包囲されながらも、行く手を阻むロンダルキアの敵を次々と吹き飛ばし続けていたローレシア王・ロス。
ついに、その勢いが止まるときが来た。
「っ……」
口から、声が漏れ出た。
盾でアークデーモンの槍を正確に受けたが、同時に突きを入れてきた他のアークデーモンの槍が刺さっていた。
今度は腹部。腰が入っていた一突きで、体重も乗っていた。深い。
手応えありと感じたアークデーモンが、さらに槍を押し込む。
「……ぁ……ッ……」
ロスの目が見開き、顎が上がり、口が開いた。
背中側から三つ又の槍の槍先の一つが生えた。貫通したのだ。
激痛でそれを理解すると、ロスは唸りとともに剣を振り、その槍の柄を叩き切った。
アークデーモンの外側には、他の魔物たちも距離を詰めようとしていたが、一斉にビクンと止まった。
接近戦を挑んできたアークデーモンを斬り飛ばし、ロスは魔術師を求めふたたび動き出す。
だがその足に、すでに力強さはなかった。
それを見て、別のアークデーモンが意を決したように近づき、三つ又の槍で突く。
「ぐ……」
右胸近くに刺さる。やはり貫通し、背中に槍先が一つ現れた。
これもロスは柄を叩き切ったが、そこにさらに別のアークデーモンからも槍が側腹部に刺し込まれた。
そのアークデーモンは、刺した槍をすぐに引き抜いた。
「っ……」
引き抜かれた箇所から、血がドロドロと流れ出した。
ロスは虚ろになった目で、多数の魔物の奥に見える魔術師フォルを見た。
その途端に、また次の槍が後ろから差し込まれた。
「がっ……」
貫通まではしていないが、やはり深い。
またアークデーモンが槍を抜く。やはりそこからも、血。
そして。
「ゴフッ」
ロスの口から勢いよく血が噴き出た。
激しい吐血を見て、接近戦を挑んでいたアークデーモンが一度離れていく。距離を詰めようとしていた他の魔物たちも動きを止めて、ローレシア王・ロスの様子を見守った。
いつのまにか、青い装備は真っ赤に染まっていた。
三つの槍先を体から生やしたまま、ロスは雪の上をフラフラと少し歩き、やがて片足から崩れ、倒れた。
どうやら立ち上がってくることはない――魔物たちがそう判断したのか、緊張を解いて寄ってこようとしたときだった。
突然、ローレシア王がやってきた方向から、爆音とともに魔物たちの悲鳴が聞こえた。
と、同時に。
「全員広がれ! 距離を取れ! 急げ!」
アークデーモンによる指示が、戦場に響き渡る。緊迫感のある声だった。
すっかり密となっていた魔物たちが、それぞれお互いに適度な距離を取り、広がっていく。
さらには、悲鳴が聞こえた方向の魔物たちが、遠位から左右に分かれていった。それがすぐに軍団の内側まで伝播してゆき、広い道ができていった。
そのような指示までは、アークデーモンから出ていない。
原因となったのは、空間を駆けてきた数名の人間たち。いや、その先頭にいた一人の人間だった。
ヘッドギアからあふれる茶色がかった金髪を揺らす青年。サマルトリアの王子・カインである。
カインは、魔物に取り囲まれた空間のど真ん中にローレシア王・ロスの倒れている姿を認めると、そばまで行き、遠巻きに包囲している魔物たちを
並の人間であれば、隙だらけということで一斉に襲いかかられているだろう。しかし魔物たちは武器や爪を構えたまま、その場を動かなかった。否、動けなかった。
「ザオリク」
静かな詠唱。
ロスが小さなうめき声をあげた。
カインはそれを確認してわずかに微笑を浮かべると、槍先が刺さったままの彼の体を両手で抱え、立ち上がった。
「ロス、ごめん。刺さってる槍はそのままにするよ。今抜くと失血死するかもしれないから」
「へ、兵士……たち……は……」
「大丈夫。見逃してもらえてたみたい。見えてないと思うけど、全員ここにいる。ここに来る途中で会った」
安心したロスが、その身体を完全に預けた。
荷物持ちの兵士たちも寄ってきて、カインの身体に触れる。
カインは魔物の群れの奥を見た。
雪でやや白っぽく見えるが、ギガンテスの巨体の前に、魔術師・フォルの姿が確かにあった。
「お見事」
呪文を唱える前に一言、そうつぶやく。
「ルーラ」
一行は、空へと消えた。
ルーラで飛んだ先は、サマルトリア城のすぐ近くだった。
おそらくロンダルキアの祠ではないだろう――カインはそう思っていたため、意外な場所ではなかった。
のどかな景色だった。
丈の低い、しかし豊かな草が柔らかな日差しを浴び、ところどころに緑を付けた樹が点在していた。
カインは、ロスを草の
兵士たちが見守るなか、まずはベホイミで全体を回復させ、次に刺さっている槍先をゆっくり抜きながら、やはりベホイミの呪文をかけていく。
激痛であるはずだが、ロスは顔をしかめることもなく、ぼんやりと青空を眺めながら施術を受け続けた。
「回復は無事終わったよ。もう大丈夫」
血まで拭き終えると、カインはロス本人にではなく、
意味を察した兵士たちが、声の届かないところまで離れていく。
風が、吹いた。
ロンダルキアの刺すような雪風とは違う。サマルトリアのそよ風は限りなく優しかった。
「……俺は、いったい何をやっているんだろうな」
やがて、
同じくしゃがみこんだままで青空を見上げていたカインが、彼の顔に視線を移す。
「いいときもあれば、悪いときもあるさ。今までもそうだったでしょ」
カインはロスの青いヘッドギアについているゴーグルのヒビに気づくと、両手を伸ばしてそれを取り除き、