クライアビス   作:面梟エッホエッホ

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舞台、劇場、世界と箱の内の庭、窓の外

 

“力を求めよ、何よりも強く在れ、ただ渇望せよ”

 

物心ついた時からそう教わって生きて来た。

己の一番古い記憶はその教えを説く実の祖父と、その祖父と談笑する、如何にも古老といった風体の遠戚だという翁だった。

祖父は日陰で絵本を読んでいた自分に、それが一族に生まれた者の宿命だと諭していた。その言葉の意味を良く分かっていなかった当時の自分は、首を傾げて曖昧な返事をしたと思う。

そんな自分たち二人を見てカラカラと笑う翁の言葉を、今でも鮮明に憶えている。

“力への渇望”をあの翁は--

 

副総帥(サブマスター)

 

己を呼ぶ声に意識を戻す。

眺めていた空は暗く、陽射しを遮る雲ばかりが視界に映る。

思い馳せた在りし日の記憶と重ねた明るい陽光は、すっかりと隠れ今にもひと雨来そうな重苦しい模様を描いていた。

そんな気も沈む曇天から背後に振り返ると、白いコートに階級章を掛け、同色の軍帽を頭に乗せた青年が先程の自分と同じように空を眺めていた。

 

「…頃合かな」

「そっすね。部隊の展開も恙無(つつがな)く終えて号令待ちっす」

優先目標(ターゲット)は?」

「そっちはファイさんが既に捕捉済みっすね」

「なら良し、始めるぞ。ファタール君」

了解(ラジャー)

 

短いやり取りの合間に再び空を見上げる。

背後で自らの腹心にして副官のファタールが腕を上げ、合図を受けた部隊が動き出したのだろう。

空気がガラリと変わるのを肌で感じ取った。

チリチリとひりつくような戦場の空気だ。

 

()くぞ」

 

一言。

吐息に混ぜるように静かに吐き出す。

戦意によって渇く空気が不意に湿り気を帯びた。

雨が降りだす。

視線は光の一筋も通さない雲海の底から眼下の都市へ。

彩りの無い無骨な灰色の街は、それでもこの辺り一帯では最も力のある勢力が仕切っている。

飾り気の無い景色に反して派手な戦争をする街だ。

力を持たない都市や国は従わざるを得ず、力ある者もおいそれと手を出せない。

規模は都市国家でも大国と言うに相応しい力がある。

だから雇われたのだ。

 

「蹂躙しろ」

 

同情はしない。

因果応報だ。

際限のない拡大戦略を行った末路としては、実にありきたりなものだろう。

灰色一色の街に花が咲き乱れる。

赤く、紅く、朱い花が絶えず咲いては散っていく。

副官とは別の部下からの通信を繋ぎつつ、崩れ行く栄華に手向けと花火を撃たせ。

 

「灰も残さず更地になるまで」

 

歩き出した時にはもう、雨は滝のようだった。

 

-Scene Change-

 

“力”とは何か。

一つは“権力”。

規則のある集団に属するのならより上位の権力は他者の行動をある程度強制させることが出来る。集団が大きければ大きい程振るう力も強大なものになる。

一つは“財力”。

価値が変われども富は豊かさの象徴となり、財産は強力な手札に成り得る。金銀宝石の財宝や由緒正しい美術品などはステータスとして力を見せつける上では効果的だ。

一つは“名声”。

実力と言い換えても良い。才能、知力、身体能力といった素養は鍛えればその分力となる。何か一つでも秀でたものがあり、それで名を挙げたのならば、得られた名声は確かに己の力の証明だ。名声はやがて人望というより大きな力にもなる。

だが。

結局一番わかりやすいのは“暴力”だろう。

先に論った三つの“力”は、下地となるものが無ければ暴力に対して無力に等しい。

例えば“名声”。そもそもの実力が無ければ得られず、力無くして名声を得た者が個人で“暴力”を相手にできることなどたかが知れている。

例えば“財力”。莫大な財産があっても、それを守れるだけの力が無ければただ暴力によって奪われるだけである。

例えば“権力”。その権威の通じない外野には滅法無力。外部から武力で介入されてしまえば、いとも容易く制圧される。

一方で“暴力”。あぁ、実にわかりやすい。あるだけで他者を生かすも殺すも自由自在。気に入らないことは否定できる。

殴られたら痛い。単純明快。だからこそ“暴力”は恐れられる。

 

「立ちなさい。梛沙紀(ナキサキ)

 

声が聴こえる。

利き手に握った木刀で床を叩き、片膝を着いた姿勢から直ぐ様起き上がり後ろに下がった。

先程まで自分のいた場所に木刀が打ちつけられる。

乾いた音を響かせる木刀を辿れば、和服の壮年が此方を睥睨(へいげい)していた。

 

「稽古とはいえ気を抜くな。集中が乱れている」

「…はい、叔父上」

 

叔父上。そう、この男は叔父だ。

あの翁に強さの形について薫陶(くんとう)を賜ったあの日から数年。

翁は偶に家を訪れては祖父や父と何かを話し、それが終われば決まって修行部屋に顔を出し、座学や稽古中の自分に話を聞かせてくれるようになった。

指南役が使用人から父に代わり、“翁”の正体や“家”について知ってからも翁は度々家を訪れていた。

そんな父から一族について教わる傍ら剣や槍の扱いを学ぶ日々は、ある日から実戦形式の稽古へと変わった。

剣、槍、刀、短剣、斧、鎌、暗器、弓、拳銃、自動小銃…思い付く限りの武器の扱いを仕込まれ、修行を課せられた。

無論全ての武器を一人で十全に扱える者など一握りの選ばれた才能の持ち主のみ。故にこれは数多ある武器の中から才能と適性を探る為の修行だ。

一族の中で類稀なる才能の持ち主と言われた叔父がその例外たる一握りの人間で、そんな叔父が稽古をつけている。

漸く幼さの抜け始めた子供ではあったが、その意味は嫌でも理解できてしまった。

 

「……今日はここまでにしよう」

「…ありがとう、ございました」

 

防御と回避ばかりで一太刀当てるどころか攻撃に転ずることもできないまま立ち会うこと数時間。叔父は溜息と共に稽古の終わりを告げ、部屋を後にした。

その背中が廊下に消えるまで頭は上げず、叔父の気配が消えた頃を見計らって部屋を出た。

 

「若様、湯殿の準備が済んでおります」

「……わかった」

 

外に控えていた従者が、襖越しに声を掛けてきた。感情の読めない声色は平坦だが、うっすらと心配の色が滲んでいる。

新たに増えた呼称にはまだ慣れていない。

それに気付かない振りをして、まるで気にしていないという風を装い風呂場へと足を向けた。

叔父の落胆は今に始まったことじゃない。

家のことを考えれば、何の才能も無い凡俗が跡取りであることも、一族特有の渇望の兆しも見れないこともが残念極まりないのだろう。

少し前に父と叔父が話していたのを、まだ覚えていた。

 

「……強さとは渇望そのもの、か」

 

翁の言葉の真意は未だ解らず。

亡くなった祖父の教えにあった渇望の形もまた知らない。

蝉の声が良く通る、雲一つない晴れた夏の日のことだった。

ボク(・・)は、自分の生まれと身分を知った。

 

恩人とも言える翁が死んだのは、それから四日後だった。

 

翁。一族の重鎮たる“救千(くぜん)家”の前当主の葬式は、しめやかに行われた。

前当主だった翁の妻が喪主を務め、葬儀の一切は神職らしい宗家の者が取り仕切った。

各分家の当主と近親者のみが参列を許されたものの、数十もある一族の分家が一堂に会した為かそれでも葬儀場は人で溢れかえっていた。

焼香も火葬も現実味の無いまま終わり、翁の死を実感したのは、どこかも分からない小さな骨を骨壷へ入れた時だった。

涙は出なかった。

祖父と翁。良く知る人間の死を二度経ても、哀しみという感情は解らなかった。

 

「喰世家の皆様の御到着です」

 

葬式が終わると待っていたのは面倒な挨拶回りだった。

救千家の使用人に両親や叔父と共に案内された部屋には、既に人が待っていたようだ。

“救千家”の翁の妻と息子だろうか、初老の女性とまだ若い男。案内された席の向かいに“救是(くぜ)家”だろう一家。そして自分達“喰世家”四人。

“一族”の主要な分家【御三家】。

 

「宗家のお方々の御成です」

 

そして一族宗家“救世(くぜ)家”。

宗家の一団が上座に座り、父や救是家の当主らしき女、救千のお婆様が話し始めるのをぼんやりと眺めていた。

ふと向かいの席の、同い歳だろう少女と目が合った。豊かな金色の髪を纏めもせずに遊ばせ、仄暗い色を微かに宿した紫の瞳で此方を真っ直ぐに見つめている。

悪意とも呼べない感情。隠しきれていない何かは、ボクではなく宗家に向けられているようだった。ちらりと横目で宗家を見れば、向かいの少女と瓜二つの少女が大人たちの会話に混ざって微笑みを浮かべていた。

瞳の色だけが異なる少女は、自分に良く似た少女の心には気付いていないのだろう。或いは救是家の少女だけではなく、ボクのことも、誰のことも見ていなかったのかもしれない。

他の分家の者が挨拶に来ても、ただ微笑むだけで。

その赤い瞳にはきっと、何も映っていなかった。

 

世界を知りなさい-…

機械のように目礼を繰り返す最中(さなか)に、何時だか救千の翁に言われた言葉が脳裏を過ぎった。

思えばアレは遺言だったのかもしれない。

確かに今まで稽古ばかりで屋敷の外、一族の敷地の外に出掛けたことはなかった。

退屈で面倒な挨拶回りが終わった後、こっそり救千のお婆様に相談した。

お婆様は外を知りたいと言うボクに、喰世家の説得を約束してくれた。その時の眩しいものを見るような目が、何故か翁や祖父に重なって見えた。

そうしてボク…否、()は世界へ興味を持った。

 

それからは稽古の合間を縫って救千家の屋敷へ足繁(あしげ)く通った。

より詳しく外について知るためには、救世一族で最も外界と関わる救千家に頼るのが手っ取り早かったからだ。

救千のお婆様も、新たに当主となった翁の息子も、他家の人間である私が入り浸るのを快く受け入れてくれた。

ただ救千家はその役割(・・)がためか、宗家救世家の居る本殿と屋敷が繋がっていた。初めに訪ねた際、お婆様自ら屋敷を案内してくれた時に本殿には近寄らないよう言い付けられた。

恩のある救千家に仇を返す気など更々なかった。

何より宗家に対する感情は虚無に等しく、世界という屋敷では知り得ない未知の領域に比べればまるで関心が湧かなかった。

外について調べ初めてからは、時が経つのも忘れて没頭した。

初めに触れた外の世界の現在については、幼い頃に指南役や世話役に聞いた話と変わりなくつまらないものだった。

つまらない物事の記録ばかりを追い続け、熱も失せたこともあるにはあった。だが、救千の書庫で歴史書を開いた時私は翁の話に抱いた憧憬を再び見た。

今ある世界を形作った七度の大戦。世界を巻き込み作り替えた百年の戦争以前にあった国々や民族について調べる時、より古い時代へ遡るごとに英傑が築いた伝説や古代の民が崇拝した神話へと惹き込まれた。

大昔の地図を広げ、誰かの旅行記を開けばそこに記された秘境の存在に浪漫を感じた。

古代に魅せられたその一方で、現代に対する諦観にも似た失望が晴れることはなかった。

寧ろ知れば知る程に育つその感情は、退屈という苦痛となって私から熱を奪い去った。

私が喰世家での稽古を抜け出して救千家の書庫に入り浸るようになるのは、時間の問題だったのだろう。叔父も父も初めは苦い顔をしていたが、救千のお婆様の言葉もあってか私を責めることは無かった。

代わりに他の喰世家の者や使用人達からは一族の責務を忘れたと嘆かれ、後ろ指を指されるようになった。

それでも私は喰世家の理念など忘れて過去の探究に耽った。

いや、そもそも喰世家の理念などというものに価値など微塵も感じていなかったのだ。喰世家の始祖が一族の理念たる“救世”に関心を持ちえなかったように。

二年かけて貪るように本を漁り、一通り読み終えた頃には外への憧憬はただの興味へと落ち着いていた。

 

「お婆様、今までお世話になりました」

 

十分知識を得たと思えば、もう屋敷に留まる必要はなかった。

力とは何か、自らの渇望が何たるかを知る為と嘯いて、世界を見るという名目で家を飛び出した。

救千のお婆様は身勝手にも旅立つ私を最後まで笑って送り出してくれた。

そうして私は世界へと踏み出した。

 

救世一族の領地を離れ、世界を放浪する旅は未知に溢れていて私は外へ出て来たお題目など忘れてただ興味の赴くままに足を運んだ。異なる文化を持つ国で知らない言葉を学び、滅んだ国の跡地で歴史に触れ、自然に暮らす獣人達の集落では騒動に巻き込まれたりもした。

人が生身で立ち入ることのできる場所は凡そ回りきった私は、ある時知り合った人の伝で働くことになった。

【ふゆほたる】という名の温泉旅館で、名と身分を偽ってただの案内人として働いた。

就職を手紙で伝えた時、救千のお婆様は自分の事のように喜んでくれたらしい。

私を誘ってくれた館長や同僚達との日々は、私に楽しみという感情を教えてくれた大切な記憶として今も染み付いている。

この時は【ふゆほたる】での生活が続くことを疑わなかった。

ただそんな楽しい時間は、二年後に再び始まった戦争によって呆気なく終わりを告げた。

私の居た街は戦火に焼かれることは無かったが、終わりの見えない戦争によって環境汚染は拡大し、それによって発生した毒の霧“死灰の毒霧(グレイヴェール)”によって呑み込まれ、住民は皆方々に逃げざるを得なくなった。

旅館の同僚も例外ではなく、私もまた生身の人間である以上何処かへ逃げねばならなかった。

戦争が長引くに連れて、世界は荒れた。

私も再び世界を放浪している中で、幾度と無く事件に巻き込まれた。至る所で戦争の影が見え隠れするようになり、必然的に裏稼業の者達との関わることも増えていった。

かつての稽古漬けのお陰で暴力を振るうことに忌避はなく、荒事にも対応できるのは僥倖だったと素直に思う。

過去世界を破壊した七つの大戦争にも引けを取らない此度の戦争のことは一族の目にも止まったらしい。宗家や他の御三家はともかく、実家の喰世家は介入を始めたようだった。

ある捨てられた街で新聞記事に救世の名を目にした時、私はただ荒れ果てた街を観て周り、人類といういきもの(・・・・)を観るばかりだった。実家に戻る心算(つもり)など微塵も無かった。

