邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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28.ロンダルキアの地下資源

 新神殿の中にある教団代表用の執務室で、フォルは筆を執っていた。

 

「それが昨日言ってた手紙か?」

「はい。ダスクさんはあまりよく思ってらっしゃらないかもしれませんが……」

 

 神殿要塞化工事の報告のために部屋に来たアークデーモンの若き族長・ダスクに机をのぞき込まれ、仮面を外していたフォルはすまなそうな顔で言った。

 

 文書の宛先は、サマルトリア・ローレシア・ムーンブルクの三国。内容は、現教団は戦いを望んでいない旨、世界中の国で教団が公認されることを目指したい旨、そしてムーンブルクに対しては可能な限りの補償をする意思がある旨である。

 

 中身を読んだ若アークデーモンは、顎を触った。

 

「よく思わんというか、送ってもビリビリに裂かれて捨てられるだけなんじゃねえか?」

「いや、ダスクよ。破かれようが、一度ちゃんとした形でこちらの気持ちは伝えておく、それが大事ということじゃろうて」

「はい、ヒースさん。そのとおりです」

 

 部屋の中にいた老アークデーモン・ヒースに対し、フォルはうなずく。

 ここまで、口頭ではローレシア王やサマルトリアの王子に気持ちを伝えたことがあるが、きちんとした形でロトの子孫の国々には伝えたことはない。まだ教団再建は途上ではあるものの、この段階で一度、ロンダルキアからの親書という形で意思を伝えるべきという判断である。

 

「そうか。ま、ロンダルキアのためにやってるということはわかる。好きにやれ」

 

 ありがとうございます、とフォルは頭を下げた。

 

「バーサーカーの皆さんやデビル族のみなさんも、内心は反対ですよね」

「フン。お前のヘタレ進行には慣れた。やりたいようにやれ。族長も納得してる」

「同じだ。好きにするがいい。我々はついていく」

 

 本棚に寄りかかって腕を組んでいたバーサーカーの少女・シェーラも、ダスクと一緒に報告のために部屋に入ってきていたデビルロードの首領も、それぞれ答える。

 

「タクトさんは……反対、ではなさそうですね」

「うん、面白そうじゃん? あ、そうだ。大灯台でサマルトリアの王子に服代を請求されてまだ払ってないと思うから、金と銀を一緒に詰めこんどこうよ。『ロンダルキアでは超貴重な金銀です。王子のために死ぬ気でかき集めました』とか添えてさ。どんな返事くるのか楽しみ」

 

 この蛇足な提案に、褐色の少女があんぐり口を開く。

 

「返事なんて来るわけないだろ……。それに実際ロンダルキアでは金銀は貴重なんだよな? あげていいのか?」

「それがさあ。堀の工事現場から出てきちゃったんだよね。金や銀が入っている鉱石がゴロゴロと。ねえ? フォル君」

「はい。恥ずかしながら私には普通の石にしか見えなかったのですが。タクトさんが気づいてくださって」

「以前からフォル君に『何か出るかもしれません』って聞いてたからさ。注意して見てたよ」

 

 棚に置いてあった握りこぶし大の石を、タクトがひょいと投げる。

 

「これがその石か?」

「そうそう。金がまざってる」

 

 受け取った褐色の少女は、首をかしげた。彼女も普通の石にしか見えなかったようだ。

 

「ハゼリオ様の遺した研究資料に『ロンダルキアの地下には無限の可能性がある』と書かれていました。具体的には二つ指摘されていまして、一つは金銀や鉄などの資源。もう一つは大昔の遺産だそうです」

「大昔の遺産?」

「たとえばキラーマシンだよね。ちゃんと掘って探せばとんでもない数が埋まってるはずだよ。半埋まりのやつだけでも、もう何十体もロンダルキアで見つけてるから」

「へえ。いつのまにかいっぱいいるのは、お前が掘り起こしていたのか」

「もっと強いのが埋まってても驚かないよ? キラーマシン2とか3とか4とか」

「そんなのあんのか?」

「さあ?」

「お前適当なこと言うなよ……期待しちまったじゃないか」

「どこに何が埋まっているのかは本当にわからないからね。このロンダルキアで地面をくまなく深く掘って調べるというのも非現実的だし、悪魔神官もなかなか調査を進められなかったみたい」

 

 キラーマシンって対人を前提に設計されたやつだから、発掘作業に使うには不向きなんだよなあ――とタクトはぼやく。

 

「というかこの石、ここからどうやって金を取り出すんだよ」

「鉱石から取り出す方法はタクトさんがご存知なので、このあとすぐ試験的にやっていただく予定です」

「うん。いちおう知識としてはあるんで。乞うご期待」

「また出たよ……なぜか謎に持ってる知識。どんどん胡散臭さが増していくな、お前」

「ふふ。惚れた?」

 

 少女が斧に手をかけたとき、新たな声がした。

 

「手紙を送るのはいいが、私が明確に反対したということは忘れず記録に残しておいてもらいたいな」

 

 いつのまにか部屋の中にいたのは、元ベラヌール支部所属だった祈祷師の青年・ケイラスである。

 金髪と、眉間にシワが寄り気味のせいでややきつい印象の美貌。仮面を外しているためにあらわとなっていた。

 

「ケイラスさんは反対でしたよね。せっかく私たちに合流してくださったのに、いきなりご意向に添えないことになってしまってすみません」

「君は先の戦でロトの子孫に勝ち、教団再建を世界に知らしめたのではないのか? ならば守りに入るのではなく、勢いに乗じて今こそ攻勢に出ることが自然だろう。ロトの子孫三国へ対しては、手紙でも金品でもなく、魔物を送りつけるべきだ」

 

 つまり、勝ったのであれば今度はこちらから攻め込むべき。彼はそのような主張なのである。

 もちろんフォルにとっては首肯しかねる意見であった。

 

「いや、さすがにそういうのはちょっと……。私たちは教団なので、その拡大手段はできれば武力ではなく布教であってほしいのです。ハーゴン様やハゼリオ様は基本的にそうされていましたし」

「ムーンブルクには攻め込んだではないか」

「おっしゃるとおりなのですが、その結果ああいうことになってしまったので……。ハーゴン様たちをもってしても失敗したやり方を、能力ではるかに及ばない私たちがやるというのは危険です。さらに酷い結果になるかもしれません。滅ぼされてしまっては、せっかくのハーゴン様の教えも広めることができなくなってしまいます」

「……」

「もう二度とああいう惨劇は見たくないといいますか……。ケイラスさんには我慢をさせてしまうことになって申し訳ないですが――」

「やはりだいぶ想像していたものと違う。そんな弱腰で破壊の神を崇めていた教団と言えるのかな」

 

 金髪の青年は眉間のシワを深めながら、部屋から退出していった。

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