「パイロットスーツ無しで戦闘し、地球圏への墜落。にも関わらず生存か、末恐ろしいな」
「死んだと、心からそう思ったんですがね」
整っていた顔は焼け爛れた跡がある、ビアン・ゾルダークによる再生医療により元の顔に戻す事は出来たがそれでも火傷の痕は消えなかった。
「それに……その左腕と右目」
「別に困ることは無いです、利き目は死にましたけど、狙撃は出来ます。腕は利き腕じゃない。それに、俺の親友も片腕は義手ですから」
コックピットの爆発によりパイロットスーツが無かった為に破片等が刺さり、失明と切断を余儀なくされたのだ。そう、生還したのは奇跡と言っても良いことだ。だが、あまりにもその代償は大きすぎる。
「ゲシュペンスト・ヴァーディクトは出せます。この体、朽ちるまでビアン博士と共に。この地球を、人々を未来を守る為に」
リョウマは敬礼をし、司令室から去る。
ソレをビアンとバン大佐は静かに涙を流しながら見ている。
「本来なら、彼のような存在が」
「だが、彼も死ぬ事を覚悟している。バン大佐、頼む。彼の、彼の為に生きてくれ。若人の為に。先人が出来ることを」
「……無論です。しかし総帥、貴方も生き延びて下さい」
戦場ではストームチームとゲシュペンスト・ヴァーディクト(V)が鬼神の如く戦火を上げていた。もともと、最先鋭の特殊部隊。その任務自体が死地に赴くような物、ソレを何度も経験しているストームチームにとって、連邦軍の物量戦は意味がない物だ。
確かに補給の問題があるが、ストームチームが下がればソレを埋めるようにDCの先鋭達が入り込む。ストームチームと連邦軍のキルレシオは軽く見積もって7:1。リョウマに関しては10:1である。あくまでもこれは連邦が設定したものであり、本来の実力は更に上だと仮定される。そう、地球防衛軍はDCの本拠地へと想定5倍の戦力で襲撃を仕掛けた。
しかし、未だに陥落はしていない。
「連邦軍はやはり有象無象です、我々の練度に対して彼らは何も出来ていない」
「だが、奴らが来る。俺達ストームは今のところ勝ち星だが、油断はできない」
そこから連邦軍は嫌がらせをすることに務めるようになった。
無論、嫌がらせを行った部隊を生かして返してはいない。皆落ちていく。慈悲なく、最小限の弾薬でコックピットのみを破壊し、機体などを回収する。
時にはリョウマとウィングダイバーチームが突出し、嫌がらせ部隊の母艦や護衛艦隊を殲滅する映像が流れる。
「…圧倒的だな。ストームは」
「えぇ、しかし。これでは少佐は」
スペースノア級万能戦闘母艦参番艦クロガネの中でエルザムは副官たるクルトと会話を続けていた。
着艦してくる先鋭達だが、時には満足のいく補給が無い状況で戦っている。そんな弟分に対する言葉は失っていない。
「エルザム中佐」
「俺はまだ少佐だ、リョウマ少佐」
「歳上で自分よりも優れているうえに、尊敬する兄の様な人です。同じ階級なのが……正直嫌になる」
「ならさん呼びで構わないさ、リョウマ中尉」
「……そうですね、エルザム大尉」
ソレは思い出深い教導隊メンバーだからこその言葉。
しかし、リョウマは言葉を続けることが叶わなかった。
「リョウマ!」
エルザムが勢いよく倒れたリョウマを支える。
もとより、大気圏突入から医務室。そして手術完了からノータイムで戦場に出ているのだ。体力は回復していない。
「大丈夫です、俺は……俺はマイヤー司令を……守れなかった。エルザムさんから……頼まれもしたのに…俺は………できなかった」
艦橋にいるメンバーは本来、コロニー統合軍所属である。
リョウマがコロニー出身で尚且つ、英雄の一人だと理解している。エルピス事件の英雄がもってしても、護れない戦場で彼等は戦っている。ソレを理解している。だが、当の本人は違うのだ。
「父は戦士だ、死ぬ事も理解しているさ。だから、気負うこと」
「俺は誓ったんだ!守る、守るために殺す!一殺多生、二度と父さんの様な人を作らない。なのに…たった二隻の艦隊に負けんたんだ!部下も死んだ……俺だけが……俺だけが生き残った!」
「馬鹿者!」
エルザムはリョウマの襟元を掴み、殴りかかる。
「お前は英雄やら、エースパイロットやら持て囃され、
自分が超人だとでも思っているのか!