親も住処も失った子供たちはボロ雑巾のような服を纏って盗みに走り、そんな子供を辛うじて真っ当な暮らしを保っている大人は容赦無く叩きのめす。

成程、これが地獄か。平和な時代から変わり果てた世界を見て心からそう思った。

人の醜さというものを知り、どうしてか人間の本性というものを暴いて見たくなった。

すっかり忘れていた渇望の答えが、そこにあるような気がして、自らも再度名前を変え何度か裏の仕事に手を出してみたりもした。

楽しかった。いや、愉しかった。

人を殺すこともあったがそこに嫌悪は抱かなかった。

相手がろくでもない人間だったこともあるが、そもそも倫理を重んじていては生き残れるような時代では既になかった、というのも大きい。

ただ、己の命を天秤に掛けられ烈しく感情を曝け出す他人が、人間味というものを教えてくれているような気さえして。

それを観ることがただ面白かった。

闘争という概念に興味を持ったのは、丁度その愉しみを知った頃のことでもあった。

裏社会なんてものと関わるうちに知り合った数人と意気投合して組織を立ち上げ、武器商人と名乗りながらも戦争屋-傭兵家業を始めた。

Reset of Fake 6ix(六枚綴りの偽白紙)】-通称【RoF6】は、私も含めた創始者達の名前が『ファレ』『ファロ』『ファラ』『ファル』と揃っていたことから冗談で付けた名前だったが、割と好評だったためにそのまま採用された。

戦場へ飛び込み、好き勝手に暴れ回る。戦地を転々として紛争に介入してを繰り返している内に、四人から始まった【RoF6】は急速に力をつけ、組織は次第に大きくなっていった。

狙撃手でエースの『ファイ』、若手で武器商人として名を挙げることが夢だと語った『ファタール』、姉妹で加入した『ファリ』と『ファミィ』。ただの偽名はコードネームになり、コードネーム持ちの幹部が増えた頃にはいつの間にか『副総帥(サブマスター)』と呼ばれるようになっていた。

 

「…雨?」

「何言ってんだ、さっきまで晴れてただ…ろ…」

「どうした?」

「…おいおい、奴ら、傭兵を雇いやがった!」

「【サメ】だ!【アカサメ】が来るぞ!撤退しろ!」

 

いつの間にか得体の知れない天候操作能力を得ていたのも、【RoF6】として活動していた頃だった。

外へ出れば雨雲を呼び、降りしきる雨を、雨水を思うがままに操る能力だった。

雨と共に現れては敵を全滅させて帰っていく。

そんな風評が広まり、気が付けば【赤雨(アカサメ)】なんて異名が付けられていた。

 

「あら、お久しぶりですねお兄様」

「……え!?ファロさん妹いたんすか!?」

「いや違うからな?…しかし良く分かったな。ペトラルカ」

 

組織が軌道に乗り、拠点を持つにあたってスポンサーを探している時に懐かしい相手と再会した。

蜂蜜色の良く手入れされた髪に白磁のような肌、宝石の如く煌めく碧い双眸。幼い頃は小さな子供だった又従姉妹は、深窓の令嬢という言葉の良く似合う素敵な女性になっていて。

 

「お姉ちゃん、誰その人?」

「覚えてないかしら、セレス。梛沙紀お兄様よ」

「此奴は流石に覚えてないだろ…」

 

まだ赤子だった妹の方はまぁまぁ生意気なおてんば娘になっていて、身体は弱い癖に気が強く苦笑いさせられた。

無事に出資者を得た【RoF6】は更に勢力を増し、破竹の勢いで戦場を駆け抜け続けた。

それが少しばかり暴れすぎたようで、私のことを知った一族に呼び戻された。

喰世家からの使者に連れてこられた先は実家の屋敷でも一族がよく集まる救千家の屋敷でもなく、宗家の座す本殿だった。

案内された大部屋には宗家や御三家のみならず全ての分家の当主が居て、中には長らく会っていなかった父や救千の若旦那の顔も当然あった。

宗家だけは当主以外にもいつか見た人形じみた少女の姿もあったが、やはり彼女は無感情にそこに居るだけで。

代わりにいつかの日と違って瓜二つの少女の姿はなく、私もまた人形に対する関心は持ちえていなかった。

 

「喰世家の次期当主」

 

まぁまぁ壮観な一族当主の並ぶ様を眺めていたら、重苦しい声色で宗家の当主、一族の棟梁たる救世の女傑が私を呼ぶ。

実家から離れ過ぎて自分が跡取りであったことなど忘れていた私は、思わず首を傾げてしまったが、誰もそれを咎めはしなかった。

黙ったままの分家の当主達と同じ厳しい目を真っ直ぐに見つめ返すと、女傑は紙の束を投げて寄越してきた。

【RoF6】のことが書かれた記事だった。

 

「それは一体、どういうことだ」

「申し訳ありません。質問の意図が分かりませんが…」

「それは、なんだ」

「…私が外で立ち上げた組織ですが?」

「……そういうことを聞いているのでは無い」

「………?あぁ、喰世の名は使っていませんよ」

「違う!徒らに戦場に手を出してどういうつもりだと聞いているのだ!」

「………はい?」

 

何を言っているのか、何が言いたいのか伝わらなかった。

私の知りうる限り別に好き勝手していようが問題は無かったハズだ。それがどうして詰問されているのだろう?

 

「俗世に出ていたとはいえ、お前も我ら救世一族が此度の戦争へ介入したことは知っているだろう」

「えぇ、まぁ」

「ならば何故、喰世家に戻り己の責務を全うしない?」

…仰ることが分かりかねます。喰世家は己が役割を既に果たしているのでは?」

「貴様!喰世家の次期当主としての自覚はないのか!」

 

女傑と問答しているところに横から野次が飛んで来た。

目を向ければ声の主だろう分家の当主。痩せ気味の男…アレは確か久瀬家だったか、末端の家だ。

我ながら良くもまぁ昔話半分に挨拶しただけの存在を記憶していたものだと、そんな風に感心しながら、口を回す。

 

失礼、何かおかしな事を言いましたでしょうか?久瀬家当主様。お言葉ですが喰世家が動いたということは、喰世家が誇る戦団を送り出したのでしょう?」

「あぁそうだ!貴様が率いるべき戦団は既に然るべき戦場で果敢に戦っている!」

「…であるならば問題がないように見受けられますが」

「まさか自分も戦場に立っているのだからなどと(うそぶ)く気か!?」

「そもそも喰世の次期当主よ!貴方は戦場を掻き乱すばかりで一族の本分を果たしていないではないですか!」

 

黙り込んだ女傑に代わり口々に詰る分家の当主たち。今の発言は宮筮(くぜ)家と公善(くぜ)家の当主か。

なんだか面倒になってきたが、それでも解かねばならない誤解が見つかったので仕方がない。

 

「いや、私がどうこうという話ではなくてですね。宮筮家当主様。お言葉ですが、私は一度も己を次期当主と名乗ったことはないのですが?」

「何を言う!現当主の嫡子が世迷いごとをほざくでないわ!」

「いえ、確かに私は現当主の子息ですが。我が喰世家には歴代最強と名高い叔父上が居るではありませぬか。そもそも私は幼き時分よりとうに当主の器無しと看做(みな)された者。何故未だに継承権を持ちえているのか理解しかねます」

「…は?待て、喰世の次期当主!貴様今なんと…?」

「私はとうに当主の座を継ぐことを放棄されているハズだと言ったのです」

「そんな馬鹿な話があるか!誰が取り決めたのだ!」

「?決めたのは父上と叔父上でしょう?まさか母上が口出しをするとは思えませぬが?」

 

自らの中では公然の秘密だったことを告げれば、場は異様なまでに静まり返った。

瞑目したままの父は何も言わず、苛烈に此方を糾弾していた当主達も言葉を失ってしまったようだ。

 

「…皆様知らなかったようですのでお話させて頂きますが、喰世家が“千装”の二つ名。その由来でもある力を望む気風は渇望があってこそ、というのは皆様もご存知のことでしょう」

 

(しか)しながら私の口はよく回る口だ。思ってもないことを次から次へとよくまぁ思いつく。気分は詐欺師だ。

 

「私にはその渇望とやらが解りませぬ」

 

当主達の間にざわめきが生まれた。

何をそんなに困惑することがあるのか不思議でならないが、今は置いておこう。

 

「故に救千家先代当主の助言に従い、己の渇望を見定めるべく世の中を見て回っていたのです」

 

翁の言葉を借りる。恩人を体良く使うことに若干の後ろめたさを覚えたが、しかし事実なので遠慮はやめた。

すると今度は家を率いるに相応しくないという主張を受けた当主達から、破門の言葉が聞こえてきた。

こいつら本当に頭を使って会話をしているのかと大分失礼な感想が浮かんだが、勿論口には出さない。

 

「それと、公善家のご当主」

「…なんでしょう?」

「先程一族の本分と仰られていましたね?救世一族の本分が救済であることは私も承服しておりますが…」

 

突然矛先を向けられて肩を跳ねさせる若い当主に、内心で苦笑いをする。

腹芸が下手なのも、よく分からない正義感でものを語るのも、青い。先代当主は何を以て家督を譲ったのか理解に苦しむが、公善家はその名の通り大衆の正義の味方を謳う家。らしいと言えば大分らしい。

 

「公善家ご当主は(いささ)か思い違いをなさっているようで。一族の目指す救済とは弱者の救済ではありませぬ(・・・・・・・・・・・・)。ただ世界が滅びへ向かう時に、世を鎮め治めるのが救世一族の本懐。その本懐を如何に遂げるか、その差異が分家各々が掲げる救済の形として冠する名に表れているのでしょう?」

 

嗚呼可哀想に。

痛い所を突かれた所為で随分と肩身が狭そうだ。

当主であるにも関わらずそんなことも知らないのかと白けた目を向けられる公善家当主には同情を禁じ得ない。

ひとえに公善家当主(おまえ)の勉強不足のせいだが。

 

「加えて申し上げますが、我が喰世家はその救済に意義を見出さず求道を己の道と定めた始祖により別たれた家に御座いますれば。宗家の刃ではあれど、弱者救済の為の刃には決して成りえませぬ」

 

ここまで言い切って一度口を閉じてみる。

流石に他の分家当主達は一族としての正論の前に返す言葉が無いようだ。それでも何かしらのケチを付けようと縋るように父を見る者もいる、なんともまぁ無様で笑いを誘ってくる滑稽な姿だが、それでも尚父は口を出さない。

それもそうだ。この教えはそもそも祖父から受け継いだもの。父も同じ教えを受けているのだから否定する理由がない。恐らくこの場にいるのが叔父だったとしてもこの件に関しては何も言わなかっただろう。

しかし問答は終わったが今度は誰も彼も(だんま)りで話が進まない。

どうしたものかと頭を捻っていた時だった。

 

「もう()い」

 

唐突に宗家の人形姫が口を開いた。

そこそこ醜い言い争いの中にあってもニコニコと微笑んでいるだけだった少女が、何やら異様な気配を漂わせて急に言葉を発したので、私もかなり驚いた。

 

「喰世の倅。其方(そなた)、名は何と申す?」

「…梛沙紀で御座います」

「なきさき、なきさき…梛沙紀か。うむ、憶えた(・・・)

 

宗家とはいえ私と同じ歳の頃の小娘。当主の女傑を差し置いて発言を重ねるのは無礼に当たるハズだが、常人のそれとは思えない圧に怖気付いて誰も動けないようだ。

直接言葉を交わしている私以外を黙らせたまま、既知であろう私の名前を反芻する人形姫。

瞑っていた目を開き、ニカと笑ったその瞳がどこか狐のように見えた。

 

「良い、良いぞ梛沙紀。其方のような人間は久方振りに見た。其方であれば妾も加護を授けた甲斐があったといえる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「…加護?」

「何じゃ、気が付いておらぬのか?其方、雨を操る力を得たじゃろう。アレなるは妾の権能の一つに由来する加護の証。其方が救世に連なるものであるのは知っていた故与えてみたが…どうじゃ?中々役に立つであろう?」

 

にこやかに語り掛けてくる人形姫、否、人形姫を依代に顕現している()

私と神の会話をただ黙って聴いているしかなかった一族の者達も、此処に至って漸く何が起きているのかを把握したらしい。

さしもの宗家の女傑も父でさえも、驚愕に目を見開いている。

神。かつて古代にて神話に語られた自然的存在にして、現代では“稀種”と呼ばれる上位存在。その名の通り余り見られるものでは無いが、その力は絶大であり、今の世の中でもほぼ全てが信仰の対象となっている。

中でもこの神は救世一族が千年もの間崇め奉ってきた古い神。

始祖に神通力を与え、救世家とそこから分かたれた数多の分家が救済を掲げるに至った始まり。

その名を-

 

靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様……」

「うむ」

 

まぁこの姿では威厳も何もないかの、と聞こえるかどうかの囁きを口にしたかと思えば、するりと人形姫の身体から 狐霊が飛び出し、宙で身を翻して私の目の前に降り立つ。

金色に淡く輝く髪と紅い瞳は宗家や救是家のそれよりも美しく神秘を湛え、頭にある狐の耳と後ろに見える狐の尾を微かに揺らす。神々しい姿と紛うことなき超常の気配に反して随分と親しげに瞳を細めて私を見下ろしている。

 

「妾こそ其方ら一族が祀る祭神。生命(いのち)の始まりであり死穢を祓うもの、水と流れを司る神である靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)じゃ」

 

もう誰も私を咎めようとする気は無いようだ。

というより無理なんだろう。

一族の本懐を忘れていた公善家の当主ですら、この神についてはしっかりと勉強していたらしい。まぁ当たり前か。

 

「梛沙紀」

「…なんでしょう」

「其方には妾を好きに呼ぶことを許そう」

「…………」

「さぁ、遠慮は要らぬぞ?」

 

なんかノリが軽いなこの神様、と思ってしまったのは許して欲しい。(うむ、許す!)

