SAO―切り裂き姫ととある騎士   作:チキン ボーイ

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第9話 犠牲と勝利

 

 

 

ボス……ツヴァイヘッド・ザ・ウォーリアーのHPバーは3本ありその内の1本が削りきられた。

攻略組全体に緊張が走る。ボスにとってHPバー己の命であり、また、枷でもある。

手負いの獣ほど危険なものは無い。死に近づくほどボスは強くなるのだ。

 

軍はここで下がろうとするのか、まだ粘るのか?

……下がるだろうな、先程の激昂で無理矢理戦意を上げたが、それも長くは持たないだろうし、少なからず体力も消耗している。

一度引いて仕切り直すのが定石だ。

 

俺はあんな啖呵を切った手前、殿を勤めるべきだな。

 

 

「2レイドとスイッチや!ボスの動きに注意しながら下がるんや!」

 

 

軍本隊のリーダーであるキバオウが撤退の指示を出す。そして入口に一番近い本隊はそそくさと撤退し、続いて攻撃特化パーティーが撤退しようと出口に向かうと……ゆったりとボスが動き出した。

 

 

「ボスが何かを起こそうとしてるぞ!」

 

「タンク部隊は防御用意しておけ!」

 

 

そう言って攻撃特化パーティーは入口に向かって走り出す。元から殿を勤めるつもりではあったが、こうも押し付けられるとイラッとくるな。

……そんな雑念は捨ててボスを見る。

 

ボスはゆったりとした動作で中腰になる。

そしてその足がライトエフェクトを纏った!?

 

あれは軽業(アクロバット)スキルの《バックアタック》か!?

《バックアタック》は跳躍してから半宙返りをし相手の後ろに回り込むスキルで、特徴として着地時に片手武器の単発ソードスキルを放てる。

 

それを二十メートルを超える巨体で行うということは……!!

 

 

「まずい!進むな!戻るッスよ!!」

 

 

ボスが跳んだ。ボス部屋の真ん中から飛び上がり俺達タンク部隊の真上を軽々と越えて、撤退をしようとしているパーティーの目の前に地響きをたてながら着地した。

その手には片手直剣範囲《ホライズン》が発動している。

タンクの敏捷値ではとても間に合わない。しかも、圧倒的質量が着地したときに生じる地震でパーティーは全員が軽い行動不能(スタン)状態に陥って……スパンッと軽い音がし、1パーティーがこの世から去った。

 

 

『『ウオォォッ!!』』

 

 

双口から挙げられた咆哮は、今までの戦いがまだまだ序章であること知らしめているようだ。

何よりこの位置取りは不味い……

撤退しようにも入口にはボスが陣取り退路が断たれてるし、外で待機しているレイドもボスの巨体に遮られ此方の状況が捉えきれず下手に踏み込めない。

まさかボスにブロックをされるような日が来るとは……

残された撤退手段は

 

 

「転移はじまりの街!!」

「て、転移フライヤ!」

「転移カリム!!」

 

 

転移結晶によるテレポートだけだ。

次々とプレイヤーが転移して行く、転移で逃げたプレイヤーは恐らくこの層の攻略に戻ってくることは無いだろう。

今この場に残っているのはヒースクリフや俺のように戦意を失っていない者か転移結晶を所持していない者かのどちらかだ。

前者は現状の突破口を探り、後者はがむしゃらに逃げようとパニックに陥っている。

ボスはそんな逃げようとするプレイヤーを率先して狙い攻撃をしていく。

 

逃げる者を優先して狙うAIを持っているのだろうか?

 

……またガラスの割れる音がする

 

逃げる者を狙うというのなら!!

