田舎農家のオッサン、最強ドラゴンを倒す様子を配信し伝説の配信者へと成り上がる   作:コネリカ

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第6話 大剣オジサンと金髪美少女

「俺が君と一緒に配信ギルドを……?」

「はいっ!」

 

 困惑したゴーシュに対し、元気の良い返事が返ってきた。

 

 ゴーシュが先程までの配信で振り回していた大剣を背負い直すと、金髪美少女ミズリーは曇り無い笑顔を向けている。

 

 ――可愛らしい少女、というのがゴーシュの抱いた第一印象だった。

 

 外見は十代半ばにも見える。

 

「ごめん、ちょっと突然のことすぎてどう反応すればいいか分からないんだが……。そもそも、どうして俺にそんな話を?」

「あ、そうですよね。すみません。実は私、ゴーシュさんのことは以前から知っていたんです。《炎天の大蛇》にいた頃から」

「……じゃあ、俺が解雇された時のことも?」

「知っています。あの配信の後すぐにギルドに行ったんですが、ゴーシュさんはもういなくなってしまっていて……。本当に酷いですよね! 全部あのチャラチャラしたギルド長さんのせいです!」

 

 憤慨した様子で声を荒らげたミズリーに、ゴーシュの困惑はますます深くなった。

 あの配信はギルド長アセルスの手によって仕組まれたものだが、外から見ればゴーシュの方に悪印象を持つのが自然だろう。

 

 しかし、ミズリーはどうやらあの追放配信がでっち上げだったと確信しているらしい。

 

「ふっふっふ。私の目は誤魔化せませんよ。私はずっと見てきましたからね。貴方の出ている配信を」

「え……?」

「ゴーシュさん、何度かあのギルドで魔物討伐の配信に同行していましたよね? いつも配信の端っこの方にしか映っていませんでしたけど、すっごい活躍ぶりでした!」

「活躍? 俺が……?」

「はいっ!」

 

 ミズリーは鼻息を荒くしてゴーシュにぐいっと顔を近づける。

 小柄なミズリーの顔はゴーシュの胸元あたりにあるのだが、それでもここまでの美少女に顔を寄せられる経験をしたことのある者はそうそういまい。

 ゴーシュはドギマギとしながら引きつった表情を浮かべた。

 

「異国の言葉ですが、真の強者こそ殿(しんがり)を務めるとはよく言ったものです。《炎天の大蛇》はあの頃、よく魔物討伐の配信をして人気を稼いでいましたけど、本当に凄かったのはゴーシュさんです!」

「おおぅ……」

「後方から迫る魔物を跡形もなく消し飛ばして。もっとも、あのチャラチャラしたギルド長さんはまったく気づいていないようでしたけど……。ゴーシュさんがいなければ危険な状況になっていたことも多々あったのに」

「……」

「とにかく、そんな風に陰で他の人たちを支えていたゴーシュさんが姑息なことをするような人には見えなかったんです。あのギルドで本当に凄いのはゴーシュさんだったって、私は思っています!」

 

 ミズリーは興奮した様子でゴーシュに語りかける。

 一方で、ゴーシュは感激していた。

 

 別に誰かに認めてほしかったわけではない。

 それでも、この目の前にいるミズリーという少女は見てくれていた(・・・・・・・)のだという事実に、不思議と胸を熱くさせられた。

 

「以前からゴーシュさんにお会いしたかったんですが、どこにいるのかが分からなくて……。でも、昨日の配信を見てゴーシュさんがこのモスリフにいるって分かったんです。それで、失礼かと思いましたがこうして会いに来ました」

「昨日の配信?」

「はい。あの世界樹を斬るやつです」

「世界樹じゃないけどな……。ああ、でもなるほど」

 

 昨日の配信でゴーシュが薪割りと称して斬り倒した大樹はモスリフの地特有のものだ。

 恐らく、ミズリーはそれを見てゴーシュの居場所を特定したのだろう。

 

「しかし、それだけの情報で会いに来るなんて君の行動力は凄いな」

「ふふ。私、どうしてもゴーシュさんと一緒に配信ギルドをやりたいですから。その証拠に、こんなのも作ってみました」

「こ、これは……」

 

 ミズリーが手に持っていた麻袋から何かを取り出した。

 それは膨大な枚数の紙の束で、表題には「私がゴーシュさんをスカウトする100の理由」と書いてある。

 

 中身に目を通すと、ゴーシュを称賛する言葉が延々と書き記されていた。

 ざっと見ただけでも「私がゴーシュさんに興味を持つようになったきっかけ」、「ゴーシュさんだけが使える古代武術のヒミツ」、「みんな気づいていない! 《炎天の大蛇》でのゴーシュさんの活躍を語る!」、「モスリフの地での配信から見えるゴーシュさんの人柄」などなど。

 

(は、恥ずかしすぎる……!)

