転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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 更新が遅くなりまして大変申し訳ありません。本日よりまた更新を再開します。
 これ以上更新をお待たせするのも忍びなく、あとがきのちょっとした解説については本章では省略させていただきます。
 また、読みやすさを向上させる試みで今後は三人称視点の書き方に統一させて頂きたく存じます。
 読んでくださっている皆様に感謝を込めて、これからもどうぞよろしくお願いします。


第三章 均衡編
40 最前線より帰還


 その日ダンジョン協会の職員達は慌ただしく走り回っていた。

 全員『波』の処理に追われている。当然ながら協会長のヘレスも例外ではない。

 

 

「4階担当帰還!怪我人あり欠損なし!」

 

「急ぎ救護に回しなさい。休憩を取らせて続行可否のヒアリングを。先程運ばれた3階担当者は?」

 

「再入場希望です。治療後チェック通ってます、まだ稼ぎたいと」

 

「分かりました、ご安全にと伝えてください。先のドロップ品精査終わりましたか?」

 

「『水晶』が豊作で少し手間取っておりますが、直に終わります。それとスケルトンの骨粉に買い手がつきました。これで4階のドロップ品は全て補充待ちでございます」

 

「それは重畳。精査は慌てなくて結構、次の補充まで時間が空くので必ず休憩を。救護班はローテ回せてますか?無理なら私が入ります」

 

「問題ありません。今年の探索者は優秀ですなぁ、怪我は少ないしバッチリ稼いで来る。これも会長の努力の賜物ですかな?」

 

「お世辞を言える程度には良い状況、結構。そのまま気を緩めず怪我人に備えてください」

 

 

 協会は最前線から遥か遠く、ここは第2の戦場である。

 『帰還』後怪我人を保護するための神官と魔法使い達が24時間体制で待機。けが人はいつ来るか分からない。一刻を争う事態だって日常茶飯事。その為『帰還』先には大勢の治療担当者が控えている。

 彼等の役割はストッパーでもある。彼らがノーと言えば探索には行かせない。長時間の探索活動はメンタル面にも負荷がかかる。自分では気づけない暴走を止めるのが彼らの役目だ。

彼らが「ダメだ」と一言言うか否かで、ダンジョンでの死者がぐっと減るのだ。

 

 そして探索者達がダンジョンから持ち帰ったドロップ品はあっという間に買い手がつく。『ダイダロス』に限らず『波』中は多くの名も知れぬ商人、貴族、財務大臣達がその成果を待ち望んでいるのだ。

 そのニーズに対応するべく探索者達が持ち込んだアイテムをすぐに鑑定して売りに出せるよう、各階専門の『鑑定士』達が目をギラギラと光らせて探索者達を今か今かと待ち望んでいる。

 

 そして一度ダンジョンに潜って帰還した探索者達は荷物を降ろし、そのまま『控え』に入る。休息や治療が必要な探索者はそのまま治療に移り、もう一度探索に出る者は再度他の『控え』探索者達とパーティを組み直す。

 この時多くの探索者は初対面かそれに近い状態なのだが、彼らは全く躊躇しない。すぐさま連携を取って再度ダンジョンで稼ぎ始める。

 戦闘スタイルの違いや人間的な相性といった不備はあるものの、それが原因で探索活動を中止したパーティはここまで1つもいない。

 これは誰と誰が組んでも一定の成果を上げる為のシステム。『性格』等の人間的な相性に依存し過ぎない、()()()()()による役割分担の徹底化によるものである。

 

 私は近接戦闘が出来る。俺は魔法を使える。ならば組める。言葉にすればこれだけである。

 しかし言うは易く行うは難し。誰にだって人間の好き嫌いはある。場合によっては嫌いな人間に背中を預ける必要がある。

 役割を理解していても生理的な嫌悪感まで消し去ることは本来人間には難しいのだ。

 しかしこの街『ダイダロス』の探索者は一丸となって自らの役割をこなしている。()()()()()()()()と知っているからだ。

 これを人単位ではなく探索者全員で行う風景は『ダイダロス』以外ではほぼ見られないだろう。

 

