話の途中で、段落により非常に読みづらくなってしまっている箇所があるかと思います。
(本話序盤に出てくる金色の文字の部分です。)
そこで、なにか変じゃね?と思われた方は、スマホ版のまま、スマホを横向きにして頂くと正しく表示されるかと思います。
PCでお読みくださっている方は問題が無いはずです。
万が一やっぱり変ということがございましたら、感想欄等にてお知らせいただけますと幸いです。
ご迷惑おかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
読者諸君は、そもそもアズカバンとは何かご存じだろうか。
本書をお読みくださっている多くの魔法使い諸君はアズカバンに関して監獄としてのイメージが強いだろう。しかしながら、筆者を含め多くの魔法史家にとってのアズカバンは、闇の魔法使いエクリジスの要塞としての認識が強くある。
エクリジスは、15世紀に活動していた闇の魔法使いであり、吸魂鬼の産みの親として知られている。彼に関して現時点で判明していることはあまりにも少ない。ただし、未だかつて類を見ないほど闇の魔術に傾倒し、悍ましい魔法使いであったことは疑いようがない。
彼は北海の目立たぬ場所に存在する小島を発見すると、その小島を覆うように要塞を築き上げた。今のアズカバンである。そしてエクリジスは幾人ものマグルの船乗り達を攫い、アズカバンで闇の秘術の実験を行った。
吸魂鬼は、エクリジスが人に純粋な恐怖のみを植え付ける呪いの研究をしていた際に偶然生まれた化け物だとする説が強い。監禁された船乗り達が恐怖を与え続けられた結果、自らが他者に恐怖を与える闇になってしまったのだ。こうして生まれた吸魂鬼は、人間の生気や幸福感を餌に個体数を増やし続け、いつしかアズカバンは吸魂鬼のコロニーになったのである。なお、吸魂鬼に魂を吸われた人間は、時間の経過により吸魂鬼へと変貌するとの見解がある。しかしながら、それを証明する研究結果は皆無であり、あくまで俗説だという点に注意を払う必要がある。
ともかく、吸魂鬼のコロニーと化したアズカバンは、後に魔法省により発見され調査隊が派遣される。しかしながら、吸魂鬼を消滅させることはおろか追い払うことすら出来ず、アズカバンはそのまま魔法省の監視対象となる。
アズカバンが魔法使いの刑務所としての機能を持つようになったのは1719年の事である。その前年に魔法大臣として選出されたダモクレス・ロウルは、人件費や建設費を大幅に削減できるとし、あろうことかアズカバンをそのままイギリス魔法界唯一の監獄としてしまった。そのため、囚人は罪の重さに関係なく、一度禁固刑となればアズカバンに収容されることが決まった。しかし、多くの囚人は吸魂鬼のつくり出す恐怖に発狂し、衰弱死していった。当然このような事態は世間に重く受け止められ、ダモクレス・ロウル魔法大臣は責任をとり辞任をする運びとなる。
その後、1733年に魔法大臣となったエルドリッチ・ディゴリーがアズカバンではなく新たに「人道的な」刑務所を作ろうとするも、10年以上脱獄者がいないアズカバンを信頼するものは多かった。結果、魔法使いからは猛反対され、完成には至らなかった。その結果として現在でもアズカバンは監獄として機能し続けている。
ところで、読者諸君は疑問に思わなかっただろうか。エクリジスはアズカバンが吸魂鬼のコロニーになった際にどうしたのかと。これには以下の2つの有力な説がある。
1. エクリジス自身が吸魂鬼となってしまったというもの。
2. エクリジスが吸魂鬼を生み出した際は彼の寿命も近く、早々に寿命、もしくは衰弱により死亡したというもの。
アズカバンにかけられた数々の隠蔽魔法は彼の死により解かれたことは神秘部による論文『アズカバンにおける古の隠蔽魔法技術の特性と再現性の研究』により証明されている。しかし、エクリジスの遺体は未だ発見されていないことを覚えておく必要がある。
