転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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6 亡者の資質

 

 

 

(キツいな、これは……)

 

 

 何も考えず、身体と精神に突き動かされるまま必死に走って、気が付けば2階層終端。

 邪魔する1階のゴーレムをどうしようもない憤りのままに叩き潰し、ようやく考える余裕が出来た頃には、もうこんなところまで来てしまったらしい。

 それでも胸の内を掻きむしりたくなるこの想いは、燻る薪のようで苦しい。

 僕は通路に背を預け、鬱屈とした感情を腹の中で渦巻かせる。

 

 

(……何を今更悲しんでるんだ。今の僕はモンスターだぞ、こうなるのは分かってたじゃないか)

 

 

 期待してなかったと言えば嘘になる。

 分かりあえると、僕は人間だと分かってくれると内心期待していたんだ。

 けれど結果はどうだ?怯えて逃げる衆人環視の中、立ち向かう人の怒りを誘発しただけ。

 馬鹿なことをした。僕のやったことは不安を煽っただけでしかない。

 耐えきれず目を閉じると、剣をぶつけてきた青年の眼が暗闇の中に浮かぶ。

 

 

(僕はもう化け物なんだな。人間の、敵になってしまったんだ……)

 

 

 大して痛くも無かったのに、彼に斬られた腕と肩が酷く重く感じた。

 鎧の傷を増やすこともままならないあの剣は、後の二撃よりもよっぽど痛かった。

 怒りを込められた剣は身体でなく、心に傷を多く残すということだろうか。

 彼女、ミリアムさんを抱えていた筈の左腕も、以前よりずっと軽くなってしまったような気がする。

 

 

(気持ち悪いな、僕は)

 

 

 これが初対面の人間に思うことかよ、気持ち悪い。

 自虐でようやく笑えるようになった時、少しだけ考える余裕が戻ってきた。

 まずダンジョンの外についてだ。

 

 

(出てすぐ街があった。ということはダンジョンを中心に栄えてるのか?ならすぐにここが閉鎖される可能性は低いだろう……多分)

 

 

 ダンジョンで手に入るお宝は高値で売れるとか、貴重なモンスターの素材売買とか、そういうのを想像する。

 僕が最初にいた階層からここまでかなりの距離がある。まだ未探索の領域だってかなりあるはず。

 つまりこのダンジョンの資源的な価値はとても大きいんじゃないだろうか。ならばすぐには閉鎖とはならないはず。そう思いたい。

 続けてあの時見かけた人達。種族だ。

 

 

(パッと見た感じ人間と『エルフ』、『ドワーフ』、それから頭が龍で身体が人型……『ドラコニアン』って言うのか?は確認できた)

 

 

 色んな種族が分け隔てなく、パーティーを組んでこのダンジョンに挑戦しに来ているらしい。

 探索稼業はこの世界じゃメジャーな職業なんだろうか。

 ……皆僕を見て逃げ出したが。ひょっとして僕が考えてる以上に、このモンスターは恐れられているんじゃないか?

 確かに深いダンジョンは下の方程、敵が強いのはお決まりだ。見た目もおどろおどろしい、本当にいいとこなしだ。

 

 

(最後に会った5人……強そうな気がした)

 

 

 彼らは全員種族人間だったな。あの時は頭が真っ白になってしまって逃げだしてしまったが、思い返してみると重要な情報が多い。

 まず最初に撃たれたあの見えない攻撃。あれは多分、ゲーム的に考えるなら『魔法』とか『奇跡』みたいなものだと思う。

 ダメージはほとんどなく衝撃を与えるもののようだ。あれで体勢を崩されるのは厄介だ。

 

 なにより剣士の青年、それから神官の女性から『奇襲攻撃』を受けた筈なのに、この身体は『戦闘』をしなかった。

 三度だ。三度攻撃されたのに戦いだと判断しなかったのだ。これは考えておかなくてはならないだろう。

 基準はなんだ?怪我をさせられていないことか?いや、それならミリアムさんの時に攻撃したのがおかしくなる。

 攻撃意思の有無?いやむしろあの四人の時よりも強く向けられていただろう。

 

 

(……ダンジョンの外にいたから、とか?)

 

 

 ダンジョン内部ではモンスターに対して『戦闘』を行わせる強制力みたいなものがある、とか。

 そこまで考えて、やめた。どうせ今は外には行けない。

 いや強行突破出来ないということはないが、したくない。あの人達の目を思い出すだけで自己嫌悪が止まらなくなる。

 醜い怪物、悍ましいモンスター、恐ろしい人類の敵。それが今の僕なんだ。

 大人しく、ダンジョン内で出来ることを探した方が精神衛生上マシだ。

 出来ることなら彼らに謝りたい。その為にも準備と理解がいる。

 地表に出るのは……もう少しこの身体への理解度を上げて、落ち着いてからにしよう。

 

 

(これは確認がいりそうだ。どうしたらいいか見当もつかないけど……当分の目標にはなるか)

 

 

 とにかく今は他の事を考えず、集中できる何かが欲しい。せっかくだ、この機会にこのダンジョンを『探索』してみよう。

 一息つき、立ち上がってまた下の階へと向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ヴ

 

 

 地下1階……これだとまどろっこしいな。1階から離れて今は3階層まで降りてきた。

 1階にいたらまた捜索に来るかもしれない彼らと鉢合わせてしまうかもしれないからだ。しばらくはこの辺りで静かにしよう。

 しかし3階は1、2階に比べると光源が少なく足元が不安定になる。夜目が利く僕にはいらないけど、探索するなら松明が必須だろう。

 そこらを闊歩するモンスターの顔ぶれも変わっている。上の階層は知性がほぼ無い獣や昆虫が多かったのに対し、ここは知性をある程度持った奴が現れ始めている。

 

 徒党を組むゴブリン、ワーウルフ。死者が亡者となったであろうゾンビにスケルトン。

 こういった集団、かつ武器を手にしたモンスターが散見される。

 あれらは僕を見つけると静かに近づき奇襲を仕掛けてくる。僕自身耳がいいから早々に気付くことも多いのだが、やはり怖い。

 負けはしない(自分で勝ってるとも言い難い)が心臓に悪い。

 足元に転がるモンスターの死骸から目を背けつつ、この階層を練り歩く。

 

 

(僕の前世、その記憶がどんどん薄れてきている。これも身体の影響なのか?)

