転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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39 強制帰還

「いやー、今回は災難だったねぇ。まさかウチらが化かされちゃうとは」

 

「ほんと迷惑かけちゃってごめんね。でも彼を引き留めてくれてて助かったよ」

 

 

 ジェグイを捕らえた5人と『徘徊者』は最寄りの安全地帯まで移動し、そこで少しばかりの休息を取ることにした。

 捜索に全力を注いだことで全員消耗しており、当のジェグイ本人も『徘徊者』との戦闘で気絶寸前という有様。

 これでは稼ぎもままならない。それどころか非常事態に片足を突っ込んでいる状態だ。

 禁止されていた『徘徊者』との接触もこうなってしまった以上毒を食らわば皿まで、いっそ交流することで収穫を得ようというパーティリーダーの判断だ。

 『騎士捜索隊』の面々が彼の情報収集をしていることは既に耳の早い『エリート』達には周知の事実だ。この遭遇もまた彼らの一助となるだろう。

 会話好きな2人、朗らかな狐の獣人と親し気な長身の男が『徘徊者』の傍を固め、なるべく刺激しない様当たり障りなく交流を続けている。

 

 

「でさー?よりによってうちら6階担当なワケだよ。稼ぎのついでに子守りなんて荷が重いーって言ったのさ。そしたら会長なんて言ったと思う?あれなんて言ったっけ?」

 

「「5階以下の担当では却って荷が重いです」だよ。言いたいことは分かるんだけど、さ。貧乏くじだよねぇ、ホント」

 

「そうそれ。しかも本当にしでかすし、よりによって寝てる間に抜け出しちゃってさぁ。ひどいよねぇ。まっ、今回は甲冑さんがいてくれたお陰で大事にはならなかったねぇ」

 

 

 狐の獣人が耳をピコピコと動かしながら礼を言い、男のフォローもあって和やかな空気が流れる。

 通常『徘徊者』に対しここまでフレンドリーに接する人間はほとんどいない。

 いくら助けられた前例があったとしても、出会ってすぐの猛獣とスキンシップが取れる人間は多くない。

 握手を交わした次の瞬間手と首がもぎ取られてもおかしくはないのだ。それくらいの実力差があり、かつダンジョン内を自由気ままに歩いて回るのが『徘徊者』だ。

 突然目の前に凶悪と名高い『人型モンスター』が現れれば、好奇心より先に恐怖と身の安全が優先されるのはごく当たり前のことであるからだ。

 

 彼らがスキンシップを取っているのはひとえに、ジェグイを救出した直後で気が抜けているからである。

 ジェグイの『感知』能力は高く、罠や危険に対する嗅覚が非常に優れているのは間違いない。しかし絶対という訳ではない。

 『徘徊者』が彼と出会い引き留めていなければ、ほんの僅かな可能性ではあるが罠にかかり命を落としていた可能性もあり得た。

 それが起きなかった安堵から、全員の『徘徊者』に対する心理的ハードルが下がっているのだ。

 当の『徘徊者』はというと、彼らの口から出るジェグイに関する愚痴を黙って聞き、時に頷きで相槌を返す程度だ。

 こればかりは言葉を返す喉が無いのだから仕方がない。

 

 

「この後どうなるかなぁ。今まさにスレイくんは信用を根こそぎ無くしたわけじゃん?となりゃーウチらにとっちゃもう大問題な訳で。今すぐ戻らないとダメ、なんだけどねー……報告は気が重いよ」

 

「6階1パーティ分の損失は数字以上に大きい。素材を待ち望んでる人達もいるわけだし。今後僕らの信用に響くかもしれない。けど命には代えられないさ。そうするしかなかったって、ヘレス会長もきっと分かってくれる。それで十分さ」

 

 

 そう言うと焚火を挟んで向こう側、ジェグイとそれを囲む3人を見やる。

 そちら側の空気は最悪と言っていい程険悪、下手人を詰めに詰めている最中だ。

 

 

「すぐに地上に帰還するからね。言っとくけど!これは全部あんたがバカやったせいだから」

 

「そんなっ!なら俺だけでもここに」

 

「何か言ったか?言葉には気を付けろ、全員気が立っているんだ」

 

「いいえ……」

 

「なんでこの期に及んでまだ残れると思ってんスかアンタ。仕事じゃなければ見捨ててっかんなマジで」

 

 

 仕事でなければ見捨てている。これは言葉以上に重い意味を持つ。

 何があっても助けず、襲われても見殺しにするという探索者にとっての絶縁宣言に等しい。

 言われたジェグイはそれどころではないようだが、一時の好奇心で動き回った結果だ。

 今後どのような扱いになったとしても受け入れるしかない。

 

 

「帰還で話は纏まったみたいだねぇ。準備しないと」

 

「金輪際『国』の使者がダンジョンに入らない様、会長にはお願いしたいところだね。さて、スクロールはある。心苦しいけどドロップ品は置いて行かないとね。はぁ……直接懐に入るわけじゃないけど、それでももったいないや」

 

 

