今回主人公が若干チート気味になってしまった気がする……
いや、攻撃方面じゃなくて防御方面だから良いよね?良いってことにしときましょうよ。
「あー気持ちの良い朝だなぁ。」
アリーと別々のベッドで眠った翌日の朝、俺は何時もより早く目が覚めていた。
自分の真横にあるシーツの膨らみを幻覚だと目を反らし、意味もなくゆっくりとベッドから降り、これまた意味もなく音をたてないように気を付けながら部屋を出て、リビングに移動する。
あっと、そうだエギルに鑑定の依頼をメールで送っておかないと……ん?
「アスナんからメッセージ?」
『朝早くごめんなさい、今日の正午から行われる予定だった攻略会議だったけど、午前10時に早まったわ。
それで、パーティーをある程度決めておきたいから昨日の返事が決まり次第至急連絡をください。』
視線を動かし時刻を確認、午前6時18分、時間的にはまだ余裕がある。急いで起こす必要も無いだろう。
俺はメニューウィンドを開き、最近追加されたスキルスロットに何を入れるか考えを巡らせるのだった。
午前7時、結局スロットに入れるスキルは決まらず、保留にすることに決めたとき、ガチャリと寝室の扉が開き、シャツ一枚にショートパンツといういつも通りのアリーが表れた。
しいて変わっていると言うならどことなく付き物が落ちたようにも見える。
「おはようアリー。」
「おはようケイ。」
「メッセージ見たッスか?」
「アスナからの?見たよ。」
アリーが対面する席に座りる。もっと渋った顔をすると思ったのだが、その顔は変わることもなく声音も落ち着いている。
彼女なりに心の整理ができただろうか?
「……正直離れるのは嫌だし、ケイを危険な場所に行かせたくもない。
でも、今は我慢する。我慢して我慢して……
終わった後、またあの湖に二人で行って沢山甘える。
だから……どうか死なないで。」
最後は俺の手を自分の手で包み、じっと目を見て告げてきた。
「勿論ッスよ、酒とつまみでも持って行ってゆっくりしよう。
だからアリーも気を付けて。」
死ぬつもりもなければ、アリーやキリト達を死なせるつもりもない。
俺一人で守りきれるなど自惚れるつもりは無い。だからこそ今回はタンクパーティーに入り多くの人を護れるようにするのだ。
アスナに返信をし、ついでにエギルへと鑑定の依頼メッセージを飛ばし、俺達は攻略会議の会場である軍の本部があるはじまりの街へと向かった。
「これはまた……お前たち向けのアイテムだな。」
時間より少し早く軍の本部前に着いた俺達は、同じく早めに着いていたエギルにあのイヤリングの鑑定を依頼していた。
「アイテム名は
効果はペアを持っている相手のHPを確認できる、つまりパーティーを組んでいなくても生きてるかどうか分かるって訳だな。」
「確かに今の俺達にとってはありがたいアイテムッスね。」
「そうね、特別強いわけでも無いけど私達にはピッタリね。」
エギルからアイテムを受け取り片一方は俺が装備、もう片方はアリーが装備した。すると、パーティーメンバー一覧とは別にaliumの文字とHPが普通のサイズより小さく表示される。
「ケイ君、アリウム。」
ふと後ろから声をかけられ、振り向くとアスナと深紅の鎧を着こんだ男性が立っていた。
「本日は急な呼び掛けに応えてくれてありがとう。
二人は会うのは初めてかな?
こちらは血盟騎士団団長ヒースクリフ今回のタンク部隊の指揮を勤める方です。
団長、こちらが《守護者》ケイ君と《
この人がヒースクリフ……
アインクラッドにいるタンクでは最強と言われる男。
二十代後半くらいだろうか、痩せぎみで削いだような尖った顔立ち……とても強豪剣士には見えないが、その瞳からは圧倒するような力強さを感じる。
彼について知られていることは少ない。フロアボス戦に出てるくこともほとんど無い、フロアボス攻略で指揮を勤めるのはいつもアスナだ。
他のギルドリーダーは自ら指揮をとっているというのに……
何故ボス戦にも出てこない奴がギルドリーダーをやれているのか疑問に思っていた。
だが、相対して理解した。この男の持つカリスマ性を
「二人の活躍は私の耳にも届いているよケイ君、アリウム君。」
「こちらこそ、貴方の噂は山ほど聞いてるッスよ。ヒースクリフ団長殿。」
「…………」
握手を求められそれに応じる。握られた手から伝わる力強さが改めて彼が一流の戦士であることを再認識させた。
「君とは同じタンクとして色々と語り合いたいものだが、いかんせん時間は有限だ。それはまたの機会までとっておくとしよう。
