転生先が悪逆非道の血みどろ騎士モンスターで詰んだ男、過酷な迷宮で救いを見つける   作:飛び回る蜂

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 遅くなってしまいましたが、読んでくださる方々に改めてお礼申し上げさせて頂きたいと思います。
 お気に入り、評価、誤字報告等々誠にありがとうございます。読了や感想は全て目を通させていていただいております。
 投稿直前まで修正や確認を行っておりお返事まで手が回らず申し訳ありません。それでも尚誤字脱字が減らず汗顔の至りです。
 拙い文章ではありますが、今後ともどうぞお付き合頂けますと幸いです。改めて本当にありがとうございます。



63 現在から見える未来

 家を出てすぐ、ケインはアジーに声を掛けた。

 

 

「よかったのか?」

 

「いいんだよ。親子夫婦、人前じゃ言いにくいこともあるだろ?」

 

 

 『徘徊者』の家を出た4人の内、フェニエとクローカは早々に別れて駐在魔術師達の寄り合いへと向かっていった。

 会談を終えてからこの街には魔術師が駐在するようになった。彼らは今をときめく現職の研究者達である。

 ダンジョンを題材に研究をしている魔術師達にとってダンジョンタウンに住むのは一つの夢でもあり、提案された瞬間諸手を挙げて賛成していたのは記憶に新しい。彼等は皆一斉に探索者資格を取った。ダンジョンで実戦的に鍛えられた魔術師達に現職の探索者達も興味津々である。

 フェニエとクローカだけでなくこの街の魔導を征く探索者は彼らとの相互利益の為、そして個人的な交流の為に顔を出すことが増えているのだ。

 

 そして残された男2人はこれからどうするかを決める為に街中をポツポツと歩き始めた。

 これからあの家族が話すことはある意味とてつもないスキャンダルだ。異形と化した国一番の騎士とその妻の再会。成長した娘との邂逅。身体を共有する謎の少年。聞く人が聞けばこれだけで一大叙事詩を描くことだろう。何かのきっかけで売れれば当面の食い扶持に困らない額を稼げるのは想像に難くない。

 いつの時代も人は好奇心を掻き立てる物語を求めている。20年の時を経て蘇った英雄の話を聞きたがる人間は国内外問わずいくらでもいるのだ。

 それを無粋とするだけの心の余裕が今のアジーにはあった。

 

 

「1年前の俺なら飯の種にっつって首突っ込んだんだろうけどなぁ」

 

「今は違うのか?」

 

「アイツには苦労させられてるが、お陰で随分稼がせてもらった。これ以上ってのはがめつすぎる。まぁ大前提として、仲間の家族事情を金勘定で見る程腐っちゃいねぇよ」

 

 

 彼等『騎士捜索隊(ナイトシーカー)』の面々は『徘徊者』調査依頼を無事達成。加えて『徘徊者』との会談への同席による報酬を受け取ることに成功した。

 内容としては一人で慎ましく生きていくなら2年は働かなくてもいい額、それが2つ分と言ったところ。

 今まで手にしてきた報酬や稼ぎと比較すればとんでもない額の報酬が渡されるも、管理に悩んだアジーはその大半をダンジョン協会預かりとし、いつでも引き出せるようにする形に収まった。フェニエも同様だ。

 ケインとクローカは生活費や消耗品費を除いてその殆どを実家に送金し預かってもらうこととなった。個人で持つには大きすぎるし、ダイダロスに支店を展開する気も今はない。ただ元気にやっているという意思表示としてだ。

 余談だが、突如として大金が送られてきたことでケインの実家『ジョセル商会』では「これ保険金の類じゃないだろうな!?」と大きな混乱を巻き起こしているのだが、本人はまだそれを知らない。

 

 

「当面何もせんでも生きていけんだが……死ぬまで遊んで暮らせる額って程でもねぇ。またチマチマ食い扶持稼ぐ生活に戻るかね」

 

「皆で6階に行けばいいじゃないか。今までとは段違いに稼げるぞ?」

 

「まだ到達してない階層を稼ぎに含むのは頂けないぜケイン少年。もう目前なのは事実だが……はー嫌だねぇ、1年前はちょっと遊べる金と時間があれば安酒かっくらって寝っ転がってたのに。リーダー様に当てられたかねぇ?」

 

 

 彼等のリーダー、ミリアムはかつてこう言った。「私達は誰よりも先に行く」と。

 あの小さくも偉大な背中は、見返りに除く橙の瞳はあまりに鮮烈だった。これから何が待ち受けてるのかとワクワクさせられた。探索者とはこうあるべしと見せつけられてしまった。それは今も彼等の脳裏に焼き付いている。

 安定を求めることは何も悪いことではない。命を懸けずに暮らせるならその方がいいに決まってる。真面目に働くだけで生存が約束されているならその方がずっといい筈なのだ。そんなことは分かっているのだ。

 けれど不幸な、あるいは幸福なことに彼らは知ってしまった。命懸けの苦労と苦難の先に見える誰も見たことのない世界。約束されていない先の未来を目にできる幸福を知ってしまったのだ。

