紙飛行機手紙
私の名前はアティカス・テイラー。イギリス生まれの半純血の魔法使い。1977年ホグワーツ卒業。その後は魔法省国際魔法協力部北米地区を数年担当。その後はなんやかんやありつつもイギリスと他国の橋渡しとして真面目に勤務していたのだが....今朝出省したら私のデスクの上には一通の紙飛行機の形をした手紙が置かれていた。
国際魔法協力部では他国との時差の関係もあり、出勤前に他国の職員から連絡が届くことも多いが...大抵は紙飛行なんざ飛ばさず煙突飛行やポートキーで直接話し合うことが多い。
と言うかそもそも紙飛行機の魔法でイギリスまで手紙を飛ばす意味がないし、それならフクロウを使うだろう。つまりこれは省内からの手紙。
なぜだか厄介事の気配を感じつつも開けないわけにはいかず、杖を振って手紙を開くと、手紙は宙に浮き、口の形を取ると甲高い声で喋り出した。
「ごきげんよう!!! 国際魔法協力部アティカス・テイラー君!!!
本日午前10時に魔法大臣次官室に来たれし!!!
魔法大臣室より、良い1日を!! 」
魔法大臣室より、だと? は? まずいぞこれは...
魔法大臣室は魔法大臣を初めとした魔法省のトップ組織だ。そんなところから呼び出しがかかるとなると、よっぽど重要なことが起きたか、何か大きな問題を起こしてしまったのか。とにかく本当にまずい。
一気に血が引き、背筋が寒くなる。心臓が高鳴り、特段暑くもないのに汗がにじむ。何かやらかしたっけ? いやそんな記憶はないし...ひょっとして昇給とか? いや、それなら協力部長から話があるはず。
ものすごく、本当に、本気で嫌だが呼び出されたなら行かねばなるまい。ものすごく行きたくないが、これで出頭しなければ最悪解雇もありえるのだから。
協力部のドアを開け、廊下を歩き出す。廊下の端に着くとエレベーターに乗り込み地下一階のボタンを押す。チーンと小気味良い鈴の音を立てると、カゴはガタガタ動き出す。
『地下一階 魔法大臣室です』
着いてしまった。あとはもうすぐ手前に見える魔法大臣次官室のドアを開けるだけ。
今の時間は9時57分。
フ────ッと大きく深呼吸をし、ドアを開ける!
「失礼いたします! 国際魔法協力部アティカス・テイラーです!」
中には何か書類を読み込んでいる魔法大臣ミリセント・バグノールドその人、その次官に秘書、さらには秘書補佐官までが詰めていた。
うぅ、次官室だから大臣はいないと思ったのにいるじゃん....
バグノールド大臣は手元の書類から目をあげると一言。
「あぁ、ミスター・テイラー、ドアを閉めてくれ」
「はい!」
慌ててドアを閉めると、座っていた椅子から大臣は立ち上がり書類をめくり始めた。
「さて、あ──っとどれだったかな。テイラー、テイラーっと。えーっと、あった! これだこれ」
書類が見つかったのか、一つ咳払いをしてからそれまでとは全く違う重みのある声で私に内容を告げる。
「ンッン! よし!
辞令!
アティカス・テイラー殿
本日1980年6月23日をもって、国際魔法協力部欧州並びに北米地区長の任を解き、魔法法執行部ウィゼンガモット最高裁判所事務局、アズカバン監獄長補佐官に任命します。
イギリス魔法界の民の安心・安全を守るため、誠心誠意働くことを期待します。
イギリス魔法省魔法大臣ミリセント・バグノールド。
以上! 」
は? アズカバン? アズカバンってあの入ったら気が狂うっていう監獄のアズカバン? あそこの監獄長補佐官?
へ? それはつまり、アズカバンに常在するという事か?