我々タンク部隊は2レイド目で出陣だ。」
「ちょっと待つッス、2レイド目?1レイド目からじゃないんスか?」
「私とてそうしたいのは山々なのだが、1レイドは軍のプレイヤーだけで固められてしまってね。」
「……LA狙いね。」
ボスはHPバーが減れば減るほど行動にイレギュラー性が増してくる傾向がある。
軍としてはイレギュラー性が少ない内に攻め、イレギュラー性が増してきたときにボスを俺達2レイドの押し付けるつもりなのだろう。
そして翻弄され消耗している俺達が回復している間にLAを奪っていくという作戦。
「無論私とてこの案を鵜呑みにするつもりは無い、この後の攻略会議で抗議をするつもりだ。」
だが、それでも焼け石に水程度にしかならないというのはヒースクリフも理解しているのだろう。
数という力を持った軍は止まることを知らない、いや知ろうとしない。
多数決などとはこの場合何の意味もなさない。
1・2レイド合わせての軍の割合は6割を越えている。多数決はただの出来レースに成り下がってしまった。
「2パーティー混ざれれば上出来ッスかね……」
LAを奪われることよりも大規模な被害が出ないかが心配だ。
最近は結晶というアイテムが出現するようになり戦闘は比較的安定している。
結晶にはHPを回復させる回復結晶、毒を打ち消す解毒結晶、瞬時に指定した階層の転移門へ移動できる転移結晶などが有名だ。
従来の回復手段であるポーション類は使用してから回復しきるまでに時間が必要だったが、結晶はキーワードを言うだけで瞬時に回復できる。
その分出回っている数が少なく値段が結構高い。特に瞬時に離脱できる転移結晶は需要が高く、今の攻略組でも持っている人数は半分もいないだろう。
俺も回復結晶と解毒結晶は数個所持しているが、転移結晶は一つしか手に入れられていない。
情報屋の見解ではさらに上層に行けばショップで発売されるようになるのでは?ということだった。
「さて、私は他の者にも挨拶に行かねばならない、また後で会おう。」
「また後でね。」
アスナとヒースクリフが去っていく。他のタンクにも挨拶に行くのだろう。
……その後、攻略会議で行われたヒースクリフの抗議により2パーティーのタンク部隊が1レイドに混ざることになり、俺の属するパーティーはその2パーティーの内の一つに選ばれた。もう一つのパーティーはヒースクリフのパーティーだ。
「回復結晶は持った?」
「持ったッスよ。」
「ポーションの数減ってない?私の分けようか?」
「減ってないッス。」
「転移結晶はちゃんとポーチに入れた?」
「入れたッス。」
「遠足に行く前の子供と親かお前らは!?」
アリーの念入りな確認に、隣で聞いていたキリトが思わずといったようにツッコミを入れた。二人は2レイドのアタッカーとして同じパーティーに入っている。
現在位置は二十五層のボス部屋の前、パーティーリーダーが作戦の最終確認を行っている間のちょっとした休憩時間だ。
「ケイ君、時間だ。」
「了解ッス、じゃ俺は先にドンパチしてくるッス。」
「ケイッ……」
ヒースクリフに呼ばれアリー達から離れる際、アリーに抱きつかれ耳元で死なないでと呟かれた。
顔を赤く染めながら自分のパーティーへと戻る。
俺のパーティーは血盟騎士団の一人がリーダーだが、基本的にはヒースクリフが指揮をとるらしい。
構成的には両手槍使いが二人、片手剣使いが三人、両手斧使いが一人、そして俺。
ボス部屋の扉が開かれ1レイドが部屋へと雪崩れ込む。
そして、ボス[ツヴァイベッド・ザ・ウォーリアー]がポップ。
『『オォォオォォォ!!』』
部屋全体をも揺るがすほどの咆哮と共に戦闘が開始される。
まず、軍のタンク部隊を含む3パーティーが前に出てヘイトを稼ぎ攻撃を誘発させる。
俺も盾スキルの《シールドバッシュ》を使いボスのヘイトを稼ぐ。
そして、ボスが狙いを定めたのは軍の片手剣使いのタンクプレイヤーだった。その手に持つ片手直剣にライトエフェクトを纏わせる。あれは片手剣の初級《スラント》か。
威力はそこまで驚異ではないが、スキル硬直も短く使いやすいソードスキルだ。
片手剣を持つモンスターもよく使ってくるし、攻略組ともなれば対処も難しくない。
片手剣使いも余裕を持ってシールドを構えて防いだが……衝撃に耐えきれず俺の横まで吹き飛ばされてきた。見ればHPバーはすでにイエロー1歩手前まで減少している。
おいおい、仮にも攻略組プレイヤーだぞ!
