何が言いたいかと言いますと、つまり、瀬戸大橋は四国である。(大暴論の章)
え? 瀬戸大橋を保有している『瀬戸大橋高速鉄道保有株式会社』の本社は岡山県で、出資割合はJR西日本が五〇パーセント? うるせぇ、うどん玉ぶつけるぞ。
瀬戸大橋は明石海峡大橋とは違い、道路だけでなく、鉄道も通っている『世界最長の鉄道道路併用橋』である。
橋は二重構造となっており、上側は『瀬戸中央自動車道』が通っており、下側は『本四備讃線(または瀬戸大橋線)』を快速列車・マリンライナーが走行している。
横手茉莉が察知した化け物の場所は瀬戸中央自動車道の上だった。瀬戸中央自動車道は長いが、岡山県倉敷市の児島という地域を通っているあたりに化け物がいるようだ。
ちなみに、『結城友奈は勇者である』の作中やオープニング映像で登場する橋は、この瀬戸大橋であり、四国から一番近い『南備讃瀬戸大橋』が反り返った状態で描写されているのは、ゆゆゆファンなら周知の事実であろう。
二〇一五年には『世界最長の鉄道道路併用橋』としてギネス記録を認定され、二年後の二〇一七年には『二〇世紀の世界遺産』としても登録されるのだが、この世界ではそうはならなかった。
諸行無常。
そんな瀬戸大橋を化け物ごと一望できる、小さな山の上にある神社へ桐生達はいた。バスは山の麓に停めてある。
社殿の近くに梯子が置かれていたので、烏丸さんは梯子を使って屋根へと上がって行ってしまった。
「……いた」
自動車道の上を浮遊している数匹の白い化け物の姿が見えた。しかし、よく見てみれば、何度も見た白い巨大虫のような化け物だけではなく、初めて見る形のものもいる。初めて見るタイプの化け物は、総じて従来タイプの化け物よりも体のサイズが大きい。
「どこにおんの?」
桐生も梯子を登ってきたようだ。見ている方向を指さす。
「あっちだ」
「どれどれ…? おお、アレか。ありゃ、なんか別の奴おらんか。あんなん始めて見るわ。」
と、私の使っているオペラグラスよりも数倍も性能がよさそうな双眼鏡を使って覗いている。
「おい、そっちを寄こせ」
「え、これ一個しかあらへんねんけど…」
いいから貸せ、とひったくるように取り上げると、桐生はスマートフォンを取り出しながら、大きなため息をついて、パシャリ、と化け物の撮影を始めた。
桐生から奪った双眼鏡を覗き込むと、化け物の姿が細部まで鮮明に見えた。
体に棘のようなものが生えている。
「自分、先降りてるから」
と撮影を終えた桐生が自分から離れていく。
「どうですかー、久美子さーん! 桐生さーん!」
屋根の下から友奈の声が響く。
「おったおった、アレはアカンわ。見たことない奴がいっぱいおる! ムリムリ!」
と桐生が返事をした瞬間。
化け物から棘のようなものが射出されたのが双眼鏡越しに見えた。
桐生はゆっくりと梯子を下りていたのだが、突如ものすごい轟音が上がり、社殿に立てかけていた梯子がバランスを崩して、桐生と共に地面に倒れこむ。
「な、なんや。何が起こったんや。」
顔を上げると、もうもうと砂埃が舞っている。さっきまで建っていた社殿がない。
「え!? か、烏丸さん!」
梯子は自分が使っていたため、まだ降りてきていない。まさか…。
桐生は最悪を想定したが、向こうから烏丸さんが走ってきた。よかった。無事なようだ。
「桐生! 逃げるぞ!」
詳しくは分からないが、とにかくヤバいのは分かった。
ビックリしている高嶋君と横手君にも促して、急いで山を下り始める。
「攻撃か!?」
「ああそうだ! 棘みたいなのを撃ってきた! かなり正確だ、ヤバいぞ!」
今度は自分たちがさっきまでいた場所に二撃目が飛来して、地面を穿った。近くに生えていた樹木も棘が掠めたせいで砕け散った。
「うおおおおお!?」
「きゃああああ!」
土と樹木の破片が宙を舞い、逃げながら横手君が悲鳴を上げる。
ハハハッ、最高や。人間の相手をしてるよりも、アイツらの相手してる方が百倍オモロイわ。
桐生は久しぶりの心躍るアトラクションに楽しさを味わっていた。
山の麓に停めてあったバスまで戻ってくると、バスは即座に発進した。
幸いにも棘は、ここまで飛んで来ることはなかった。
バス内の同行者たちにも轟音は聞こえていたのだろう。何があったのかと聞いてきた。
すると、桐生は撮影した写真を同行者たちに見せながら、
「オイみんな聞いてくれ! 今までのと比べモンにならんくらい、でっかい奴がおったわ! ホンで、烏丸さんが言うには、棘みたいなモン、多分コレのことやろ!
