転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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27 怪しき再会

 『ダイダロス』の偏屈鍛冶師が弟子を取ったと微かな噂が流れ始めた頃。

 騎士捜索隊(ナイトシーカー)の面々は変わらず5階の探索に勤しんでいた。

 

 

「はァッ!!」

 

 

 ケインの鋭い剣閃が二足歩行型ゴーレムの胴を斬り砕く。

 ゴーレムの外側は石英、内側は空洞となっている。衝撃を与えられた腰部から大きくひび割れ、やがてパキパキと音を立てて崩れ落ちる。

 崩れた身体はバラバラの石英となり後に小さな核を残す。ケインはそれを拾うことなく剣をしまった。

 

 

「凄い凄い。奇襲を感じ取れるようになったのね。やるじゃん、『成り立て』から半年経ってないなんて誰も信じないわね!」

 

「ミリアムに褒められても嫌味にしか聞こえない」

 

「素直に受け取っとけよ。気持ちは分かるがな……」

 

 

 ケインが眉をひそめてミリアムの方を見れば、2体のゴーレムの破片が壁に散らばっている。

 いずれも木っ端微塵と言うに相応しく、足元にはバラバラになった四肢が転がっている。

 これはミリアムによる殴打によるものだ。胴体のみを集中して叩いた結果だろうそれを、ケインとアジーはドン引きしながら見ていた。

 当の本人は肩を回してほぐしながら、やや不満げな顔で呟いた。

 

 

「張り合いないわね。どうせなら『宝石』でも出てこないかしら」

 

「やめろやめろ。お前が言うと本当に出てくるだろ。金以上は逃亡一択だかんな?分かってんだろうな?」

 

「分かってるって。一撃入れたら逃げるわよ」

 

「何も分かってねぇことは分かったよボケが」

 

 

 5階、通称『採石場』。ここはゴーレムに類するモンスターのみが出現する階層として知られている。

 形は様々だが、概ね人の顔から細かいパーツを塗りつぶしたのっぺらぼうのゴーレムが徘徊している。

 その身体は例外なく鉱物で出来ており、土塊から鉄、宝石まで様々なゴーレムが闊歩している。

 撃破することでそのゴーレムにちなんだ鉱物がドロップするのが『採石場』と呼ばれている由縁だ。

 水晶で造られたゴーレムは水晶を、宝石で造られたゴーレムからは宝石がドロップする。

 鉱床の採掘量に比べれば微々たるものではある。だが鉱物資源はいくらあっても足りない。

 それに混ざり物の極めて少ない鉱物資源は、研究結果の誤差を減らしたい魔法魔術研究分野で非常に重宝されている。あればあるだけ値がつく資源なのだ。

 かつて5階への道が開かれた際、多くの探索者達が我先にとゴーレムを狩って回ろうとした。

 だがそれは一瞬で頓挫することになる。希少性の高いゴーレム程強力な力を持つからだ。

 

 最も危険度の低いと言われる材質が石英、花崗岩のような『石』のゴーレム。

 これらはドロップ品にほぼ価値がなく、また比較的軽い材質な為見た目以上に素早く脆い。5階まで来れる探索者ならそう苦戦はしない。

 

 次いで多いのがトルマリン、クォーツを筆頭とする『水晶』のゴーレム。

 トルマリンはゴーレムの中で唯一魔法を用いて攻撃する。彼らが使う『電気』は現在まで完全に防護する手段が判明していない。

 クォーツは色合いと体格の個体差が大きく、特徴として非常に軽く、動きが軽快な個体が多い。クォーツは運気を上げるという噂もありその分人気も高いが、油断すると一瞬で距離を詰め攻撃態勢に入る非常に危険な個体として知られている。

 

 目撃頻度は少ないが更に危険視されているのが鉄、金、銀、銅などの『金属』ゴーレムである。

 これらが危険視されるのは単純で、腕力がとてつもなく強い上に魔法が通用しないのだ。

 魔力による攻撃、水や風といった属性の魔法を意に介さず、また存在が無機物に近い為か『奇跡』に至っては全く通用しない。

 熱により溶かし切ることが有効とされているが、それも相応の火力が求められる。

 それが成し得る火力を恒常的に出せるなら、そもそもゴーレムに拘らない方が稼げるのだ。

 

