田舎農家のオッサン、最強ドラゴンを倒す様子を配信し伝説の配信者へと成り上がる   作:コネリカ

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第1話 追放配信

 

「どうもー、皆さん♪ 見てますかー? 《炎天の大蛇》のギルド長、アセルスです。今日の配信は『クズなオッサンをギルドから追放してみた!』でーす♪」

 

 王都グラハムの一角にあるギルド――《炎天の大蛇》。

 そのギルド長執務室にて。

 

 ギルドの(おさ)であるアセルス・ロービッシュは下卑た笑みを浮かべていた。

 

「ギルド長! これはどういうことですか!?」

「どういうことも何も、今言った通りだ。お前は今日限りで『クビ』なんだよ」

 

 アセルスが冷たく言い放ったその先には、一人の男が立っている。

 

 男の名はゴーシュ・クロスナー。

 ギルド《炎天(えんてん)大蛇(だいじゃ)》に所属する中年のギルドメンバーである。

 

「いきなり解雇って……。俺が一体何をしたって言うんですか!」

「おいおい、そんなに興奮するなよ。配信を見ている視聴者たちにも失礼だろう?」

 

 アセルスが鼻で笑いながら指差したその先には誰もいない。

 誰もいないが、そこには半透明の絵が映し出され、多数の文字列が流れていた。

 

 今ではこの世界で当たり前となった技術――「動画配信」が行われていたのだ。

 

 

 五十年前――。

 

 国家間の闘争などはとうの昔に無くなり、各地に魔物が現れる他は平和になったこの世界で。

 とある大賢者の画期的発見がこの世界に革命をもたらすことになる。

 

 元々この世界には、各地に存在する微精霊を介して行う《交信魔法》というものがあった。

 

 微精霊はあらゆる場所に存在し、離れた場所にいても声によるやり取りを行うことができたのだ。

 

 そして日常的に《交信魔法》が使われる中で、大賢者があることに気付く。

 

「声が届けられるなら、視覚情報も届けられるんじゃないか?」と――。

 

 大賢者が理論を確立し、それまでの交信魔法と同じく誰もが扱えるものと判明してからは早かった。

 

 遠方にいる者に声と視覚情報を届ける「動画配信」なる技術が世界中に広がり、それは人々の暮らしに大きすぎる影響を与えたのだ。

 

 ――ある歌姫の配信が爆発的にヒットし、動画配信が人々の娯楽の中心となった。

 ――ドワーフ族が異国の剣士とやり取りしてカタナと呼ばれる強力な武器を作るようになった。

 ――うだつの上がらない冒険者が偶然レアアイテムを見つける動画を配信し、一躍有名人となると、後追いで動画配信を行う冒険者が増えた。

 ――獣人族の可愛らしさが癒やし系動画として広まり、猫耳型のカチューシャを着けるファッションが一時期ブームとなった。

 ――エルフ族が解析した古代文字を広めた結果、若者を中心として俗語が生みだされ、これまでにないような言葉が使われるようになった。

 

 そんなことが世界各地で起こった。

 

 情報や言語、文化の共有はいつの時代でも大きな変化をもたらすということなのだろう。

 そのことを証明するかのように、動画配信という技術はこの世界を一変させた。

 

 今では発信側が動画を配信し、受信側は配信に対してのコメントを書き込むなどのやり取りができる「フェアリー・チューブ」という媒体が出来上がり、世界中の人々の娯楽として定着している。

 

 今、ギルド長アセルスが行っているのはそんな動画配信の一つというわけだ。

 

「さっきお前は言ったな? 自分が何をしたんだと。それを今から説明してやるよ。さあお前ら、入ってこい」

 

 アセルスがパチンと指を鳴らすと、ゴーシュたちのいる執務室に男性と女性のギルドメンバーが一人ずつ入ってきた。

 

 アセルスはそのギルドメンバーたちに視線を送り、互いに頷き合う。

 

「じゃあまずはオレから……。オレ、見たんッス! その人がギルドのお金を盗むところを!」

「え……?」

 