おまけにタンクでVIT重視の重鎧を着ている。このプレイヤーのレベルが安全マージンに達して無かったとしても、この威力は規格外過ぎる。
《スラント》一発でこれとは……もっと上位のソードスキルを食らえば無事では済まないだろう。
そう、例えばボスが発動しようとしている槍突撃技《ストライクスパイク》など食らおうものなら一撃でレッドまで追い詰められてしまうだろう。
ボスの狙いは俺の横で倒れている男だ。俺はボスと男の合間に滑り込み、盾を両手で支える。
「おい!時間を稼いでやるからさっさと立って回復しろ!」
「す、すまない……」
重鎧はその防御値の高さが売りだが、スタンしたときの復帰に時間がかかってしまう。
男はゆっくりと立ち上がり後ろに下がっていく、それを尻目にボスを確認。
ソードスキルが俺の盾とぶつかり火花を散らす、半端ない衝撃が体を突き抜けるが、それをしっかりと踏ん張り耐える。グリーブが地面を抉り二メートルばかりの線を描いたところでようやくボスの進撃は止まった。
このスキルは突進系の技の中でもリーチ、突進距離などは優秀である変わりに
「誰でも良い!スイッチしてくれッス!!」
「任せろ!!行くぞ!」
「「おぉぉ!!」」
軍のパーティーがスイッチし硬直しているボスに攻撃をしかける。
見れば側面や後方からも別パーティーが攻撃を加えていた。
俺のHPは先の防御で1割ほど削られたが、この程度なら
「タンク部隊は現状を維持せよ!
ボスのソードスキルは二人以上で防げ!」
ヒースクリフがタンク達に指示を出し体制を立て直した。
俺も同じ同じパーティーメンバーの両手槍使いと組む。
「レイニーだ。よろしくな守護者さん。」
「ケイでいいッスよ。基本俺が防いでレイがパリィ、上位のソードスキルが来たら二人でガードでいいッスかね?」
「それで良いんじゃないか?」
「じゃその作戦で、ボスも動き出したッスね。」
動き始めたボスは散々と攻撃をしてきた軍のプレイヤーに狙いを定めるが、そこにタンクがスイッチしてヘイトを稼ぎ攻撃を防いだ。
このままを維持できれば少なくともHPバー1本くらい削りきれるはず。
だが、俺の予想は最悪の形で打ち砕かれた。
順調に1本目のHPバーが削られ半分を切り、ボスが放った片手剣ソードスキルを軍のタンク三人で防いだ時だ……
通常なら格好の攻撃チャンスであるスキル発動後の硬直、軍のタンクもアタッカーとスイッチをしようと防御姿勢を解いたほんの僅かな隙
俺はその時に見た……硬直せずに、もう片手の槍にライトエフェクトを纏わせるボスの姿を。
「避けろぉぉ!!」
俺の叫び声は虚しくも間に合わない。
ボスの槍範囲振り払い《ホリゾン・スラスト》が炸裂し、HPが減少していたタンク二人とスイッチしソードスキルを発動していた片手棍使いの
カシャンッとガラスが割れるような音が3つあがり、一帯には静寂が訪れる。
今までのボス攻略で犠牲者がでなかったわけではない。不用意にLAを狙いに行った者やイレギュラー性に翻弄された者など犠牲は少なからず存在した。
だがそれはイレギュラー性が増す終盤での出来事だ。
HPバーが一本も削りきれず、三人の命を一瞬にして奪われたという事態に、この場に居合わせたほぼ全てのメンバーが凍りつく。
そんな此方の状態にボスは待ってはくれない。硬直が解けたボスは次なる標的に向かって剣を振りかぶる。俺はそれを見て走っていた。
狙われたプレイヤーはヒィッと情けない声を漏らし体を強張らせている。防御もまともに取れない状態だ。
その時自分の横を走るプレイヤーに気がついた。ヒースクリフだ。
彼もまた俺と同じようにあのプレイヤーを守ろうと駆け出していた。
「私が剣、君が槍だ。」
「……ッ!了解ッス。」
短い指示だったが理解できた。つまり自分が片手直剣を防ぐから、その後に来るであろう槍は俺が防げということなのだろう。
俺とヒースクリフはボスのソードスキルが立ち上がる直前に位置に着いた。
まず、放たれた《バーチカル》をヒースクリフが防ぎ、先と同じように硬直無しで放たれた槍単発スキル《スラスト》を俺が盾を使い反らした。
「ぼさっとしてんじゃねぇッスよ!!
死にたくねぇなら抗え!戦え!こいつを殺せ!
死んでいった奴の無念ぐらい背負ってみせろ!攻略組だろうがッ!」
部屋全体に響くように腹からあらんかぎりの声を出す。
ここで場の流れを変えなければ被害が増えるのは目に見えている。
だが、悲しきかな俺のなけなしの言葉では攻略組全員の心を動かしきれないらしい。
「彼のいう通りだ、我々は戦わねばならない!散っていった友のためにも、街で待つ者達のためにも。
戦え!解放の日のために!」
ヒースクリフは力強い言葉と共に硬直中のボスにソードスキルを放った。
そうだ、言葉で動かせないというのなら行動で!!
俺もヒースクリフに習いソードスキルを放つ。
「ッ!タンクばっかに格好いいとこ持っていかれてたまるかよ!!」
「俺達だってまだ行ける!」
「やってやるやってやるぞぉ!!」
味方も息を吹き返し戦闘は継続される。
そして……
『グゥオオォォ!!』
HPバーが1本削りきられた
ボスの攻撃を一人で防げる主人公ェ……
攻撃ガン降りの主人公は良く見るが、防御ガン降りの主人公は少ない気がする。
まぁ地味ですしね。だけどMMOにおいては引っ張りだこなんですよねタンクって。