前述の2つの説について、どちらが正しいか積極的に研究しようとする魔法使いは皆無と言って良い。多くの魔法使いにとって重要なのは、エクリジスがもう死亡していることであり、自身の生命を脅かすことは無いということなのだから。
私は読んでいた本を閉じると、車窓の外に目をやった。
走行する汽車のすぐ傍には針葉樹の森が広がっている。
私は今、いよいよアズカバンへ行くために汽車に乗り、ノリッジまで向かっていた。
ノリッジはロンドンから北東に位置する街だ。
なんだってわざわざそんな街まで行くのかというと、アズカバンの特殊性にある。
姿あらわしは当然妨害されているし、ポートキーもだめ。煙突暖炉に至っては、魔法と『物理』の両方で塞がれているそうだ。
唯一の行き方が、ノリッジからセストラルの馬車に乗って行くこと。
うーむ、まあ正直ロンドンから直接行けるようにした方が囚人の移送とか楽では?と思うが...。まあ、警備が厳重なのは良いことだ。
読んでいたバチルダ・バグショット著の『魔法史』を私の隣に置いていたボストンバッグの中に放り込む。
それからローブの内ポケットの汽車のチケットを取り出し、なんとなく眺めた。
今の時刻はちょうど12時。まだしばらくかかりそうだ。
すでに昼食は済ませたし、一眠りするとしよう。
中折れ帽を目深に被り、目を閉じる。
汽車の車輪が規則正しくガタンゴトンと振動し、私はすぐに眠りに落ちるのだった。
目が覚めた時にはすでにノリッジまでもう後5分ほどだった。
うーん、いけないな。本当は到着15分前には起きるつもりだったのに。
昨晩は緊張で全く眠れなかったし、色々と疲れが溜まっているのかもしれない。
幸い先ほどまでは本当にぐっすり眠れたし、少しは顔も元気に見えるだろう。
『えー、まもなくノリッジ、ノリッジです。お忘れ物の無いようご注意ください。本日はノリッジ・ブリティッシュ・ウィザーディング・エクスプレスをご利用いただきまして、誠にありがとうございました。皆様の1日が良いものとなりますよう』
ちょうど車内アナウンスも流れ、汽車はどんどん速度を落とし始める。
よしよし、着いたか。
立ち上がり、上部の荷物おきからトランクを下ろす。持ち手部分にボストンバッグを引っかければ完璧だ。
コンパートメントから出ると、何人かの魔法使いが降車口に向かって歩いて行く。
ただまあ、結構乗ってる人は少ないようだ。
ノリッジ駅と書かれたプラットフォームにつくと、自然豊かな香りが私を包み込む。
う────ん! これは空気がうまい!
特にロンドンなんてひどいものだからなぁ。
いやー、空気ってこんなにも味が違うものなのか。
空気の新鮮さに感動しながら、プラットフォームの柱からマグル側に抜ける。
目の前には川が流れており、意外にも緑の自然よりも石造りの建築物が多く並んでいる。
これは不思議だな。確かにロンドンより空気が新鮮なのに、田舎ってわけでもない。
中世の街並み、という言葉が一番しっくりくるだろう。
都市と自然が共存した状態というのだろうか。
この新鮮な空気を作り出す魔法が是非とも欲しいものだ。
『泡頭の呪文』ではこの自然豊かな、リラックスできる空気は再現できまい。
と、そんなことより次はどこに行くんだけっか?
事前に用意しておいたメモをローブから引っ張り出す。
えーっと、ノリッジに着いたら大聖堂に行く。
そこから『アズカバン訪問審査所』に入る、か。
....え、めんどくさ。
はぁ、普通に面倒くさい。さっきまで魔法界のプラットフォームにいたのに、また魔法界に入るのか。普通にプラットフォームと繋げるんじゃダメなの?
なんでわざわざマグル界に出るんだよ。国際機密保持法的にも、利便性的にも一箇所にまとめた方が良いだろうに。
アズカバンの警備の問題なのかなぁ?
