邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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30.順調ゆえに

「ったく、なんなんだ。あいつはっ」

「落ち着いてください。仲良くいきましょうよ」

「無理に決まってるだろ!」

「そんなに荒れないでよ、シェーラちゃん。せっかくの美人が台無しだよ」

「これが荒れずにいられるかっ」

 

 空になった酒の器をテーブルに叩きつけるバーサーカーの少女・シェーラに、それをなだめるフォルと自称キラーマシン使い・タクト。そっと近づいてきたブリザードが、器に酒を注ぐ。

 

「今度はこの(ほこら)の中を酒場代わり、か。なんかもう、アンタらすごいね……。一周回って尊敬する」

 

 ロンダルキアの祠の主であるミグアは、テーブルに座る面々に対し冷めた言葉を浴びせた。

 

「飲まねえとやってられねえんだよ。わかってくれ」

 

 窓からアークデーモンの声が飛んできたため、彼女は真っ白な顔をそちらも向ける。

 

「ヒースとダスク、だっけ。二人とも窓越しに飲み会に参加しようとするのやめてくれる? まあまあ鬱陶(うっとう)しい」

「お嬢ちゃんや。ここの祠の扉を大きくしてくれんかの? わしらは体が大きくて入り口を通れぬのじゃ」

「後ろ向きに検討しとく」

 

 老アークデーモン・ヒースの無茶な要求に、マフラーを直しながら大きなため息をついた。

 

「で、詳しい説明は教団代表であるキミがしてくれるってことでいいの?」

 

 少女の(あお)い瞳が、この祠に来るたびにすまなそうに縮こまっているフォルへと向く。

 今日も悩みの相談のために一人で来る予定だったのだが、嗅ぎつけたいつもの面子(めんつ)がついてきてしまっていたのである。

 

「はい。実は、内部が微妙にギクシャクしてまして悩んでいます。大きな問題になる前になんとかしたいなと」

「ギクシャク?」

 

 フォルは、かつてベラヌール支部およびテパ支部に所属していた信者がロンダルキアに合流したこと、彼らのまとめ役だった祈祷師・ケイラスが対外強硬派であり自分や他の面々と意見がぶつかることが多いうえに、他種族への態度が問題視されていることなどを説明した。

 それを聞いて、ミグアが首をひねる。

 

「シェーラはそのケイラスとやらに意見が近いんじゃないの? アンタ、いかにも過激派っぽいけど」

「それとこれとは別だ。あいつの態度が気に入らねえ。なんであんなに偉そうなんだ」

「アンタもけっこう偉そうだけど」

「うるせえ!」

「というかアンタ、フォルともそんなに合ってないでしょ。いったい誰となら合うの」

「フン。別にこいつは殴ろうとまで思ったことはない」

「初めて見たとき、お墓の近くで殴りかかってた記憶があるけど」

「大昔の話を蒸し返すなっ」

 

 またバーサーカーの少女は強めに器を打ち付ける。

 

「だいたい、あいつは今まで何をしてたんだ? ロンダルキアがとんでもないことになってたのは知ってたはずだ。そのときは助けに来なくて隠れてて、こっちがちょっと調子よくなってきたらノコノコ合流してきてデカい顔か? ふざけんなっての。

 んでよ。あいつフォルに対しても遠慮なく言いたい放題なんだよ。ここまでロンダルキアを立て直したリーダーはフォルだ。あいつじゃない。祈祷師ってだけでそんなに偉いのかって話だ」

「アンタもフォルに対して割と言いたい放題に見えるんだけど」

「なんかこいつは言いやすいんだよ」

「じゃあ向こうもそうなんじゃないの。というかさ、その祈祷師に文句があるなら直接言ってみたら」

「言ったよ。その態度なんとかしろって」

「あっそう。どうだったの」

「『黙れ』『なぜ女が神殿にいる。家で洗濯でもしてろ』『バーサーカーなら仮面を着けておけ。素顔を晒すな』だとさ。舐めてるだろ」

 

 なるほど、それはちょっとひどい――。

 ミグアはいちおうの共感を示すと、真っ白なマフラーを直した。

 

「人間って、勢いのあるところには群がって、落ちぶれたり苦しくなったりしたところからは去っていくものだとわたしは教わった。キミらが順調ならば、そういう癖のある人間が登場する可能性も当然出てくるということなのかな」

「ああいうのがまだ増えるかもしれないのか。フォル、なんとかならないのか?」

 

 フォルは額を押さえた。どうすればよいのかわからないのである。

 バーサーカー以外の種族からも苦情が出ており、一度フォルからケイラスに話はしていた。しかし彼はフォルより年も(くらい)も上。おかげで強く言うこともできないせいか、あまり態度が変わらなかった。

 

「タクトは人生経験が豊富なように見えるけど。アンタから何かフォルに助言はないの」

「あ? コイツどう見ても若いだろ」

 

 意外な人物に話を振られたと思ったのだろう。バーサーカーの少女の目が丸くなった。

 

「……本当に若いのかな。わたしは怪しいと思ってる」

「ワシも祠のお嬢ちゃんに賛成じゃ」

 

 窓の外の老アークデーモンからも賛同の声。全員の視線が、割と筋肉質で体格のよい短髪の青年に集まる。

 

「お、鋭いねー」

 

 自称キラーマシン使い・タクトは、飄々(ひょうひょう)とした表情でそれを受けた。

 

「おれ、肉体年齢は二十五歳だけど、実年齢は三百歳くらいだね。おれの故郷は、そこにいるかぎりは老化しないところだったから、みんな何百歳という人間ばかりだったよ」

 

 もしかしたら千歳超えもいたかも? と、おどける短髪の青年。

 対する全員は、しばし言葉を失った。

 