 

 

「ヒースクリフ!ボス部屋の奥まで突っ走るッス!!」

 

「……ッ!了解した。此方は任せてくれたまえ。健闘を祈る。」

 

 

なけなしの敏捷値を全開にし、ボスとは反対の方向に駆け出す。勿論後ろにいるボスを確認することは忘れない。

此方の混乱はヒースクリフがどうにかしてくれるだろう、俺が今するべきことはボスをあの場からどかせることだ。

ボスが俺を見た、ゾクリと嫌な汗が背中を伝い、俺は槍を地面に突き刺して急ブレーキをかける。自分の武装重量と加速による運動エネルギーで止まるまでわずかばかりの時間がかかり停止する。そして俺は地面に刺した槍を回収もせずに来た道を死に物狂いで戻る。

 

 

「ぅ、うおぁぁぁ!!」

 

 

頭上が急に暗くなる。ボスが《バックアタック》を使用したのだ。

後方に超重量が降り立つ振動が伝わり体が強ばるが、みっともない雄叫びでそれを無理矢理押さえ込み前に進む。

もう後ろを確認する余裕もない。

 

 

「前に跳べ!!」

 

 

誰が叫んだのかも分からない、だが俺の体は素直にその叫びに答えていた。

前方に倒れ込むように飛ぶ。

その直後後ろに何かを降り下ろした爆音と衝撃が起きる。俺は衝撃により吹き飛ばされた。

視界の端に写るHPは黄色く染まり武器損失(アームロスト)のアイコンが表示されている。だが……

 

 

「……生きている。」

 

 

一種の賭けではあったが、ボスを入口から遠ざけることができた。

 

 

「全く、無茶なことをして……俺が叫ばなかったらどうなっていたか。」

 

「レイッスか……助かったッス。」

 

 

どうやら叫んでくれたのはレイニーだったらし。手を借りて立ち上がる。

周りを見ると軍のプレイヤーはもうほとんど居ない、離脱したのだろう。

変わりに聖竜連合と血盟騎士団のパーティーが増えている。

俺のパーティーリストからも二人が消えている……これが単に離脱したのか、はたまた脱落してしまったのかは後々分かるはずだ。今は考えるのはよそう。

 

 

「ケイッ、ヒール!!」

 

 

駆け寄ってきたアリーが俺の胸に手を当て、回復結晶を使い俺のHPを全快させる。

そのまま腕に抱きついてきた。抱きつかれて気がつく、その体が僅かばかり震えていることに……

心配をかけてしまったか。

 

 

「……バカ。」

 

「誰かがやらなくちゃならなかったんスよ。

でもごめん、心配かけた。」

 

「……反省してるならいい、武器どうする?」

 

「槍は……踏み潰されたッスか。ならあれを使うッス。」

 

 

装備フィギュアを操作して一つの武器を取り出す。

それは片手棍に属するメイスだ。槍のようなリーチは無いが、変わりに高い攻撃力と取り扱いのしやすさがある。

また、SAOにおいて数少ない打撃特化武器である。

 

 

「ケイ君お疲れのところ悪いのだけど作戦を伝えるわ。

まず、ケイ君達のパーティーに聖竜連合のタンク二人が入って、それをC隊とします。そして、そのパーティーリーダーをケイ君に勤めてもらいます。」

 

 

よってきたアスナがボスを見たまま作戦を伝えてきた。しかし、俺がパーティーリーダーで良いのだろうか?

俺基本的にアリーやキリト達としかパーティー組んだこと無いんだぞ?

 

そう発言しようとしたところ肩をパシンッと叩かれた。見てみるとそこにいたのはレイニーやパーティーメンバーが真剣な目で此方を見ている。

 

 

「心配すんな、いざとなったら自分達のことくらい自分達でどうにかするさ、攻略組だからな!」

 

「私が指揮するB隊とアリウムやキリト君がいるD隊、そしてC隊が一つの連隊として戦います。

団長が指揮するA隊、聖竜連合のE隊とF隊が一つの連隊となりスイッチしていく戦法を実施します。」

 

 

つまり、俺の背中にはパーティーメンバーだけでなくアリーやキリト、アスナ達の命が乗っているわけか。

……足が震える……盾を落としそうになる……どうしようもなく逃げてしまいたくなる。

 