 そして最も危険視されているのが『宝石』。

 現在確認されているのは『ダイヤモンド』『ルビー』『エメラルド』の3種のみ。

 目撃情報や討伐記録が非常に少なく、極めて俊敏かつ剛力の二点だけが確認されている。

 極めて強力なモンスターだがもし出会えて討伐しようものなら一獲千金も狙えるだろう。

 

 

「ゴーレム狩りは博打の要素も大きい。どうする、ボスだけ倒して6階に急ぐか?それも選択肢だが」

 

「狩り回って金策、と言いたいところだけど少し不安ね。ウチ治療専門がいないし。クォーツに奇襲仕掛け続けられたら対応しきれないかも」

 

「私も本職ではありませんからね、やはり専門が欲しいです。ヘレス会長はなんと?」

 

「事情が事情だから迂闊な人選が出来ないみたい。悪いけどしばらくはクローカが頼りね」

 

 

 彼らは会話をしつつも周囲を警戒しながら前進する。

 5階もそろそろ中盤に差し掛かると言った頃、探索者の4人は奇妙な風景に出くわすことになる。

 先程まで広々とした通路を歩いていたのに、今目の前には扉が行く手を阻んでいる。

 基本的にダンジョンの通路には玄室とボス部屋を除き、通路を遮るような扉は生成されない。

 通路と玄室、玄室と通路を繋げる場所にのみ生成されるのが主だ。

 つまりこの扉はイレギュラーであり、この先になんらかのイベントが待ち受けているのは明らかであった。

 4人の間に緊張が走る。

 

 

「どうする、リーダー」

 

「直感は?」

 

()()()()()

 

「皆は?」

 

「行くべきだと思う」

 

「引き返すべきかと」

 

「リーダーに従うぜ」

 

 

 この中で最も『直感』の鋭いアジーの返答は不明。

 悪い予感ではなかった。ならばこの先が有益か無益かは、自らの手に掛かっていると見た。

 ならば超える、超えて進む。それがミリアムの出した結論であった。

 

 

「行きましょう。クローカ、ごめんね」

 

「いえ、私も悩みました。皆さんを信じます」

 

「ありがとう。さぁ、行くわよ」

 

 

 5階のランダムポイントだろうか。だとしたらこの先に待ち受けているのはなんなのか。

 未知への恐怖と好奇心、期待に胸を弾ませながらミリアムは静かに扉を開く。

 念には念を入れ、アジーがその隙間から内部をそっと覗く。

 

 

「……広いな。まるで闘技場みてぇだ」

 

 

 そこに広がっていたのは部屋と呼ぶにはあまりに広い空間。

 入ってすぐは狭まっている為、扉を開いた瞬間横から奇襲されることはないのが分かる。

 しかしそのせいで部屋の左右を確認することが出来ない。

 またダンジョンの特性か、轟音でも発生しない限り室内に入るまで音が漏れないよう出来ている。

 内部をしっかりと確認する為には中に入るしかないようだ。

 

 意を決した四人が部屋の中に入ると、急激にガンガンという音が響き始める。

 非常に固い物と物をぶつけ合った時に発する音、まるで剣戟の音だ。

 狭まった部分を越えて進むとその正体が明らかになる。

 それは煌びやかに光る深紅の人型ゴーレムだ。それが4人に一瞥をくれることも無く部屋の中央に躍り出る。

 その視線は探索者から見て左、照明の少ない暗がりから飛び掛かる襲撃者を正面に見据える。

 

 

「……」

 

「───!」

 

 

 振り翳された剣と宝石で構成された腕部が、再度強烈な破砕音をもって衝突する。

 吹き飛ばされたゴーレムが着地、自らの足を杭にして壁への激突を防ぐ。

 だがその背後は壁だ、退路はない。すぐさま両腕を鋭く刃状に変化させ迎え討とうとする───

 

 

「───」

 

 

 態勢を整える、その一瞬の隙をついて鋭く投擲された長身の刃が胸部に突き刺さる。

 壁に縫い付けられた胴体の中心から放射状にひび割れが入り、核が貫かれたことで体形の維持が出来なくなる。

 輝くゴーレムは致命傷を負ったうえでも更に動く。剣を引き抜いてもう一度反撃態勢に移ろうとする。

 だが剣に手をかけた頃には、既に襲撃者はゴーレムの目の前まで来ていた。

 