「またとんでもないことを隠してたな? お前は本当に味方なのか」

 

 静寂ののち、この場を代表するように言うと、バーサーカーの少女はタクトを(にら)んだ。

 斧まで握られたのを見て、タクトは慌てたように手のひらを向け、振る。

 

「別に隠してないって。誰にも聞かれなかっただけ。みんなここまで本当に必死でやってきたから、おれのことなんて『なんか胡散臭(うさんくさ)い奴』くらいな感じのままで、深く気にする余裕もなかったんじゃない?」

 

 たしかに、と、場の緊張が解かれる。

 

「ハーゴン様と同じくらいの歳だったのですか。老化がないって、きっと素敵な故郷だったのでしょうね」

「フォル君。それは前にも言ったけど、今は全然素敵じゃない」

「どうしてです?」

「何百年も生きた人間がどうなっていくか、わかる? みんな無気力で何もしなくなるんだ。健康なはずなのに、毎日ご飯食べてウンチして寝るだけになる。そんな人しかいない世界が想像できるかな。地獄でしょ?」

「え? ハーゴン様は気力も体力もみなぎっている感じでしたけど」

「んとね、フォル君。それはきっとハーゴンがすごいんだ。三百年以上も生きていたのに、世界そのものを変えようとまで思っていたんだから。フォル君も含め、みんな誇っていいよ。たぶん、みんなは本当に偉大なリーダーの下にいたんだと思う」

 

 フォルの頭は自然に下がっていた。亡き大神官ハーゴンに、そして、そのハーゴンに会ったことがないのに偉大だと評価してくれたタクトに。

 

 一方、窓から突っ込むように差し込まれていた老アークデーモンの頭が、微妙に傾く。

 

「む? しかしタクトは決して無気力な感じではないよの? むしろイキイキしとるように見える」

「うん。おれも異端なのさ。ハーゴンのような野望はないけど、つまらないのは嫌だ。面白いものを見たい。だからこっちに逃げてきたんだ。おかげで今は楽しいよ。ハーゴンの後を継いだフォル君が破壊神を呼び出してくれるのをワクワクしながら待つ毎日さ。ふふふ」

「シドー様は亡くなりましたが……」

「おれはシドーって完全な破壊神じゃなかったと思うけどね」

「えっ」

「失礼な言い方で悪いけど、人間に倒されてるから。それじゃあ破壊神じゃなくて破壊され神だ」

「……」

「悪魔神官の研究資料の読み込み、早めに頼むよ」

 

 ニターっと笑う短髪の青年。

 

「ってことで、話はだいぶ逸れたけど。おれからフォル君に助言するなら、そうだなあ……。うん、頑張って」

「まったく助言になってない」

 

 話を彼に振った白い少女は、後悔するようにボソッと突っ込みを入れた。

 この場全体も、今の時間はなんだったのかと、呆れムードに包まれる。

 

「ふふふ。だって薬草のようにすぐ効く策は思いつかないもん。今後はこういう問題が常に存在し続けるもんだと思うしかないんじゃ? ミグアちゃんの言ったとおり、良くなってくるといろんな人が集まってくるし」

 

 しらけた雰囲気をまったく意に介さないタクトは、続けた。

 

「予言しよっか? またすぐに他の支部の残党さんたちがやってくるよ。その後も下界の信者の合流は続くね。そうなるとさらに新しい問題は起きると思う。同じような問題なのか、全然違う問題なのか、それはわからない。でもその都度、考え方が違うとか、組織から見て扱いにくそうとか、誰かと対立しがちとかいう理由だけで人を切り捨てていくわけにもいかないでしょ? そんなことをしたら、仲間が増えなくなっちゃって教団の再建もうまくいかないもんね」

「……」

「しかも、今回の彼については位が祈祷師で、支部の残党をまとめ上げてここまで連れてきてくれたってことは、能力自体は高いかもしれないよね? もし他のみんなとうまくやれるなら、むしろ心強い味方になると思うんだよなあ」

「あ、それは私も同じ思いです」

「じゃあ、おれとシェーラちゃんも手伝うから、めげずに彼と対話していこうね」

「なんでオレが手伝うんだよ……」

 

 白い少女が、先ほどよりも大きく息を吐いた。

 

「結局ただの精神論で、何も解決してないという見方もできそう。本当に大丈夫なの」

「大丈夫。ハーゴンのときには信者が無数にいたのに、組織を揺るがすほどの内紛はなかったみたいだし。ねえ? フォル君」

「はい。そうだったと思います」

「フォルはハーゴンじゃない」

「そうだけど、フォル君はフォル君のよさがあるよ。これも予言しようかな。問題の彼も、そのうちフォル君のことが好きになる。好きになれば、フォル君の言葉にも耳を傾けてくれるんじゃないかな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 我々はザハン支部の残党。

 そう名乗る十数名の信者が神殿にやってきたのは、その二日後であった。

 

「ロンダルキアで教団再興の動きがあると聞き、参りました。受け入れをお願いしたく」

 

 うわ本当に来たな――と小声でつぶやくシェーラに、ドヤ顔をするタクト。

 フォルは若干の驚きこそあったが、やはりそれよりもうれしさが勝った。その集団のまとめ役と思われる男性の手を取り、頭を下げた。

 

「よくぞご無事で! 皆様を歓迎します。一緒に仲良く頑張っていきましょう」

「よかった。ここまで来た甲斐がありました。ありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます。仲良く頑張りましょう」

「はい。ぜひ」

仲・良・く(・ ・ ・)、一緒に頑張ってくださるとうれしく思います」

「……?? 何かあったのでしょうか?」

 

 とにもかくにも、人数は着々と増えていく――。

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