わからないなら教えてやろう!お前は所詮、俺より歳下で、
俺よりパイロットとしても下だ!そんな奴が父を守るだと!
笑わせるな!お前はお前のできる努力をした!
それに、お前が死んだら誰がカーウァイ大佐を覚えている!
俺達はお前の父としてのカーウァイ大佐は知らんのだ!」
「……目が覚めましたよ。そうだ、俺は超人じゃない。
でも、それはソレとして……」
「ぐは!」
「一発は一発だ!」
艦橋のメンバーはそのまま殴り合いというか、スパーリングに
発展した指揮官2人を見て微笑みを隠せない。
二人とも笑っているのだ。血の繋がりは無いが、二人が
確かに兄弟に見えてならない。
「ぅゔ」
「はぁ…はぁ…私の……勝ちだ!」
青痣を作りながらもエルザムは自身の勝利を高らかに叫ぶ。
リョウマはダウンしながらも、確かに笑っている。
「…艦橋に衛生兵を。急患が二人だ」
副長たるクルトはそんな似た者同士の二人に呆れ顔を向けながら、静かに微笑んだ。
「君達……殴り合いは男の友情と言うが、我々との会議がある事を忘れてきたのか?」
「司令、若いものは血気盛が良いとは言いますが」
総司令たるビアン博士と腹心の部下たるバン大佐に苦笑いされながら、リョウマとエルザムは申し訳なさそうに出席している。
「さて、命令を行う。クロガネおよび艦載機はハガネ及びヒリュウ改の出現に伴い、戦線を離脱せよ」
「何故です!」
「リョウマ少佐、コレは総司令官としての命令だ」
「バン大佐!」
「リョウマ少佐、君はテラの艦長でもある。
私も、負けるつもりはない。だが、もしもの話だ。
ソレに、君の身体はまだボロボロだ。頼む、少佐。
いや、リョウマ君。私何かあれば、世界を、未来を託せるのは、
君達しか居ないのだ」
「……博士」
リョウマは泣いていた。
尊敬する先人の覚悟の言葉、負けるつもりはない。
そう言うが、勝てる見込みもないのだろう。
通信が切れ、
クロガネの艦橋というか場所にも関わらず涙を流す。
「……博士、俺は」
そして間もなく、ハガネ、ヒリュウ改の部隊により
ビアン・ゾルダークは討ち取られた。
「それで良いのか」
「それは……」
「変えたくないのか」
「変える?」
「弱いままなのか?お前は……」
「違う……俺は………負けない!俺は弱くない!
今度こそ……今度こそ、救ってみせる!」
マーケサズ諸島沖 アイドネウス島
「正義の味方になるつもりか!」
「なる!」
ボロボロになる寸前のヴァルシオンとボロボロのサイバスター。
部隊の大半が傷つき、動けないとはいかないまでも、最低でも小破し、酷いものは大破すらしている。
「あの人はどこ!兄、お兄ちゃんは!」
「……そうか……君がレイラか」
「話して…話しなさい!ビアン・ゾルダーク!!」
「去ったよ、彼にも未来を託したのだ。私は」
「勝手に託すとは、つまらない事を言いますな。
ビアン総帥」
その声はオープンチャンネルで全陣営に聞こえていた。
ヒリュウ改の後方で激しい火花と爆炎が上がっている。
聞こえてくるのは連邦兵の悲鳴、叫び、そして
「………宇宙ぶりだな。お前達」
ソレはレヴリアス。しかし、所々ゲシュペンストVのパーツが使われ、本来の性能の80%の機体。
レヴリアス・パッチワーク
武装は全く同じだが、スラスター等はゲシュペンストVのものへと取り換えられていた。
「何故だ…何故君がここにいるのだ!」
「……博士、俺は覚えてます。貴方に言われた言葉を
『世界を護るには力がいる』
そして、『世界にはヒーローが必要だ』と」
そして、忌々しさを隠さず言葉を続ける。
「ですがね、俺はそうは思わない。
連邦に父は殺された、俺は連邦が憎い。
そして……そしてもう一人。
問わなければいけない男がいるんです」
「……リョウマ」
「心友いや、ライディース。何故、マイヤーさんを殺した」
「………」
「君は知っていただろう、連邦がどれだけコロニーから搾取し、弾圧していたか!エルピス事件も忘れたのか!」
「忘れていない。だが、俺は連邦兵だ」
「…そうか……そうだな。君は…何時も正しいと言うのか。
だが俺は…そんな正しさはとっくに失ってるさ。
博士、いや、ビアン総帥。撤収して下さい。
我々は負けました。俺も後から追います」
「…だが」
「なら教えてやる、世界にはアンタが必要なんだ!
