転属先はアズカバン!   作:ロマン・モール

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大変お待たせいたしました。

書き上がりましたので投稿いたします。


狂人の視察

 

次の日から私はバクスター監獄長の元で、本格的にアズカバンでの勤務を始めた。

 

アズカバンにおいて私達人間が行うべき仕事はかなり多い。

例えば魔法省との連絡とか訪問者の護衛、スケジュール調整などなど。

人間が行う業務は基本的に外部とのやりとりだ。

 

一方アズカバンにおいて囚人達の管理をするのが吸魂鬼。

奴ら、意外とまともに業務をこなすし、見境なしに魂を吸おうともしない。

存外真面目なのかもしれない。

最も監獄長は、「ここにいりゃあ餌がたんまりあるからな」と吸魂鬼を一切信用していないようだが。

 

ともかく、私たちが何をするかというと、一番大きいのは魔法省との連絡である。

吸魂鬼は喋ることができないし、囚人をイギリス本島からいつ護送するかとか、逆に釈放される囚人の手続きとかを一括で管理する。

こうした細々した調整は国際協力部時代に嫌というほど行ったのもあり、業務自体には一週間もすればすんなりとこなせるようになった。

 

ただまあ、どうしても吸魂鬼の近くにいると気が滅入る。

ふとした拍子にどうしようもなくネガティブな思考に囚われたり、くだらないことで悩んだりすることがある。

最も私はそれほど吸魂鬼の影響を受けやすいタイプの人間ではないらしい。

 

バクスター監獄長曰く、「お前さん、精神頑丈なんだな!ハッハッハ!」である。

 

アズカバンでこんな陽気に笑っている監獄長こそ、丈夫というか図太いという気もしている。

 

なんにせよ、意外と真面目な吸魂鬼と陽気な上司とともにアズカバンで勤務している訳だが、最近業務が非常に忙しくなってきている。

なんでも、「例のあの人」とその配下、死喰い人の活動がいよいよ過激化してきているようだ。始末が悪いことに、彼の掲げる純血主義に賛同する魔法使いが増え、それに伴いアズカバンに誤送されてくる囚人数も増加している。

 

なんでも闇払い以外にも、ダンブルドアが独自に指揮をとっている騎士団なるものも死喰い人に抵抗し、収監率の底上げの一因となっているらしいが真偽は不明だ。最も、死喰い人のアズカバン送りレースをぶっちぎりで突っ走っているのがアラスター・ムーディなる闇払いであることは確かである。

 

死喰い人がアズカバンに収監される際の書類等で、確保者の氏名を確認する事が多いが、半数以上はこのアラスター・ムーディが確保していることになっている。

 

実は私はアラスター・ムーディのことを一方的に知っている。最もあの日に魔法省にいた人物は大抵が一方的にその名をしっかりと覚えたことは間違いない。『ヤバイやつ』として。

 

私が国際協力部に勤務していた時のことである。

その日、私はフランスの出張から帰国し、一息つこうとオフィスに向かっていた。

アトリウムでエレベーターを待っていたその時、事件は起こったのだ。

 

私が並んでいた列の後方で、

 

『誕生日おめでとう!!』

 

という声が聞こえ、続いて拍手が聞こえてきた。

後ろを振り返って見てみると、威圧感のある男が複数の職員に誕生日を祝われているのが見えた。この威圧感のある男がアラスター・ムーディである。

 

職員たちは笑顔でムーディに声をかけており、列に並んでいた関係のない魔法使いも自然と笑顔になっていた。

 

そして、囲んでいた職員のうちの一人が綺麗に装飾されたプレゼントをムーディに渡した。

 

次の瞬間、ムーディはものすごい速度で杖を抜き放つと、閃光が走る。

 

「レダクト!!粉々!!」

 

プレゼントは一瞬で粉々になった。

 

「なんだ貴様らは!!えぇ?油断大敵!!アズカバンにぶちこんでやる!!来い!!」

 

ムーディの怒鳴り声が聞こえ、アトリウムはパニック。プレゼントを渡した職員は真っ青。

警備兵が駆けつけ、あたりは大騒ぎ。

かく言う私も何が何だかわからず、とりあえず現場から急いで離れたことを記憶している。

 