これを、そうやな…ちょっと待ってや。何倍で撮ったっけ…三倍か。ほなら、大体二~三キロメーターぐらいかな。その距離からほぼ正確に撃ち抜いてきよった!
さっきは撃ってこなかったっちゅー事は、おそらく直線的にしか撃てへんねやろ。カメラみたいなモンか、熱源センサーみたいなモンでこっちを認識して撃ってきてると思うわ! 知らんけど。」
と、さっき見たこと、体験したことを興奮しながら皆に喋っている。
おいおい、スマートフォンに映った化け物の画像を見て、皆怯えているじゃないか。
私は桐生の説明に被せて、結論を発表する。
「聞いての通りだ、今まで私たちが遭遇した化け物よりも、はるかに強力で厄介な新種が瀬戸大橋の前に集まっている。あれと戦うのは危険だ。瀬戸大橋は使えない」
私の説明を聞いて、桐生を除くバス内の同行者たちは絶望的な表情を見せた。
「ま、待てよ、勝手に決めんな!」黒シャツ男が叫び、友奈を指さす。
「化け物はこのガキが倒せるんじゃねえのかよ! 行けよ! 瀬戸大橋に行け!」
「ハア!? お前、話聞いとったんか! 遠くから正確にブッ放してくる相手に、どうやって高嶋君が戦うんや!」
桐生が黒シャツの男に対して反論する。慌てた友奈が二人の会話に割り込んだ。
「大丈夫です、桐生さん! 私が戦って倒します! 久美子さん、瀬戸大橋へ向かってください!」
「ダメだよ!」と茉莉が声を上げた。
「桐生さんの言う通り、遠くから攻撃できる化け物がいるんだよ! ゆうちゃんは敵に近づかないと戦えないのに! 危なすぎる! 大怪我したら……もしかしたら死んじゃうかもしれない!」
「俺たちだって限界なんだ! このガキに戦わせろ!」
「バカ言うな! たとえ高嶋君が無事でも、このバスが狙われたらオシマイや! それすら分からんのかボケ!」
「だったらこのガキだけ、先に行かせればいいだろうが!」
「やめてください!! ゆうちゃんがいくら強くても、戦えば怪我をします! あなたは恥ずかしくないんですか! こんな小さな子供を戦わせて、危険な目に遭わせるなんて!!」
「……っ」
黒シャツ男とその取り巻きたちは今にも桐生と茉莉に襲い掛かりそうな目で、二人を睨んでいた。
理論的には桐生と茉莉が全面的に正しい。拳で殴るという攻撃方法しかない友奈は、遠距離攻撃能力を持った敵に対して不利だ。
「四国へ行く方法がなくなったわけじゃない。しまなみ海道が残っている。そこに向かおう」
私はハンドルを握りながらそう言った。
しまなみ海道は、本州の広島県から四国の愛媛県の間にある六つの島を、七つの橋で繋いだ道であり、自動車だけでなく、歩行者も渡れるようになっているため、世界が滅ぶまではサイクリングロードとしても有名な観光スポットであった。
広島県側から、『
察しのいい方なら、もうお気づきかもしれない。『は・か・た・の、し・お♪』のCMで有名な『伯方の塩』はこの愛媛県伯方島が元である。
ちなみに、伯方の塩の原料はメキシコ産である。
明日使えるムダ知識をあなたに、八〇へぇ。
瀬戸大橋からしまなみ海道までの道のりは約百キロといったところだ。
もちろんその間も、何度も休憩を挟みながら進むため、簡単に到達できるわけではない。
桐生は休憩中、同行者たちには気づかれないよう、烏丸に『精神に異常をきたしている人を降ろすことを視野に入れるよう高嶋君と横手君を説得しよう』と乗客を切り捨てる相談を提案してみたが、烏丸は『友奈と茉莉が彼らを最後まで守ると言っているんだ。それに、私はどっちでもいい。』と中途半端な主張を変えることはなかった。
烏丸さんはもうダメだ。桐生は彼女すらも切り捨てる計画を煮詰めていたが、高嶋君と横手君を単独で説得できる方法は思いついていなかった。
このままでは、またさっきのようなことが起こってしまう。早く何とかしなければ。桐生は焦っていた。
バスで移動する中、私の後ろに座っている友奈はずっと思い悩んだような顔をしていた。
「やはり自分が戦って、瀬戸大橋を進んでおけばよかったと思っているのか? 友奈」
私はバスを運転しながら友奈に声をかけた。
「はい……。だって私が戦えば……それで四国へ行けるなら、それが一番だと思いますし……」
「高嶋君。」
会話を聞いていたのか、桐生が怖い顔をしながら口を挟んだ。