内心でウジウジ文句を言いながら、大聖堂へと足を向ける。
10分ほど歩くと、大聖堂はすぐに見つかった。
ここは普通にマグルの間でも観光スポットのようで、マグルの姿もちらほら確認できる。
彼らは大聖堂の正門から中に入っているようだが、私は聖堂の右手へと回り込む小道に入る。そのまま少し進むと、ちょうど建物の真裏、正門の反対側に着く。真ん中には、外から見たのでは正直くすんだ色をしているステンドグラス。聖堂の中から見れば太陽の光が入り、さぞ綺麗なのだろう。
そのステンドグラスの下には年季の入った横長のベンチが置いてある。目の前には大きなモミの木が植えてあり、その葉はちょうどベンチを外から隠していた。
このベンチこそが、魔法界への入り口らしい。もう一度メモを引っ張り出し、手順をしっかりと確認するとベンチに座る。
右の肘掛けの先を2回、三本あるうちの真ん中の足を一回、その後もう一度肘掛けを2回。最後に肘掛けに薄く彫られている溝に私の杖を置く。
するとベンチは突然クルリと一回転した。左右ではなく上下がひっくり返る軌道で。
ひっくり返る! と思いきや、私はしっかりベンチに座ったままだった。
思わず瞑ってしまった目をうっすらと開けると、今までの景色は消えており、目の前は大聖堂の中だった。ただし、行き交う人は全員ローブを着ているが。
よしよし、うまく入れたようだな。思わず笑みが浮かぶ。
大聖堂にはマグルが観光する場所と、特定の手順で入れる魔法使い用の場所が『重なって』いるという訳だ。
大事なのは入り方であって、物理的な場所では無いからな。
もし物理的にスペースが必要なのだとしたら、キングズクロス駅の魔法使い用ホームなんてとっくのとうにバレているだろう。魔法ってのは本当に便利だ。
あきらかに広く拡張され、美しく装飾された大聖堂の高い天井。絵はまるで動き出しそう...というか実際に動いている。絵の中の魔法使い達はなにやら激しく戦っているようだ。
天井から吊り下げられたシャンデリアは魔法で支えられ、大理石の床に光が反射する。
ベンチから立ち上がり、奥の方を見るとどうやらカウンターが設置されているようだ。カウンターの上部にははっきりと『アズカバン訪問審査所』と書かれたプレートが設置されている。
カウンターまで歩き、羽ペン羊皮紙に何か書き込んでいた職員に声をかける。
「あー、すみません。アズカバンへ行きたいのですが、よろしいですか?」
職員はこちらに鋭い視線を向ける。
「杖を渡してください。それから、魔法省が発行する申請書、許可証、犯罪歴証明書と、訪問理由書も」
「んっん! あの、私は訪問に来たのではなく、新しく監獄長補佐官になるアティカス・テイラーと申します。辞令書ならお見せできますが」
それを聞いた職員はなぜかさらに視線を険しくすると、大声で叫ぶ。
「警備──!!! 警備──!!! 大至急ここに!!!」
へ???
「いやいやいや、ちょっとまて!! え、なんで警備員呼ぶんですか!!」
えーっと、どこだっけ? とりあえず辞令書! 辞令書を見せればわかってもらえるはず!
