邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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25.ローレシア王、死す

 包囲されながらも、行く手を阻むロンダルキアの敵を次々と吹き飛ばし続けていたローレシア王・ロス。

 ついに、その勢いが止まるときが来た。

 

「っ……」

 

 口から、声が漏れ出た。

 盾でアークデーモンの槍を正確に受けたが、同時に突きを入れてきた他のアークデーモンの槍が刺さっていた。

 今度は腹部。腰が入っていた一突きで、体重も乗っていた。深い。

 

 手応えありと感じたアークデーモンが、さらに槍を押し込む。

 

「……ぁ……ッ……」

 

 ロスの目が見開き、顎が上がり、口が開いた。

 背中側から三つ又の槍の槍先の一つが生えた。貫通したのだ。

 

 激痛でそれを理解すると、ロスは唸りとともに剣を振り、その槍の柄を叩き切った。

 アークデーモンの外側には、他の魔物たちも距離を詰めようとしていたが、一斉にビクンと止まった。

 

 接近戦を挑んできたアークデーモンを斬り飛ばし、ロスは魔術師を求めふたたび動き出す。

 だがその足に、すでに力強さはなかった。

 それを見て、別のアークデーモンが意を決したように近づき、三つ又の槍で突く。

 

「ぐ……」

 

 右胸近くに刺さる。やはり貫通し、背中に槍先が一つ現れた。

 これもロスは柄を叩き切ったが、そこにさらに別のアークデーモンからも槍が側腹部に刺し込まれた。

 そのアークデーモンは、刺した槍をすぐに引き抜いた。

 

「っ……」

 

 引き抜かれた箇所から、血がドロドロと流れ出した。

 ロスは虚ろになった目で、多数の魔物の奥に見える魔術師フォルを見た。

 その途端に、また次の槍が後ろから差し込まれた。

 

「がっ……」

 

 貫通まではしていないが、やはり深い。

 またアークデーモンが槍を抜く。やはりそこからも、血。

 そして。

 

「ゴフッ」

 

 ロスの口から勢いよく血が噴き出た。

 

 激しい吐血を見て、接近戦を挑んでいたアークデーモンが一度離れていく。距離を詰めようとしていた他の魔物たちも動きを止めて、ローレシア王・ロスの様子を見守った。

 

 いつのまにか、青い装備は真っ赤に染まっていた。

 三つの槍先を体から生やしたまま、ロスは雪の上をフラフラと少し歩き、やがて片足から崩れ、倒れた。

 

 どうやら立ち上がってくることはない――魔物たちがそう判断したのか、緊張を解いて寄ってこようとしたときだった。

 

 突然、ローレシア王がやってきた方向から、爆音とともに魔物たちの悲鳴が聞こえた。

 と、同時に。

 

「全員広がれ! 距離を取れ! 急げ!」

 

 アークデーモンによる指示が、戦場に響き渡る。緊迫感のある声だった。

 すっかり密となっていた魔物たちが、それぞれお互いに適度な距離を取り、広がっていく。

 

 さらには、悲鳴が聞こえた方向の魔物たちが、遠位から左右に分かれていった。それがすぐに軍団の内側まで伝播してゆき、広い道ができていった。

 そのような指示までは、アークデーモンから出ていない。

 原因となったのは、空間を駆けてきた数名の人間たち。いや、その先頭にいた一人の人間だった。

 

 ヘッドギアからあふれる茶色がかった金髪を揺らす青年。サマルトリアの王子・カインである。

 

 カインは、魔物に取り囲まれた空間のど真ん中にローレシア王・ロスの倒れている姿を認めると、そばまで行き、遠巻きに包囲している魔物たちを一瞥(いちべつ)してしゃがみこんだ。

 並の人間であれば、隙だらけということで一斉に襲いかかられているだろう。しかし魔物たちは武器や爪を構えたまま、その場を動かなかった。否、動けなかった。

 

「ザオリク」

 

 静かな詠唱。

 ロスが小さなうめき声をあげた。

 カインはそれを確認してわずかに微笑を浮かべると、槍先が刺さったままの彼の体を両手で抱え、立ち上がった。

 

「ロス、ごめん。刺さってる槍はそのままにするよ。今抜くと失血死するかもしれないから」

「へ、兵士……たち……は……」

「大丈夫。見逃してもらえてたみたい。見えてないと思うけど、全員ここにいる。ここに来る途中で会った」

 

 安心したロスが、その身体を完全に預けた。

 荷物持ちの兵士たちも寄ってきて、カインの身体に触れる。

 

 カインは魔物の群れの奥を見た。

 雪でやや白っぽく見えるが、ギガンテスの巨体の前に、魔術師・フォルの姿が確かにあった。

 

「お見事」

 

 呪文を唱える前に一言、そうつぶやく。

 

「ルーラ」

 

 一行は、空へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 ルーラで飛んだ先は、サマルトリア城のすぐ近くだった。

 おそらくロンダルキアの祠ではないだろう――カインはそう思っていたため、意外な場所ではなかった。

 

 のどかな景色だった。

 丈の低い、しかし豊かな草が柔らかな日差しを浴び、ところどころに緑を付けた樹が点在していた。

 

 カインは、ロスを草の絨毯(じゅうたん)の上に降ろした。

 兵士たちが見守るなか、まずはベホイミで全体を回復させ、次に刺さっている槍先をゆっくり抜きながら、やはりベホイミの呪文をかけていく。

 激痛であるはずだが、ロスは顔をしかめることもなく、ぼんやりと青空を眺めながら施術を受け続けた。

 

「回復は無事終わったよ。もう大丈夫」

 

 血まで拭き終えると、カインはロス本人にではなく、(そば)にいた兵士たちに向けて言った。

 意味を察した兵士たちが、声の届かないところまで離れていく。

 

 風が、吹いた。

 ロンダルキアの刺すような雪風とは違う。サマルトリアのそよ風は限りなく優しかった。

 

「……俺は、いったい何をやっているんだろうな」

 

 やがて、仰向(あおむ)けのままのロスの口から、そうポツリと漏れた。

 同じくしゃがみこんだままで青空を見上げていたカインが、彼の顔に視線を移す。

 

「いいときもあれば、悪いときもあるさ。今までもそうだったでしょ」

 

 カインはロスの青いヘッドギアについているゴーグルのヒビに気づくと、両手を伸ばしてそれを取り除き、微笑(ほほえ)んだ。

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