「あえて強い言葉で言うわ。君はバカなんか? 見えているだけでも数体居たんだ。その先にはもっといるかもしれない。 どうやってこのバスを守りながらあのトゲトゲ野郎に近づくんだ? 君が死んでしまったらオシマイやし、このバスが狙われてもオシマイや。あんな狭い橋の上でカッ飛んで来る棘なんて避けれるわけがないやろ。できもせんことを言うな。」
「でも……皆さん、もう苦しそうですし、イライラしてて怒ってて……やっぱりさっき、瀬戸大橋をそのまま進んだ方がよかったと思います。」
「バカ言うな。それなら最初から船でも調達して、無理やりにでも海を渡ってたわ。何のためにここまで時間をかけて安全なルートを通ってきたと思ってるんや。自分が死んだらオシマイなんやで。もっと自分を大切にせんか。」
桐生が友奈に対して自分を大切にしろと言っていたので、
「友奈、お前は自己犠牲精神の塊だな」と皮肉って言うと、友奈は言葉の意味が分かっていないのか、聞き返してきた。
「ジコギセイ……?」
「他人のために自分が犠牲になろうという心だ。お前はそんなに傷だらけになりながら、他人のために戦っている。自分には何の得もないのに。それを『自己犠牲』というんだ」
友奈の服はボロボロだし、体も今までの戦闘の跡が目立つ。
「そういうのとは、違う気がします」友奈は落ち込んだ声のままで、
「そういうきれいな考え方とは、多分違います。私は……人が争ったり、苦しんだりする姿を見るのが嫌だから……それが一番大きな理由です。さっきも言いましたけど、今、このバスにいる人たちはみんな苦しそうですし、イライラして怒ってます。そういう中にいるのが私は嫌で、耐えきれないんです。私が戦うのは、私の勝手な理由です。だから私が怪我をすることなんて、気にしないでください……」
高嶋君の発言を聞いて、桐生は光が見えたような気がした。
『そういう中にいるのが私は嫌だ。そういう姿を見るのが私は嫌だ。』高嶋君は確かにそう言った。
気持ちは分かる。自分も嫌だ。こんなゴミ虫共と一緒に居たくない。全部投げ出して逃げてもいいはずだ。なのに、高嶋君はその後に『だから私が戦うんです』と言葉をつなげた。
何故だ。なぜその結論に行きつく。高嶋君は何を考えてその結論に至ったのだ?
そこを突き崩せば、高嶋君を説得することができるかもしれない。
「勝手な理由なんかじゃない」横手君が高嶋君を抱きしめ、なぐさめるように言う。
「ゆうちゃんが戦うのは、やっぱり自己犠牲だよ。どんな理由でも、自分が傷ついても他人のために行動するなら、それは自己犠牲だよ。このバスの中の状況だってゆうちゃんの責任じゃないんだから」
「………………」
高嶋君の表情は晴れない。
しかし、今ので確信した。高嶋君を説得できる可能性があるのは横手君だけだ。
まだ、高嶋君は何かにとらわれて、ゴミ虫共を守ることを優先としている。
横手君の慰めが高嶋君に届いていない。
考えろ、何が高嶋君を縛っている? 何が高嶋君自身を犠牲にしてまで、守ることにこだわらせているんだ?
それさえ解れば、横手君経由で高嶋君も説得できる。
王手のためのピースが一つ、手に入った気がした。
烏丸さん、見てから回避、余裕でした。
実際にそんなことできるのかと、一応調べてみました。
・岡山県、児島にある小さな山の上にある神社
・市販のオペラグラスで瀬戸大橋が見える
これに該当する神社は筆者がGoogleマップで調べた限りでは見つけることが出来ませんでした…。
初めは『本荘八幡宮』かと思ったのですが、『下津井』という地区が標高100m程ありまして、これでは社殿の屋根に上ったとしても、瀬戸大橋を一望できません。
仕方がないので『下津井』の一番高い場所に神社があると仮定して、『下津井瀬戸大橋』の中間までの直線距離を測定、約2~3kmとなりました。もし、棘が音速(秒速340m)で射出されたならば、空気抵抗などを無視すると約6~8秒で到達します。
棘は山なりに飛ぶでしょうし、空気抵抗もありますので、(バーテックスは物理法則を無視するかもしれませんが)約10秒弱で到達すると考えると、烏丸さんならできそうです。
いかがでしたか?(アフィリエイト記事特有のアレ)
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