転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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レポート『徘徊者』との会談記録(一部抜粋)・後半

・これまでの質問で、貴方が何者であるかという問いへの答えとなるでしょう。総括します。貴方はこことは違う歴史を経た世界から迷い込んだ死者の魂。それが何の因果かこのダンジョンの果てへと誘われモンスターに漂着した。同時期に亡くなったと思われるリューベル・ミラン氏も同様。なぜこのようなことが起きたのかは未だもって不明。こんな所でしょうか。他に質問は?……では以上を以て『彼は何者か』の答えとしたいと思います。

 

・では続けて『共存可能かどうか』についてです。それでは貴方個人……失礼、ここまで進めておいてなんですが、リューベル氏ではない貴方の事はなんと呼ぶべきでしょうか?

 あー……そう、です、ね……どうしようかな……ちょっと待ってくださいね。リューベルさんには『少年』と呼ばれていたけど……いきなり自分の名前を設定するのってこんなに難しいんだ……。

 

・では暫定的に『少年』と呼びましょう(以下『徘徊者』の呼称を『少年』あるいは『リューベル・ミラン』とする)。貴方から見て人間とはどのような存在ですか?

 最初に出てくるのは「仲間」です。でも一つの言葉で定義はできません。家族だったし、友達でした。

 

・それは貴方が過去に関わった人間のことですね。この世界の人間はどう思っていますか?

 そういえば考えたこと無かったなぁ……。出会った人みんないい人だったから、少なくとも悪い印象を持ったことはないです。それにこうして共存の道を選ぼうとしてくれてるなら、きっと僕の知ってる人間と大きな違いはないと思います。手を取り合い、互いに助け合って生きていくのが人間だと思いますから。

 

・なるほど。では貴方の生態に関して質問します。他のモンスターについてどう思います。

 凶暴な動物という印象です。とてもじゃないけど仲間とは思えません。僕にも襲い掛かってきますから、向こうも仲間とは思っていないんでしょう。

 

・同じ『血みどろ甲冑』もですか?

 仲間ではないです。ただ同じ種だからか、彼らは唯一襲い掛かってきません。近づいても声を掛けても無視されます。……あっ、リューベルさんは戦ったそうです。大声で威嚇しても無反応ですが、石を勢いよく投げてぶつけたりすると途端に敵意を露わにするそうです。

 

・子供ですか貴方は……。あのモンスター達からもある種特別だと扱われているようです。では次の質問です。権力や財物に興味はありますか?

 えぇ……偉くなってしたいこともないし、なれるとも思えませんが……。お金はあった方がいいと思いますけど、今は使い道がないしなぁ。貯金ぐらいはできるかも?お金が沢山欲しいって考えは今の所ないです。

 

・もしダンジョン協会から多額の支援金が出ると言ったら貴方は何をしますか?

 まずは使い道を探すところからですね。遺品の武器は全てお返しするつもりなので、新しい武器が必要になるかもしれませんし。あとは……もし拠点を作ってくれるならそちらにお金を。あっ、それは別枠なんですか?じゃあ特にないので探索者の人達の為に使ってほしいです。救助する人たちの装備とか、これから探索者になる人の為に使ってください。

 

・(絶句による沈黙が続く。発言者が魔術師代表に代わる)これほどまでに道徳の模範となるべき発言を、しかもこの場で出来る者が世にどれだけいることか。少なくとも倫理の面では問題ないだろう。問題は先にもあったが彼の不安定さだ。モンスターとしての側面、沈黙を続けているその衝動がいつ出てくるか分からない。これは大きな問題だ。それは君自身理解していると思う。

 ……はい。

 

・(ミリアムの挙手、発言が促される)あくまで体感にはなりますが、当時戦った際は負けましたが今なら負けません。十全な準備さえあればあの時だって負けませんでした。その後再戦したとき……えーと……リューベルさんと戦った時の方が遥かに強さを感じました。

 (リューベル氏が強烈なショックを受けていることが少年より伝えられる。ヘレス、並びに魔術師代表はこれに反応しない)

 

・君の発言の意図は理解している。今モンスターとして暴れた所で精々が『血みどろ甲冑』一体の戦力、即ち適切に見張りさえ立てれば取るに足らないと言いたいのだろう。だがそう言う問題ではない。モンスターが地上に居続けること自体が問題だ。かつてモンスターを地上に連れ出した一件があったはずだ。あれに詳しい者はいるか?