後に聞いた話によると、プレゼントのボックスが丸みを帯びていたことからバジリスクの卵だと思い込み、件の奇行に及んだらしい。無論、中身は卵でもなんでもなくただの旅行用携帯時計。

 

アラスター・ムーディの名が一気に魔法省に広まった瞬間であった。

 

ちなみにその後ムーディは精神疾患の疑いをかけられ、聖マンゴで精密検査を受けたらし

い。私含め、その場に居合わせた魔法使いはむしろ精神疾患であったことを望んでいたが、結果は正常。彼の性格によるものだという診断結果が出た際には全員が、『あいつ素の性格であれかよ』と戦慄の表情をしていたことをよく覚えている。

 

まあ、とにかく、私はこの時に初めてアラスター・ムーディという狂人の名を知ったわけだ。

 

そのあとは特に彼とは縁がなく、幸い私は彼にプレゼントを渡さなくてはいけない事態に陥らずに済み、こうしてアズカバンで勤務している。

 

・・・そう、彼とは関係が無いはずだった。

つい先ほど魔法省から連絡が来るまでは。

 

 

 

アズカバン視察訪問について

 

拝啓

 

バクスター監獄長並びにアティカス・テイラー監獄長補佐におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 

さて、このたび魔法省は、昨今の魔法界の情勢を鑑み、魔法法執行部闇払い局によるアズカバン視察を下記の通り実施することとなりました。

 

日程:1980年7月15日 10:00am

視察者:魔法省魔法法執行部闇払い局局長アラスター・ムーディ

 

詳細につきましては、視察を行う闇払いより現地にてご報告致します。

 

敬具

 

イギリス魔法省魔法法執行部部長

ルーファス・スクリムジョール

 

色々ツッコミどころはあるが、まずアズカバンで勤務してる人間に対して「ご健勝」とは如何なものかと思う。

こっちは毎日が物理的にどんより空気で、いつ魂が吸われるか分かったもんじゃない現場なのにご健勝とは少々腹立たしい。

 

それから、せめてもう少し詳細を伝えて欲しかった。

『現地にて報告』って流石に急すぎではなかろうか?

 

ついでに言うと視察するのが1人だけで良いのかとも思う。

まあ、視察者が件の気狂い、アラスター・ムーディなら大丈夫なのかもしれないが。

 

ともかく、アズカバンとしては視察を受け入れるほか無い。

直属の所属であるウィゼンガモットは、一応独立性が担保されているとはいえ、魔法法執行部の直下であることに変わりはない。

 

そもそもこの視察に関してアズカバンが拒否するには相当の理由、それこそ訪問者がよっぽどな危険人物、とか明らかな職権濫用、とかが無いと拒否するのは難しいだろう。そも魔法省の施設なわけだし。

 

・・・今思うと、これ、ムーディのこと拒否できるのでは?

アズカバンの死喰い人の半数以上を現在進行形で逮捕しまくり、友好的握手と殺人未遂の区別がつかない超強い狂人。

誰がどう見ても視察を受け入れるべきではない人物だろう。

 

むしろムーディをアズカバンに収監した方が世のためかもしれない。

 

ひとまずこの書類はバクスター監獄長のデスクに置いておいて、他の書類仕事を片付けた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

書類仕事を終えてからアズカバンを少し見回り、仕事場に戻るとちょうどバクスター監獄長も防御魔法の点検作業を終えたところだった。

 

早速とばかりに監獄長に視察について説明する。

 

「・・・というわけでして、アズカバンに視察が来るようなんですが、どうします?」

 

先ほどの魔法省からの報告書を顰めっ面で読んでいるバクスター監獄長に声をかける。

 

「チッ、視察者がよりによってアラスターか。」

 

「ん?監獄長はアラスター・ムーディとお知り合いなんですか?」

 

“アラスター”とファーストネームで呼んだことに違和感を覚えて尋ねると、監獄長は珍しくかなり不機嫌な様子で答える。

 

「詳しいことはヤツが来た時に聞いたらいいさ。昔ちょっとゴタゴタがあってな」

 

「そう、ですか、、」

 

「ま、業務に支障は来さないから安心しとけ。」

 

「それなら良いのですが」

 