 

「───……」

 

 

 突き刺さった長剣を掴み上げ、造作も無く頭部に向けて振り上げる。

 砕けた紅い身体が美しく、深紅の雪のように、あるいは輝く血のように頭部から噴き出す。

 上半身を縦に裂かれたゴーレムが再度動き出すことはなく、そのまま物言わぬ石塊と成り果てた。

 鎧袖一触、敵は5階最高峰の難敵『宝石』だというのに、まるでただの雑魚だと言わんばかりに淡々と処理を終えそこに現れた。

 

 

「……腕は落ちちゃいねぇってか?規格外が過ぎるぜ、ほんと」

 

 

 剣にかかった宝石片を一振りで払うそれは、深紅の霧のように美しい。

 長剣を握る彼こそが、彼らの調査対象にして奇妙な友人。

 『血みどろ甲冑』特異個体『徘徊者』である。

 

 

「3か月ぶりくらいか?久しぶりじゃ───」

 

 

 この場に彼がいるのを見て僅かに安心したアジーがゆっくりと前に進もうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ、アジー」

 

 

 その言葉にアジーの足が止まる。

 背後は見えてはいないが、ケインとクローカは最初から警戒を解いていなかった。

 そして後ろにいるミリアムの声が緊迫感を伴ったものであることに気づき、静かに聞き返す。

 

 

「何がダメなんだ」

 

「分からない。けど今のアイツに近づいちゃダメ」

 

 

 剣を手に収めた『徘徊者』は何の意思表示をすることなく、ただじっと4人を見ていた。

 しかしよく周りを見て見れば、あまりに恐ろしい光景が広がっている。

 例えるなら宝石の海。部屋を照らす光源に、散らばった宝石達が神々しく反射する。

 紅、白、緑、薄桃、橙。色から名前を想像できるであろう美しい宝石の輝き。

 海と形容したのは『徘徊者』の周囲だけではない、床がゴーレムの遺骸で埋め尽くされているからだ。

 

 それを見たアジーは凡そ異常性を理解した。

 彼らの知る『徘徊者』は強い。だがそれだけの存在ではない。

 確かに強い。だがその強さはどこかちぐはぐで、戦闘時と終了時の脱力差に力が抜ける不思議な強さだ。

 生い立ちは本人にも分からない所ばかりで、どこか幼さの残る仕草で二人の懐に入ってきた不思議な存在。

 彼は自分達の言葉に耳を傾け、二人の反応に一喜一憂する人臭さに満ちたモンスターの筈だ。

 

 だが今はどうか。背を真っすぐに、剣を携えた姿はまるで本職の『騎士』のよう。

 首元からあふれ出る血と緑色の眼光さえ無ければ、悪趣味な闇色の甲冑を纏った人間だと言われても納得してしまうだろう。

 『徘徊者』から感じる剣呑な気配に4人の足がピタりと止まる。誰かの背中に冷たい汗が流れた。

 

 

「俺からしたら今の方が最初の印象に近いけど」

 

「同じく、です」

 

「警戒はそのまま、クローカは後ろ見といてくれ。もう少し様子を……おい、ミリアム?」

 

 

 ミリアムはアジーの背後に立ったまま、毅然とした態度で『徘徊者』を見ている。

 敵意でも害意でもなく、あくまで警戒を強めたまま、室内に響く声で問いかけた。

 

 

「答えて。アンタは……誰?」

 

「……」

 

 

 ミリアムの言葉に『徘徊者』は僅かに視線を逸らし、やがて剣を天高く掲げることで応えた。

 もしこの場にかの国家騎士がいたならばこう答えただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 あれは『開戦礼』。戦争の合図だ。

 




『ゴーレム』

 二足歩行から四足、球体や流体など形状は様々な無機物モンスター。
 同じ素材でできていても形状によって脅威度が変化する為、相手に合った対応力を求められる。探索して稼ぐという点において現状『ダイダロス』の中でも屈指の難易度を誇る。
 この階層で稼げるなら6階で生物型を狩った方が効率がいいと言われることも多く、多くの探索者達にとって敬遠される階層でもある。
 だがこの階層の金属は常に需要があり、回収や討伐の依頼は常に一定数ある。
 これらを解決するために専門のパーティがおり、良い額を稼げる程度には隙間産業と化している。
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