 男が鞄にしまっておいた瓶や革袋を取り出し床に置き始める。

 全て地上ではかなりの高値がつく素材達だ。しかし『帰還』を用いる都合上直接輸送することは出来ない為泣く泣く置いて行く他ない。

 それを見ていた『徘徊者』が傍に近寄る。徐にそれらを掴んで足元の沼へと放り投げる。

 突然のことに驚いた男が慌てて止めようとするも、『徘徊者』は心配無用とばかりに手で制す。そして一通りしまい込むと上を指さした。

 

 

「もしかして……持ってきてくれるのかい?助かるけれど今は『波』だし無茶は……って、君には無用な心配だったかな。もし手伝ってくれるなら助かるよ。いやぁ結構稼いだ後だったし、無駄骨にならなくて済むのは嬉しいなぁ!」

 

「初対面のモンスターなのにスレイくんより信頼されてるっていうのもおかしな話だねぇ。あんまりで涙が出ちゃうよ。ぷぷっ」

 

「笑ってるじゃないか君ぃ。いいんだよ、彼にはその実績がある。他の皆が何と言おうと、僕は彼の善意を信じるからね」

 

「さんせー」

 

 

 その言葉に『徘徊者』は少しだけ達成感を感じた。

 元はと言えば一心同体の少年に敬意を払い、少しでも彼に償う為にと始めたことであった。

 しかしそれらが積み重なり、いざ目の前で「信じる」と言われれば、やはりそれは心に波紋を生んだのだ。

 少年は私を信じてくれた。名も知らぬ彼らも信じると言ってくれた。

 信頼には応えるべきだろう。義理難い彼は邪魔をした詫びと、思い出せた過去への礼も含めてもう一度彼らを助けることを決めた。

 

 

「さぁお説教はそろそろいいだろう!荷物は後から彼が運んでくれるから心配は無用だ。早く集まって!」

 

「……はぁ、このバカ騎士を信じて稼ぎを続けるよりはマシだと信じたいなぁ。分かった、帰りましょう」

 

 

 他の面々も同意見なのだろう。先程よりは多少持ち直した気分で男の周辺に集まる。

 疲労から動きが鈍いジェグイの背を狩人の男が軽く押して連れていった。

 リーダーの女はそれに呆れて溜息を吐きながらスクロールの起動を待つ。

 

 

「よしっ、皆揃ったね。それじゃあ戻るよ!じゃあね甲冑さん。また後で!」

 

 

 男が『帰還』のスクロールを起動し『徘徊者』に別れを告げる。

 『徘徊者』もそれを受け、『帰還』に巻き込まれない様十分に距離を取り彼らを見届けてからその場を後にする……筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時彼らは一つ誤算をしていた。ジェグイが秘匿していた体質『魔力過敏』についてだ。

 受けた加護は何倍にも増幅され身体を強化するし、飲んだ魔法薬の効能、魔力を介した炎や氷、更には呪いや奇跡によるダメージも増幅してしまう諸刃の刃だ。

 その体質を自覚してから、彼はそれをずっと隠していた。パーティメンバーから受けるバフもそれを加味し、力の込め方を加減することでそれを悟らせないという徹底した態度で臨んでいた。

 『徘徊者』と戦う時、もしパーティメンバーが全力で加護を与えてから望んだのならば結果は違ったかもしれない。

 

 そして男が起動したスクロール『帰還』の効果は発動時周辺の空間丸ごと切り取り、それらを登録された場所に強制的に転移させるものだ。

 ダンジョン内の物はドロップ品を除き転移されることは無い。安全地帯内の物やモンスターそのものを連れて帰ることは出来ない仕様となっている。

 そしてスクロールの機能は込められた()()を起動するもの。込められた『帰還』の効力は当然ながら空間全体に及ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では『魔力過敏』の体質で『帰還』の魔法が増幅されたら一体何が起こるのか?

 それは今この瞬間まで誰も知らなかった。『魔力過敏』は非常に珍しい症例であり、その中に今まで探索者という危険な職に就いた者はいなかったのだから。

 

 

「あ、あれ?『帰還』の範囲が広くないかい?あれ!?なんでかな!?」

 

「ちょっと!何してんの!?このままじゃ『徘徊者』が巻き込まれちゃうよ!?止めて!お願いだから止めてよぉ!!」

 

「ち、違うよ!僕は何もしてないってばっ!あぁマズい!もう発動する!」

 

 

 咄嗟に『徘徊者』が部屋の壁まで後退するも、その効果は安全地帯の部屋全体に及んだ。

 跳んでも無駄、逃れるには部屋から出るしかない。だがもうその猶予はない。既に魔法陣が起動している。

 そう、結果は()()()()()()()()()()という形で現れたのだ。

 

 

「……反省会で済むかなぁこれ」

 

「俺は諦めたっス。もうどうにでもなーれ」

 

「いやぁまだまだいろんなことが起きそうですね」

 

「よくもまぁこの期に及んでそんな口が利けたものだな……」

 

 

 最後の瞬間まで諦めず『徘徊者』が扉を目指すが、それよりも効果発動が早い。

 魔法陣の中が淡く光を放ち、それが一際強く輝く。

 それが収まる頃、部屋は静寂を取り戻した。

 

 

 

 

第2章『動乱編』 終

 

 




『ダンジョンの最奥』

 不明。この世に踏破されたダンジョンは未だ存在しない。
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