大丈夫だろうか。

 

バクスター監獄長はかなり良い人であることは間違いない。

少なくとも私に対しては、きっちり直すべきところは指摘し、それでいて宴会を開いたり、体調を気遣ったりしてくれる。

体格上一見怖く見えるが、実際のところは公平な人であると思っているのだが、個人に対してここまで不機嫌そうになるのは多少心配である。

 

────────────────

 

視察当日。

 

その日は珍しく雨が降っておらず濃い霧だけであった。

アズカバンにずっと居るとわかるが、濃い霧だけの状態は、世間で言うところの雲ひとつない快晴だ。

 

これなら多少はこちらに来る馬車が見やすいだろう。

 

まずアラスター・ムーディが馬車で到着して、それから挨拶をして、一旦事務所に来てもらって詳細を聞いてから視察を開始する。

これが私が考えた大まかな内容だ。

今回の視察に関しては全て私が一任されている。

本来なら監獄長と到着を出迎えた方が良いのかもしれないが、何やら多少因縁があるようなので、監獄長には仕事場で待っていてもらうことにした。

 

吸魂鬼にも視察の件は通達したし、視察内容の詳細が知らされていないのだからあまりこちらでできることは少ない。

 

まずはムーディを迎えてからだ。

 

そんなこんなでアズカバンの屋上で馬車が来るのを待っているのだが・・・来ない。

 

おかしいな。10時に訪問予定だと思ったのだがもう30分も過ぎている。

なにかトラブルでなければ良いのだが・・・

 

一旦事務所に戻ってバクスター監獄長と話すべきか迷った次の瞬間、霧の中で何かが光った。

 

じっと目を凝らすと、だんだんとその光は大きくなっていく。

 

あれは、、、馬車だ!

よかった、無事に到着したようだ。

 

しばらくすると馬車がどんどんはっきりと見え、高度を下げてくる。

 

「エクスペクト・パトローナム!!守護霊よ来れ!!」

 

吸魂鬼が寄らないように守護霊を馬車の近くまで送る。

バクスター監獄長に初日に習ったことだ。

 

やがてドーンッと音をたて、馬車は私のちょうど目の前に着陸した。

 

金細工が施されたドアが開き、中から男が一人出てくる。

 

傷だらけの顔に黒いローブ。まるで荒削りの彫刻のような出立だ。

 

男は私を見ると唸るような声をあげた。

 

「アラスター・ムーディだ。視察の件は魔法省から受け取っておるな?」

 

「ええ、もちろん。監獄長補佐のアティカス・テイラーと申します。本日はどうもよろしくお願い致します」

 

「油断大敵!!」

 

「ひっ!」

 

なんなんだよこの人。いきなり大声で4字熟語を叫んできた。

油断してないし、4字熟語だけを叫ぶのも意味不明だ。

 

ひとまず屋上からはさっさと離れて、安全な仕事場の方で話を聞くべきだろう。

 

「あのう、ひとまずここは吸魂鬼が多いですし、一旦事務所の方にお願いします。」

 

ムーディは私をじろりと見ると怒鳴り出した。

 

「おい!!その前にやることがあるだろうが!!えぇ?わしが本物のアラスター・ムーディだという証拠はどこにある!!暴露呪文はどうした?検知棒は?真実薬は?油断大敵!!」

 

・・・なるほど、彼の中ではすでに視察は始まっているようだ。

アラスター・ムーディと言う人物は挨拶という概念をどこかに置き忘れてしまっているらしい。

 

私がアホなことを考えている間にも、ムーディは喋り続けている。

 

「馬車に乗った時の事前審査所の職員は優秀だったぞ?しっかりと審査をしておったし、抵抗するより早く腕縛りをかけてきたからな!!あれこそ油断大敵!!あっぱれ!!見習え!!」

 

「・・・はぁ。」

 

なんというか事前審査所の職員たち、ムーディに腕縛りをかけるとは恐れ知らずだな。

私も一時拘束されたし。

早いところマニュアルの見直しをやらなくては。

 

それはともかく、ずっとムーディに色々と言われるのも面白くない。

私だってアズカバンに勤務してから色々と作業をしているのだ。

 

「ムーディ局長」

 

