

 

「異なことを言う。卿の目的はその世界の崩壊ではなかったのかね」

 

「否。私はあちら側から溢れた因子ないし、人柱を取り除くために赴こうとしただけ。

 あちら側が滅びようと知ったことではない。逆に言えば、存続する可能性も是であると言えましょう。

 尤も、女神のお気に召す世界であれば存続させることを第一とさせて頂くがね」

 

 彼にとって至上の喜びは『女神』にまつわる事情その総てである。現在過去未来において彼ほど女神に思い馳せる者はなく、彼ほどその思いが報われない存在も居ないだろう。

 そんな彼の愛する女神にとっても興味をそそる世界を、自分程度の存在が無闇矢鱈と奪い去っていいものだろうか。

 答えは否だ。彼は自らの浅はかな思慮によって彼女の好みそうな世界を壊しかけた事に憤慨するが、表情は相変わらず不気味に微笑むだけである。

 

「なるほど。では我が総軍は城にて待機してもらおう」

 

「それがよろしいかと。根本を節操なく破壊するだけでは既知を探る以前の問題となってしまいましょう。

 それは貴方も私も望むところではない。ましてや爪牙なき世界では、貴方の『愛』は貴方手ずから破壊しなければならない」

 

「是非もない。私の渇望は未来永劫満ち足り得ることはありえん。ならば次なる未知と愛を以て総てを破壊しよう」

 

 獣は笑う。猛々しく、そして愛おしげにまだ見ぬ世界へ思いを馳せる。

 

「征かれるか」

 

「征くとも。そこにまだ愛されていない者たちがいるのなら」

 

「では、これは私からの餞別と思ってもらい構いません」

 

 彼の手には鈍色に煌く白蛇が浮いていた。

 それは水銀の蛇の残留因子。あるいは彼の子種にも等しい呪物である。

 詳しい説明は省くにしろ、恐ろしい観察眼と思慮を以て吟味した黄金の獣はソレが何であるか答えてもらう前に正解へたどり着き、その表情を冷淡なものへと変えた。

 

「どういうつもりだカールよ。かつての焼き増しにしては、少々花がないように思えるが」

 

「特異点は常識が通用しないからこそ特異点足り得る。いや、そもそも私が常識を語るべきではないが『座』という理において私の常識が通じないならば等しく非常識と言えよう。

 故にそれは、獣殿に対するナビゲーターであり観測機器と思って頂いて結構。知見を広めるという意味では既知感の払拭にも繋がりましょう」

 

 子種といえば聞こえは悪いが、要するに水銀の蛇にとっての目であり耳であり自身の代わりに派遣された分身のようなものである。

 先も記したように、宇宙そのものを孕んでいる特大級の存在である彼がそのまま顕現してしまえば、その世界はたちどころに崩壊してしまうことだろう。それは彼とて本意ではない。

 

 故に___彼は自身の因子を極限まで薄めて創造した分身を、黄金に同伴させようというのだ。

 

 如何に薄まった概念とはいえ本質は理そのものであり他所の世界に訪れようものなら世界に綻びが生じてしまうのは必然。

 唯一つの例外である『輪廻転生』の理においてのみ複数の覇道神の存在が許容されているが、それはあくまで女神の性質が奇跡的に『座』の性質と噛み合っただけの話だ。

 

「ああ、勘違いしないでいただきたいが、それはあくまで観測機器であり一言二言程度の助言くらいしか役に立たんよ」

 

「卿の一言は難解ではあるが万の言葉よりも価値があると思えるが?」

 

「ふふ、ふふふ。さぁ…それはどうでしょう」

 

 黄金にとっても願ってもない話ではあった。彼の渇望を理解している者達であれば、未知という存在が彼にとってどれほど甘美なものであるかは分かって当然の事情。

 だからこそ、皿の上に乗る馳走を独り占めしたいという願望成就を願うのは必然。それを横から邪魔されるとあれば、幾ら総てを愛する獣であろうと不服に思うのは当然であった。

 ましてや、その既知の原因を創り上げた水銀の蛇が素直に応じるはずもなく、のらりくらりとはぐらかされる始末である。

 

「ともあれ為すべきことは見据えた。であれば後は実行するだけだ。

 なに、心配はいらない。私の愛は何処までも届くと誓おう」

 

 黄金の獣はそう言って極光を薄めながら、この虚空の世界から姿を消した。

 理性を焦がす絶対の光源を失い、双蛇の発する仄かな幽玄とした冷炎だけが世界を照らす。

 

「楽しみだ。実に楽しみだ。私がこのような感想を抱くなど、あの巴の螺旋の戦い以来ありえないと思っていた。

 黄金の獣、墓場の王、愛すべからざる光___ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒよ、私に未知を教えてくれ。」

 

 幽鬼の如き相貌に、怪物のような笑みを浮かべながら水銀の蛇___カール・クラフト=メルクリウスは永劫水銀回帰である覇道神である自身でさえ把握しきれていない『完全に未知』の世界に心躍らせていた。

 

 

**********************

 

 

《確認しました。ユニークスキル『眠れる獅子』を獲得……成功しました。

 続けて、ユニークスキル『水銀錬成』を獲得……成功しました》

 

 

《確認しました。エイヴィヒカイトの流出階位の定義……失敗しました。

 出力低下による創造階位への再定義……失敗しました。

 出力低下による形成階位への再定義……失敗しました。

 出力低下による活動階位への再定義……成功しました》

 

 

《確認しました。グラズヘイムの疑似展開……成功しました》

 

 

《確認しました。神座からの接続(アクセス)を申請……許可しました》

 

 

 

 

 ___では、今宵の恐怖劇を始めよう。




 次回、クレイマン死す!
 
 絶対見てくれよな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。