邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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39.新たな助っ人?

「ヒースさんがロンダルキアの(ほこら)に?」

「うん。アークデーモンの土下座は初めて見た。だいぶ必死な感じだったね」

「ヒースさんはご病気で療養中だったはずでは――」

「持病の仮病とか訳わかんないこと言ってた。まあ、わたしの見立てでは嘘かな。本当に病気だったんだろうけど、寝てる場合じゃないかもって思ったんでしょ」

「……?」

「全身黒焦げだったんで、念のためベホマして祠の中で寝かせてる。命に別状はないから安心して」

「ええ!? 黒焦げ!? どういうことですか!?」

「落ち着いて。ちゃんと最初から話すから」

 

 ロンダルキアの祠の主であるミグアは、経緯を詳しく説明した。

 

 

 

 老アークデーモン・ヒースは、祈祷師ケイラスの懸念を受け、フォル出発日以降、念のために神殿を見張っていた。

 懸念は現実となり、ザハン支部出身の祈祷師ハンソン含め5人の信者が、夕闇に紛れて悪魔神官の研究資料をロンダルキア外に持ち出そうとした。

 それを目撃したヒースは、ケイラスの指示で同じく神殿を見張っていた魔術師デルギンスとともに、その場で5人全員を取り押さえた。しかしヒースは重傷を負った。

 

 5人はデルコンダル王の特命を受けていた間者(かんじゃ)で、ロンダルキアへやってきて以来、教団内部の動きについても密かに報告をしていた。そしてデルコンダルはロンダルキアの情報をロトの子孫三国に売っていた。

 フォルたちが海底の洞窟へ向かった事実も漏れていると考えることが自然であり、刺客を向けられている可能性が疑われた。至急フォルたちに知らせに行く必要があったが、ヒース本人は重い上に回復呪文を使えないため、海底の洞窟への助っ人は、軽くて性能抜群であろうミグア以外に思いつかなかった。

 

 

 

「……ということでね。あの爺さんが呼んだバピラスの籠に乗って、ここに来たってわけ」

 

 バピラスはよく調教されてた、と少女は無感動に感想を付け加えた。

 

「そんなことが」

 

 フォルは呆然とした。

 事前に懸念を示していた祈祷師ケイラスを除いた一同も、驚愕の表情となった。

 

「まあ、前も言ったかもしれないけど。いろいろあるってことじゃないの、人が増えてくると」

「本当にありがとうございました。でもあなたがこちらにご協力をくださったことがサマルトリアの王子に思いっきりバレてしまいましたが、大丈夫なのでしょうか」

 

 ひょっとして、ロンダルキアの祠にとんでもない迷惑をかけてしまったのではないか。

 そう思って冷や汗を垂らすフォルだったが、白い少女はズレたマフラーを直すと、いつもと変わらないトーンで答えた。

 

「わたしは話を聞いて、ここに来ないといけないような気がした。だから断らなかった。こうなる可能性は当然あると思ってた。キミは気にしなくていい」

「そ、そうですか……すみません」

「ああ、でも、あのデカい爺さんを祠の中で休ませるために、仕方なく入り口を壊したんで。仕上げに必要な材料とかは後でちょうだい」

 

 それはもちろん、とペコペコ頭を下げた。

 フォルは、事件解決のもう一人のキーマンであろう祈祷師ケイラスにも礼を言った。

 

「ケイラスさんがいらっしゃらなかったら、取り返しのつかないことになっていたようです。ありがとうございました」

「こういうこともある。今後の参考にしてくれればいい」

 

 ベラヌール支部時代の部下がきちんと機能したのなら、それは何よりだ――。

 彼はそう言って、仮面の奥の両眼を光らせた。

 

 

 

 

 

 

 一行はそのまま進み、ついに目的地に到着した。 

 悪魔神官の研究資料の一部があるとされる、礼拝堂に。

 

 それは、洞窟内の最奥部にある大空洞をそのまま生かす形で作られた、天井の高い、とても巨大なものであった。

 