終わった...。
私は呆然と立ち尽くしていた。アズカバン監獄長補佐官に任命されるとは、まさかの展開だった。
「大臣、その、何かの間違いでは? つまりですね、私は北米にずっと関わってきて、最近では欧州も担当していますが、その、わ、私はですね、なんというか国際魔法協力部の職員なのです。大臣もそれは当然よくご存知だとは承知の上で申し上げさせていただきますが、アズカバンはそもそも魔法法執行部の管理下にありますよね? それなら、闇払い局の人間とか、魔法警察部隊とかの方が良いのでは? それに、私はイギリスのガリオンとアメリカのドラゴットの相場の計算とか、ホグワーツとイルヴァーモーニーとボーバトンの3校相互教育推進条約の取りまとめとか、MACUSAにラパポート法について文書を送るとかが専門なんですよ? それがどうしてアズカバンになったんですか? というか、なんで私なんです?」
バグノールド大臣は私を不思議そうに見つめる。
「はい? なぜそんなに混乱しているのです?」
「そりゃ混乱しますよ!! 良いですか大臣! 私は今日やっと空飛ぶ魔法の絨毯の輸入規制についてギリシャと連絡が取れると思ってオフィスに行ったんですよ? そしたらいきなり手紙に大臣室へ行けと言われるし、行ったら行ったで急にアズカバン行きを命じられますし、その上今あなたはんなぜそんなに不思議そうな目でこちらを見るんですか!?」
「いえ、なぜってあなたが希望したからですよ?」
「?? 何をです、大臣?」
「ですからアズカバン監獄長補佐官のポストを」
「誰が?」
「あなたが」
「私が?」
「ええ、そうですとも。国際協力ではなく、もっとやりがいのある仕事がしたい。胃と肝臓がキュッと縮み上がって心臓が常に高速で鼓動するようなスリリングのあるポストはないか。そうおっしゃったのはあなたじゃありませんか、ミスター・テイラー」
おいおいなんだそれは! そんなこと一言も言っていないぞ私は!
第一なんだその胃と肝臓が縮み上がるスリリングなポストって! 誰だよそんなこと言ったやつ! 大臣は私が言ったとおっしゃっているが、そんな記憶無いし、私はそんなスリリングな仕事は求めていない!
ということは、誰かが私になりすましか操ったか...。ポリジュース薬? それとも知らない間に服従の呪文にかけられてオブリビエイトされたか?
そう考えると途端に恐怖が私の心を包み込んだ。もし本当に服従の呪文をかけられていたら、私は一体何をした? いつだ? いつ呪文を食らった?
必死に思い返そうとするも、記憶に不審な点はない。真に優秀な忘却術の使い手ならば、相手の記憶を消すだけでなく、偽りの記憶を馴染ませることができると耳にしたことがあるが、そうだとしたらなぜ私を狙った? なんのために?
感情的にはひどく混乱しているものの、頭の片隅ではなぜだか冷静に物事を見ることもできた。ひとまず確認だけはせねばなるまい。
「大臣、その、あなたはいつ私からその言葉を聞いたのです?」
「3ヶ月ほど前に手紙でですよ。ほら、あなたがギックリビックリキャンディーと一緒に手紙をよこしたでしょう?」
「あのですね、私はそんな手紙は一切出しておりません。というか今から3ヶ月前でしたら、私はイルヴァーモーニー視察を兼ねて、アメリカのMACUSAに研修しに出張しておりましたが?」
その言葉を受けて、バグノールド大臣は目をわずかに見開くと、側に控えていた次官に声をかける。
「なんと。しかしあの手紙は確かにあなたの署名がされていたはずなのですが、、、。君、ウェッジウッド次官、例の手紙は今手元にありますか?」
「はい、大臣! ここに!」
大臣は次官から手渡された手紙を私にも見えるように広げた。やはり私には一切覚えのない手紙を。
次官室の窓が、夕焼けから雷雨に変わった。
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敬愛なるミリセント・バグノールド魔法大臣
息災でお過ごしでしょうか。
先日は米国魔法議MACUSAへの研修の件、大変ありがとうございました。
お世話になってばかりの所、大変厚かましいのですが、一つお願いがありこうして手紙を送らせて頂いております。
大臣もご存知のように、私は現在、国際魔法協力部にて欧州並びに北米地区長を務めさせて頂いております。
私には勿体無いほどのこのポストですが、近頃なにか足りないような気がしております。具体的には、やりがいが足りないのです。加えて、私の部下も十分成長し、今では安心して仕事を任せることができるようになっております。恥を忍んで申し上げるのですが、胃と肝臓がキュッと縮み上がって心臓が常に高速で鼓動するようなスリリングのあるポストはございませんでしょうか。給与が下がっても構いません。今の私は、仕事に真面目に取り組んでおりますが、本気で全力を出せてはいないのです。なまじ仕事を覚え、ある程度経験をつんだからでしょうか。しかし、それではダメだと私は思うのです。このまま本気で仕事に取り組まないのは部下にも同僚に上司にも、何よりイギリス魔法界の紳士淑女の皆様に申し訳ないのです。
ご迷惑おけし大変申し訳ございませんが、どうかご一考の程、よろしくお願い致します。
感謝の意を込めて。
国際魔法協力部 欧州並びに北米地区長
アティカス・テイラー
追伸:同封致しましたギックリビックリキャンディーをお楽しみ頂けましたら幸いです。
ふと思いついた設定で書いてみたましたが、多分この話限りです。楽しんでいただけましたでしょうか?もし評価が良ければ、もっと続きを書いていくかもしれません。