「なんだ?やっと暴露呪文をかける気になったか??えぇ?そんならさっさと呪文をかけたらどうだ?」

 

「その必要はございません。アズカバンが管理する馬車には極めて強力なルーン文字が刻まれ、乗るものが怪しげな魔法を用いていないか自動的に確認しております。また、馬車にかけられている数多もの強力な呪文により所持品の確認や、身体検査も全て済んでおります。」

 

そう、この馬車を用いた身体検査は私が着任してから最初に導入したことだ。

私たちの仕事部屋や居住区を守るルーン文字を、監獄長に説明されてからこのことを思いついた。

 

イギリスの魔法使いでルーンを使いこなすものは極めて少ない。

おそらくあのアルバス・ダンブルドアでもあまり理解していないのではないだろうか。

 

ホグワーツでも古代ルーン文字学の授業はあるものの、やはり馴染み深いのは杖魔法であり、魔法と杖はイギリスの魔女や魔法使いにとって切り離せないものである。

 

一方、世界各地の魔法界に目を向ければ、杖魔法がさほど重視されていない国々が山ほど存在することがわかるだろう。

 

例えば、アフリカの魔法使いは杖なし魔法を軽々と行うし、エジプトではヒエログリフを用いた呪術が頻繁に用いられてきた。

無論、そうした国々にも多少の際はあれど、イギリスでいうところの刑務所が存在し、それぞれ異なった魔法体系を用いてセキュリティを固めている。

 

つまり、なにも杖魔法で何から何まで魔法を行う必要は全くなく、ルーン文字を用いて身体検査を自動化すれば負担は大幅に減り、何よりアズカバン到着前に不審な魔法を検知することができるため一石二鳥という訳だ。

 

こうしたことをアラスター・ムーディに丁寧に説明すると、彼も理解してくれたようで、「ほぉ、なかなかやりおる」との言葉をもらった。

 

よしよし、いい感じだ。

 

本来なら土産物でも渡したほうが良いのかもしれないが、アズカバンに土産物なんぞ無いし、アラスター・ムーディに土産物=レダクト!粉々!だということを学んでいる私が用意する訳がない。

 

なにはともあれ、一旦の合格点はもらえたようなので今度こそ安全な仕事場の方に向かうこととする。

 

屋上から私たちの仕事場へと通じる階段をムーディを案内しながら降りる。

降りた先にルーンが刻まれたドアを見つけると、彼は口をひん曲げながら笑った。

 

「これか、さっきの身体検査の方法を思いついたドアというのは。」

 

「ええ、そうです。監獄長はあまり強い効果のものではないとおっしゃっていましたが、これは吸魂鬼に対するものですし。身体検査程度ならルーンを大いに活用できるのでは無いかと思いまして」

 

「お前、気づいてないのか?ん?」

 

「なにがです?」

 

「いや、気づいてないのならいい。そっちの方が安心だろう」

 

彼は一体何に気づいたのだろうか。そしてなにが安心なのだろうか。

改めて古ぼけたドアとルーン文字を見るが特段変わっている点は見られない。

 

「ムーディ局長、一体なにがー」

私がムーディに食い下がって聞こうとした時、件のドアがバンッと音を立てて開き、中からバクスター監獄長が顔を覗かせた。

 

「なんだ、いつまでたっても来ねぇから迎えに行こうと思ったら、もうここに居たんか」

 

監獄長は、いつの間にか私の背後で壁を背にして立っていたムーディを見つけると嫌そうな顔で口を開く。

 

「ふん、相変わらず背中に壁がないと落ち着かないのか?アラスター」

 

「バクスター、お前の方こそ近頃腕が鈍っとるのではあるまい?ん?」

 

「お前さんのように被害妄想に取り憑かれてない分まともだと俺は思うがね」

 

 

うわぁ。いきなりお互いに煽り出した。

監獄長、業務に支障は来さないって言ってたのに。

これでは、これからの視察が思いやられる。早く帰ってくれないかなぁ。

 




はい、というわけでいかがでしたでしょうか。

大幅に投稿が遅れてしまいましたが、今後スローペースになろうとも執筆は続ける予定ですのでお願い致します。

早いところ1981年くらいまで持っていきたいものです。
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