 

 

 ふとした瞬間に昔のことを思い出す。

 覚えていることは多い。自分の名前、家族の事、生まれた場所、半生、倫理観は自分に根付いている。

 けれど抜け落ちた記憶も多い。どうでもいい思い出、友達や知り合いの顔、自分の職業なんかは思い出せない。

 こういうのを意味記憶とエピソード記憶と言ったような。前者は残り後者が無くなりつつあるみたいだ。

 やがて意味記憶、特に倫理観が無くなれば僕は他の甲冑達と同じになってしまうのだろう。

 それも踏まえて、より人間らしい行動を心掛けなくては。ああなってしまうのだけは嫌だ。

 

 

ハァ……

 

 

 どんなに考えても、寂しさばかりは拭えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ……」

 

「?」

 

 

 何か発見は無いかとブラブラ歩いていると、ふと耳元にうめき声のようなものが聞こえる。

 周りを見渡すと左に小さな洞穴がある。その先から聞こえてきたようだ。

 この図体では入ることはおろか、肘まで入るかかどうか。それくらいの小ささだ。

 しかし妙に明るい気がする。好奇心に釣られて覗き込んでみる。

 

 

「キィ……キィー……」

 

(ん……?鳥の、雛?)

 

 

 小さな鳥の巣の中心に寝そべっている。暗闇の中で薄く蒼く発光している鳥の雛だ。

 もうこの時点で普通とは言い難いが、痩せこけていてぐったりとしている。

 これもモンスターの一種だろうか。驚いた、ここに来るまでモンスターの()()というものを見かけたことが無かったからだ。

 モンスターというのはダンジョンから突然生まれるものだと思い込んでいたが……そうではないのか?

 なんにせよ、これが人を襲う可能性があるのなら……。

 

 

(……できもしないことを考えるな。見捨てていけない)

 

 

 見てしまった以上、知らなかったことには出来ない。

 何か餌になる物は無いかと沼の中に手を突き入れ漁ってみる。

 確か下の方で遺骸から回収した物の中にパンが……あった、ちょっと固いが食べられるだろうか。

 試しに小さく千切り、隙間に手を伸ばして雛の嘴の先にそっと置いてみる。

 すると雛はすぐ傍の匂いを嗅ぎつけたのか、首を伸ばしてそのまま口へと運ぶ。

 

 

(おぉ、食べた。よかった、噛む力はあるみたいだ)

 

 

 指先サイズに千切ったパンを量産しつつ、そっと雛の前に置き続ける。

 憩いだ。まさかこんなところでアニマルセラピーの機会に恵まれるとは。

 そうしてしばらく置いていると、不意に雛が視線を上げてこちらを見る。

 しまった、怖がらせてしまっただろうか。そう思ったのも束の間、ゆっくりと立ち上がってパンを置いていた手にすり寄る。

 

 

「キィ……!」

 

(か……かわいい、ふわふわだ……!)

 

 

 鎧なのに指先の感覚がある違和感を極力無視しつつ、コロコロとした雛に愛着が強く湧くのを感じる。

 無い頬が綻ぶ。心が洗われていくのが分かる……。

 そのまま手元を伝って穴倉から顔を出し、対面する。

 毛色は白と空のような青色が混ざって綺麗なグラデーションだ。

 くすんだ黒紫の兜を見ても怯えず、掌の上にのそのそと乗り上げついには居眠りを始めてしまった。

 

 

(んー……まさかこれ、刷り込みなのか?だとしたら親鳥は?)

 

 

 雛鳥は最初に見たものを親だと認識する、みたいな話を聞いたことがある。

 だとしたら最初にまず親鳥を見る筈なのだが、衰弱しきった点、そして今の在り様からどうにも親を認識していた様子もない。

 なのにこの雛は心から安心して僕の手元にいるように見える。そういう種族かもしれないが……。

 

 とりあえず起こさないように、静かに移動しよう。

 こんな通路のど真ん中ではいつ何が起きてもおかしくない。もう少し落ち着ける場所へ行こう。

 

 

(エゴかもしれないけど、見捨てていくのもな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことをしていたからバチが当たったのだろうか。

 

 

「……やっと、見つけたわ」

 

(げ、げぇ……ミリアム、さん……!?)

 

 

 二度目の再会はおよそ1週間後。

 3階からさらに下、4階の探索中のことだった。

 

 






『種族』

 この世界には人間、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、ドラコニアン、ドリアードなど多数の種族が共存している。
 各種族が多く住まう街や村、森もあるが『ダイダロス』を含むダンジョンを抱える街ではその地域の気候に合わせて探索者の種族が偏る。砂漠地域ではドワーフやドラコニアン、寒冷地域では人間やエルフが数多く在籍するなど。

 ドリアードやマーマンはダンジョン内でも見かける種族であるが、外で暮らす彼らとは種族名が同じだけで全くの別種族である。
 初めてダンジョンを探索した者達が「彼らと特徴が似ているから」とそう呼び始めてしまったことに由来しており、モンスター側の固有名称を変えるべきと訴え続けている種族も存在する。

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