 ギルドメンバーの男性に指差され、ゴーシュは思わず声を漏らした。

 まったく身に覚えのないことを言われたからだ。

 

 男性のギルドメンバーはゴーシュが盗みを働いたという状況を詳細に語りつつ、非難する言葉を並べ立てていく。

 ――まるで、元から台本があったかのように。

 

 ゴーシュが困惑していると、周囲を多数の文字列が埋め尽くしていた。

 現在のゴーシュたちの様子を視聴しているフェアリー・チューブのリスナーたちが打ち込んだ文字(コメント)だ。

 

【おいおいマジかよ】

【横領ってやつ?】

【おっさん最悪だな】

 

【こんなやつクビでいいだろ】

【↑だからアセルスさんはクビにするって言ってんだろ】

【悪事がバレちゃったねえ♪ ざまぁ♪】

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそんなことしていな――」

「私は毎日のように体を触られていました! やめてくださいって言ったのに、ずっと続けられて。私、とっても怖かったですぅ……」

 

 ゴーシュの言葉に被せられたのは女性ギルドメンバーの言葉。

 これもまた、ゴーシュにとっては身に覚えのないことだった。

 

【うわぁ、サイテー】

【これクビで済むんか?】

【オッサン、あたふたしててワロタw】

 

【これは犯罪者の顔】

【通報しよう】

【クビだけで済ませようとするアセルスさんカッケー!】

 

 ゴーシュは異を唱えるが、犯罪者の言い分と評され、聞く耳を持ってもらえない。

 

「ということだ。改めて、ギルド長としてお前にはクビを命じる――」

 

 アセルスが宣言すると、周囲に流れていた文字列はいっそう激しく流れ出す。

 

 ――ゴーシュに対しては激しい罵倒や糾弾が。

 ――アセルスに対しては称賛や讃美が。

 ――そして面白半分に垂れ流された興味や関心が。

 

 コメント欄はそんな声で満ち溢れていた。

 

   ***

 

「よっしゃ。配信切ったからもういいぞ、二人とも」

 

 微精霊との交信を切断し、配信を終えたアセルスが声を上げた。

 

 その言葉を合図として扉の前に立っていたギルドメンバーたちがアセルスに駆け寄る。

 

 そして――。

 

「「「イエーイッ!!!」」」

 

 アセルスとギルドメンバーたちは満面の笑みでハイタッチを交わした。

 

「……っ」

 

 その光景を見てゴーシュも確信する。

 自分は、アセルスの配信の「エサ」にされたのだと。

 

 フェアリー・チューブの配信は視聴者を集めるほどに広告収益が発生するほか、実績を築き上げれば大手商会とのコラボ配信などの話も舞い込みやすくなる。

 だからアセルスのように、なりふり構わずインパクトのある配信を行う者もいるのだ。

 

「お疲れさまッス、ギルド長!」

「どうですどうです? あたしの泣き真似、上手くなかったですかぁ?」

「いやぁ、二人とも良い演技だったぞ。見ろよ、最大同接数が8000を超えてる」

「うわっ、ホントだ。大成功じゃないッスか」

「やっぱりギルド長の企画はハマりますねぇ」

「うーん、しかし同接1万の壁は厚いなぁ。ま、良しとすっか」

 

 ハイタッチを交わした三人が喜々として語っている。

 その表情に一切の曇りは無く、本気で喜んでいるようだ。

 

 「自分勝手な欲望を満たすため、仲間の一人を笑いものにした」などという罪悪感は欠片も無い。

 それはまさしく屑どもたちの会話だった。

 

「説明してください、ギルド長! 配信で注目を集めるためにこんなことをしたんですか!?」

「うるせぇなぁ。そんな大声出すなよ。ギルドでお荷物だったお前に最後の出番を与えてやったんだろうが」

 

 アセルスが面倒くさそうに言い放ち、傍にいたギルドメンバー二人もそれに続く。

 