 

 (探索者「ヴァズ」が挙手)22年前、発生場所は『アレス』。研究者の一人が探索者3名を雇い、『麻痺』状態のバットを一匹地上に引きずり出すよう命令した。その結果『禁忌』が発生。実行した研究者と探索者全員に四肢の欠損や臓器の損傷と言った被害が出た。地上に発生したバットは『麻痺』が解けた直後から無差別に周囲の人間を襲おうとしたが、居合わせた探索者によって始末された。当時の協会は企画した研究者並びに所属研究所に多額の賠償金を請求したが、支払い能力が無かった為飛んだ。

 

・ありがとう。『禁忌』と探索者達の被害は今回と関係が無い為この際置いておこう、問題はその後のモンスターの行動だ。たとえ1階のアリや蝙蝠一匹でも非戦闘員を殺すには十分すぎる。それが6階の警戒対象なら尚更だ。街のどこに現れても壊滅的な被害を被るだろう。……あくまで客観的な意見として申し上げる。現状彼を地上で生活させるのはリスクが大きすぎる。万が一モンスターとしての側面を表したまま対処が遅れれば、被害はどれ程の物になるか想像もつかない。

 

・(会談参加者が騒めく。「今まで彼は一切の問題を起こしていない!」「彼の行いを、精神までも否定するか!」倫理について問う声が上がっている。協会長が大声を上げる)静粛になさい!ここは私達が問題を解決する場ではありません!ここは彼のルーツを、ひいては為人(ひととなり)を知る為の場です!魔術師代表、貴方も何かを決定づけるような発言は慎んでいただきたい!(「すまない。結論を出すつもりはなかった」と発言)全員冷静になってください。論じたいという感情は理解します。ですがそれはこの後、全ての事実を地上に持ち帰ってから検討する事です。

 

・まず彼自身の要望を明確にし、その要望を現在の法規則に照らし合わせて実現可能かどうかを検討する。内容としてはそこまで、感情や倫理への訴えはここでするべきじゃありません。絶対に決着がつきません。……話が逸れましたね。改めて聞きましょう。地上で活動する際にしたい事、事前に伝えたいことはありますか?

 ありがとうございます。それなら外で日差しを浴びたり、望んでくれる人がいれば話が出来る場所が欲しいです。それさえ頂けるなら、それ以外の時間は今まで通りダンジョンの中で過ごそうと思います。

 

・それだけですか?他にはありますか?

 もし……もしも叶うなら、心を落ち着けて休める場所が欲しいです。この身体はあんまり疲れないけど、たまに静かに落ち着ける場所が欲しくなるんです……。

 

・機密性の高い拠点と言うことですね。地上の拠点となるとその出血が一番ネックになります。魔術師代表にお聞きします。彼の溢れる血液を障害にならないよう手を打つことはできますか?(発言者が代わる)ローテクでいいなら、コーティングした床を血液が一か所に流れるよう傾けて設計するべきだが……あまりに不便だ。それにつまらない。(発言を窘められつつ、随伴の魔術師と相談している)……あぁ、それなら理論的には可能だな。技術的にはこれから可能にすればいい。問題ない協会長、十分に可能だ。

 

・その言葉を信じましょう。他にはありますか?

 えっ……いや、今の所はそれだけです。

 

・分かりました。では我々の当面の方針として、貴方の倫理観への議論。そして拠点について地上で実現可能かどうかを論議することになります。それにはまた時間がかかります。結果が決まり次第探索者を遣いに出すか、指定の安全地帯へ定期的な書置きを残します。ひとまず1週間はなるべく低階層にいてください。

 分かりました。でもすれ違いが起きそうです。ダンジョンの外から直接連絡を取る手段はありませんか?