そして脳内に直接語りかけて来るのは勘弁して欲しい。

 

「…では、彌淙皅(ミヅハ)様、とお呼びさせて戴きます」

「良いぞ」

 

面白味の欠片も無い呼称で大変恐縮などと戯言(ざれごと)に耽っていたら、満面の笑みで頷いていた彌淙皅(ミヅハ)様が不意に静かに私の名を呼んだ。

 

「其方は好きに生きてよい。妾の加護を得たとて、必ずしも其方がその責務に従い続けねばならぬ道理など無いのじゃ。妾が赦そう。其方の行いは全て妾の知るところ、不信などとは責めさせぬ」

 

それは正しく天啓だった。

神の御言葉。この場の誰も異を唱えることの出来ない存在が、私の生きる道を狭めるしがらみを取り払う。

神の見定めた運命は自由だった。

 

「心のままに生きるが良い。妾が祝福しよう」

 

視界が開けたような、進むべき先を覆う闇が晴れたような感動に、私は己の心の奥底で燻っていた願いを悟った。

夢見ていた。此処には無いものを(・・・・・・・・・)

私の求めるもの。私の欲するもの。それは最初から外の世界にあった。

翁は、それを知っていたのだろうか。今となっては解らないが、やはり救千の翁は恩人だった。

己の心のままに生きよう。

妨げるものはもう居ない。

 

「有り難き幸せ」

 

()は、この日、漸く世界に根を下ろした。

 

彌淙皅(ミヅハ)様に全てを持っていかれた会合は、その後彌淙皅(ミヅハ)様が忽然と姿を消した為に阿鼻叫喚となった。

尤も俺には既に関係の無いこととなったので俺はその場から堂々と立ち去らせて貰ったが。

 

「梛沙紀」

 

本殿から救千家屋敷へと繋がる出口に足を向けた時、後ろから声を掛けられた。

振り向かなくても誰かは分かっていたものの、先の会合中から気になっていたこともある。

後ろを向けば思っていた通り、そこには父がいた。

 

「父上」

「すまない。お前には世話を掛けた」

「いえ。寧ろ俺の方こそ父上に要らぬ手間を掛けさせてしまいました。不出来な息子で申し訳ありません」

「……お前…いや、そうか…」

 

今までからは想像もつかないだろう口を利いた俺に、父は僅かに驚いたようだった。

しかし先程の会合での出来事から、心境の変化があったことは察して貰えたようで、父は特に何も言わなかった。

逆に俺は記憶にある昔とかけ離れた父の姿にかなり思うところがあったが。

 

「父上、顔色が…」

「気にするな。なに、何時かは来ると思っていたことだ」

「……まさかとは思いますが父上」

「そう心配するな、後三年は生きるつもりだ」

「家督は…?」

「母さんとは既に話し終えてある。お前が心配することは何も無いとも。それより、今日は泊まっていきなさい」

「そう、ですね」

 

近くで見れば取り繕うのもやっとな程に父は衰えていた。

元々身体の弱い人ではあったが、それでもここまで衰弱する程軟弱ではなかった。

父の言葉を取り敢えずは信じることにした。

実に数年振りの家族団欒から一晩明けて。

事件が起こったのは、早朝に屋敷を出る時だった。

 

「喰世梛沙紀様!」

 

朝から不吉なものを見た。

何故本殿から出てくることの無い宗家の、それも嫡子たる人形姫が目の前にいるのか。

理解出来ないし、理解したくもない。

 

「様付けはお止め下さい。宗家の姫君であらせられる貴女様にも立場というものが御座いましょう」

「いいえ、なりません。梛沙紀様は靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様がお認めになられた唯一の血族。我々救世家と対等な立場にあると言っても過言ではありません」

 

過言だよと声を大にして言いたいところだが、話が拗れそうな気配がするので気合いで呑み込む。

それにしてもよく喋る。今までの人形振りは何処に行ったのか昨日の今日で人間味を増し過ぎだろうこの女。

何故実家に帰った来ただけで、戦場に居る時と同じ感覚で第六感が警鐘を鳴らしているのだろうか。コレガワカラナイ。

人形姫が何か言っていたような気はするが、俺は全く聴かずにその場から逃げ出した。

今更ながら人形姫の名前を知らないことに思い至ったが、二度と会う予定は作らないので知る必要は無いだろうと即座に切り捨てる。

あの女は天敵だ。多分。

大急ぎでハーロット領に建てた【RoF6】本拠へと帰還し、俺は気を取り直して戦場を駆け回る日々に戻った。戻って忘れることにした。

結局、父は言葉の通りに三年病に耐えて亡くなった。

父には申し訳ないが、葬儀のことは余り思い出したくない記憶となってしまった。

 

喰世家や【RoF6】のような傭兵団の乱入により、一度は戦場は荒れたもののそれも直ぐに強者に蹂躙され収まっていき、史上九つ目となるこの大戦は十年程で終息に向かった。

かつて予想した通り喰世の当主には叔父が着き、俺は変わらず【RoF6】の仲間やペトラルカと過ごしていた。

二度あることは三度ある。俺はこの言葉を苦々しく思う日が来るなどと思ってもみなかった。

過去に二度平和と日常を破壊されたことを忘れていた俺を嘲笑うかのように、その報せは届いた。

喰世家現当主の叔父の訃報。

終戦に際して一応の解散と相成った【RoF6】の再編を考えていた時だった。

全盛期は過ぎたとはいえ、喰世家のみならず救世一族最強の名を欲しいままにしていた叔父の急逝。

そしてそれを告げた書簡にある当主代理の見知らぬ名前。

喰世の屋敷へ急ぐ道すがら、どうにも面倒事がある予感がして、悪い想像が拭えなかった。

 

「母上!」

 

屋敷へ着くや否や使用人を待たずに母の部屋へ向かう。

だが母の姿は部屋になく、ならばと古い記憶を頼りに祖父や父が亡くなった時に亡骸を寝かせた部屋へ向かった。

 

「…梛、沙紀…?…お前、なぜ、なぜ此処に…?」

「母上、叔父上は…」

 

襖を開けば母と見覚えのない子供と人形姫…いや、人形姫に瓜二つのいつかの女がいた。救是家の人間という部外者の存在に眉をしかめつつ、寝かせられている叔父に目を向けると、顔布の掛けられた遺体が三つ並べられていた。

 

「……梛沙紀様」

「死因は」

「梛沙紀様、どうか落ち着いてくださいませ」

「死因は何だと訊いているんだ」

 

前に見た時より窶れた母の姿に、訃報になかった叔父の家内と従兄弟の死に、動揺がなかったかといえば嘘になる。

しかし驚きよりも怒り、怒りよりも疑念が強く渦を巻き、激情に駆られて声を荒らげることはなかった。

 

「…ご当主様におかれましては梛沙紀様に…」

「能書きはいい、叔父上は何故死んだ?」

「……」

「…そうか、毒殺だな」

「梛沙紀様!」

 

ペラペラとどうでもいい話で場を濁そうとする従者の言葉を切って捨て、諫めようとしたもう一人を睨んで黙らせる。

叔父のみならず一家全員の急死という異常事態から凡そ何があったのかを推察できた。

まず同時に死んでいる時点で戦死は無い。

次に屋敷の様子から直接の襲撃はなかったと言える。

正面切っての暗殺、可能性はなくも無いがそれでは誅殺と変わらない、除外。ならば毒殺が一番可能性が高い。

そしてこの喰世家の屋敷に忍び込み毒を盛ることが可能な者は外部には居ない。断言していい。内部犯、少なくとも救世一族の手によって叔父一家は謀殺された。

ならば、その下手人は。

 

「あら、前当主様のご子息にしては随分と粗野で品のない方ですね」

「そうですね。仮にも御三家の人間とは思えません」

 

クスクスと笑うこの救是の女か。

或いはその横で薄く笑う小生意気な小僧か。

 

「人の死体の前でよくもまぁケラケラと笑いながら言えるものだな。程度が知れるぞ」

「あらあら、それは失礼いたしました。謝罪させていただきますわ。私としましても、折角遠路はるばる来ていただたのですから、もう少し休まれてから…と思ってのこと、悪気はありませんわ」

 

紫の瞳を歪めて嗤う女。クロだ。

これ程までに煮詰まった悪意は久し振りに見る。

それに比べれば可愛いものだが、小僧も小僧で何やら心の内に俺に対する黒い意思を飼っているようだ、俺に向けられた目は仄暗い。

こと武力に秀で、力を重んじる喰世家の者がコレに気が付かない訳が無い。

だが現に母はそれどころではないといった様子で、従者達は救是の女に粛々と(かしず)くばかり。

 

「お前だな?」

「何の事だか分かりませんわ。私はただ当主代理として諸々の手続きを粉しただけですもの」

「…あぁ、お前の名前かアレは。道理で知らない訳だ」

「梛沙紀様、当主代理に対して無礼はお止め下さ…っ…」

 

口を挟む従者を再び目線で黙らせる。

他家の跡取りが当主代理などとは笑わせる。舐めやがって。

だが、誰の差し金かは知らないが従者達が受け入れていることから相当上からの決定だと推し量る。

喰世家は御三家とはいえ血筋では宗家からはかなり離れている。同じ御三家かつ宗家の影武者でもある救是家にはいつも家格で下に見られていたと祖父は言っていた

ならば救是家か。それならばその救是の女がここにいることも分からなくは無い。

実際のところは分からない。だがこの状況で黙っている程家について無頓着ではない。

家督に対して興味を示さなかったのは既に決められていたからに過ぎない。

喰世は実力が全て。

そしてそれは個の力のことに非ず。

喰世に於いて至高とされるのはより多くの人を従える才能だ。

身体の弱い父が当主の座に着いたのは、年功序列ではなくあの叔父よりも兵法に強く、人を使うことが上手かったからだ。

かつて会合で告げたことは嘘では無いが、本当のことでもなかった。元々俺に家督を継がせようと思っていたのは祖父だけであり、父は自分の死後は弟の叔父とその才能を余すこと無く受け継いだ従兄弟に兵法を学ばせ任せる心積もりだったのだ。

 

「お前が何故当主代理となっている?」

「あらあら仮にも当主同然の私に対してその態度。牢屋に入りたいのかしら?」

「茶化すな、答えろ」

「単に喰世家に跡取りが居ないからですわ。何せ当主御一家は全員死んでしまいましたし、先代当主の系列の貴方は継承権を放棄していて候補者がだーれも居ませんの。貴方もご存知でしょう?」

 

此方を見下して嘲笑う女。

挑発のつもりだろうか、随分煽るような言い方をする。

だがその理屈だと母が黙って従っていることが不思議だ。

母は俺にまだ継承権がある、いや、正確に言うならば()()()()()()()()()()()()()()立場にあることを知っているのだから。

 

「おやぁ?図星で声も出なくなったのでしょうか?それとも…もしかして、忘れていたんですの?」

「仕方ありませんよ喰世のご当主様、この方は外で遊び呆けていたのですから」

 

炭よりも黒い腹黒くろすけ共が何か言っているのを聞き流し、横目で母を見る。

身体は痩せ細り、目は生気が失われかけている。

先程は憔悴していると判断したが、父や自分の実の親が死んだ時でさえここまで窶れたことは無かったと記憶している。

故に心労が祟ったというのは考えにくい。

そう結論付けると同時に俺の脳裏にある考えが過ぎった。

あぁ何だか無性に腹が立つ。

 

「囀るなよ。影武者風情が」

 

彌淙皅(ミヅハ)様から授けられた能力とは別に、俺にはもう一つ能力と呼べるものがある。

救世一族が元々持つ神通力に通じる力であり、言うなれば血の力とでも言うべき特殊能力。

俺は呪殺が可能な程に殺意をカタチにすることが出来る。

不機嫌極まりない今、そのまま殺意をばら撒けば当然餌食になるのは不遜な従者ども。

隣の部屋にも控えていたのか、襖が開き見たこともない使用人達が雪崩込む。全員が武装しており俺に武器を向けてきた。

成程、此奴最初から無力な母を残して全員排除する気だったらしい。母も母で何らかの薬を盛られている以上、廃人にでもするつもりだったか。

 

何処までも人をおちょくってくれる(ぶっ殺してやる)

 

もう抑えきれない赫怒に染まる視界で眼前の女を見れば、女も女で親の仇を前にしたかのような鬼の形相で俺を睨んで来ていた。

 

「あら、あら、気に入らないとあらば力ずくでしょうか?全く野蛮ですわね。これでは誰が言うまでもなく当主の資格無し、ですわ」

「ふっ…声が震えているぞ身代わり人形」

 

影武者と言われて怒ったならば身代わりなどと言われるのはさぞかし屈辱だろうと煽ってみれば、効果は覿面(てきめん)だったようだ。

人を殺せそうな視線と殺意を向けてくる女に、さらに殺意を返してみる。

あっさりと救是家に尻尾を振った無能どもと、家を乗っ取る救是の雑魚共にも殺意を向ければ全員ドミノのように倒れ伏す。中には盛大に嘔吐いて胃の中の物を吐き出したり、泡を吹いて白目で意識を手放す者すらいる。

あの小生意気な小僧も、気が付けば雑魚に混ざって白目を向いて痙攣していた。

弱い、余りに弱い。可哀想に思えてしまう程弱い。弱すぎる。

エセ人形姫だけは臆することなく刃向かって来るが、他は軒並み雑魚ばかり、これが力を至上のとする喰世家の姿かと、人生で初めて失望を味わった。

 

「当主の私にその口の利き方とこの蛮行。不届き者も此処に極まれりですわね。もう逃れられませんわ」

「ハッ、随分手を回して頑張っているようだが、肝心要なことを知らないとはな。滑稽で哀れで涙が出そうだよ」

「…?何を言っているのでしょう?そのような戯言に…」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

「何が可笑しいのです!?」

 

言葉の途中で声を出して笑ってやる。無論ワザとだが、笑いを堪えるのが大変だったのは本当なので演技の必要は無い。

もう怒り過ぎて顔が若干赤く染まっているエセ人形姫は声を荒らげるが、悪辣なことをしてくれた割に無知で無恥な女は滑稽でしかない。吠える姿に仔犬の幻影すら重なって見える。

 

「まぁいい、無能の炙り出しをして貰えたと思えば溜飲も下がるさ」

「…何ですって」

「救是の当主は説明義務を怠ったみたいだな…全くそれでも一族の重鎮のつもりかねぇ。少しは肩書きに見合う誇りを見せて欲しいもんだよ」

「彼奴らは今は関係無いでしょうッ!!!」

「なんだ、それが本性か。猫を被っていたのか、ハハハ…全く分からなかったなぁ。化けの皮がお厚いようで、流石身代わりの面目躍如ってところかな?」

 

実の親を彼奴ら呼ばわり、そして救是家の役割(・・)は宗家のスペアという事実。忘れていた幼き日の、あの時見えた黒い感情は嫉妬か。

要するに此奴は、自らの生まれに恨みすら抱いている。

 