「こう言っちゃなんですけど、正直ゴーシュさんは普段からあんまり役に立ってなかったッスよ。魔物討伐の配信とかでも、後ろに立ってるだけでしたし」

「そうそう。ゴーシュさんってば、いっつも配信の隅っこに映ってただけじゃないですかぁ? ギルド長たちのおかげで視聴数を稼げてたのにぃ。もしかして自分も貢献しているつもりだったんですかぁ?」

「いや、あれはみんなが他の敵に無警戒だったから討伐していたんだけど……」

 

 ゴーシュが異を唱えると、アセルスとギルドメンバーたちは顔を見合わせて笑う。

 それは人を小馬鹿にするような……、低俗な笑みだった。

 

「あっはっはー! ギルド長や私たちのことを助けてたとでも言うんですかぁ? ゴーシュさんみたいな雑魚オジサンが? ぷぷぷ。ちょーウケますぅ」

「ゴーシュさん、見栄を張るのやめた方がいいッスよ」

「お前さぁ、ウソは良くねぇよ?」

 

 どの口が言うのかと――。

 まともな人間がその場にいたなら恐らくそんな言葉が投げかけられただろうが、生憎ここにはそんな良識人はいない。

 

「とにかくさ。ちょっとばかし(・・・・・・・)演出したけど、お前がお荷物なのには変わらねぇから。今日限りでクビな」

「待ってください! モンスター討伐とかなら俺だって――」

「うるせぇ……!」

 

 異を唱えられたことが煩わしいと思ったのか、アセルスがゴーシュの腹に蹴りを入れた。

 

「あ、やっべ。今の配信しときゃ良かったわ」

 

 アセルスがそんなことを言いながら余裕の表情を浮かべる。

 

 ゴーシュは「ある受け身」を取ったことにより、実はほとんどダメージを受けていなかったのだが、そのことにアセルスやギルドメンバーは気づかない。

 

 ゴーシュがとある動画配信を通じ、密かに体得した古代武術の一つ――《浮体(ふたい)》と呼ばれる防御方法だ。

 

 勢いを殺すためにあえて後ろに跳んだのを、アセルスたちは攻撃によって吹き飛ばされたのだと思ってニヤニヤと笑っている。

 

「あのな? 今や動画配信は世界中が注目する文化なんだ。動画配信で人を集められれば金だって名誉だって手に入るからな。ファンの女だって食いたい放題だぜ?」

「……」

「しかし、それだけ配信をやってる奴やギルドも多い。そいつらを出し抜かなけりゃ成り上がることもできねえ。なのにお前みたいな、大して再生数に貢献してなさそうな奴を置いとくなんて、ギルドにとっちゃ負債になるんだよ」

 

 アセルスは淡々と語る。

 その価値観や主張の是非はともかく、大きく間違っている点が一つだけあった。

 

 そのことにアセルスが気づくのは先のことになるのだが……。

 

「オッサンを見るモノ好きもいるかと思って置いてやってたが、やっぱダメだったわ」

「く……」

「ま、良かったじゃねえか。最後に貢献できてよ。お前みたいなオッサンがメインの配信で同接1万に迫るなんて、もう二度とねえだろうしな。『追放される配信を大勢の人に見てもらいました』って言ったら自慢話になるぜ? ハハハハハハッ!」

 

 ゴーシュは反論した。

 アセルスの考えを改めるよう説得もした。

 

 しかし、アセルスは聞く耳を持たない。

 

「さあ、そろそろ出ていけよ。それとも、もう一度蹴り飛ばされてえか?」

 

 ゴーシュは諦めにも似た感情を胸に、ギルドの執務室を出ていこうとした。

 

「でも――」

「あン?」

 

 ゴーシュが去り際に発した声。

 その声を聞いたアセルスは不機嫌そうに眉をひそめる。

 

「でも俺は……。動画配信は人を幸せにするものだって信じています。綺麗事だろうとなんだろうと、そう教えてくれた人がいましたから」

 

 それが、ギルド《炎天の大蛇》でゴーシュが残した最後の言葉だった。

 

   ***

 