守る為には」
ソレは慟哭、魂に響く声だ。
「わかった」
ビアンがヴァルシオンと共に脱出する。
そして、レヴリアスは静かに彼等を見た。
「……待たせて悪いな」
「第2ラウンドか?」
「お前は……マサキ・アンドーだったな。
これ以上、シラカワ博士の邪魔をされるのも面倒だ」
「テメェ、シュウの」
「尊敬する偉人だよ。
さて……グルーヴァイン・バスター。シュート」
ボロボロのサイバスターに放たれるビーム。
だが、命中することはない。
「なっ…」
グルーヴァイン・バスターに視線を向けさせ、
その隙に仲間が行動する。
「呼び水だよ」
ヒリュウ改、ハガネのエンジンに
対して放たれるビーム・ライフル。
「……俺が単身で乗り込むと思ったか?馬鹿め」
「ストーム4目標破壊を確認。隊長、撤退しましょう」
「此方、ストーム3。敵増援艦隊の殲滅が完了した。
先に帰るぞ」
「………さて、ヒーロー諸君。サ・ヨ・ナ・ラだ。
っと、その前に。レイラ、来年の誕生日プレゼントは何が良い?多分、テロリスト扱いになるし会いに行けないと思うが、
せめてお前の欲しいものは……そうだな、くまさんヌイグ」
「何言ってんだ馬鹿!スカタンアニキ!!」
「アハハ…兎に角だ、皆ご苦労。で」
まるでリョウマは笑うかのように
レヴリアス・パッチワークが敬礼する。
それがただの時間稼ぎであった事は明白だ。
部隊は勝利ではなく、見事な敗北を味わった。
「おかしいな、そろそろ来るはずだが」
「えぇ、些か連邦の被害が多過ぎるように感じますが…」
そう言いながら現れたのはグランゾン。
そして、シュウ・シラカワ博士だ。
「てめぇ…シュウ!今まで何処に」
「博士、ここまでですか?」
「えぇ、私はビアン博士に見届人を頼まれただけですので。
そうだ、貴方方は次の戦いに備えなさい。
身も心も、緩めることが無いように」
グランゾンが空へと消えた。
それをレヴリアス静かに見届ける。
「次の戦い?お兄ちゃん!
それが…それが私達と戦った理由なの!」
「そうだ、近い家に父さんの…カーウァイ大佐の仇が
現れるだろう。いや、既に居るだろう。
我々は奴等を倒す。お前達も邪魔はするな」
レヴリアスから発せられる憎悪、
レイラも尻込みしてしまう程の殺気。
だが、リョウマ自身は最期にレイラに別れを告げてから、
撤退を行った。
ヴァルシオン、そしてストームチームの追撃などできる
状態でないハガネ、ヒリュウ改は先にエンジンの修復に
務めていた。その中で、ATXチーム、ギリアム、レイラ、
テンペスト、ライディースは天を仰いでいた。
「チーフの事、完璧に忘れてたわ」
「仕方がない、あれだけの戦いだ。
だが……計算しておくべきだった。少佐は仲間の為なら、
自分が倒れようとも働く男だ。特に、ビアン・ゾルダークは
少佐にとって心の師だ。失いたくなど無いだろう。」
「仲間、家族、ついでに研究の為なら何しでかすか」
「何で……何で……おじさんは事故で死んだって!」
「レイラ……落ち着け、知らせたくなかったんだ」
攻撃されたというのに、不思議とリョウマを知っている者達の
顔はなんとも言えない。
「……心友いや、リョウマは俺を狙う筈です」
「ライ、それは無いだろう。
任務だったのだ。それぐらいリョウマ少佐も」
「……あぁ、殺しはしないが狙われるってのは有り得るな」
次があるかはわからない。
だが、確かなのは新たな戦いの火蓋は既に切られている。
と言うことだ。
DC戦争は終わりを告げた。
だが、総帥ビアン・ゾルダーク。
そしてその副官とも言える存在。リョウマ・ラウは
連邦軍の前から意気揚々と撤退を成功させた。
そう、私達の前から完全に消えた。
次回 L5戦役Part0選択