邪教、引き継ぎます   作:どっぐす

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エピローグ
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「うへぇ。寒い!」

 

 暖かかった飛行船から降りたダイスは、モコモコに着込んだ姿で背中を丸めながら体を震わせた。

 

「そこまで寒くないぞ? 人間は寒がりじゃのう」

 

 すでに降りていたカシューが、紫色の肌を多く露出させた薄着で胸を張り、大量の荷物を背負った巨体に似合う豪快な笑いを響かせる。

 

「さすが牛の獣人。寒さに強い!」

「暑いのは苦手じゃがな」

「知ってる! ストーブの近くには絶対座らないもんね!」

 

 ダイスも笑うと、意を決して両手を広げ、この地の冷気を思いっきり肺に入れた。

 

「ふー、胸の中が冷たい」

 

 空に広がるのは、標高の高い地特有の濃い青色。

 地平の手前に広がるのは、万年雪による一面の銀色。

 

「でも、ワクワクするね! よろしく頼むよー、澄み切った青空と白銀の大地よ!」

 

 普段の生活では決して味わえない景色に対して一礼すると、風が、彼の前方から一つ吹いた。

 やはり冷たいが、優しい。

 舞い上がったサラサラの雪が、彼の短い髪にふわりと降り積もり、わずかに白く彩った。

 

「澄み切ってるのはいいんだが。こんなにまぶしいって聞いてなかったぞ」

 

 カシューと同じく先に降りていたアイラは、目を細めながら待っていた。

 

「あっれ? 褐色の種族って、日差しに強そうなイメージだったけど。違うの?」

「日差しに強くてもまぶしいもんはまぶしいだろ……。ただ、なんか嫌な感じはしないんだよな、このまぶしさ」

 

 そして彼女はカシューの荷物が気になったようだ。

 

「つーか、いくらオッサンが力持ちの種族だからって、荷物を全部押し付けるなよ……。オレもオッサンもお前の調査に付き合ってやってるんだからな?」

「卒論ってのは助け合いだよー?」

「それはそうだが、お前だけスケールがデカすぎだろ。どこの世界の学園に飛行船でこんな秘境まで調査にくる学生がいるんだよ」

「ふふふ。どうしても調べたい人がいるから仕方ない」

 

 ダイスはそう言いながら、フィールドノートと地図を広げていく。

 

「前に『密かに今の社会の祖なのかもしれない』とかお前が言ってた奴だよな?」

「うんうん。その人がいなければ、おれらみたいに異なる種族が仲良く学園で勉強して、一緒に旅することもなかったかもしれないし、世界中に多種多様な宗教が存在することもなかったかもしれない――と思ってるんだよね」

「なんて言うんだ? 名前は」

「名前も諸説あるんだ。おれの持ってる本にはむかーしにいた『ある宗教家』と書かれてる。ちゃんとしたかたちでは歴史に残ってないみたい」

「何だよそりゃ」

 

「ほう。敗者は勝者によって歴史から抹消されることもあると聞くが、そういうことなのかのう」

「いや、それがさ、敗者じゃなかったらしいんだよね。この地で大活躍した人らしいよ」

「ならなんで有名人になってないんだよ」

「いちおう仮説は立ててるよ。シャイで目立つのが嫌だったから歴史に残さないよう遺言でもしてたんじゃないかなって」

「胡散臭い仮説を立てたな。お前らしいが」

 

 話であたたまってきたところで、さあ出発、というときだった。

 

「……わたしはその宗教家の名前を知ってる」

 

 その声に、三人は驚いた。

 見るとすぐ近くに、小さな白い少女がいた。

 

「うお! びっくりした! 人がいた! こんにちは!」

「こんにちは。さっきからいたよ」

「ごめんね! 超保護色だから全然気づかなかったよ!」

 

 まさに雪のような銀髪に真っ白な肌。白い服と大きな白いマフラー。見事なほど、一面雪化粧の景色に溶け込んでいた。

 

「きみは誰?」

「わたしはハクア。キミと手紙をやりとりしてた」

「あー! きみが現地案内サービスのハクアちゃんか。お世話になるけどよろしく頼むよ!」

「……よろしく」

 

 ダイスが元気よく最敬礼をすると、白い少女はボソッと答えて小さく頭を下げた。

 

「んじゃ、名前を知ってるということなんで、さっそく教えてほしいなー」

「密かに建てられていたその人の墓がある。それを見て自分の目で確認して」

「おお、いいねー。その無愛想でサービス業やる気ゼロな感じ。達人っぽい感じがして頼もしい!」

「いや、よくはないだろ……まあ個人的には気にしないけどな。よろしく」

「しばし迷惑をかけるが、よろしく頼むぞい……ん? 着陸場まで迎えに来てくれるという話じゃったかの?」

 

「あ、そういえばそうだね。このちょっと先にある(ほこら)で会う予定だったんじゃ?」

「そうだけど、ずっと空見てたら来たのわかったから。迎えにきた」

「おー、出血大サービス? ないのは愛想だけだったか! ありがとう!」

「別にサービスってわけじゃない」

 

 白い少女はクルっと振り返って出発の意思を示しながら、年齢不相応の落ち着いた声で続けた。

 

「なんとなく、そうしないといけないような気がしたから」

 

 

 

 

 

 




『邪教、引き継ぎます』-完-
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