「やーっとあのお荷物を処分できたぜ」

「もー、ギルド長ってば人が良すぎですぅ。もっと早く追い出しても良かったのにぃ」

「いやいや、近頃は理不尽に解雇したりするとお(かみ)が不当解雇だとか言ってうるせえからな。念のためだよ、念のため」

 

 ゴーシュがギルドを去ってからのこと。

 アセルスたちはひと仕事を終えたとでも言わんばかりに談笑していた。

 

「でも良かったッス。さっきの配信、ギルド長に賛同する声ばっかりで、オレたちの演技を疑ったりするコメントはほとんどなかったッス」

「そりゃそうだろうよ。ウチのメンバーに指示してたからな」

「指示してたって、何をッスか?」

「普通のリスナーのフリしてゴーシュを叩きまくれってな。ああいう大衆が集まる場では空気感をコントロールすることが大事だからよ」

「うおおおっ! ギルド長、天才っすか!?」

「フフン。結局はここだよ、ここ」

 

 アセルスは言いながら自分の頭をトントンと指差す。

 それからも、アセルスを含めた《炎天の大蛇》の面々は倫理観の欠落したやり取りを繰り広げていた。

 

 ――そんな流れを打ち破るかのように、執務室の扉がノックされる。

 

「ん? どちら様?」

 

 アセルスが入室を促すと、そこには金髪の美少女が立っていた。

 

 少女は軽く一礼をした後、鈴の鳴るような声で話しかける。

 

「失礼します。私、ミズリー・アローニャと申します」

「なんだ君、俺のファンかな? 悪いけど今日は他の娘とディナーの予定が入っていて……あ、でも君めちゃくちゃ可愛いな。もし君がどうしてもって言うなら時間を空けるけど?」

「いえ、断じて違います」

 

 ピシャリと言葉を遮られ、アセルスは思わずたじろいだ。

 ミズリーと名乗った少女は妖精のように可愛らしい見た目だったが、その青い瞳には不思議な威圧感があった。

 

「私、ゴーシュ・クロスナーさんにお話があって来たのですが、いらっしゃいませんか?」

「ゴーシュに? 今はもう出ていったけど、君みたいな娘があんなオッサンに何の――」

「ああぁ……。遅かったぁ……」

 

 ミズリーがアセルスの返答を聞いて崩れ落ちる。

 とても残念そうな表情で頭を抱えた少女に、アセルスは訳が分からなくなった。

 

「おいおい、一体どうしたんだよ?」

「行き先は?」

「え?」

「行き先ですよ行き先。ゴーシュさんの」

「いや、それは分からねえけど……」

「……はぁ」

 

 今度は溜息をつかれ、アセルスはますます困惑した。

 この少女が何者なのかということもあるが、これほどの美少女がなぜここまでゴーシュに固執しているのか、その理由が分からなかったからだ。

 

「もういいです、失礼しました」

「ち、ちょっと待てよ。君、もし良かったら俺のギルドに入ってくれないか? そんだけ可愛かったらきっとウチで稼ぎ頭になれると思うぞ?」

 

 踵を返したミズリーを見て、アセルスが慌てて声をかける。

 が――。

 

「貴方みたいな人の元で働くなんて、冗談じゃありません。私、あなたがゴーシュさんに対してやったこと、絶っ対に許しませんから」

「……は?」

「まあ、自分がどれだけの逸材を追い出したか、そのうち思い知ると思いますけどね」

 

 ミズリーはそう言い残し、執務室から出ていった。

 

 残されたアセルスは傍にいたギルドメンバーと顔を見合わせる。

 

「何だったんだ、一体……?」

 

 わけも分からず、アセルスはそう呟くしかない。

 

 こうして、アセルスたち《炎天の大蛇》はゴーシュを切り捨てることになった。

 

 その対価として得たのは、同時接続数8000という配信動画。

 これがどれだけ見合わないものであったのか、この時のアセルスたちは知る(よし)もない。

 

 ――そしてこの半年後、世界は伝説を目撃することになる。

 

 

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