 これまで探索者を死なせないことを第一に考え続け、あらゆる安全策を行使する事で積み上げてきたのはたった20年という歴史。

 たった20年、されどヘレスが心血と時間を注いで造り上げた探索者達の連携技術、役割分担におけるノウハウの積み重ね。

 それこそが数あるダンジョンタウンの中で『ダイダロス』が最も安定して利益を叩きだしている要因なのだ。

 無論、今もヘレスという一個人が陣頭指揮を執ることで成立していることは揺るがない事実であり、完全なシステム化には遠く及んでいない。

 それでもただの一個人が世界で有数の『ダンジョンタウン』に仕上げた功績は計り知れないものだ。

 

 そんな折、手早く指揮を回すヘレスの元に一人の協会職員が駆け寄る。

 非常に真面目な職員で常に冷静沈着、ヘレスの仕事に忠実な職員である。

 彼はその仕事ぶりから『帰還』のスクロールを用いて戻ってきた探索者達の対応に当てられている。そんな男がいかにも真面目くさった顔で報告を行った。

 

 

「会長、6階よりスレイ調査騎士のパーティが『帰還』しました」

 

「予定日時はまだ先の筈、やはり何かしでかしましたか。状況は?怪我人はいますか?死人は?」

 

「いえ、疲労しているものの……はい、全員無事です。今の所は、おそらく」

 

 

 しかしヘレスは訝しんだ。彼の濁し方があまりに露骨だったからだ。

 彼はヘレスがイライラして机の上を指でコツコツと叩いても、必要なら表情一つ変えず書類にサインを求める男だ。

 無論必要無ければ近づかない気遣いも出来るのだが、やると決めたら躊躇わない。いかにもヘレスの部下と言った鉄の男だ。

 そんな男が今一つ曖昧な報告をしている。いつもハキハキとした男が確信を得ない言い方をしているのにヘレスは少しだけ腹を立てた。

 

 

「なんですかその言い方は、貴方らしくない。何があったか具体的に言いなさい」

 

「……分かりました。『徘徊者』が同席しています。現在手すきの探索者達が帰還所を包囲、会長の指示を待っています」

 

「……………………はぁ?」

 

 

 反射的に2人の足が『帰還所』へと進み始める。それと同時にヘレスの心臓が早鐘を打ち始める。

 何故今?何をしたらいい?この2つが瞬時に脳内を駆け巡って反芻した記憶を怒り交じりに処理する。

 だから言いたくなかった。そう言わんばかりに苦虫を噛み潰した顔で男は続ける。

 

 

「詳細は分かりかねますが、聞いた限りでは『帰還』に巻き込まれたようです。リーダーのエナは優秀です。ポカをするとは思えませんから、ダンジョンで何かあったのでしょう」

 

「今すぐダンジョンに叩き返してやる」

 

「会長、口調が」

 

 

 杖を握る手が震える。恐怖ではない、怒りでだ。

 なんでこのクソ忙しいタイミングで地上に出てきたんだ。7階の怪物がなんだ、事と次第によってはここで今すぐ殺してやる。

 言葉にせずとも速足で進むヘレスからは、その鬼のような気迫が溢れ出ている。通りすがった職員達が「ヒィッ」と悲鳴を上げ即座に道を譲り始めたことからも明らかだ。

 会長には伝えず内々で処理すべきだったか、あるいはできただろうか?そんな思いが職員の頭を過ぎるが、既に伝えてしまったのだから仕方がない。

 この後何が起きるのかは誰にも分からない。しかしまず間違いなく何かは起こるだろう。

 通りすがりの職員達へ矢継ぎ早に指示を出しつつ、男へ幾つか訪ねる。

 

 

「『聖歌隊(クワイア)』……は今はいいです、団体の動きが気になる。『金剛石(ダイヤモンド)』の主力、それから『命綱(ライフライン)』の所在は?」

 

「いずれも先刻出たばかりです。呼び戻しますか?」

 

「結構です。今彼らは()()()()の直前、いない方が都合がいい。ああそれとミリアム達はどこにいますか」

 

「ミリアム?あぁ『騎士捜索隊(ナイトシーカー)』の。周期を考えればそろそろ戻る頃かと」

 

「運がいいやら悪いやら、ああもうここまで順調だったのにほんと最悪……とにかく急がなくては。何が起こるか全く予想がつかない!もう嫌っ!」

 

 