 『徘徊者』という存在がこの世に齎したのはただの変化ではない。彼はこれからの()()なのだ。彼の一挙手一投足を巡って世界は奔走することになる。それが良い方向なのか悪い方向なのか、それすら誰も分からない。誰も彼もがこの街の動向に注目している。

 『徘徊者』が一時的に暮らすと聞いて、探索者の誰もが思ってしまった。まさかこんな時代が来るなんてと。こんな景色が見れるなんて。危険な仕事だがやってきてよかった。生きていて良かった。こんなに刺激的で面白いものを、遠くで利益だけを享受している見も知らぬお偉いさんはゆっくり後からご覧になるしかない。ああ、探索者をやっていてよかった!と。

 ダンジョンタウンは薄汚い探索者達の街だ。そうレッテルを張られてきた。しかし『ダイダロス』は今、流行最先端の街となった。

 この街にいれば誰よりも早く先の世界を目に出来る。歴史上初を常に観測し続けられる。この魅力は何物にも代えがたい魔力をもって探索者を魅了しているのだ。

 平穏な生活を捨ててでも見たいものがこの街に現れてしまったが故に、彼等は喜んで探索者を続けてしまう。それが老い先を短くすると分かっていても、渦中から見える景色が次々と変わるのが楽しくて仕方がないのだ。

 

 

「これからの酒は量じゃなくて質に拘るといいぞ。うちを通すなら安くする」

 

「ありがとうございまぁす!やーっぱ持つべきものは友だよなぁ!」

 

 

 絵面を見れば若者に酒をねだる先輩といった様相はあまりに不審である。他者からは見えない信頼は間違いなくあるのだが、無精ひげの男が二十歳そこらの青年に酒だ酒だと集るのはあんまりな姿なのは間違いない。

 アジーの友情をたっぷり込めた熱烈な肩組みを、ケインは嫌そうな顔をしながらも突っぱねなかった。

 そんなアジーが何かを思いついたかのようにハッと表情を改める。真面目な話をする合図だ。

 

 

「あんじゃあさ、『デュオニソス』に足伸ばせるか?結構デカい酒屋に伝手があんだ。そっちとしてもいい取引になると思うぜ」

 

「うん、詳しく聞かせてもらう。……なんだかおかしいな」

 

 

 組まれた肩をやんわりと振りほどきつつ、ケインは静かに独り言ちた。

 

 

「俺、商売が下手なんだ。とにかく売って儲けたいって言う気持ちになれない。欲しい人が買えばいい、買いたくないならいいよって思っちゃうんだ。兄さん達が楽しそうにやってるのを見て、俺もそんな何かが欲しくてここに来たんだ。なのに探索者として少しは見れるような顔になったら、今度は商売の話をしてる。あんなに遠くて手が届かなかったのに、全然違う道に入ったらすんなりと始まった。変だろ?」

 

 

 そのつもりも無かった筈なのに。遠回りに遠回りを重ねて辿り着いた先は、元の場所から見えたあの景色だった。

 それがなんだかおかしくて、ケインは屈託なく笑った。アジーは思い当たることでもあったのか、笑ってそれを肯定した。

 

 

「道は一つじゃない。王道正道じゃなくても道は道さ。巡り巡って辿り着いたんだよ。お前の努力の証だ」

 

「そうかな?そうかもな。兄さん達が取引先に困らないよう、現地で知り合いを沢山作る。うん、これからはそういう方針で行こう。その点アジーは大先輩だ。これから色々教えて欲しい」

 

「お、おう?なんだ、そう言われると照れ臭ぇな。酒飲みの人脈でよけりゃあ幾らでも譲ってやんよ」

 

 

 アジーは今更ながらに思った。この男は素直で真面目で、これからどんどん成長していく若者なのだと。

 異種族との交流も多少の心得がある。その辺りを上手く教え込めれば、ケインの家はこの国に住む少数種族と商いが出来る数少ない商家となり得る。そのノウハウはどの商会も喉から手が出る程欲しいものになるだろう。

 将来性は抜群。それ相応の波乱はあるだろうが、ケインと行動を共にできる奴は勝ち馬に乗れると言っても過言ではあるまい。

 

 大して自分はどうか?今回の仕事で十分な蓄えが出来た。これを元手に探索者から足洗って商売をやるのもいい。方々に顔も利く、アクシデントでもなければ老齢まで生きていくのに苦労はしないだろう。ヘレスがそれを良しとするかはさておきだが。

 もしくは以前と同様適当な相手と組みながら4階辺りを周回しながら稼いで、更なる蓄えを作るのも手だ。まとまった金があるとはいえ安心して暮らすにはまだまだ足りない。装備も一新出来る。これまで以上に安全に稼げる探索が出来るだろう。

 あるいは先程ケインが言ったように深い階層でガッツリ稼ぐのも手だ。現在パーティとしての最終到達階層は5階。『エリート』として認められるには5階のボスを突破しなくてはならない。だがそれも今や時間の問題だ。次に本格的な深部探索に出ることがあれば、その時達成することになるだろう。