 礼拝堂内には溶岩がなく、自然の光源はない。

 にもかかわらず、不自然に明るかった。

 

 祭壇のまわりの灯台と、壁際に並んでいる灯台すべてに、明かりがともっていたのである。旺盛な炎が、礼拝堂の岩肌を照らしていた。

 

 他のフロアや通路のように、信者の遺体は散乱していない。骨らしきものは礼拝堂内に存在していたが、隅に片づけられていた。

 そして――。

 

「妖術師、様……?」

 

 フォルの声が、広い礼拝堂に響く。

 まばゆい祭壇に、信者の後ろ姿があった。ローブは紫色、頭巾は緑色であるため、妖術師である。

 

 妖術師が振り向いた。

 仮面を着けている。杖も持っていた。

 祭壇から、一歩、二歩と、フォルたちのほうへと近づき……。

 

「ダレ……ダ……」

 

 仮面の中から発せられたのは、明らかに人間からかけ離れた、低く抑揚のない、生気を感じない声。

 

「亡くなられて……ましたか……」

 

 フォルの肩が落ちた。

 

「ユビ、イッポン、フレサセナイ……ベギラマ」

「え――」

 

 亡霊とはいえ、スカルナイトではなく元人間の信者である。問答無用で攻撃してきたというのは一同にとって予想外だった。

 無機的な声での詠唱とともに、妖術師が宝玉の光る杖を向けた先は、バーサーカーの少女だった。

 

「あ゛あ゛あああああああっ」

「シェーラさん!」

 

 彼女は盾で受けたものの、激しい炎に包まれ、大きく吹き飛ばされた。

 転がって倒れたところに、慌ててフォルが駆け寄る。

 

「ぁぁ……ぅぁっ……」

「だ、大丈夫ですかっ」

 

 苦しそうにあえぐ彼女の体は、肌着姿である。タクトから譲り受けた服はサマルトリアの王子の猛攻に耐えかねて分解してしまっていたためだ。

 破片はすべて回収していたものの、タクトいわく「復旧までは時間がかかる」とのことだった。褐色の四肢が剥き出しで防御力が皆無に等しかったため、狙われたか。

 

 フォルはシェーラのダメージが致命的でないことを確認すると、白い少女を見た。

 

「ミグアさん、マホトーンをお願いしてもよいですか」

 

 ロンダルキアの祠の少女は、小さな手のひらを向け、呪文を唱えた。

 だが、手ごたえのなさをすぐに感じたようだ。

 

「だめだね。効いてるとは思えない」

「そうですか……ありがとうございます」

 

 また妖術師がベギラマを唱える。

 次の標的は、丸腰のタクトだった。

 しかし今度はミグアの対応が間に合った。サマルトリアの王子のベギラマを相殺したときのように、他の面々にとって未知である氷の呪文を放ち、炎を包んで消滅させた。

 

 そして彼女はフォルに問う。

 

「残念そうだね。マホトーンが効いたら何かやりたかったの」

「え? あ、はい。もう昇天なさっても大丈夫であることをお伝えして、安心して逝っていただいたほうがよいのかなと」

「へえ。まあ、キミらしいかな」

 

 効かないものは仕方ない――ということで、タクトとシェーラを除く全員が攻撃の体勢を作る。

 まさに一斉攻撃を繰り出そうというとき、この場にはひどく似つかわしくない、落ち着いた男声がした。

 

「ほう。そういうことならばわしに任せよ」

 

 誰だ? と、全員が礼拝堂の入り口側を向く。

 

 そこには、木の杖を持ち、襟の大きな紫色のローブを着た、魔法使い風の男が立っていた。

 大きさこそ人間とさほど変わらないが、体色が青。明らかに人間ではなかった。

 

「あなたは?」

「敵ではない。安心するがよい」

 

 人間でない男はスタスタと寄ってきてフォルにそう答えると、木の杖をかざし、詠唱した。

 

「マホトーン――」

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