打ち切られる漫画の世界に住んでいる事に気付いた人はどのような振る舞いをするのだろう。僕は、僕以外にそういう人を見つける機会も無ければ、見たことも無いので参考には出来なかった。真剣に探し続けたら見つかっていたのかもしれないが、そうなる前に鉄格子の嵌った病室で日々を過ごす事になって、僕はこうやって外にいることも出来なくなっていたに違いない。
僕は、僕一人がこの世界の真実に気付いていると思い込んで、それでも結局何かをすることを選択しなかった。大声で、世界の終わりが近づいてますよ、だなんて主張するのは恥ずかしかったし、本当に終わるとは僕も思っていない。だって単につまらない漫画が、ちょっとした敵を倒しただけの展開の先が、不人気で打ち切りだったからといって、この世界が終わるだなんて思えない。
僕は打ち切りの後にも世界は続く事に賭けて、普通に生きる事を決めた。主人公が居て、戦って、敵を倒して、打ち切りになる。僕が介在する余地は全くといって無いのだから、やっぱり普通に生きる方が良いに決まっている。
僕がこの漫画について知っている事は多いようで、改めて振り返ると随分と少なかった。現代によく似た世界で、同じような文明で、だけど僕の住んでいた世界よりも所々は進んでいて、パフェが美味しくて、そして、異能力がある。社会構造は一緒だし、重視される項目だって一緒。何故か敵が出て、主人公が撃退して、そして打ち切りになる。そんな世界だ。
異能だって有っても無くても変わらない。特別に才能が有れば強い異能が使えるし、大して才能が無ければ弱い異能しか使えない。僕は大した強度の異能を持たないが、大多数の人々もずっとずっと弱々しい力しか無いのだから、社会構造も僕が知っている物と殆ど変わる事は無い。勉強が出来れば学生時代は上手くいくし、コミュニケーション能力が高ければ学生時代は何の障害も無いように生きられるし、運動能力が高ければやっぱり学生時代で役に立つ。異能が強ければ、まあ、運動能力が高い人よりもずっと注目されるだろうか。学校で評価される項目が一個増えるような物だ。
じゃあ異能で金銭を稼いで生活できるかと問われると、人によるとしか言えなかった。絵が上手だったり、歌が上手だったり、手先が器用だったりしたら、動画サイトやテレビで活躍してお金を稼げる人もいたのと同様で、異能だってそういう上手く使えて初めてお金になるようだった。やっぱり何もかもが使う人次第で、才能や発想に左右されるのだから、人間が生きる社会という物はそう大きく変わらないのかもしれない。
異能の使用は禁止されているわけでは無いが、周囲に影響を及ぼす異能ほど扱いを控える傾向にあった。空気を読む、またはマナーを守る。そういう目に見えない何かは、僕が居た元の世界よりも強い気がした。力が強いからって目に付く物を片っ端から壊すなんて単なる破壊者だし、空を飛べるからって好き勝手飛んでいては危ないし、足が速いからって道路を走ったら車の運転手に迷惑だからね。
長々と講釈を垂れ流したが、僕が何を言いたいかと言えば、僕は周囲に溶け込み、静かに生きるつもりだったということが伝われば、苦労も報われるというものだ。
つもりだった、そう、つもりだったんだ。
つもり、と自分で言っているのでわかりきったことではあるだろうけれど、周囲に溶け込むこともなければ、静かに生きる事もないというわけだ。
何故かと言えば、今、世界が打ち切られるその場にいるからだ。正しく言えば、僕が知っている漫画の最終話、その場にいるってことだ。そんな場所にいられるくらい、僕は好き勝手やってきた。足が痛くなるくらい走ったよ。
自己紹介はいる? いらないよね。5分前に長々とやったもんね。現実逃避したくて、ここまで長々と僕は思考を垂れ流しにしたし。これ以上はきっと胃もたれになっちゃうだろうね。
――空から黒い雨が降り注ごうとしていた。
――咄嗟に、
――反転した重力によって、地に満ちるはずの呪いは漆黒の球体となって留まっていた。
みたいなモノローグが漫画だと流れているだろう。僕も対抗して付け加えるとしよう。
――僕は走っていた。
――精一杯。
――一生懸命がんばった。
やっぱやめるね。僕には向いてないんだよこういうの。話を変えよう。
この世界についての説明いる? 2巻で打ち切られた漫画だけど。人に紹介する時はいつもこう言ってた、「僕は好きだけど、面白いかはわからないよ」ってね。2巻は特別分厚いのが特徴で、話数が半端なのに3巻を出せなかった悲哀を感じる漫画なんだけど、僕は好き。読み切りの時は纏まってて光る物を感じたんだけど、連載となると気のせいだった事に気付いた。たぶん何かが反射したのだろう。一緒に掲載された読み切りがあまりに糞だったのかも。僕と言うカラスはよく間違えるんだ。女の子はまあまあ可愛いけど、他の漫画の方が可愛いのは認める。絵の動き? コマ割? 話の流れ? もうちょっと頑張りましょう。なんで連載させちゃったのかなって思う僕と、経験を積んでもっと頑張ってほしいと思う僕が、毎週の如く戦ってたものだよ。つまり、目立った武器を持たない漫画ってわけだ。だけど僕は好き。
おっと、漫画の話をしよう。タイトルは『ダークドロップ』、全2巻、主人公は女の子で
――嗚呼、個の無力さよ。
――
――重力は逆さまだった事を忘れてしまったようだ。
この後、反転させた重力で押し留めた黒い雨が
全て取り込むと、
僕が好きなのはさっきも言った通り、この漫画の読み切りなんだ。主人公の女の子が、恋に恋するような純真さを持ちつつ、日々を友達と楽しく過ごしたり部活に励んだり、時々生活に馴染んだ超能力や技術が出てくるような、そういう平和な日常系が一番だと思ってる。だから僕は毎日疑問に思ったよ。なんで
「おにいちゃん、わたしね、もう限界なの……」
僕が間に合わなかったけれど、一人で頑張って全てうまくやったじゃないか。僕は褒めたくてしょうがないのに、それなのに、どうして
読み切りと打ち切りの違いは、兄がいるかどうかだ。
「僕は安心したよ」
「……安心?」
「
大丈夫、良い言葉だよね。何も保証しないのに、何かした気持ちになれるんだから。
ぽつぽつと降る黒い雨は、冷たくないのに体の芯を冷やし、濡れた感覚が無いのに肉や骨をゆっくりと溶かす感じがした。不安と後悔に震える妹を、黒い雨に濡れないように抱擁する。
折れていた足が気持ちの悪い痛みを訴えていたが、どうせこれが最後なんだ。いっぱい走って、色々と怪我をして、妹を幸せに出来たと思ったんだけど、そう上手くはいかなかった。最後に失敗してしまった。
次があれば絶対上手くやれるはずなんだけどな。
2巻で打ち切りになった漫画の魅力をどうにかして伝えようと思い、筆を手に取った次第です。原作も魅力がある部分もあるし、最終話でちょっと顔出しするキャラクターたちのキャラデザも結構好きなので、この機会に色々と皆様に知ってもらいたいと思っています。正直な所ヤマもオチも無かった四コマの読み切り版には何の期待も持っていませんでしたが、連載になって何故かバトルが始まってちょっとは期待できるようになった感じでした。兄はなんか意味深な事言ってどっか消えるだけのキャラだし、タイトルやキャラデザからわかる通り、センスが古くて悲しい事にダサいのに、特別に絵が上手いわけでも綺麗ってわけでもないから早々打ち切りになるのもわかりきっていましたが改めて書いておきます。私は好き。