「大前提として、お前は我が喰世家が力ある者ならば容易に当主の座を手に入れられると思っているんだろう?…いや、お前だけでなくお前の使用人も喰世の従者共も…」

 

一番近くに寝そべっている若い従者の背中を踏み付ける。

此奴個人に特段恨みは無いが憂さ晴らしだ。

苦しそうに咳き込み目を覚ました青年の、反射で武器を手にしようと刀へ伸びた手を踏み潰す。

聞くに耐えない絶叫を上げる従者に、まぁ欠損は痛いわなぁとほんの少しだけ憐れみを覚えつつ、神に許されたあの日のように口を開いた。

 

「確かに喰世家は(たっと)ぶべき血を薄め、救いそっちのけで求道者を気取った武辺者だがな。お前ら甘く見てるぞ、喰世家の役割は戦争。いくら世界を救うと口で言っても力無くては叶うハズもない夢物語。そもそも他者を救けたいのなら力が要る(・・・・)。何者にも妨げまられない力が。御先祖はそれが分かっていたから力を求めたんだぜ?」

 

叔父一家と母の近くから従者共を蹴り飛ばして退け、武器やら暗器やらを片付けながら滔々と語って聞かせる。

俺の口があの日宜しくよく回る口なら、此奴らは揃いも揃って勉強不足だ。

 

この世を喰らい尽くす力(・・・・・・・・・・・)を求める、故に喰世(・・)。字面から読めなかったか?お前の救是家にも唯一読みの違う救千家にも、全ての分家と同じように意味があっての名乗りなわけだが…知らなかったか?」

 

知らなかったんだろうな、と笑い、女の隣で沈んでいる小僧の首を掴む。

まるで目を覚ます気配のない小僧をまじまじと観察するが、何処かで見た事のあるような顔をしている割に記憶にないことしか分からなかった。

 

「で、此奴は誰だ?」

「貴方のその態度もここまでですわ」

「何お前会話も出来ないの?」

「弟から手を離して頂けますか?」

 

新たに増えた闖入者の声に振り向く前に、首筋に刃物が当てられた冷たい感触に動きを止められた。

小僧を離すついでにその身体で弾き飛ばそうとすれば、それより先に刀が退けられる。

改めて声の方へ向き直れば、軽薄そうな笑みを浮かべた青年と、男にも女にも見えるスーツ姿の人間(・・)がいた。

成程、態度云々言っていたのは味方が増えたからのようだ。確かにこの中性的な人間はその辺に寝そべっている雑魚とは違って相応の実力はあるのだろう。武器の扱いで察しはつく。

 

「遅かったですわね、ジェー。お客様は無事にお連れできたのでしょう?」

「はい、ご主人様の言いつけ通り、連れて参りました」

「いやはや、喰世の当主殿には申し訳ない。私一人では少々手に余りまして」

 

投げ捨てた小僧を素早く受け止めて回収し、エセ人形と話し始める人間。それに追従するように言い訳を重ねてヘラヘラと笑う青年。

その光景を黙って見ていれば青年が俺に向き直って一礼した。

 

「あぁ…これはこれは。お久しぶりですねぇ喰世家の、梛沙紀さん」

「……誰だお前」

「おや、お忘れで?流石成り上がりの御三家、末端の分家当主など覚える価値もないと…悲しいですね」

「そのお方は公善家の前当主ですわ。そして貴方がぞんざいに扱った此方が公善家の現当主ですの。お分かりになりまして?」

「公善家だと?」

 

予想だにしなかった名前に驚いた振りをする。

公善家が出てきたことは予想外だったものの、宗家はともかく救千家を無視してここまで大々的に事を運ぶのはほぼ不可能だと考えれば、何かしら他の分家にも根回しをしていたことは想像に難くない。

 

「えぇそうですわ。この度私が喰世家の当主となったのは、あくまで新たな御三家が正式に認められるまでの繋ぎに過ぎませんの。その新たな御三家が公善家ですわ」

「あーはいはい、成程ね」

 

誇らしげに胸を張る青年に声高らかに告げるエセ人形。

公善家元当主といえばかつてボロボロに言い負かした相手だったハズ。それがこの若さで元当主となっているということは、あの会合の後で青二才、未熟者の烙印でも押されて当主から降ろされたか。それでなんでそいつよりも若い弟が継いでいるのかは、まぁそういうことだろう(・・・・・・・・・)

 

「要するにアレか。叔父上一家の毒殺、廃人同然の母上、それを持って喰世家は没落したと判断させて、その代わりに家を継いだお前を経由して公善家が吸収。新たな御三家に、とそういうシナリオな訳か。その歳の差で婚姻したっつー訳は無いから大方お前の義弟にでもしであるんだろう?その公善のガキ」

「あら、少しヒントを出しすぎたかしらね?でも凡そ正解ですわ」

「で、序でに唯一継承権を主張できそうな俺はご乱心して破門…ってところか?どうせ殺せる自信がなかったんだろ」

「あら!またまた正解ですわ。どうやらそこまでの馬鹿ではなかったみたいですわね、謝罪の序にいいことを教えて差し上げましょうか」

「ん?」

「…お兄様」

 

今度ばかりは流石に予想外だった。

何故ペトラルカがここに居る?

そして何故その首にナイフの刃を当てられている?

客人どうこうと言っていたが、これじゃ人質だ。

 

折角三代も前から血縁があるのに取り込まないなんて、喰世家も甘くなったのではなくて?此方のハーロットさんには、是非救世一族の力となって貰うべくお越しいただきましたの」

「彼女には私と、妹君には弟と婚姻を結んで頂き、名実ともに公善家の力となってもらいます。ハーロット家は他国の貴族ですが、喰世家の血も流れているので問題は無いでしょう」

 

青筋が立った音がした。

 

「成程ねぇ…成程、成程、成程。流石元御三家(・・・・)。考えることが如何にも三下なこと。そんなんだから御先祖に立場を()られたんだろうなぁ」

「……なんだと?」

「呆れた、お前相変わらず勉強不足だな。お前ら公善家は公共の善をただ掲げてる訳じゃないだろ、元々は弱きを助け、なんてウケの良さそうなお題目を掲げて一族で最も救済に熱意を注いだ分家だった。そんなことも知らないのか?」

「………」

「弱者救済を至上命題として善の為に救いを成す(・・・・・・・・・)救善家(・・・)を名乗り御三家に名を連ねていたのさ、八百年前まではな。ただ理想を語るばかりで力がある訳じゃなかったお前らの祖先は、八百年前に一度その優しさと甘さで身を滅ぼしかけ、それが理由で御三家の立場を剥奪された挙句救いを冠することを禁じられたんだ」

 

これくらいの事は救千家の書庫に行けば知れる情報だ。

そんなことも知らないで御三家だなんだと騒いで、馬鹿馬鹿しいを通り越して寧ろ嘆かわしい。

それでいて計画することは下衆一直線の癖に心では立派な誇りある御三家のつもりでいるんだから滑稽。

実に面白くない(笑える)話だ。

高説垂れるのも結構だが、もういい加減飽きた。

どうせ公善だけじゃなく、他の分家にも手を出しているんだろう。最悪救千家も同じように手を加えられていると思った方がいい。ならば手っ取り早く暴力で決めることにしよう(・・・・・・・・・・・)

 

「わかったわかった。お前らがものを知らなさ過ぎて話をする気も起きねぇ。面倒だから一族全当主の前で(・・・・・・・・)力比べでもしよう(・・・・・・・・)じゃないか」

 

有無を言わさない口調で言い切ると向こうも何も言わずに引き下がった。脅したつもりはなかったが、公善の下衆が冷や汗をかいていたのを見るとうっかり殺気が漏れていたらしい。

話すことが無くなった為部屋を出ると、メイドと忍者が俺を待っていた。

いや、メンツが濃い。何でメイドと忍者なんだ。

 

「お待しておりました梛沙紀様」

「あぁ、お前達はしっかりしてるんだな…安心したぞ穂浪(ほなみ)蒲原(かんばら)

 

メイド、穂浪(ほなみ)華澄(かすみ)。喰世家家中において俺の侍従であり、現在の世話役。役職もしっかりメイドで、基本業務も家事が殆どだが、強い。

忍者、蒲原(かんばら)叢雲(そううん)。かつて父が拾って来た俺直属の部下。教育役は俺とは別にいたのだが、何故か忍者になっていた。そして普通に強い。

二人だけでもまともな部下がいることが幸いと言うべきか、二人以外全員腑抜けだったことを嘆くべきか、また分からなくなった。

まぁ一族の他の家についてはこの二人から聞けば良いだろう。

 

「蒲原」

「はっ」

「折り入って頼みがある」

「ペトラルカ様、セレスティア様の居場所なら既に」

「早いな。だが好都合だ。お前、あの男だか女だか分からん人間に勝てるか?」

「無論。首をお望みとあらばすぐにでも」

「いや、いい。出し抜け。ペトラにもセレスにも手を出させるなよ」

「御意」

 

(かしず)いた状態から音もなく姿を消したのを見て、本物の忍者だと場違いな感嘆を漏らしてしまったが仕方のないことだろう。

もう一人の部下である穂浪にも指示を出そうと顔を向ければ、既に穂浪は我が意を得たりと控えていた。

 

「梛沙紀様、では私は本殿に赴き宗家の方々に取り次いで来ますね」

「あぁ、頼んだ」

 

残った部下が有能すぎて涙が出そうだ。

何て冗談はさておき、俺もまた準備をしよう。

ようやく見つけた夢の(・・・・・・・・・・)渇望の何たるかを知る最後の障害(・・・・・・・・・・・・・・・)を取り除くために。

 

「…あら、逃げなかったんですの」

「あァ?俺が逃げる理由がどこにある?寝言は寝て言え身代わり人形」

 

一夜明けて救世一族本殿。

本殿の最奥にある靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)を祀る祭殿前。開けた空間は本来宗家救世家が神へ舞を捧げる為の舞台だが、此度は一族全体に関わる騒動として喰世家相続の決着を付ける場に選ばれた。

舞台の前には救世一族の棟梁たる“宗家”救世家以下、“片潜(へんせん)”の救是家、“揺護(ようご)”の救千家の御三家を初めとする喰世家以外の全当主が揃っている。

いや、救千家だけは姿がないな。若旦那もお婆様も代理を立てるような人ではないハズだが。今は置いておくか。

加えて相変わらず公善家だか救是家だか喰世家(無能)だかの使用人に付き添われる形でハーロット姉妹も居た。

アレは俺に対する脅しのつもりなんだろう。

脅しが通じる相手だと思われても困るし、既に手は打ってあるのだから気にする事はない。

舞台上には俺とエセ人形。

 

「まぁ貴方はこの決闘に勝つことなど出来ないはずですし、今更何を言われても小鳥の囀りにしか聞こえませんわ」

「そういうお前は仔犬だな。小型犬の仔犬とあっちゃキャンキャン喚くのも無理は無いな」

 

抜き身の刀を半身で構えるエセ人形の煽りに煽りで返す。

対する俺は無手。実際にはしっかり武器を携帯しているのだが、見える限りでは素手だと思うだろう。

服装はいつのも【RoF6】のコートではなく、此方での普段着にあたる着流し。

周囲にはお互いが自由に手に取れるようあらゆる武器が飾られている。中には銃どころか、宗家や救千家が管理する神器に分家の一つ“朽砦(くぜ)家”が保管する魔剣、呪具の類いまであるのだから恐れ入る。

 

「それにしても予想はしていたが、よくまぁここまでシンパを増やしたもんだ」

「一族にも新しい風は必要でしてよ?皆様私の意見に同意してくださったに過ぎませんわ」

「替え玉の居ない救千家以外尽く若い奴らばかり…反対した元当主達はそれこそ幽閉でもされてるんだろう?一族諸共心中するつもりだと言われた方がまだ理解できるな」

 

何時までも舌戦で時間を食う訳にはいかないし、その心算(つもり)もない。

俺は宗家の人形姫-いつの間にか正式に当主となっていた救世(くぜ)和歌(のどか)に目配せをする。

向こうもそれを確認し、声高に前口上を謳い始める。

 

「…それでは、喰世家喰世梛沙紀様と、救是家救是朱麗(あかり)様による喰世家当主の座を掛けた神前試合を執り行います。能力の行使のみ禁止、使用武器や戦闘自体に制限はありません。両者よろしいですね?」

「えぇ」

「こっちも問題ない」

「では…始め」

 

和歌の開幕を告げた口が閉じきらない内に、エセ人形が迫り来る。縮地法でも使っているのか、真っ直ぐ向かって来ているにも関わらず彼我の距離が掴みにくい。だが-

 

「…ッ!」

「ほう」

 

唐突に刀を持ち上げ左半身を後ろに引いたかと思えば、ギィンと鋭く金属音が鳴り響く。

正面から来るエセ人形に向けて俺が投げた針を、当たると判断したもののみ刀で弾き飛ばしたのだ。否、ただ弾き飛ばしただけでは無い。飛び散った針は真ん中で切断されている。

様子見と牽制も兼ねて仕掛けてみたが、思ったよりはやるらしい。実力主義の喰世家当主の座を狙うだけはある。

分家の当主達も最初から技量の高さの伺える応酬を見て感嘆の声を漏らしていた。

 

「貴方、湖南針拳でも習っていたのかしら?」

「何、ただの遊びさ」

 

今度は瞬間移動さながらの接近。そして足下から逆袈裟に跳ね上げられた刃を、両の指に挟んだ六本の錐のような大針で受け止める。

針は投げたものと同じ鉄製。それが先程とは異なり切られずに刃を受け止めたことに、エセ人形は若干目を見開いていた。

ギリギリと不快な音を立てて針と刀が擦れる。余程力んでいるのか小刻みに震えているものの、やはり針は切れない。

何時までも鍔迫り合いに興じているつもりは無いと膂力に任せて押し飛ばせば、エセ人形はその勢いを利用してさらに距離を離してきた。

エセ人形が体勢を整え終える前に針を六本、全て投げて追撃する。しかし向こうも()る者、即座に柄を持ち替えて手首の捻りで刀を回して撃ち落とす。

そこから更に刃を外側に倒して腕を引き、足を開いて腰を落とす。ダンッッと空気が微かに震える程強く踏み込み、瞬く間に眼前へと飛び込んで来た。

神速さながらの突きを避ければそのまま返す刀で横薙ぎの一閃が放たれる。後退、屈み、跳んで避ければ避ける程追撃は鋭く速く、しかし同時に大雑把になる。

胴目掛けて薙ぎ払われた刀を肘と膝で挟み、一瞬止まったその隙に切っ先を叩き落として刀を下ろさせ、そのまま足蹴にして床に突き刺す。踏み込みと同時にその足で峰を抑えて刀をより深く床に沈ませ、勢いのままに飛び回し蹴りを腕に放つ。

