邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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22.ロンダルキアの目

 雪が、強く降っていた。

 ローレシア王・ロスにとっては三度目、サマルトリアの王子・カインにとっては二度目、荷物持ちの兵士たちにとっては初めてのロンダルキアの地。視界不良のなか、歩みを進めていた。

 

「魔物に遭遇しないな」

 

 風は強くないので、特にロスも声を張っていない。

 

「王たちの討伐により絶滅したのでしょうか?」

「激減させたのは間違いない。ただ絶滅に追い込めるほどは殺せていなかったはずだ」

「この雪が我々の姿を隠してくれているのではないでしょうか?」

「それならいいんだが」

 

 ロンダルキアへの洞窟でもほとんど魔物を見なかったが、抜けてからも魔物に遭わないのである。

 荷物持ちや雑用のためにロスが連れてきた五人の精鋭兵士たちは希望的観測を述べているが、一番後ろのカインは首をひねっていた。

 

「どうだろ。ロンダルキアに住んでいる魔物なら、雪でもある程度遠くまで見える目を持っていても驚かないけどね。不気味だよ」

 

 ロスはそれを受け、「いちおう警戒を強めるように」と言うと、前方を向いて歩き続ける。

 しばらくして、カインから声が届いた。

 

「ロス。今、何か聞こえなかった? 遠吠えみたいな」

「いや、俺には何も。だがお前が言うなら間違いなさそうだな」

 

 ロスが足をとめ、一同それに続く。

 しかし、しばらくその場にとどまっても何も現れなかった。

 

 遠吠えに聞こえたものは魔物ではなかったのかもしれない、ということで、またロスを先頭に徒歩を再開した。

 

 やがて。

 穏やかだった風が、突然強く吹き始めた。

 

「なんだ? 急に」

 

 穏やかな晴天がずっと続いていたハーゴン討伐時とは、明らかに違う。

 今回はロンダルキアに入ってまだそんなに経っていないのに、とてつもない悪天候がロスたちを襲っていた。

 

 真っ白。

 視界は不良どころの話ではない。完全にゼロとなった。

 吹き付けてくる風雪。目を開けているのも厳しい。

 

「もう少し固まって歩こう!」

 

 後ろにそう叫ぶも、耳に入るのは激しい風音。

 返事は聞こえない。

 

「おい! みんな! 聞こえているか!?」

 

 後ろの景色はただ白のまま。カインの姿も、兵士の姿も見えない。誰の姿も見えない。

 

「これは……」

 

 何も見えず、吹雪く音以外は何も聞こえない。

 完全にホワイトアウトする中で、ロスはしばし立ち尽くすと、やがて仲間の姿を求めてさまよい始めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 視界が真っ白になると、サマルトリアの王子・カインは口に両手を当て、声を張り上げた。

 

「ロス! 兵士さん!」

 

 しかし返事はない。

 聞こえるのは吹雪く音だけだった。

 

「うわー。何も見えないな」

 

 ロンダルキアの天気はこんなに急変するものなのだろうかと、土地勘のないカインは驚く。

 

 真っ白な景色のなかを、さまよう。

 全員近くにいたはずなのに、誰も見つからない。

 とにかく何も見えず、奥行きすら感じない白。すぐに、自分がどこをどう進んでいるのかもわからなくなった。

 

 サマルトリアではそもそも雪が降ることがまずない。ローレシアでもそうだろう。このようなときの対処法がわからない。

 カインとしてはロスや荷物持ちの兵士たちが心配だった。

 やや焦りながら、探し歩く。

 

 だが、行けども行けども見つからず。

 

 寒さで手足の感覚がおかしくなってくる。

 もしかして下手に動かないほうがよかったのか? と思い始めたとき……。

 急に、風が弱まった。

 

 少し先まで見えるようになった瞬間、人影が一つ、カインの前方に見えた。

 続いてその人影の後ろにも、影がいくつか。

 

 その影たちは、すぐに実体となった。

 

「……!」

 

 ロスたちではなかった。

 カインの前に現れたのは、一人のバーサーカーと、二体のキラーマシンだった。

 

「あのときのバーサーカーかな?」

「そうだ。久しぶりだな」

 

 服装こそ違うが、そのバーサーカーは種族の特徴でもある独特な仮面を着けていない。

 そのため、大灯台の最上階で戦ったバーサーカーの少女だということはカインにもわかった。

 

「どうしたの、そのピッチピチな服」

「前の服はお前に切り刻まれてダメにされちまったからな。新しいやつを胡散臭(うさんくさ)い人間にもらったんだ」

 

 緑と濃紺が基調になっているその服は、首から下のほぼ全身に密着するように覆っていた。生地はいかにも薄そうだが、肩や膝などの関節部分や、首の後ろから背中の上部にかけては小さな金属で補強されている。

 まだ少女であるとわかる褐色肌の顔に、程よい長さでハリのある真紅の髪を持つ頭部。それらは一見露出しているように見える。が、カインはわずかな反射光があることや、髪に雪がまったく付着していないことを見逃さなかった。首から上は透明なガラスのようなもので覆われているようだ。

 

「この前の借りを返せるのは嬉しいぜ」

 

 そう言って斧を構える、バーサーカーの少女。

 

「……もしかして、僕たちが来たのってとっくの昔にバレてた? んー、ロンダルキアへの洞窟に入った時点か、抜けた時点で、連絡がそっちの本拠地まですぐに飛ぶような仕組みがあって、僕たちは待ち構えられてたってとこかな?」

「まあ、そんなとこだ」

「あんなに視界が悪かったのに僕たちの位置を正確に捕捉できたのはなんでだろ。やっぱり君たちのなかに吹雪でも遠くまで目が見える魔物がいるのかい」

「お前カンがいいな。オレも知らなかったけどキラーマシンはわかるんだとよ」

 

 少女は素直に、カインの察しのよさに驚きの表情を浮かべていた。

 

「それに、ブリザードやデビルロードたちはここの天気をだいたい当てることができる。だから大雪が降るのもわかってた。で、お前たちは何も見えないと風向きくらいしか自分が進んでいる方向の見当をつける方法はないだろ? だからお前たちの位置を把握したら、ブリザード隊に風をうまい具合に操作してもらって、お前たちをバラバラにしたってことさ」

 

 オレが考えた作戦じゃないけどな――と少女は付け加える。

 カインは「うーん」とうなった。

 

「不思議だね。魔物ってこんなに協力し合うもんだったかなあ」

「ボスが弱すぎるからな。この前も過労でぶっ倒れてたし」

 

 さて戦おうぜ、と、バーサーカーの少女は斧をクルっと回して構え直す。

 だがカインは左手でそれを制した。

 

「あ、ちょっと待って」

「なんだよ。お前この前もそうだったけどゴチャゴチャうるさいぞ」

「一つ確認したい。僕と戦う役は、君とキラーマシン二体だけ?」

「そうだよ。お前には中途半端に大人数でかかってもまとめてベギラマで丸焼きにされるだけで意味ないだろ」

「なるほど。そうかも?」

 

 ここでようやくカインは愛用の細身の剣――隼の剣を抜き、構えた。

 

「ありがと。それだけわかればいいよ」

 

 どうやら、このバーサーカーを早めに片付けてロスに加勢しないと危ない。

 今の情報でカインはそう判断した。

 

「僕を相手に君が時間稼ぎをして、その間にロスを大人数で襲うつもりだろうけど。そうはさせないよ」

「時間稼ぎ? オレはお前を倒すつもりだっ」

 

 剣と斧が、ぶつかり合った。

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