キリトを見る……力強く頷いた。

アスナを見る……真剣な目で見つめてくる。

レイニーを見る……にかッと笑いかけてきた。

 

……アリーを見た。

 

 

「大丈夫、ケイならやれるよ。」

 

 

ホルンカの森で初めて見たあの優しき笑みをもう一度向けてくれた。

まだ……まだ足りない。

 

 

「……ケイ?」

 

 

メイスと盾を持ったまま、アリーを抱き締める。きっと今アリーの視界にはハラスメントコードが出ているだろう……

アリーが1タッチすれば俺は瞬時に犯罪者を閉じ込める黒鉄宮の牢獄に飛ばされるが……

 

 

「ごめん、少しだけ少しだけ勇気貰う。」

 

「……うん、私のでよければいくらでも。」

 

 

最後にぎゅっと抱きしめて、離れる。

暑かったのだろう、アリーは顔が赤くなっている。

 

 

「皆の命……確かに預かったッス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからいくら時間が経っただろうか?

何度あの武器を弾いたか……

何度あの衝撃を耐えしのいだか……

気付けはボスの体力は最後の1本を赤く染めていた。

 

 

「レイ!パリィするから合わせるッス!」

 

「分かった!」

 

 

降り下ろされる《バーチカル・アーク》が俺の威力重視単発スキル《リボル・インパクト》とレイニーの《ソニックスマッシュ》と衝突し、盛大な音をたてボスの片手直剣が弾かれ大きな隙ができる。

 

 

「今ッスよ!アリー!キリット君!アスナん!」

 

「「「はぁぁぁッ!!」」」

 

 

そこをキリト達が飛び出し、巨人の戦士の体をかけ上がる。

アスナの細剣が巨人の胸を、キリトの片手剣が双頭の片側を、もう片側の頭をアリーのダガーが切り裂き。

巨人が傷みで仰け反りキリト達が空中に投げ出される

ボスのHPは数ドットを残すのみだ。

 

そこで動いたのは空中にいたアリー。

軽業スキルによりもたらされる空中姿勢制御アシストをフルに使いその場で短剣八連撃スキル《エアリアルダンス》の発動姿勢を作り出した。

 

 

降下しながらボスの身体を切り裂き、最後は華麗に着地。

そしてその着地と同時にボスは青く輝き、ポリゴン片となって爆散。

 

全員の前にcongratulationsの文字が浮かぶ。

ボスが完全に消滅したことの証明だ。

いつもなら皆歓喜の声をあげるのだが、今回は誰一人としてあげようとしない。

喜ぶには、今回の犠牲は大きすぎた。

 

攻略組の約20人がこの数時間の間に死んだ。

特にそのほとんどが軍のプレイヤーであり、彼らへの心的ダメージは計り知れない。

現に彼らはボスのHPが赤になってもボス部屋に入ってこようともしなかった。

 

軍だけでなく聖竜連合や血盟騎士団からも被害者は出ており、アスナは痛恨面持ちでギルドの現状を確認している。

中には仲間の死に涙を流し、すすり泣く声も聞こえる。

 

 

「……アリー、キリト行こう。アクティベートしに。」

 

 

俺の仲間は誰一人として死んでいない、守りきったのだ。

死んでいった者達の分まで先に進むときめ、隣に座っている二人に声をかける。

他の者達は立ち直るのに時間がかかりそうだし、街で待つ者達にも攻略完了の知らせをしなければならない。

 

 

「……死んでいった者達は帰ってこない、なら俺達は進むしか無いんスよ。

戦った者達を忘れないためにも。」

 

 

 

その日二十六層が解放されたが、探索が始まったのは三日後のことであった。

軍はフロア攻略を諦め低層の保安に尽力する、という方針に変わりそれ以降前線に出てこなくなった。

 

そして俺は今、あの場所でアリーと酒を酌み交わしている。

 

 

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