刀を床に固定され体勢を崩したエセ人形は腕を蹴られて刀を手放すが、変わりに俺の足首を掴み、ジャイアントスイングの容量で放り投げた。見掛けに()らず馬鹿力だ。

投げ飛ばされながら空中で体を捻り、着地。丁度武器が配置されている舞台端まで飛ばされていたのでこれ幸いと横の武器を手に取った。

既に刀を引き抜き斬りかかって来ていたエセ人形を迎え撃つ。

刀に対して俺が叩き付けた得物(えもの)は円錐型の馬上槍、いわゆる突撃槍(ランス)と呼ばれる物。

それを鈍器のように力任せに振り回し、刀を持つ手を体の外側へと押し出して、がら空きとなった胴体へと突き入れた。

心臓を狙って穿った穂先は、真下から押し上げるように逸らされ、間合いの内側に滑り込むように躱された。

見ればエセ人形はいつの間にか左に刀の鞘を持ち、変則的な二刀流として構えている。先のは鞘で突撃槍を小突いた結果か。

大きく広げた右腕、逆手に持ち直した刀の刃が閃く。

刃が迫るよりも(はや)く、突撃槍を引き寄せながら叩き付けるように振り下ろせば、エセ人形はそれを読んで無理やり攻撃の軌道を変えて刀を差し込む。強く強く打ち付けたことで刀が(たわ)む音がギィインと木霊した。

膂力に任せて圧を掛ければ、無理な姿勢に眉を(しか)めつつも耐えている。

先程から刀を圧し折るつもりで攻撃しているが、刃を滑らせるように打ち合うことでそれを防いでいる。

どうにもエセ人形は武器の、剣の技量でいえば俺を超えていると見て間違いない。天賦の才でも持っていたのか、はたまた俺が留守にしていた間に誰かに習いでもしたのか。此奴の戦い方は喰世のそれだ。

自然と見下ろす形になったエセ人形と視線がかち合う。

俺を見上げる目に黒い炎を幻視した。

裂帛(れっぱく)の気炎を吐き、刀と鞘で突撃槍を弾き飛ばされる。

虚を突かれはしたが、弾かれた突撃槍の勢いと流れを殺さずそのまま振り回す。遠心力すらも破壊力へと変えたそれは轟と音を立てて暴風を撒き散らした。

エセ人形が吹き飛ばされる様を見ながら俺も床を蹴り後退。最初とは反対の方へと着地する。

俺を()め付けていた紫の双眸が大きく見開かれたのが分かる。まぁ、驚くのも無理は無い。

俺は人質には目もくれずに戦うだろうからと、隙を作る為にと態々いつでも傷付けられるように見せびらかしていた人質がいつの間にか助け出されていたのだから。

俺に従う部下がいたことは知らなかったのか、それとも知られていた上で隠れてやり過ごしたあの二人が凄いのか。

今はどちらでも良い。ただ向こうの計画は失敗した。

蒲原はよくやってくれた。エセ人形もそれを悟ったようで。

思わずといった風に、微かな言葉が耳朶を打つ。

 

「何故…」

「甘いんだよ、詰めが」

 

どれ程の激情がその胸の内に渦巻いているのか、表情が消える。いっそ能面のような無感情の顔で俯く。

風を受けて靡く髪。エセ人形は再び引き離された彼我の距離に、腰を落とし刀を鞘へと戻していく。嫌に見覚えのある構えだった。

俺は俺で自身のすぐ後ろにある武器たちの中から、目当てのものを探しつつエセ人形の初動を見切る為に意識を集中させる。

刀が鞘へと収まり切ったその瞬間、エセ人形から鬼気が(ほとばし)った。

居合。最早人間の目で捉えられる速度を超えた、音すら置き去りにする神速と呼ぶに相応しい一撃が放たれる。

神業と呼ばれるその剣技は“疾喰(しっくい)”の名を与えられた喰世家の技。

それを前にして俺は、エセ人形の足が僅かに力んだその瞬間に突撃槍を全力で投げた。

手首の捻りで回転の加わったそれは砲撃と間違う程の爆発音を立てて風を切る。

誰も居ない空間を突き進むかに思えた突撃槍の軌道が突如として捻じ曲がる。

今までとは打って変わって音も無く、初めから決められた軌跡をなぞるかの様に。グニャリ、と。

 

視えた(・・・)

 

外れた突撃槍を他所に俺は後ろへ手を伸ばし、手首を捻りながら眼前へと新たな得物を二つ引き抜いた。

右に手斧、左に大剣。どちらも片手で扱うには文字通り手に余る重量のある武器。だがこれで良い。

大剣を床へ突き立てて盾にし、手斧を振り被る。

果たして手斧は俺の予想通りエセ人形の左肩を深く抉り、大剣は鉄壁となって刃を阻んでいた。

残像すら形を保てず、音速を越えて姿が掻き消える程の高速移動だが、理屈の上では走って距離を縮めているに過ぎない。

疾喰(しっくい)”は確かに超人的で脅威的な技だ。しかしそれを扱う“人間”にはどう足掻いても越えられない物理限界というものがある。

要するにこの技は()()()()なのだ。達人であってもこの技は直線、より正確に言えば予め決めた軌道を全力で疾走することしかできない。

慣性が働くので当然途中での軌道変更は難しく、人間の反射神経では軌道上に突然障害物が現れた場合、反応するのがやっとでとてもじゃないが回避や迎撃は不可能に近いだろう。

認識できるかどうかも怪しい程の速さが逆に枷となり、目標以外は抜刀のタイミングが合わず斬れない。そんな致命的な弱点があるのだ。

だというのに、エセ人形は投げられた突撃槍を弾き、その上で俺に刃を当ててみせた。見事としかいえない技量の高さだ。もし俺が喰世の人間でなかったら、この技を知らなければ、今の一撃で死んでいただろう。或いは相手が叔父だったのならば、突撃槍を弾いたことで生じたラグがあっても防御が間に合わず、最低でも片腕が消し飛んでいただろう。

しかしエセ人形の技も本家の喰世に遜色なく、受け止めたハズの衝撃は鎌鼬(カマイタチ)のように吹き荒び顔や左腕に裂傷を作り出した。

これまで無傷で渡り合って来た、技量と膂力による均衡は崩れた。一方は片腕を犠牲にし、一方は深手といっても擦り傷。

どちらが優勢かは火を見るより明らかだった。

再び交わった視線に、するりと言葉が吐き出される。

 

「認めてやるよ…何も見えちゃいねぇ人形が喰世を継ぐなんてバカにしてんのかと思ったが、お前。お前、ソレができるんなら確かに喰世を冠せるわ……嗚呼、そうさ。そうだよ、お前は確かに喰世を名乗るに足る素質がある」

「口を開けば、高々片腕を封じたくらいで上から目線?余り見縊(みくび)られても困りますわね」

「逸るな強がんな取り繕うな。素質があるっつってもお前じゃ無理だ。いや、この場にいる俺以外誰にも喰世家を継げねぇ」

 

真っ直ぐに目を合わせながら、俺は手斧を放り投げ大剣で退かす。

左肩を抑え肩で息をしながらも後退りしたエセ人形がそれなりに離れたのを確かめて屈む。

血の滴る左手を床に。

指を筆代わりに印を描く。

 

「知ってるだろうが折角だ、教えてやる。お前らが後生大事に(たっと)ぶ血を薄めてまで求めた果てに得た力の一端、喰世の秘術ってヤツをな」

「何をするつもりです?能力の使用は」

「あ?…あぁそうか、お前らはコレを異能の力と受け取ったか。違うぜ。コレは我が喰世の血筋にのみ許された儀式で、契約だ」

「契、約?」

 

二重の円。太陽十字。六芒星。

内側に図形を重ねるように“門”を描き創る。喰世家のみに伝わる誤った(・・・)救世の神通力の、その活用法。

 

「喰世家じゃ自分の適正に見合った武器を早々に探し出し、それを極める為に鍛練に明け暮れることになる。その時選ばれた武器種から一振りだけ、波長が噛み合う得物が見つかるのさ」

 

描き出した“門”の、外郭を為す二重円の間に弧を加える。

それは三日月。俺が定めた、俺の契約の印。

 

「それは契約によって文字通り半身と化す。付喪神のように意志を持ち、己を見つけ出した喰世の血に忠誠を宿す(・・)

 

手を止め立ち上がる。まだ乾くことなく滴る血が印を壊さないように一歩だけ下がると、両手を少し広げてやる。

 

「忠誠を宿した得物は、半身が喚べばその場へと現れる特性を得る。そんな半身となった霊装に、ある喰世家の当主は名を与えた。それが神器でも魔導器でもねぇ。喰世だけが扱う、喰世にだけ許された概念霊装。“魔神器”だ」

 

一族で魔神器について知っているのは宗家と救千家の当主の他には、呪術師を生業とする分家紅世(くぜ)家だけ。

調べればその存在を知ることはできるだろうが、契約方法は喰世家と紅世家しか知らない。

そしてその契約は喰世家の血でしか機能しない。

始祖から始まり、一族暗黙の了解たる亜人の血こそ混じってはいないがそれ以外は雑種もいいところな喰世の血。

宗家の貴き血が赤く、御三家の純血が青いなら、喰世の血は闇のように黒いだろう。

 

「当然お前も試したんだろ?そして失敗した」

 

本来は最初に契約をしてしまえば、毎回印を描く必要は無い。

だが今回は特別だ。喰世家が一族の人間であっても継げない理由を示すためには実演が最も手っ取り早い。

 

「魔神器ってのは何処までも特別だ。喚べば来るってのもそうだが、壊れても直るし、そもそも壊れない。そして特別であるだけあって基本的に選ばれるのは一人一種類だ。例外はこの魔神器のルーツたる二代目の喰世家当主だけ……」

 

喚ぶ。

意識の内で語り掛ける、なんてことはしない。当然口に出して唱えてやるサービスもしない。

ただそこに在るのが当たり前だと思う。

そうすれば半身は応えてくれる。

 

「ところで、まだ俺が喰世家の正当な後継者として扱われてたって知ってたか?俺が当主の座に興味あろうがなかろうが、俺に突出した才能があろうがなかろうが、関係なく俺は候補からは外されなかった。それが何故だか解るか?」

 

背後に虹の如き霊光と共に六つ(・・)、得物が顕現する。

大戦斧、長剣、大鉈、十文字槍、古式長銃。

そして剣と呼ぶには余りにも奇怪な櫛刃の、異形の大剣。

 

「俺が二代目当主以来、唯一複数の魔神器を持つことができた人間だからさ」

 

左手で招けば長銃が独りでに装填され、手に収まった。

引鉄を引く。吐き出された銃弾はエセ人形の頬に赤い線を描きながら通り過ぎた。

片手でも弾くつもりだったのだろう、外れた弾丸に気が抜けたように固まるエセ人形。

銃声の残響も余韻となって消える中、不意にエセ人形は前につんのめって、刀を落とす。

飛び散る鮮血。右肩を撃ち抜かれていた。

 

「…跳、弾?」

 

信じられないとその表情が語る。

くるり、くるりと銃を回し、俺は引鉄を二度、三度と引いた。

銃弾が跳ねる。辺りに置かれた抜き身の武器に弾かれて女の柔肌を抉っていく。

右手、左腿、右足、左の二の腕。

右肩、左脇腹、左足。

ありえない連射、ありえない跳弾。

俺の扱う魔神器の中で、最も常軌を逸した挙動をするのはこの長銃だろう。虚空から勝手に装弾されて、外れた先で必ず一度は跳ね返る。使い手の俺でも意味の分からない現象だ。食らった側は余計に分からないだろう。

銃声が止み、(くゆ)る硝煙越しにエセ人形を見る。

理解不能で理不尽な、一方的な攻撃にも心折れず、尚も刀を手に取り抗おうとする様は実に健気で泣けてくる。

銃から手を離せばまたも独りでに後ろへ退き、右手を掲げれば今度は大戦斧が手元へ来た。

柄を握りしめ、一歩。

距離を無にして、眼前のエセ人形へ大戦斧の影が落ちる。

先程まではエセ人形が使っていた高速移動とは似て非なる瞬間移動。速過ぎるが故に消えたように見えるのは同じでも、俺が見せたのはほぼ一足飛び。

音一つ無く真横まで接近され、漸くとはいえそこで反応できるのはやはりというか、流石達人の域に至った女か。

斬鉄を狙って切り上げられた刀を、刀身諸共肘の上辺りで切り落とし。振り抜いたまま手を離せば戦斧もまた後ろに控え、次に呼んだのは大鉈。

逆刃に持って右肩に叩き込み、鎖骨を折る。

骨折と切断の痛みに顔を歪めたエセ人形に、俺は鉈を走らせ左手の腱を斬り裂いた。

同時に地を滑るように浮いた長剣が独りでに両足の腱も断ち切って。

立つことも儘ならなくなり膝を着いたエセ人形に、その空いた胴に容赦無く槍の石突が刺さり、吹き飛ばされて仰向けに倒れたエセ人形の首に十字の刃を当てて床に縫い付けた。

 

「…ふざけるな」

 

どうあっても詰みだろうに、エセ人形-救是朱麗(あかり)は食い下がる。いや、ただ単に負けを認められないのでは無い。

真面に対面した昨日から、今に至るまで絶えること無く宿された暗い光が瞳を濁している。

怨嗟の籠った声で怒りを吐くその様は、勝ち負けよりも俺個人に対する憎悪の表れか。

 

「ふざけるな。何でも持ってる癖に、家を捨てて好き勝手遊び呆けていた癖に、今更戻って来て…ふざけるな!!!その椅子が要らないなら寄越せっ!アタシには無いものを全部捨てといて(・・・・・・・・・・・・・・・・・)最初から何時でも取り返せました(・・・・・・・・・・・・・・・)ふざけるな!!!