 今すぐ頭を掻きむしりたい欲求を無理やり押さえつけ、再度帰還所へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(眩しい……そうだ、日の光は温かいのだった)

 

 

 柱のようなモニュメントに背を預け、『徘徊者』はガラス張りの天井を見上げる。

 今は正午に近いのだろう、太陽が丁度真上に来ている。全身を包む暖かな日差しを一身に浴びて、自分が人間に戻ったような気さえする。眼を灼くような光すらも今は愛おしく思えた。

 

 

(どうだ少年、久しぶりの日光は。ガラス越しとはいえ、私は涙が出そうだよ)

 

(……あったかい)

 

 

 太陽は本来眩しくて暖かい物なのだと、こうして日を浴びるまで2人はすっかり忘れていた。

 ダンジョンの焚火も確かに温かい。だがダンジョンの創造神が聞けば怒るかもしれないが、身体を包む日差しはそれに遥かに勝る。たとえ冷たい甲冑が身体を纏っていたとしても、いやだからこそ陽光を強く感じる。

 モンスターの身体に転じてからようやく、かつて日の下で暮らしていた人間だったと思い起こさせてくれたような気さえする。

 人間は日の下で暮らす生き物であり、そして人ならざる身であっても大いなる太陽は慈悲を与えてくれる。

 地上に現れたのは不慮の事故とはいえ、なってしまった以上状況を楽しんだ方がいい。どうせ楽しむのなら今は酔えない酒を飲むより、日差しの熱を感じていたい。『徘徊者』は存分に今の状況を楽しむつもりだった。

 

 

(もっとも、悠長にそれを許してくれるような状況でもないようだが。参ったな、もうしばらくは下積みと考えていたから何も用意していない)

 

 

 安穏とした空気を味わいたいと言うのに、周囲一体から感じる視線に含まれているのは強い緊張に敵意、憎悪、そして殺意。

 それもそうだ。まだ彼らが初めて地上に姿を現してから半年。出会ったことのない大多数の探索者にとって、噂の尾ひれに塗れた何が正確な情報かも分からない。ただ一つ分かっているのはモンスターが自由に階層を歩き回っており、最初の犠牲者ミリアムを除き奇跡的に人的被害が認められていない。それが半年続いた状態なのだ。

 もう一度半年前の再現が行われるのではないか。かつてミリアムを腕に抱いて現れた『徘徊者』のことが記憶に焼き付いている探索者もいる。

 

 

(総勢60、手練れは……20、いや15人くらいか?どうする少年。君が望むならば)

 

(何もしてこないってことは、誰かを待ってるってことだと思います。話が出来る人が来るまで待ちたい、です)

 

(分かった、それに従おう。それと敬語はいらないぞ)

 

(えっ、でも年上だし)

 

 

 年長者を慮るその姿勢、大変良い。また中の騎士の少年に対する好感度が上がってしまった。

 同じ年の頃、自分はここまで謙虚になれただろうか。断言してもいい、絶対になれなかった。騎士は自信をもってそう答えるだろう。騎士は己の強さに対する無自覚な傲慢さを自覚するまでにとても苦労したのだ。

 誰から見ても天狗であり、事実頂点でもあった時を顧みる暇も無く、慌てふためいたパーティからは悲鳴にも似た懇願が放たれ、そこに涙ながらの声が混じる。

 

 

「み、皆ちょっと待ってくれないかいっ!?これは不幸な事故で、えーと、んー、ともかく!ここにいるのは彼の本意じゃないんだ!信じてくれないかなっ!?」

 

「あ、あはは、もうだめだ。俺達はここで死ぬんだ。仲間達の手に掛かって終わりなんだぁ……」

 

「凄いねぇ、今いる探索者全員が私達に武器を向けてるよ。こんなシチュエーション人生初、いやひょっとして探索者史上初じゃない?」

 

「いや、そうとも限らん。20年以上前の話になるが、昔ダンジョン犯罪者の───」

 

「そういうの後にしてっ!?と、とにかくヘレス会長が来るだろうしそれまで待機!あんたもね『徘徊者』!」

 

 

 向けられた指示に『徘徊者』は黙って従う。いずれにせよ少年の声が騎士を止めた以上、ここから動くつもりは無い。

 それにもう少し日の光を浴びる為、青空を見上げていたいのだ。

 

 

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