 

・残念ながらありません。ダンジョンは原則外部からの干渉を完全に遮断してしまうのです。通信鏡も一切機能しません。個々人の能力により可能な場合もありますが、現存する技術では不可能です。何かアイデアがあれば随時募集中です。

 地下への連絡が難しいのはどこもそうなんですね。分かりました。

 

・ここまでの質問により、彼の共存に対する姿勢は概ね確認できたかと思いますので総括します。これまでの行動や発言、思想から彼が人間と同じ倫理観を保持しているのは明らかです。ここまで黙秘の権利を使用していないのもそれを助長している。しかしながら肉体、あるいは精神面に本人にも制御不可能な不安定さを抱いている可能性は捨てきれない。要望そのものは実現可能範囲であることから、残すは地上に住まう人々の意見によるところが大きくなると思われます。場合によっては……許可が下りないことも十分にあり得るでしょう。その点をご理解ください。

 はい。どのような結果であっても受け入れます。

 

・ありがとうございます。ではこれにて『彼は何者か』『共存可能かどうか』についてのインタビューを終えようと思います。想定よりスムーズでした。ご協力ありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました。皆さんもありがとうございます、お疲れさまでした。

 

 

───ダンジョン歴211年。ダンジョン『ダイダロス』協会長ヘレス主導による知性持ちモンスター『徘徊者』へのインタビュー記録。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……機材は終了しましたか?結構。ではこれより記録に残さないインタビューを行います」

 

「(えっ?き、聞いてない……)」

 

「聞いてないと言いたげですね。当然です、言ってませんから。言ったら記録に残さなきゃいけなくなるでしょう。この機会に聞いておきたいことが山ほどあります。それを見越して終了時間も設定してあります」

 

 

 冷徹なヘレスの目は少年をしっかりと見据えていた。こんな格式ばったインタビューだけで終わらせる気など毛頭ないと言わんばかりの圧だ。

 周囲の撤収作業中の人間は誰一人として目線を合わせない。隠していたことの罪悪感、そして口答えしようものならどんな目に会うか分からないからだ。

 魔術師代表の先生は肩を竦め、慌てて周囲の探索者を見ても諦めろと首を振るばかりだ。

 

 

「貴方の持つ異世界の知識を欲しがる研究者は多い。貴方の思う宗教観は貴方が思う以上にこの世界に影響力を持つ。貴方の常識はこちらの非常識、そしてその意識に付けこんで悪事を働こうとする者は必ず現れます。貴方はこれから自分の影響力と言うものを常に考慮しなくてはなりません。これは貴方自身の立場を正しく認識してもらう為の物でもあります」

 

「(……ありがとうございます、ヘレスさん)」

 

「彼はなんと?……礼を言われるようなことではありません。管理者として貴方の影響力を出来るだけコントロールしたいという下心です。ついでにこちらだけが握っている情報を意図して作り他国、ひいては『国』に有意な立場を作ります。これは貴方を政治から遠ざける為にも必要な事です。なので少しでも有利な立場になるよう、可能な限り情報の提供をお願いします」

 

「(ヘレスめ、毒蛇のような振る舞いに磨きがかかっているな)」

 

「今私の事バカにしました?」

 

「(僕はいいえです。分かりました、僕に答えられることなら精一杯答えます!)」

 

「素直ですね。リューベルはいずれ絶対にしばき回しますので覚えておくように」

 

 

 機材は撤収しつつも、研究者達の視線は今も爛々と輝いている。探索者達もまた、世界の誰もが未だ知らない景色への期待に胸が高まっている。

 そしてそれを詳らかにせんとする少年もまた、期待を持っていた。自分すらも知らない自分。それを彼等なら暴き、導いてくれる。

 このインタビューは正しく、全ての始まりであった。

 

 

「同意してくれたのです、速やかに始めましょう。世界初、異世界との交信。そして世にも貴重な、極めて安全な異文化交流です。彼から大いに学ばせていただきましょう」

 

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