 

絶叫。被った猫が全て剥がれ、煮え滾る怨恨が悍ましさを伴って響き渡る。

 

「喰世家の…一族の役割だ分家の意味だ講釈垂れんな!そうだよ…救是の役割がお前の言った通りの身代わりだなんてことは、そんなことはアタシだって知ってる。知ってんだよ!でもな、それで納得なんてできるわけがないだろ!!!生まれた時から!知りもしない奴の真似事をさせられて!生きることすら不自由なのが当たり前?挙句の果てには受け入れろ?ふざけんな、そんなこと受け入れられるわけないだろ!!!」

 

自分と鏡写しの存在をギロリと睨みつけ、朱麗は吼える。

動かないはずの左腕で、力の入らないはずの左手で深々と突き刺さる槍を抜く。

 

「ただ引きこもって神に仕えるばかりの救世家は良いよ、救千家が何でも肩代わりしてくれるんだから!!!でもその身代わりのアタシたち救是家は!?ずっと影から宗家の連中を見せられて、お前はあの方と一蓮托生だなんて勝手に決め付けられて!自由なんて何処にも無いッ!!!

 

覚束無(おぼつかな)い様子で立ち上がる様は、獣の如く。

十年以上も腹に隠してきた憎悪の炎は明るみに出たことでより激しさを増し燃え盛る。

ふと、斬り落とした右腕が戻っていることに気が付いた。

薄らと血の跡が消え、傷が治っていく。

 

「こんなに苦しい思いをして、こんなに不自由な呪いで(いまし)められるくらいなら、忌わしい救是の血なんて捨ててやる(・・・・・・・・・・・・)!死ぬまで影法師でいることがアタシの運命だっていうなら、そんな運命に従うしかないんだっていうなら……こんな一族、滅ぼしてやる!!!

 

舞台が揺れる、屋敷が揺れる、地の底から何かが迫り上がる振動が、呪いを吐き出す救是朱麗の闇より深く昏い怨嗟に呼応する。

朱麗の紫色の瞳が妖しく輝く。朱色の揺らめきは嫉妬か憎悪か、或いはその両方か。

赤紫に染まる瞳孔は開き、憎悪も嫉妬も憤怒すらも呑み込んで殺意として炎が膨れ上がる。その身を焦がすことも(いと)わずに、傷は治っても血の足りないその肢体を炉に焼べた。

不意に朱麗の背後で血のような赤黒い光が鈍く輝く 。

形を崩しながらも光の血が虚空へ紋を描き出す。

悍ましく底冷えするようなそれは。

二重円と五芒星、そして獣の瞳が表された魔神器の門(・・・・・)

契約の証(・・・・)だった。

描かれた印の二重円、その内側の円がどろりと滲み半分を塗り潰す。半月。赫い色の月蝕の月。

今此処に救是朱麗の契約が履行された。

鬼と化した朱麗が床を踏み抜く。

舞台を揺らし、床を突破り巨大な蔦が姿を現した。

 

「再生、植物操作、それに魔神器だと⁉」

「ぁ、ァアアあアアアアアアアアッ!!!」

 

圧し折った刀が独りでに震えて朱麗へ飛ぶ。折れた刀身が修復されると共に熱を持ち出し、蒸気を纏う。

血を吐くように叫び、朱麗は高熱で橙色に染まる刃を左手腕へ突き刺す。肉の焦げる音と臭い、蒸気が広がる。

ぼたぼたと溢れる血もまた熱で気化して、白い蒸気に僅かに赤が混ざる。

刀が鼓動する。ドクンドクンと剥き出しの心臓のように脈を打ち出す。ただでさえ流し過ぎた血を更に刀に啜られ、朱麗の身体がガタガタと震え出した。

震える手で、もうろくに握る力もない手で刀を無理矢理に引き抜く。刀身が飲み干せなかった血がびしゃりと飛び散り、主の身体より抜刀された刀が一際大きく胎動した。

 

「…その刀、妖刀だったのか」

「はぁ、はぁ……だったら、何?」

「いや、ホント良くやるよお前。喰世の人間だって呪物と適応するのは躊躇するってのに…魔導器ですら珍しいんだぞ?」

「……煩い煩い煩い!いつまでも、そうやって!」

 

カタカタと震える手で刀を薙ぐ。

漂う蒸気を切り裂き斬撃が飛んだ。

赤黒い剣閃に遅れて蔦と枝が殺到する。

熱と血の二重の斬撃を長剣が弾き、大鉈と大戦斧、十文字槍が樹木を薙ぎ払う。

静かに広げた俺の両手へと櫛刃の怪剣と長銃が収まる。

血を捨てる(・・・・・)という言葉。本物の喰世すら躊躇う妖刀の魔神器(・・・)

救是朱麗という女は己の全てを賭けている。

宗家と同じ神血を薄めてまで力を求めて、人としての最後の一線を保つ限界まで捨て続けている。

それは渇望。俺が知らなかった力への渇望そのものだ。

なら、喰世家としてとかもう関係ない。

そこまでするなら、俺もまた応えなくてはならない。

三度視線が通る。無数に生い茂っては切り払われる草木の間を縫って。

雨が降り出す。瞬く間に豪雨となり、天を覆い隠す黒い雲に青い稲妻が走り出した。

打ち付ける雨水が刀に触れて水蒸気が視界を遮る。

動いたのは同時だった。

赤熱を通り越して煤けた刃を晒す刀と櫛刃の怪剣が大きな音を立ててぶつかる。剣山のような細い刃を焼き切らんと赤らむ刀に対して、怪剣はギチギチと不快な音と共に蠢動し喰い千切らんとする。

妖刀と魔剣(・・)の鍔迫り合いは互角。

血を啜り熱を帯びる妖刀と斬る度に喰らう生きた魔剣は、互いの主に似たのか対照的な能力を有していた。

幾度も剣を打ち合う。合間に銃を撃ち距離を取っては何度も何度も互いに斬り掛かった。

無限の物量で押し潰さんと迫る植物の群れは四つの魔神器によって留められ、荒れた天より槍の如く降り注ぐ雨によって削られる。

何度目かの鍔迫り合い。朱麗が両の手で柄を握り、刃が赤く輝いた。

無拍子での斬撃。それも無数に放たれた剣閃に吹き飛ばさる。

幾つかは怪剣に喰わせて防いだものの、至近距離で放たれた熱の刃を躱すことができず、身体に大きな裂傷と火傷が幾つも入った。

しまったと思った時には既に遅く。

 

「死ね」

 

逆手に刀を翳した朱麗は、短く言い放つと俺の心臓へと妖刀を突き刺した。

遠くからこれまで戦いに気圧され見ているしかなかった救世和歌(のどか)の慌てたような声が聞こえる。

血を啜られているのか、何かを喪失する感覚。薄れ行く意識の中で、見覚えの無い景色が過ぎる。

黒い思念が渦を巻く。腸の煮えくり返る理不尽への憎悪。気持ちの悪いこれは、朱麗の記憶だ。

魔神器として契約した妖刀が、朱麗と俺両方の血を啜っているからか。走馬灯のように映し出されるソレを観て心に浮かぶのは、虚しさだった。

この女にあって俺には無い渇望とは何なのか。

この女に無く俺にはある自由に何の意味があるのか。

そんなものに答えなぞ無い(・・・・・・・・・・・・)

ただの世界の気紛れだ。

空虚で伽藍洞(がらんどう)な心で生きた俺。

理不尽な世界と運命に怒り狂った女。

何かと理由をつけて奪い合い殺し合う人類といういきもの。

こんなこの世の全てに意味なんて無い。あるわけが無い。

意味なんてものは所詮人が持たせた後付けの空想だ。

己の生きる意味を探して、己の渇望(チカラ)なんてものを求めて、その果てにあるものは無意味だった。

俺もこの女も誰も彼も、世界そのものすらも、存在していることに意味なんて無い。

意味を求めることがそれこそ無意味だった。

嗚呼、こんなにも世界はツマラナイのなら。

俺は(・・)此処ではない何処かへ行こう(・・・・・・・・・・・・)

別に意味のある世界が欲しい訳じゃない。

ただ。なんとなく。今の世界は違うと思った(・・・・・・・・・・・)

夢も希望も期待も。罪も絶望も記憶すらも。

此処じゃない何処かへ(・・・・・・・・・・)

この世界では無い(・・・・・・・・)何処か(・・・)

形の無い夢想。果ての無い幻影。そんな遥か遠くの曖昧な景色に、願いを預けよう(・・・・・・・)

 

「……………………クハッ」

 

意識が覚醒した。

 

-Side Change-

 

怨敵の一人、喰世梛沙紀を殺した。

自身の半身たる刀にその血を吸わせる。

どこまでも辱めてやろうと思った。

後ろで喚く一族も、ここまで利用してやった公善家の連中もこのまま皆殺しにしてやろう。

そう思って刀を握って気が付いた。

刀が震えている(・・・・・・・)。最初はアタシの消耗しきった身体がそうさせていると思っていた。

違う。刀が震えている。まるで毒でも食らったかのように(・・・・・・・・・・・・)

今となってはたった一つ信じられる半身に目を向ける。

次の瞬間、刀が血を吐き出した。

 

「…え?」

驚きの余り声が漏れ出てしまう。

一度吸った血を吐き出すなんてこと初めてだ。

びちゃびちゃと水音を立てて嘔吐くように震える刀に、戸惑いが浮かぶ。

それに。

 

「…雨が、止まない」

 

降り出した雨は未だにしとしとと降りしきる。

能力で変えられた天候は、能力者が解除すれば元に戻る、それは死んでも変わらない。

なのに雨は振り続けている。

まさか、心臓を刺したのに。力を奪い取ったのに。

まだ死んでいない(・・・・・・・・)

 

「…………………ッハハハ」

 

悪魔が嗤っている。

後ろから強い光で照らされる。

奴が、喰世梛沙紀が魔神器を喚び寄せた時と同じ虹光(こうこう)

吹き荒ぶ風に靡く前髪を押さえることも忘れて振り返った。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「なん、で…」

 

居る。喰世梛沙紀が、そこに居る。

殺したはずだ。死んだはずだ。力もその血と共に奪い去った。

なのに何故、立っている?

逆光で陰る奴の表情は伺えない。

先程までとは全く異なる異彩の瞳だけが見えていた。

月のような淡い輝き。紺碧と翡翠が爛々とアタシを見つめて、不意に歪む。愉悦に歪む。

光が収まる。はっきりと見えるようになった奴の姿は変わり果てて別人のようだった。

黒かった髪の色は抜け落ちて灰色に。

肌も病的な程に白くなり、裂傷も火傷も消え失せている。

目を細め、口の端は吊り上がり弧を描く。

徐ろに手に取った大戦斧を振る。

斧が振り抜かれた先の、アタシの能力で生まれた植物も、その先にあった屋敷の一部も、遥か空高くにあるはずの雲の一部すらもが消し飛んだ。

 

「良い気分だ。今ならなんでもできそうなくらいには」

 

人間では魔神器を遣ったとしてもありえない膂力。

ああ、こいつは化け物だ。

もう人のカタチをしているだけのナニカに成り果てた。

 

「来い」

 

奴の言葉に、虹の燐光を撒きながら空間が砕き割れた。

そこから引き抜かれたのは、一振りの長い長い日本刀。

刃長は四尺程だろうか。メートル法に換算すれば1mと少し、柄も合わせた全長は身の丈程もあろうかという大太刀。

七つ目の魔神器(・・・・・・・)だった。

梛沙紀が鍔に程近い場所を握り、鞘を担ぐようにして大太刀を抜刀する。顕になった刀身は青白く、雨雲を連想させる刃文に美術品としても相当の値が付くだろうなと場違いな感想を抱いてしまった。

そしてこの状況下で刀に見惚れてしまったアタシの不覚を恥じる暇は、もう与えられていなかったと直ぐに知る。

 

「な…に、それ…その刀…」

 

大太刀としても大きい部類だとは思った。多分細かく分類するなら斬馬刀辺りにカテゴライズされるような刀だ。

そのただでさえ大きな刀を片手で振るう梛沙紀。

魔神器の遣い手に対する忠誠からくる補助か、それとも梛沙紀自身の並外れた膂力か、それが何方(どちら)だとしても今はそれどころでは無い。

復活した梛沙紀の後ろに、手に持つ大太刀と全く同じ大太刀が浮いている。いや、同じなのは外見だけだ。

背後の大太刀はどう見ても5mはある。

呪物や聖剣の類が魅せる幻影の類か、はたまた梛沙紀の殺気に反応して見えた気迫の類か。

 

「その刀は、“破寂乃御太刀(はじゃのおんたち)”!?」

 

全部が終わったら殺してやろうと思っていた女、救世和歌の言葉が耳に入った。

“破寂乃御太刀”、それは今梛沙紀の後ろにある祭殿に祀られている神刀の名前だ。

その姿は宗家の者たちでも実物を見る機会は無いに等しく、絵でしか知らないという一族の至宝。

救世一族の祭神、アタシに再生と植物を生み出す力を与えてくれた靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様がかつて振るったとされる伝説の刀が何故魔神器となっているのだろう。

 

「ッ!?」

 

呆然としていたアタシは、言いようのない悪寒に従って横に飛び退いた。

一拍遅れて耳朶を打つ轟音と大気を揺るがす震動、立ち上る土煙と埃に()せる。

危なかった。運が良かった。間一髪避けられなければ、アタシは今、死んでいた。

 

「ハァ…避けねぇ方が身の為だったのになァ…ヒトの善意は受け取っとくモンだぜ?」

 

何をと言い返そうとして、魔神器に首を狙われていることに気が付き言葉が詰まる。

正面に十文字槍、アタシの喉を何時でも貫ける。

左に長剣と気味も趣味も悪い魔剣。

右に大鉈と大戦斧。両側は二段構えで逃げられない。

そして槍の奥、アタシの梛沙紀の間に古い長銃。その銃口は眉間に狙いを定めている。絶体絶命という言葉がこれ以上似合う状況も他にないだろう。

冷たい汗が背中を流れていく。たった一回の攻撃にアタシは心胆が寒からしめられていた。

そんなアタシをせせら笑う梛沙紀はゆっくりと、見せつけるように、焦らすように大太刀を上段に構える。

逃げ場は無い。“破寂乃御太刀”は防げるような代物じゃない、アタシの魔神器も妖刀としての格は高いけれど、それでどうにかなるなんて考えない方が良い。真っ向から打ち合えば拮抗する間もなく折れる。間違いない。

でも避けようとすれば他の魔神器に首を切られる。あの魔剣以外は死にはしないだろうけど、首を切られてしまうと再生に時間を取られて結局魔剣の餌食になる。

アタシはまだ死ねない。

 

「…まだ、まだ死にたくない!」

 

