「僕と恋人関係に? 一体どういうつもりなのかな?」
オレはアオイと話した翔太との擬似恋人関係を形成することにした。といっても、どうやって翔太をその関係へと至らせるか、どうすれば翔太はオレとの擬似的な恋人関係を結んでくれるのかを考えなくてはならない。
翔太が納得しなければ、この作戦は失敗だ。別の手段で翔太との仲を継続させる方法を考えるしかなくなる。だから、慎重に行こう。
「翔太は彩芽のことが好き、それで、オレも彩芽のことが好き、ここまでは良いよな」
「うん、そうだね。だからこそ、僕達はもう友達同士ではいられないと、そういう話をしたと思うんだけど。勿論、表向きは友人として振る舞うけどね」
そうだ。だからこそ、オレはこんなにも必死にもう一度翔太と友達に、元の関係に戻るために、こうして今も翔太に接しているのだから。
「けど、翔太はモテる。色んな女子に告白される。それで、この前は彩芽のグループの女子に告白されてただろ?」
「あー、佳奈ちゃんね。うん、されたよ。断ったけどね」
「ああ、そうだ。お前は、彩芽の友達にも告白されてる。つまり、彩芽の周りの女子にもお前が好きな奴がいるんだ。彩芽は、友達が好きだと言っている男を好きになるような奴じゃない」
「なるほどね」
翔太は、何を考えてるのか分からない。元々こいつは、感情があまり表に出てこないタイプだった。付き合いはそれなりに長いので、多少は分からなくもない。が、こいつが本気で感情を表に出さないように徹底しだしたら、正直オレや咲、彩芽ですら、翔太が何を考えているのか、その片鱗を読み取ることすらできない。だから、不安だ。上手くいくかどうかは分からない。けど、できるだけ翔太にメリットを提示する。
「悪い提案ではないと思うんだ。オレを女除けとして恋人という関係に置いておけば、お前のことを好きになる女子は当然減ることになる。彩芽の周りの女子だって、恋人がいると知れば、自然とお前のことだって諦めるはずだ」
「でもそれだと、彩芽も僕のことを気にしなくなるんじゃないかな? 本末転倒だと思うんだけど」
「彩芽には事情を説明する。オレだって彩芽に誤解されるのは嫌だからな。理由は適当でいいだろ。女子に告白されるのが億劫になったからとか、そんな感じで言っておけば良い」
「ふーん」
翔太は顎に手を当て、まるで考えていますと言わんばかりのポーズを取る。
こいつは思考する時、こんなあからさまな態度を取るようなやつじゃない。これは、オレを焦らしているだけなんだろう。
「で、それって蓮に何のメリットがあるの?」
来ると思っていた質問だ。
当然、このオレと翔太との擬似恋人関係は、オレと翔太で行うものだ。つまり、翔太にとって擬似恋人関係を行うメリットがあるとして、オレは何のために翔太と擬似恋人関係を構築しているのかという疑問は、当然翔太にだって湧いてくるはずだ。
ここで下手な理由を言って、翔太に不信感を与えるわけにはいかない。
何かいい理由を考えるべきなのかとも思ったが、オレの頭じゃそれっぽい理由はこれっぽっちも思い浮かばなかった。
だから、ここはストレートに行く。素直に、オレがどうして翔太と擬似恋人関係を構築しようとしているのか、全部話す。
友達に戻りたいだけなんだ。だったら、嘘はつかずに、相手に誠実に向き合うのが、一番良い。
「オレはさ、翔太とは友達に戻りたいと思ってるんだ」
「……残念ながら、無理な相談だよ」
「お前が、どう思ってたかなんて知らないよ。お前が、今はオレのこと友達だなんて思えないって言うのも、聞いた。けど、オレはお前と一緒にいて、一緒に遊んで、一緒に笑って……楽しかったんだ。お前との時間は、確かにオレにとって、良い思い出として残り続けてる。でも、これを思い出で終わらせたくないんだ。オレはまだ、お前と一緒に笑い合いたい。お前と一緒に、遊んでいたい」
恥ずかしいだとか、そんなの関係ない。
今ここでオレが踏み込まなきゃ、本当に翔太との関係は終わってしまう。
全部伝える。もう一度、翔太と友達になるために。
「それで?」
「オレはお前と擬似的な恋人関係を構築して、無理にでもお前がオレと一緒に行動しなきゃいけない口実を作る。そんで、思い知らせてやるんだ。“蓮と遊ぶ時間は楽しい”、“蓮と一緒に笑っていたい”、“蓮とまた、友達になりたい”、ってな」
馬鹿正直に伝える。
人の好意のあしらい方なんて、こいつは数々の告白を経て、とっくに身につけているのかも知れない。
オレのまっすぐな思いを、のらりくらりと交わすことなんて、簡単にできることなのかも知れない。
それでもオレは、この思いを伝える。
何もしないよりは、きっとマシだろうから。
それに、動かずに後悔するより、動いて後悔した方が、ずっといいと思うから。
だからオレは動く。
それがオレにできる精一杯だ。
「まるで告白しているみたいだ。……まあ、いいよ。僕にとっても、悪い話じゃないからね。蓮との擬似恋人、やってみようじゃないか」
よし! とりあえずオレと翔太の擬似的な恋人関係の形成には成功した!
ありがとうアオイ!
このまま、翔太ともう一度仲良くなって、元の仲良し4人組に戻るんだ。
「それじゃ、早速今日は放課後デートと行こうか」
「へ?」
「恋人なんだ。デートくらいはするものでしょ?」
いや、確かにそれはそうなんだけど……。
でもアオイは、『恋人らしいことする必要なんてなくて、とりあえず加羽留君の性転換病が治るまで、それを続けて見たらいいんじゃないかな』って言ってたし、別に恋人らしいことをオレ達がする意味って、そんなにない気が……。いや、でも恋人という関係を口実にする以上、ある程度そういう振る舞いも求められてくるものなんだろうか?
……まあ、軽くデートするくらいなんてことはないか。キスするわけじゃああるまいし。
でも。
「彩芽とかに事情を説明したりとか、しなくて良いのか?」
「ああ。連絡はしておくよ。けど、それは今必要なことなのかな? 僕の今の恋人は、蓮なんだ。彩芽じゃない。なら、蓮のことを優先するのは当然だと思うけど?」
思ったよりも翔太が積極的すぎて、少し困惑している…。
翔太は彩芽のことが好きなはずだ。だから、オレよりも彩芽の方を優先したいと思うのが自然なはずなんだが……。
軽い連絡で報告してしまって良いものなのか? 口頭できちんと伝えた方が、というか、本当に好きならそうすると思うんだけど…。
それとも、これはこれで翔太の作戦なんだろうか?
あえて積極的になって、オレを試している?
逆に積極的になることで、オレの方が翔太と関わることを拒否したくなるようにしている?
……考えても分からない。翔太の内心なんて、オレには何一つとして知り得ることができない。
だから、オレがやることは一つだけ。
翔太にまっすぐぶつかることだけだ。
「翔太、見てろ。オレがお前のことを攻略してやるからな。もう一度、オレと友達になってもらうからな」
「そうか、ほどほどに期待しておくよ」
「ああ。オレはお前のことを諦めるつもりはないからな」
「……………僕はもうとっくに落ちてるんだけどな……」
「?」
「なんでもないよ。さあ、記念すべき初デートと行こうか」
こうして、オレと翔太による、擬似的な恋人生活が幕を開けた。