慌ててボストンバッグを床におき、中を探す。
が、警備の魔法使いがあっという間に10人ほどあらわれ、杖を一斉に私に向ける。
「「「動くな!!!!」」」
「ちょ、違いますって!! 本当に私は今日からアズカバンで働くんですよ!!!」
慌てて手をあげて弁解するも、全くこっちの話を聞いちゃいないようだ。
職員が大声で叫ぶ。
「嘘をつくな!! 拘束しろ!!」
「 「 ブラキアビンド!! 腕縛り!!」 」
「 「 ロコモーター・モルティス!! 足縛り!! 」 」
「 「 イモビラス!! 動くな!! 」 」
グェッ! 四方八方から縄をかけられ、挙句停止呪文まで食う。
ああもう! なんでこんなことに...。
しかもあの警備員の奴ら、しっかり役割分担して3種類も呪文を撃ちやがって...。
職員がカウンターからこちらに出てくる。
「もし本当にアズカバンの職員だというのなら、証明するものは?」
「だから言ってるじゃないですか! 私のボストンバッグの中に辞令書がありますって!」
警備員の一人が私の言葉を受けてボストンバッグを漁り、辞令書が入ったファイルを取り出す。
中身を確認しながら、職員に声をかける。
「あの、どうもこの書類本物のようですよ?」
「見せなさい!」
職員は辞令書を警備員から取ると、何やら呪文をかけ始める。
「 アパレシウム! スペリシアス・レベリオ! アパレ・コンシール、 秘密よあらわれよ! 」
うん、まあ当然辞令書はうんともすんとも言わない。そりゃそうだ。
「あのー、もう良いですか?」
職員は首をグルンと回すと、言い放つ。
「確かに辞令書は本物のようですが、あなたがこれを盗んだ可能性もある。隠し事がないのなら、当然開心術を受けられますよね?」
え──ー、まじかこの人。正直引いた。
どんだけ私を疑ってるんだよ。
もう色々とめんどくさいな。
「はいはい、もう好きにしてくれ」
思わずタメ口になるが、これは職員が悪いに決まっている。
というか、私は辞令書を受け取った時点で監獄長補佐官になっているわけだ。
と、いうことは、この職員は私の部下だし、クビにできるのでは?
ふっふっふ、素晴らしい!
本当にクビにするかはともかく、無実だと証明された時にそれで脅かしてやろう。
思わずにやけてしまう。これは良いアイデアだ!
「ふっふっふっふ!」
「貴様、何を笑っている!? くらえ、レジリメンス!! 開心!! 」
いかん余計怪しまれてしまった。
私は開心術に一切抵抗せず、受け入れる。
職員はあらかた私の記憶を見て、やっと私が誰か理解したのだろう。
呪文を解くと、真っ青な顔で私を見ている。
「誤解は解けましたかな?」
「は、はい! それはもう、あのしっかりと確認させていただきました!」
警備員たちもその言葉を受けて、慌てて呪文を唱える。
「 「 エマンシパレ! 解け! 」 」
「 「 フィニート! 終われ! 」 」
よし、やっと拘束が外されたな。
ゆっくり立ち上がり、軽く伸びをすると、職員に声をかける。
「さて、それではアズカバンまで連れて行って頂けますか?」
「はっ! 直ちに! こちらへどうぞテイラー補佐官、ご案内いたします!」
職員に連れられて、カウンターの横にあるドアを抜けると、大聖堂の中庭に出る。
そこには御者が2人乗った豪華な馬車が留まっていた。
おおお!! これはすごい!!
セストラルが合計で8頭も使われているのか!!
さぞかしスピードが出るだろうな。
馬車には各種保護呪文やマグル避け呪文がかけられているようだ。
どおりで、中庭にマグルが一人も見当たらないわけだ。
大聖堂は魔法界だが、中庭はおそらくマグル界のはずだ。
マグルの観光客が中庭に足を運んでもおかしくない。
「こちらが、ご利用いただける馬車になります。アズカバンまでは約30分ほどで到着致します」
職員が馬車のドアを開け、踏み台も用意してくれる。
「うん、ありがとう」
おー、中は結構広いな。
革張りの座席に、細かく装飾が施された肘掛け。
ランプは天井だけでなく、足元にも小さなものが設置され、十分に光源が確保されているようだ。
「それでは、アズカバンまで短い時間ですが、どうぞおつくろぎ下さいませ」
職員が一礼しドアを閉めると、車輪止めが外された。
御者がそれっ、と鞭をふるう。
あ!! 忘れてた!!
慌ててドアについていた窓を降ろし、職員に声をかける。
「君、アズカバンについたら直ぐに報告書を出すからな! もしかしたらクビn..」
ここで馬車はセストラルに率いられ、猛スピードで上昇する。
しまったな。冗談のつもりだったんだが、途中で切られてしまった。
そのせいか、最後にチラッと見えた職員の顔は絶望的だった。
なんかあれだ、バーティボッツの百味ビーンズを30粒くらい口に突っ込んだような顔をしていた。
うーん....まあ、いいか。
今はゆっくりくつろぐことにしよう。
今回もお読みくださり大変ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。