刀を強く握る。本来の力を発揮できない魔神器(相棒)には悪いけど、アタシの血の分の力はまだ残っているはず。

渾身の力を込めて血刀を飛ばす。銃弾を斬り落とし、斧槍鉈を弾くと左に走った。

長剣を叩き落として魔剣は櫛のような刃の間に刀を挟ませて飛び越える。

避けた、と思った。

世界が動いた(・・・・・・)

身体が引っ張られる感覚がしたと思う間もなく、アタシはわけも分からず倒されていた。身体が痛い。背中を叩き付けられたのか呼吸が苦しい。

 

「あー。コレ難しいな…思った通りに動かすにはもう少し慣れが必要か」

 

バケモノが何か言っている。

酷く痛む頭に手を当てるとぬるりとした生温かい感触がした。

霞む視界に映したアタシの掌は、真っ赤な血で濡れていた。顔を伝うどろりとした血を拭う。

 

「……あ、

 

-Side Change-

 

誰にも知られていなかった俺の切札にして鬼札、“破寂乃御太刀”を納刀する。

既に首を落とした救是朱麗の肉体は血が止まっている。あれならば断面を合わせておけばその内治るだろう。何ともしぶとい女である。

一つ嘆息してから舞台の周りに目をやれば、見るも無残に倒壊した本殿と救千の屋敷に、二度目の溜息が漏れる。

序でに当主達は和歌(のどか)を除き全員が気を失っている。

途中から殺意の能力も使っていたから気絶するのは当たり前、寧ろそれに耐え切った和歌が可笑しいと言うべきだろう。

流石一族宗家の当主。若くても図太さはかなりのものだ。

 

「主」

蒲原(かんばら)

 

音もなく部下が現れる。

音どころか気配も無かったが、一体どうやって近付いているんだろうか。忍者とはよく分からない存在だ。

 

「ペトラルカ様、セレスティア様は穂浪(ほなみ)殿が傍で警護に当たっておりまする」

「そうか。ご苦労だったな。下がって良いぞ」

「はっ」

 

そしてとても簡潔な報告だけ済ませて音もなく消えた。

本当に忍者とはよく分からない存在だ。

ともあれ今此処で一番大切な身内の無事は確定した。後のことはどうせ俺がやらなくても片は付けるだろう。

 

「和歌様」

「あっ。は、はい何でしょう?」

「いや、コレどうしますって一応訊いておこうかと」

「…ああ…その刀やはり“破寂乃御太刀”なんですね」

「何処で見つけたのか、いつ契約したのか、よく憶えてないんですがね…」

 

鞘へと戻した喰世家八百年の歴史の中でも最強だろう魔神器を掲げて見せれば、和歌もしげしげと見詰めながら思案した。

俺が勝手に契約したとはいえ元々は救世家の秘宝なわけで、こうして存在がバレてしまった以上、勝手に契約しといてなんではあるが持ち逃げするのはどうかと思う。

 

「……魔神器については私も知っています。というかそもそもその大太刀は失われた秘宝として形が伝わるだけでしたし、今後も梛沙紀様が所有して頂いて構いませんよ」

「宜しいので?」

「はい。どうせ返して戴いても祭殿に祀るだけですから。元よりその刀は破魔の剣として戦場で振るわれていたもの。御神刀として飾られているよりも戦場(いくさば)の方が喜ぶでしょう」

 

そういうことならこれからも遣わせて貰うことにしよう。

能力が強過ぎる上に霊的な格が高いこともあって、通常の武器は疎か並の妖刀や魔剣、聖剣では話にもならないだろう。下手をしなくても神剣クラスの代物でなければ打ち合いにならない可能性すらある。

規格外過ぎるのもあるが、そもそも俺には見せ札として最強の魔剣があるし、やはり早々遣うことは無いと思う。

いやしかし、自分の性格を思えば軽いノリでオーバーキル承知で遣いそうな気もする、というか絶対遣う。

深く考えるのは止めにしよう。どうせ今決めたところで三日後には忘れている決心だ。未来の俺に放り投げることにしよう。それはそれで、刀とは別のもう一つの片付けなければならない問題についても口出しくらいはするべきだろう。

 

「…で。この決闘…そもそもの原因となった救是朱麗の内乱…になるんですかね?コレの処分はどうなさるおつもりで?」

「それについてはこのままという訳にも行きませんし、救千家のお二方と相談してみます。喰世家の当主は梛沙紀様に務めて戴くことになりますが…」

「それが妥当でしょうね。私以外の喰世家の血筋はそれこそ救是朱麗が連れ込んだハーロット姉妹しか居ませんし。母上も今回の件で療養せねばなりませんでしょうから」

「良いのですか?靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様からの託宣もありますし、無理に当主を継がなくても…」

「ま、当主を継いだからといって屋敷に留まるわけではありませんから。私はこれからも外で好きにやらせて戴きますよ。ただ、喰世はいいとして救是朱麗によって当主の座から追われた分家のお歴々が復帰するにしても、暫定とはいえ当主となった一族の次代がこの有様なのは…」

 

少し改まって苦言を呈すれば、和歌も悩ましげに整った顔を困らせる。今回は騒動が一族全体に波及してしまったが為に後始末もかなり面倒なことになっている。

特に内乱の首謀者である救是朱麗と共犯の公善家は沙汰も重くなるのが道理なのだが、困ったことにそれをやると御三家として一族内でかなり重要な役目を持つ救是家が滅んでしまう。

救是家の役目とはこの朱麗が反逆した理由にもなっているのだが、だからといって放棄させるわけにも行かないのが難しいところだ。

現に今の宗家は当主の和歌と昔会った女傑、つまり和歌の実母の二人しか継承者がいない。基本的には女流の家系であり、女児が生まれなかった時のみ男児が継承者となるのが救世家の仕来りだからだ。この辺りの事情は宗家当主が“巫女”だからというのが大きい。

そして救是家は宗家の跡取りが居ない時に、宗家に代わって救世家を継ぐ役目を持つ。いわゆるスペアであり、その万が一を想定して宗家と全く同じ血が流れるように婚姻を統制する徹底振りで連綿と血を繋いで来たのだ。

同じ御三家であっても救千家では代役にならないし、他の分家は代わりとしては論外もいいところなので、現状唯一の救是家の人間である救是朱麗を処刑することは事実上不可能となってしまったのだ。

 

「あぁいえ、救是家に関しては彼女の弟妹が居ますし、血筋自体は残せますよ?」

 

あらそう。

と、なると殺せないのは救是朱麗の殺し方が皆目見当もつかないからか。

そうなると処罰は破門追放一択なのだが、ただ破門したくらいじゃこの女は再び一族に牙を剥くだろうし、かと言って幽閉するなり監禁するなりして封じることもできないと。

 

「その通りです。梛沙紀様以外で彼女を止められる実力者は居ませんし、術で封じるというのも肝心の術者が…」

「皆まで言わずとも解ります」

 

もうこうなったら人間の手には負えないだろう。

随分と軽い最後の手だが、頼るしかあるまい

俺は祭殿の方に向き直り、祭殿の入口へと通じる大階段の一番上目掛けて呼び掛けた。

 

彌淙皅(ミヅハ)彌淙皅(ミヅハ)様、。一つお頼みが…」

「うむ、良いぞ」

「え?」

「……まだ何も言ってないのですが」

「いやなに、妾も全て観ておったからの。其方らが何を頼みたいのかくらいは解っておる心算(つもり)じゃ」

 

そりゃ住居の目の前でドンパチやってたんだから知ってはいたただろうが、相変わらず話が早いというか、一族に理解のある神様である。

 

「あの、靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様?一体何を為されるのでしょうか…?」

「そうじゃな、其方ら二人以外の記憶と意識を都合が良くなるようにちと弄るとするかの。まぁアレじゃな、催眠とかの類になるのじゃ」

「……え」

「…余りにも力技のゴリ押しで和歌様絶句してるじゃん」

「梛沙紀、其方心の声が口に出ておるぞ」

 

頼み込んだ手前文句があるわけでは無いのだが、それはそれとして記憶はともかく意識を弄るって大分ヤバいことをしている自覚は…神様だからあるわけないか。

しかしまあまあ予想の斜め上の発想がお出しされた所為で、和歌の方は機能停止に陥ってしまった。

俺としてはそんな力もあることの方が意外だが。

 

「なに、妾はこれでも生命の流れを司る神。生まれてから死ぬまで、死んでから生まれ変わるまでの輪廻の記憶も力の及ぶ内にあるでな。その気になれば時を戻すことも容易い。妾にはこの程度御茶の子さいさいじゃぞ?」

 

今サラッと聞き捨てならない能力が聞こえた気がするが俺は気にしない。というか気にしたくない。きっと気の所為だろうそうだろうそうであってくれ。切実に。

と何の得もない現実逃避は止めにして現実を見よう。

俺としても和歌としても、彌淙皅(ミヅハ)様に異論は無い。だが全員が全員同じ改変だと後々手間になるだろう。

 

「解っておる。其方の配下と血縁の娘っ子共には何もせんよ、安心するが良いぞ。この娘のことも妾が預かる故、心配は要らぬよ」

 

何だかんだ彌淙皅(ミヅハ)様は世話焼きな神だ。その当人が言うのだから本当に悪いようにはならないだろう。

その後一族をどう立て直すかは宗家と救千家に丸投げする。

それこそ一族の統率は救千家の役目、俺の与り知るところではない。

問題は粗方解決したと胸を撫で下ろすと、申し訳なさそうに和歌が声を掛けて来る。

今回の件や一族の話は今終わったばかり、となると俺自身のことか。思い至る節は、無いわけでもないが。

 

「あの、梛沙紀様?そのお姿は一体…」

「さぁ?生憎私にも何が何だか」

 

魔神器の長剣を鏡代わりに自分の姿を確かめる。成程違いが一目瞭然だ。全身から色彩が抜け落ちて真っ白になり、色のある両目も以前とはまるで異なる。

なんというか、見て分かる人外感。どう見ても人のそれではないということはよく分かる。

改めて自分の身に起きたことに首を傾げていると、いつの間にやら横まで降りて来ていた彌淙皅(ミヅハ)様が楽しそうに声を紡いだ。

 

「もしやとは思っておったが、数年でその姿に至るとはの…梛沙紀、其方はやはり面白い人間じゃな。妾も目を掛けた甲斐があるというものよ」

靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様?えっと“至る”とはどういう…?」

「その姿、というより梛沙紀自身が人の身を外れたのじゃ。夢理民(むりのたみ)という人外、この世の理を超えた存在へと転身したと言うべきかの」

「夢理民?」

「うむ。夢で理を超えた世界の頂点、即ち夢理民。おおよそこの世で勝てる者の居ない世界最強の一人一種族の総称、世界と言う枠組みに辛うじて収まる上限そのもの。歩く理不尽というやつじゃな」

「…それはまた、随分と物騒な存在ですね」

「梛沙紀のことじゃがの。ま、夢理民というのは千差万別。成った者の抱く願いによって姿を変えるものなのじゃ。世界の理に従い生きる存在からその理を遣う存在へと進化する。人のカタチを逸脱し得る異形の思念が、肉体を越えて物理的な現象となったものがその身体。言い換えるならば現世最後の神秘、かの」

 

彌淙皅(ミヅハ)様曰く夢理民とは人が変じる上位存在であり、過去の大戦にて終止符を打ったのも夢理民だという。

一族に祀られながらも千年間世界を眺めている間に、人が夢理民になる場に出会したこともあるそうで、どれも分かりやすく人間を止めた外見的特徴があったのだという。

では全身が白くなった以外大した変化の無い俺は、何になったのかといえば特にこれといったカタチの無いモノ(・・・・・・・・・・・・・・・・)、らしい。

 

「妾も長くこの世に顕現しておるが、西洋と呼ばれた文化圏にはそこまで詳しくないのじゃ。まぁ見たところ霊体というわけでもなし…擬態、いや変身と言った方が良いかの?人の恐れるものになる怪物、或いは人の恐れる怪物(もの)という概念にでもなったとでも覚えておれば良い」

「え…とつまり、梛沙紀様は」

「スケアリーモンスターってことか?薄っぺらいな」

「ま、元々何らかの能力を持っておった人間が転身する際は、その能力や特性に近しい種族へ引っ張られることもある故、梛沙紀もその一例じゃろうな」

「では、梛沙紀様の場合は殺意の能力でしょうか?」

「そうなるの。殺気を向けた相手の行動を中断させる…その能力を基としているのならば、其方は一神教における恐怖の象徴、神の敵とやらのチカラも使えるかもしれぬ」

「………」

 

神の敵、対峙した人の恐るものへと変じる擬態(・・)

ありたいていに言えばそれは魔物だ。擬態する魔物、というのが俺の夢理民としての種族ということになるが…

 

「ま、今は分からなくとも(いず)れ知る時が来るじゃろう。それこそ直感的に…いや、この場合は本能的にじゃな。能力がそうであったように己の種族が解るやもしれぬ。余り気にせずに悠然と構えておれば良いであろうよ」

「それにしても靈彌淙皅姫神(タマミヅハヒメノカミ)様は随分と夢理民に詳しいのですね?」

「まあそもそも妾にとっても夢理民は身近な存在であるしの。それに九百年前に夢理民へと至ると(・・・・・・・・)妾に誓った者が名乗(・・・・・・・・・)りを変えたのが喰世の始まり(・・・・・・・・・・・・・)故、多少詳しくなりもするじゃろ」

「……………え?」

「ん?何じゃ、失伝しておったのか?喰世家の掲げるこの世を喰らう力とは、夢理民のことを示しておるのじゃぞ?夢理民とは一騎当千万夫不当、一体で億の英傑に匹敵する極限の個。錬金術や魔術では“全なる一”と呼ばれる単体としては最強の、完成された個の戦力。その領域へ至れたのならば文字通りこの世にある数多の力を喰らい、我がものとすることなど造作もないであろう?それこそが喰世家の掲げた命題にして宿願なのじゃ」

「俺が、一族の……」

「元々妾が其方に加護を授けたのは、其方が喰世の…妾を前に大言を吐いたあの男に良く似ていたからに過ぎぬ。あの男の悲願を成就させるのはこの童かもしれぬと思ったのも、なくはないがのう」

 

“人”の枠組みから外れることを(いと)う救世一族の中にあって人を辞めることを到達点として掲げていた。それは、その思想を抱いた喰世家の祖は、一体何を見たというのか。

 

“力を求めよ、何よりも強く在れ、ただ渇望せよ(・・・・)

 