 自由な選択肢があり身体も十全。身体が資本の探索者にとって年齢は重要な要素だ。中には50近くてもバリバリ前線で戦うゴウカフのような例外もいるが、基本的には寄る年波には勝てなくなる。

 そんな中もうすぐ30を迎える探索者としては上々と言える。シンデレラストーリーとまでは行かないが、かなりうまく行っているのは間違いない。

 

 

「(……ナイーブになりすぎかね)」

 

 

 だと言うのに尾を引くのは過去のことばかり。ミリアムの母、リナに名を呼ばれてからというもの憂鬱さがどうにも付き纏う。寝酒をしたばっかりに吐いて拭い切れなかったゲロみたいな。思い出したくも無い嫌な記憶が床にこびりついてなかなか取れない。そんな気分だ。

 いずれ精算しなきゃならんよなぁ。そう考えてみるけど今やる必要もないと後回しにする。幾度となく繰り返してきたのだが、そろそろ潮時なのではないかとも考えている。

 

 

「(絶縁こそしてっけどなぁ~……また引っ張り出されちゃたまんねぇ。相手が相手、皆に迷惑かけたくもねぇし……)」

 

 

 そもそも探索者は脛に傷を持つ者も多く、身分を一切明かさないなど珍しくない。『ダイダロス』は少々潔癖すぎるところがあるが、本来探索者とは追い詰められた人間にとって最後の駆け込み寺という側面もあるのだ。

 指名手配犯でもない限りダンジョンタウンは全ての人間を受け入れる。人手はどれだけあっても足りない。なにせ人手が増えた矢先に減るのが探索者という職業なのだ。

 そのイメージを払拭しようとし、そして今や成功しつつあるのが品行方正たる『ダイダロス』、そして元々そういうイメージが希薄な質実剛健たる『アトラス』である。

 アジーはその逆。探索者をやるには血が綺麗過ぎた。そしてそれが今になって不安を煽る。血、ここ1年で嫌と言う程関わって来た単語だけに因果を感じずにはいられない。

 

 

「なぁケイン。俺達ぁ仲間だよな?」

 

「当然だ」

 

「即答か。お前いい奴だな」

 

「そうか?普通だと思う。でもアジーが言うならそうかもな」

 

 

 まぁあとでいいか。辛気臭い顔して心配してもらうなんてかっこ悪い真似はしたくない。

 そうして何と無しに「どっか飯寄るか」と話し合おうとした矢先、目の前の商店から2人の男が現れる。

 

 

「今後ともご贔屓に」

 

「どうも。おや……これはこれは、時の人が現れたようだ」

 

「その紋、レイソンの人。ひょっとしてラグロマナさんか?」

 

 

 1人は老齢の人間種族、商会長エボ。最近知った顔だ。しかしもう1人は面識がない。身ぎれいに整えられた衣装から貴族かと疑ったアジーの警戒心が高まるが、ケインの言葉にすぐさま警戒を解く。

 ラグロマナ・レイソン。ダンジョンの歴史上たった一人、探索者上がりの貴族だ。彼は貴族となった後もダンジョンタウンにはよく顔を出すらしく、今日は商取引の一環で直接顔を出しに来たようだ。

 

 

「ケイン、貴族様にタメ口利くもんじゃあないぞ。すみませんね」

 

「構わない。恭しくされてもかえって反応に困る」

 

「この男、若い頃散々探索者のことバカにしとったんだぞ。それが探索者から始まり、しかも成り上がって今や貴族だ。世も末じゃな」

 

「あの頃は若かったなぁ。あと老人っぽい語尾似合ってないですよ」

 

「はなたれが生意気言いおって」

 

 

 言葉とは裏腹に和気藹々としたやりとりがアジーの目に眩く映る。彼らなりのコミュニケーション。その姿はまるで意地悪な祖父と生意気な跡取り息子だ。彼らは長い関係の中で少しずつその関係を育んできたのだろう。

 ラグロを見るエボの瞳には強い安心感のような、ようやく未来を託せるという信頼のようなものが見て取れる。雌伏の時を経てようやく復讐を成し遂げたからか、それを経たことで過去を断ち切ることができたからか。

 憑き物が落ちた後の彼は他人のアジーから見ても爽快な物で、羽のように軽くなった心で生きていけるのは幸せだろうと感じさせた。

 

 

(どう足掻いてもいずれ直面するか。なら、巻き込まない方が……)

 

 

 アジーがぼんやりと当分先の出来事に思いを馳せている時、ふと思い出したようにラグロが2人に言葉を投げかけた。

 

 

「そうだ、現役探索者がいる内に聞いておきたいことがあるんだ。耳の早い君達ならもう知っているかもしれないが」

 

「なんです?」

 

 

 聞いた本人もあまりその情報を信じていないのか眉根を寄せている。

 しかし伝えないのもよくない気がする。そんな気配を滲ませながらラグロは呟くように伝えた。

 

 

「『アルテミス』で『()()』を見た、という噂が流れている。何か知っているか?」

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