 

 あまりの称賛にゴーシュは顔を覆いたくなった。いや、実際に顔を覆っていた。

 フェアリー・チューブのまとめ記事を見た時以上の衝撃である。

 

 動画配信の市場や流行についても詳細に記載され、ミズリーが単なるミーハーではないことを(うかが)わせた。

 それはもはや、「動画配信オタク」と言っても差し支えないほどの熱量である。

 

「君は、ここまでして俺のことを?」

 

 ゴーシュの言葉に、ミズリーはコクリと頷く。

 

「私がここまで動画配信を好きになれたのはゴーシュさんのおかげです。だから、ゴーシュさんと一緒に動画配信をしていけたら、きっと楽しいだろうなって」

「……」

「あと、どうせやるなら一番を目指したいじゃないですか。そのためには、ゴーシュさんが必要なんです!」

 

 真っ直ぐな子だなと、ゴーシュは思った。

 と同時に、ゴーシュは自分の中にあった「ある想い」を思い出す。

 

「どうでしょう? もちろんゴーシュさんにも今の生活があると思うんですが」

「……俺は」

 

 と、ゴーシュがミズリーの問いに答えようとした時だった。

 

「あ……。降ってきちゃったな」

「雨、ですね……」

 

 ポツリポツリと、空から雨が落ちてきてゴーシュたちを濡らしていく。

 それはけっこうな雨量で、このまま外で話を続けるのは適切ではないだろうと思わせるほどだ。

 ゴーシュはミズリーの自作した資料が濡れないよう麻袋に戻す。

 

 そして、目の前にいる少女をそのままにしておくのも忍びなくて、ゴーシュは声をかけた。

 

「仕方ない、俺の家に場所を移そうか」

「ゴーシュさんのお家に!? 良いんですか!?」

「ああ。大したもてなしはできないかもしれないけど」

「ぜひお願いしますっ!」

 

 元気な子だなと苦笑しつつ、ゴーシュはミズリーを自分の家へと案内することになった。

 

   ***

 

「あっはは。けっこう濡れちゃいましたね……」

「ごめんな。俺がもう少し早く気づいていれば良かったんだが」

「いえいえいえっ! むしろゴーシュさんのお家にお呼ばれするなんて感激です!」

「そこ、喜ぶところ?」

 

 ゴーシュとミズリーは、家の入り口でそんなやり取りを交わしていた。

 けっこうな強さの雨に見舞われ、二人ともびしょ濡れの状態である。

 

「ところで、ミズリー、さん……?」

「ふふ。『ミズリー』で良いですよ、ゴーシュさん」

「……分かった。えっと、ミズリーは服の替えとかあるのか?」

「あー、持ってきてないですね。でも、大丈夫です! こう見えて普段から鍛えているのでご心配なさらず」

「いや、そのままだと風邪をひくかもしれないしな。それに、目のやり場に困るというか……」

「……?」

 

 今のミズリーは、短めのスカートに、上は白い薄手のブラウスを着衣しているだけという軽装だ。

 それが雨に打たれたことで濡れ――というか肌が透けているのである。

 そんな姿を直視するというのはゴーシュにとって自戒すべき事項だった。

 

 濡れたままで放置しておくには可哀想だろうとゴーシュは考え、ミズリーを見ないようにしつつ歩を進めた。

 そして、自身の持っている衣服の中でも一番新しいシャツを引っ張り出し、ミズリーに声をかける。

 

「一応洗ってあるやつだから、これに着替えるといい。話をするのはそれからでも遅くないだろう」

「え? 良いんですか?」

「あ、でも嫌だよな、こんなオッサンの服なんて……。ちょっと待っててくれ。村の人に頼んで女性の服を借りてく――」

「いえいえっ! 私はそれがいいです!」

「そ、そうか? それじゃあ、俺は一旦家の外に出てるから」

 

 シャツを受け取ったミズリーが喜んでいるのを見届けて、ゴーシュは外へと出ることにした。

 

 

 ゴーシュが外で着替えを済ませた後も、雨は相変わらず降り注いでいる。

 今日の朝にやっていた占い師の天気予報配信によれば、雨は一時的なものらしい。

 もう少しすれば雨も上がるだろう。

 

「それにしてもあの子、とんでもなく一直線な子だな……」

 

 独り呟き、ゴーシュは空を見上げる。

 

「…………」

 

 ゴーシュには密かな「夢」があった。

 

 かつて自分が《炎天の大蛇》に所属し、ギルド長のアセルスから必要以上の雑務を押し付けられ激務に追われていた頃のことだ。

 

 ただ仕事をこなして宿舎に帰って眠るだけの日々。

 

 こんな毎日を送る意味なんてあるのかと、憂鬱な毎日を送っていた頃のこと。

 

 ――きっかけは、そんな中で見た一つの動画配信だった。

 

 ゴーシュがいつものように疲労困憊(ひろうこんぱい)でギルドの宿舎に戻り、何となくその日フェアリー・チューブで話題になっていた動画配信を流していたところ。

 

 ある有名配信者が歌を唄っていた。

 

 確か最近話題の若い女性配信者だなと思いながら、ゴーシュはその配信に惹きつけられる。

 

 疲れで(すさ)んでいた心に、たまたま突き刺さったのかもしれない。

 その女性の眩しすぎる笑顔が、当時の自分と対照的だったから惹きつけられたのかもしれない。

 

 ――何故かは分からない。

 

 何故かは分からないが、誇張でも何でもなく、命を救われた気がした。

 

 それからというもの、ゴーシュはその女性の動画配信を毎日見るようになる。

 そしていつしか、自分もその女性のように、見る人に何かを届けるような配信がしたいと思うようになっていた。

 

 ゴーシュの中で、その想いは今でも変わっていない。

 

「あの人のようになりたいなら……」

 

 ゴーシュはまた独り呟き、ある決意を固めていた。

 

「よし。どうせやるなら、配信で一番を目指してみるか――」

 

 

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