邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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35.ラストチャンス

 祈祷師ケイラスの放った大きな炎が、サマルトリアの王子・カインの体を包んだ。

 

「ふーん。祈祷師がベギラマね」

 

 彼は盾で炎を受け、ダメージを軽減させていた。

 その間に、戦闘要員ではないタクトは後ろに下がり、フォル、バーサーカーの少女・シェーラ、若アークデーモン・ダスクの三人はベギラマを警戒して広がる。

 

 しかし、そこから三人がそれぞれ一斉に攻撃を仕掛けようと各々武器を構えたところで、意外な方向からストップがかかった。

 

「待て。君たちは手を出さないでもらおう」

「へえっ!?」

 

 共闘を拒否したのはケイラスである。フォルの裏返った声が洞内に響いた。

 

「いや、ここはみんなでいかないと」

「お前死ぬぞ」

 

 フォルとシェーラから同時にその無謀さを指摘されるも、「大丈夫だ」の一言で取り合わず。

 

「こっちはまとめて来てくれてかまわないけど?」

 

 さして興味もなさそうに細身の剣を構えるサマルトリアの王子。

 ケイラスは杖を彼に向けた。

 

「私はベラヌール支部の生き残りだ。我々支部員への大量虐殺を忘れてはいまい? ある者は首を両断され、ある者は心臓を貫かれ、ある者は仮面もろとも頭部を割られ、そしてある者は呪文で焼かれ。血と悲鳴が乱舞するその(さま)は地獄絵図だった」

「あー、なるほど」

 

 ベラヌールで戦いがあったこと自体は、この緑の魔法戦士の記憶にもあったようだ。

 

「私は兄弟で入信していた。兄は次期地区本部長候補と言われるほど優秀な妖術師で、皆に尊敬されていた。その兄を……お前たちは私の目の前で斬り殺したのだ」

「それはご愁傷様。でも、やらなきゃやられる。マホトーンが効けばいいけど、効かない信者についてはどうしようもない。というか、僕らは襲われた側なんだけど?」

「私は復讐のために必死に修行し、独学でベギラマを覚えた。お前には死をもって償ってもらおう」

「話かみ合ってないね。まあ、どうぞ」

 

 またケイラスがベギラマを唱える。

 サマルトリアの王子も剣にベギラマの炎を纏わせ、それにぶつけた。

 

 威力が違いすぎた。

 

「ケイラスさんっ!」

 

 空中でぶつかり合ったベギラマの絶望的な火力差に、叫ぶフォル。

 サマルトリアの王子が放った炎は、大灯台のときに見たときのものと同様、いやそれ以上に大きく見えた。

 

 杖から放たれていた炎を、剣から放たれた何倍もの炎が包み込む。

 あっという間にケイラスの炎は消し飛んだ。

 

 それだけではない。

 吸収したケイラスのベギラマの炎などもはや誤差の範囲にすぎないのではないか――そう思われるほどの圧倒的な炎は、そのままケイラスへと向かい、その長身を焼きにかかった。

 

「……!」

 

 ケイラスは声を出すことすら許されぬまま火だるまになり、火の圧で洞窟の床へと倒された。

 数回転がり、床に擦られてようやく鎮火した。

 

「お、おのれっ」

 

 彼は全身から煙を上げながら、立ち上がった。

 激しく焦がされ煙をあげている祈祷師のローブは、ダメージの大きさをよくあらわしていた。

 

 足に力は入っていない。

 彼はなおもベギラマを唱えようと、痙攣する手で杖を振りかざした。

 が、バランスを崩し、そのまま後ろに倒れた。

 

「修行? 復讐?」

 

 サマルトリアの王子が近づき、ケイラスの手から離れていた杖を、軽く蹴って転がした。

 

「さっき、“覚悟”がどうだとか言ってたけどさ」

 

 起き上がれない彼の仮面を、剣先で一度軽くコツンと突く。

 

「僕は、世界中の誰よりも近くで見続けてきたよ。本当に(・・・)覚悟が決まっている人間をね」

 

 あらためて剣がスッと引かれた。

 切っ先が赤黒く光る。

 

「じゃあ、さような――うわっ!?」

 

 鈍い音。

 緑の服の魔法戦士と白いローブの魔術師の二人が、合体したまま派手に洞窟の床を転がっていく。

 フォルがサマルトリアの王子に体当たりし、そのまま遠くまで押し出して倒れ込んだのである。

 

 巻き込みの可能性がある呪文や杖の力を使うより、確実にケイラスを救える――という、とっさのひらめきによる行動だった。意外性が過ぎてサマルトリアの王子も対応できなかったようだ。

 

「よし。フォルっ、離れろ!」

 

 この声は、若アークデーモン・ダスクである。

 フォルがそれを受けてまた転がるように離れる。

 

「イオナズン!」

 

 アークデーモンは種族ほぼ全員が習得済みという呪文・イオナズン。まばゆい爆発が、起き上がったばかりのサマルトリアの王子を頭上から襲う。

 

 広いとはいえども、洞内。盾をサッと掲げたサマルトリアの王子だけでなく、一瞬でこの場にある何もかもが光に飲まれた。

 

 その光がやむ。

 緑の魔法戦士は、片膝をつき、うっすらと煙をあげていた。

 それだけだった。

 

「あいつもそうだったけど、いったいどういう(からだ)してんだよ……」

 

 ダスクにとっては、以前ローレシア王・ロスと交戦したとき以来の理不尽な光景。思わずぼやきが出る。

 だが、時間は稼げた。

 バーサーカーの少女が黒焦げの祈祷師の腕を掴み、引き上げていた。

 

「お前全然ダメじゃないか……後ろで寝てろ」

 

 言葉と一緒に、ケイラスの体を後方のタクトへ向けて放り投げる。

 彼は慌ててキャッチしようとするも、受け止めきれず倒れた。

 

「いてて……。シェーラちゃん、もうちょっと優しく頼むよ」

「そんな余裕あるわけないだろっ」

 

 振り向かず怒鳴り声だけをタクトに返し、斧を構えるバーサーカーの少女。

 

 一方、サマルトリアの王子はふらつくこともなく、盾を下ろしながらスッと立ち上がった。

 ロトの紋章が入った緑の服を、ポンポンと軽くはたく。

 

「さてと。前座も終わったみたいだし、本番といこっか」

 

 そう言って、(つば)に隼の意匠が施された細身の剣を、フォルに向けた。

 

「たぶん今の僕たちには、そう何度も幸運は訪れない。だからこれは君を暗殺できる最後の好機かもしれないと思ってる。今度こそ確実に仕留める」

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