一族の教えがリフレインする。

力を求めよ(・・・・・)-それは純然たる力。個の力。

何よりも強く在れ(・・・・・・・・)-求めるは比類なき無双。誰にも倒せぬ最強。

ただ渇望せよ(・・・・・・)-渇望。それが夢理民へ至る鍵。

原初の願いは、全て夢理民に至るための道標だったのか。

分家として御三家に名を連ねるまでの百年間、調べようにも当主の名前と功績くらいしか記録の残されていないその百年。一族としては極めて異端なその原初の願いは、恐らくそこでカタチを変えて秘匿され、長い月日の中でその願いに明確な到達点があったことさえも忘れ去られていったのだろうか。

だが、彌淙皅(ミヅハ)様がいう夢理民とは種族としての最強であって真の頂点ではない。一族の、千年の歴史に埋もれ秘された悲願がこの世という環境における頂点捕食者だと言うならば、同格が存在している時点で果たされたとは言い難い。

ならば喰世の始祖が目指したものは、夢理民では無いんじゃないか。それを超えたナニカ(・・・・・・)がまだ、この世には在るんじゃないのか。

衝撃を齎した事実に思考が回る。顔も知らない先祖の思想に、考えが浮かんでは消え渦を巻いた。

 

「一族の中で夢理民へ至るとすれば、其方か朱麗かのどちらかだと思っておった。妾の勘も捨てたものではなかろう?それにしても…其方は本当に彼奴に似ておるな…改めて言うが、其方は其方の心の赴くままに従い生きよ。妾が赦そう、其方のその生の先行きを言祝ごう。千年待った妾の愛し子よ」

 

考え込む俺を見てカラカラと笑う彌淙皅(ミヅハ)様は、最後に俺の目を覗き込んでやはり其方は面白い、と優しげに言葉を残し、未だ気を失っている朱麗(あかり)を掴んでくるりと宙へ消えた。

彌淙皅(ミヅハ)様が祭殿の内へ戻ったのを機に俺は和歌に後を任せ、ペトラルカとセレスティアの二人を伴ってハーロット領へと帰還した。

それから三ヶ月が経ち、救世一族は結局全分家が廃嫡と正式な当主交代をやり直したと風の便りで聞いた。

問題を起こしたことになっている公善家の兄弟は救是朱麗の口車に乗せられたのだとしても、己の分を弁えない野心を抱き一族を滅ぼしかけた罪に問われ、先代当主含め三人が処刑されたらしい。兄弟の方は斬首、兄弟の父でもある先代当主は婿入りであった為離縁させそのまま放逐となったようだ。結果的に公善家はまだ辛うじて存続しているものの、その立場はもう無いに等しい状態だそうだ。

喰世家は話の通り俺が継ぐことになったが、此方は此方で当主と部下二人以外誰も居ないという壊滅状態だった為にやはり御三家降格の話が出たようだ。しかし現当主である俺、喰世梛沙紀が色々と一族にとって特殊な立場である-ほぼ彌淙皅(ミヅハ)様のお気に入りということ-に頭を悩ませ、結果そのまま当主に任せることになったと聞かされた。

屋敷の管理に母上の療養のこともあり、俺はその知らせを持ってきた穂浪に【RoF6】の構成員から数人を選ばせ、一先ず従者とすることで事なきを得た。武力に関しては同じく【RoF6】から戦闘力に秀でたメンバーを引き抜き蒲原(かんばら)に一任しつつ、今後も勧誘を続けることで手を打ってもらった。

騒動の主犯でもある救是家は、救是朱麗が独断で当主を軟禁しその座を簒奪したことが明らかとなり、救是朱麗の弟妹という嫡子候補の存在もあって取り潰しは免れた。朱麗の実母である当主はそれでも責任を取ろうとしたらしいが、そこは救千のお婆様が何やら説得をしたらしい。ともかく救是家は今後も御三家の一角として宗家に仕えることは確かだ。

そして救是朱麗。今回の件で最も罪が重いとされた女は、これまた意外なことに彌淙皅(ミヅハ)様直々に赦されたらしい。

一族を騒がせはしたものの実害は無いに等しく、朱麗自身の境遇もずっと観ていた彌淙皅(ミヅハ)様は仕方ないものだと断言したのだ。

だが罪が赦されたとしても朱麗が救是家を正式に継ぐことはない。本人が救是の役割を憎しみ、嫌悪している以上責任を果たすことは誰の為にもならないと今回の一件で示されたからだ。

宗家救世家と御三家の救是家(序でに喰世家)に同年の子供が生まれたことをこれ幸いと、仕来りに従わせたことがそもそもの原因であると救千のお婆様が諭したのだと聞いた。

俺は会ったことは無いが、実際普通の子供と同じように育てられた救是の弟妹は役割に異を唱えることもなく受け入れてはいるようなので、此度の朱麗の反乱未遂は幼い頃からの抑圧の結果といえるだろう。

その一点は都合が良いからと勝手に話を進めた救是家に非があるとし、朱麗当人は救千の若旦那が養女として迎え入れることで決着となったようだ。

真実を知る分家当主達は、結果的にはそれで納得せざるを得なかったという。そもそもの発端と原因は救是家にあれど、救是朱麗に唆されて無様に踊らされた自分達が救是家を責めることは恥ずべきことだと皆分かっていたのだ。

いくら御三家といえども近年成人したばかりの若者に、諌めるどころか逆にいいように利用されたのでは当主の面目が立たない。それに信じて跡を継がせた子息が軒並み朱麗の傀儡でろくな頭も無かったとなれば、頭を抱えたくなるのも無理は無い。

ましてや今回の騒動でも宗家の和歌(のどか)や喰世家の俺など、若い中にも家督を継ぐに相応しい器を認められた者がいたことも、失望に拍車を掛けたようだ。

一連の報告を俺に届けたのは、驚いたことに救千家次期当主となった救是ー救千朱麗当人だった。

あの日決闘の後、彌淙皅(ミヅハ)様と何を話したのかは語らなかったが、その顔は憑き物が落ちたように晴れやかで以前は爛々と燃え盛っていた炎も瞳から消えていた。

まるで別人のように様変わりした朱麗に、当初は目を疑って誰だお前と言ってしまったのは、不可抗力だと主張したい。

 

「アンタにはアタシの一方的な嫉妬で迷惑かけたし、喰世家全体を巻き込んだ負い目もあるからね。ただの現状報告でもアタシが行くのが筋だと思ったの」

 

そう言って快活に笑う朱麗は、呆気にとられていた俺に改まって深々と頭を下げた。言葉も直し、硬い声で静かに己の所業を詫びるその姿に嘘は見られない。

俺は頬を掻きながら、尚も頭を下げたままの朱麗に掛ける言葉を探した。

 

「……あー、叔父上一家と母上のことは、そりゃまァ頭に来たけどな。何といや良いか…お前が煽り立てなくても、あの時ウチに仕えてた使用人は、遠からず粛清されてただろうよ」

「……」

メイド(穂浪)忍者(蒲原)以外は、前々からボンクラだと分かっちゃいたし、真面で強い戦士はかの大戦で大多数が戦死してたしな。彼奴らは後から家に入り込んだ半端者と戦場から逃げた軟弱者だ。叔父上でも父上でも、生きてたら多分粛清してた。だから、なんだ?あの一件で喰世が勢力を落としたことは、お前の罪じゃねェよ」

「……でも」

「でもも何もあるか。そもそも使用人や部下が大量に消えただけで、血族は叔父上の一家以外誰も死んでねェんだ。仕える主家もろくに知らねェ舐めた連中が何人消えようが別に困ることはない、逆にこっちが感謝したいくらいさ」

 

肩を竦めて溜息を吐く。怒りも恨みも今は無い。

かつてあったソレを要らないものとして吐き出した。

朱麗は頭を上げても所在なさげに黙っていたが、謝るなら相手が違うとハーロット姉妹を引き合いに出せば漸く得心がいったのか胸を撫で下ろしニヘラと笑みを見せた。

本人は複雑に思うだろうが、そういうところは実の親に似ている辺り血は争えないと頭を掻く。

 

「…義母(かあ)様の言った通りね」

「救千のお婆様が何か言ったのか?」

「アンタならきっと、あれこれ理由をつけて有耶無耶にするだろうって。流石、義母様はよく見てるわ」

「……お婆様からしたら、そりゃ俺は孫みたいなもんだしな」

義兄(にい)様もたまには顔見せろっていってたし、アンタも何かしてみれば?親孝行じゃないけどさ」

「…ハァ。それは追々な」

 

吹っ切れて生まれ変わったような朱麗は、楽しそうに笑って。かつて見せた名も無き悪感情しか知り得なかった朱麗は本当はそういう風に笑う女だったかと、不意に感傷を覚えた。

帰り際にも朗らかに手を振っていた朱麗を見送り、新たに組織する【RoF6】を思案する。

大戦を終結へ導いた叔父上の急死は、世界に新たな波乱を巻き起こした。世界各地で再び紛争が勃発し、争いは日を増す毎に激しくなっている。

夢理民の能力の制御に、喰世家の戦団の統制、結社の再編に紛争介入にとやることは多い。

 

「あら…お兄様、それは?」

「新しく作る組織の概略。どうせ作り直すなら【RoF6】には無かった経理とか監査の部門を増やそうと思ってな…大体が戦バカで職務も何も決まっちゃいねェが」

「私の知り合いにも頼んでみましょうか?」

「いんや、遠慮しとく。コレばっかりは俺がやりてェことだ」

「……おねーちゃんって何これ、散らかりすぎでしょ!」

「ん?あー転ぶなよお転婆娘」

「誰に言ってって、てかそれ言うなら片付けてよクソ兄貴!」

「セ レ ス ?」

「う…で、でもお姉ちゃん-…」

 

姉妹の会話の騒がしさに煩わしいと思う傍ら、懐かしい日常の気配を感じ取って少しの寂しさが込み上げた。

ふ、と笑って寂寥感を呑み下し、紙の上にペンを走らせる。

 

「……R-FoLs?」

「新しい組織の名前ですか?」

「あァ」

 

書き殴った文字列を怪訝そうに読み上げるセレスティアと小首を傾げるペトラルカに肯定を返す。

ペンを置いて席を立ち、指を鳴らしてみる。

散らかった紙束が瞬間的に捌ける。パサリと舞う紙の一枚を掴んで机の上へ置いた。能力は使い勝手が余り宜しくないな。

 

「お兄様…?」

「ファタール君呼ぶかァ…」

 

懐かしき退屈な日常を取り戻す。

いや。

あの日の憧憬をもう一度この世に。

そんな願いを込めて、新たな組織はこう名付ける。

 

Reminiscence - For on Lights (追憶に灯す光)

 

 

-To be continued.《絵優奈回想編に続く》

 




☆サクッと解説コーナー★
【救世一族の分家とその思想(役割)】
救世家:彌淙皅様を祀る神職。星占いもする。
救是家:↑の影武者兼予備。生まれた時からお揃い強制。
救千家:分家のまとめ役。外では政財界の担当。
喰世家:一族の為に強くなる。本当は最強になりたいだけ。
紅世家:↑からさら独立したに分家。呪術専門。
久瀬家:救千家の補佐でお役所仕事。ほとんど一般人。
宮筮家:一族の土地管理者。不動産経営もしてる。
朽砦家:非科学的な道具の管理担当。祓魔師的なこともしてる。
公善家(旧救善家):皆のために正義を貫く。尚没落。さらに下衆化。


【新キャラ】
《救是/救千 朱麗》
実はifポリでのラスボスとして考えられたキャラ。
《ジェー(ジェー・ドゥ)》
実は既出キャラ。ifポリで出てきた『彼女(かれ)』と呼ばれてた人物。名前の由来は身元不明のジェーン・ドゥとジョン・ドゥ。
《救世 和歌》
外見が朱麗と同じという設定だけは昔から決まってた。無感情人形キャラは唐突に生えてきた設定。
《蒲原 叢雲》
そもそも最初は居なかったキャラ。レインパレス姉弟の出番を奪って突然現れた。アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?
《公善家兄弟》
理想を抱いて溺死した。
この手の皆仲良く的な信念を掲げる連中を下衆に仕立て上げるのはもう作者の手癖。なんでだろうね。
《【RoF6】の幹部たち》
ファタール含めて全員イツアリでの元クラメン。因みに役職もそれぞれが名乗ってた肩書きに基づいている。クラマスはファレさん。サブマスが作者。
《喰世 神鳴義(カミナギ)》
名前は出てこなかった喰世家始祖。夢理民を見て夢理民になりたいと思って、ついうっかりそれを言っちゃった男。
今度出てくるかもしれない。


【固有名詞】
《ふゆほたる》
ifポリ時代からちょくちょく出てきた温泉旅館。これもイツアリで所属していたクランが元ネタ。案内人は当時の作者の職務。因みにifてんてーが首から下げてるネームプレートはここの従業員証。
《破寂乃御太刀》
彌淙皅様が使ってたデカい日本刀。作ったのも多分彌淙皅様。見た目からして水属性っぽいけどそんなことは無い属性詐欺刀。実際属性とか無い神秘パワーの塊。
材料も鉄とかじゃない不思議物質。
作中で見せたバカデカい分身(実体あり)を出す能力以外にも、同じサイズで無数の分身を作る能力もある。チート武器。元ネタは現実に存在する最大の刀、破邪の御太刀。
《櫛刃の怪剣/魔剣》
実はこれを思いついたから魔神器の設定が生えてきた。
ファンタジーにしかないゲテモノ武器ってかっこいいよなという思いつきで生み出された。元ネタは作者が使ってる百均で買った木の櫛。

【新設定】
《魔神器》
これのせいで話(戦闘シーン)が長くなった。
いわゆるキャラ専用武器とか固有武器。
契約を紅世家が行う喰世家の武器。他家がこれを作れない理由はよく分かってない。朱麗が契約できたのは喰世家の血を大量に輸血したらなんかできただけ。つまりラッキー。
《彌淙皅様の能力》
催眠と記憶操作は時間操作の副産物。
彌淙皅様は生きて死ぬまでの流れ全てを司る神様なので、当然寿命を操れるし、時間も操れる。だが操れるのは生きている物の時間だけ。死体や生きてない物は戻せない。
《戦闘スタイル》
喰世梛沙紀(てんてー):めちゃくちゃパワータイプ。脳筋。重量のある武器をとりあえず振り回す。技術よりパワー。
救是/救千朱麗:スピード特化。火力は武器で補ってる。技術EXのバケモノ。尚剣に全振り。
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