勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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モチベが下がっているのか? まずい…


二人の共通点:四国撤退編.13

 このバスは安全地帯にたどり着かない。

 烏丸さんのその言葉に対してバス内がざわめく。

 

 「な……何を言っているんですか、久美子さん!」

 高嶋君が詰め寄っている。

 「何を言っている、だと? 言葉通りだよ、このバスは四国にたどり着かない。私ははじめから安全地帯になど行くつもりもないんだ」

 なんだ、この女は。死にたがりだと思っていたが、まさか本当だったとは。

 しかもわざわざ遠回りしていたらしい。

 そんなことまでしていたのか。

 俺は確かに、ここは避けた方がいいとアドバイスをしたが、実際に道を選んで、進んでいたのは烏丸さんだ。てっきり、一番安全な道を探していたのだと思っていた。

 「……なんで……? そんなことを……? 久美子さんは何がしたいんですか……?」

 「それはこっちのセリフだ!!」

 烏丸が横手君を怒鳴りつける。

 「お前たちこそ、安全な場所に行って何がしたいんだ!? 安心安全平和な世界に何があるんだ!? 言ってみろ!! それで何が得られるんだ!? ああ!!?」

 恐ろしい。女のヒステリーは制御ができん。台風のように過ぎ去るのを待つしかない。

 

 「ネットはもう既に繋がらないし、ラジオは同じ情報しか流さない! この国はもう終わりだ! だが、万が一、四国だけが何らかの理由で安全を保たれていたら、もうこの旅は終わりだぞ。化け物どもと戦って生き抜く楽しい時間は終わりだ」

 「お、終わっていいじゃないですか! 楽しい時間なんかじゃないですし!」

 ホントだよ。一緒にいるゴミ虫共の方が百倍、面倒だ。全然楽しくない。

 「茉莉。確かにお前にとってはそうだろう。だが友奈にとってはどうだろうな?」

 高嶋君はきょとんとしている。

 「こいつは私と同じだ。いや私なんぞよりも、はるかに異常者だよ。こんな年端もいかないガキが他人のために自己犠牲精神で化け物と戦う? しかも人間が束になっても適わない化け物を、あっさりと拳一つでねじ伏せるんだぞ。そんなガキがまともなわけないだろう? こういう奴は普通の人間たちの間で生きれば、必ず不幸になる。周囲の人間が異常者を排斥しようと動くからだ。こいつは平和な世界で生きるより、化け物どもに溢れた世界で生きる方が幸せだ。性に合っているんだよ。」

 「そんなことないです! 平和な世界で生きる方が幸せになれるに決まってます!」

 横手君が必死に訴える。高嶋君は一瞬だけ硬直していたが、

 「わ……私のことはどうだっていいです! このバスには、安全な場所へ行きたいって人が沢山乗ってるんですから! バスを停めてください! 四国へ向かってください!」

 しかし、烏丸さんは

 「嫌だね」と嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 さっき俺たちを殴ってきた、アイツらと同じ笑みだった。

 桐生は烏丸も『ゴミ虫共』の中にカテゴライズした。残ったのは横手君と高嶋君である。

 

 すると、高嶋君が叫んだ。

 「皆さん! 近くにあるものにしっかりつかまってください! 今から揺れます!」

 なんと運転中のハンドルを掴み、無理やりに回した。

 バスは道路脇のコンクリートの壁に車体を擦りつける。

 金属の擦れる、あの嫌な音がした。

 ブレーキを踏んだのか、バスは停車し、烏丸は運転席から立ってバスを降りて行ってしまった。

 

 

 

 高嶋君と横手君が烏丸の後を追う。

 桐生も一応、後を追う。

 「さて、バスを運転できるのは私だけだ。つまりあの同行者たちを四国へ連れて行くためには、私の力が必要になる。友奈、もし同行者たちを助けたいと思うなら、無理やりにでも私に言うことを聞かせるしかないぞ。お前なら、力で屈服させて命令することもできるだろうなあ」とタバコに火をつけて一服している。

 

 桐生にはこの勝負の結果が見えていた。

 高嶋君のことだ。どうせ全部守ろうと抱え込んで、全部取りこぼす。

 こんなひどい出来レースは初めてだ。賭ける価値もない。

 

 桐生の予想どおり、高嶋君は烏丸を打ち負かすことが出来なかった。

 それどころか逆に押さえつけられて、結束バンドで両手を拘束されている。

 それみたことか。桐生は地べたに座って遠巻きに眺めていた。

 

 烏丸は高嶋君を拘束し終えたのか、

 「さて、バスに戻ろうか。桐生! お前も私と一緒にこの世界が終わるまで、化け物に溢れた世界を生きよう!」

 と、言ってきた。

 いや、なんでだよ。俺はお前と違って死にたがりじゃないんだ。

 「バカ言え。なんでわざわざ死ななくちゃいけないんだ。俺は御免だね。」

 烏丸は信じられないといった顔で聞き返してきた。

 「何故だ! お前もこの壊れた世界を楽しいと言っていたじゃないか!」

 ……? あー、あの時のことを言っているのか。

 「俺はもう疲れた。お前らと行動してると命がいくつあっても足らん! 俺は四国に行くぞ!」

 そう烏丸に行ってやると、明らかにこちらを冷めた目で見てきた。

 「なんだ、お前も茉莉と一緒か。ならもういい、茉莉を連れてさっさと四国へ行ってしまえ!」

 

 おっと、なんと桐生にチャンスがもう一度巡ってきた。

 リーダー的存在の烏丸と高嶋君がいなくなったら、必然的に横手君と二人だけで行動できる。あのゴミ虫共をここで切り捨てていけるのだ。

 なんだよ、そんなことならもうちょっと早く言ってくれ。

 さっきのスーパーまで戻らなくちゃいけないだろうが、まったくもう。

 

 そう考えていた桐生だったが、

 「ま、待ってください!」

 と横手君が烏丸を引き留めた。

 「桐生さんも久美子さんを止めてください! このままだとゆうちゃんが連れていかれますよ!」

 「いや、俺にメリット無いから嫌なんやけど……烏丸さん、ホナ俺らはここでお別れってことで。」

 「桐生さん! 何でですか、桐生さん!」

 桐生が引き留めてくれると思っていたのだろう。横手君は桐生につかみかかる。

 鬱陶しいので彼女を引きはがし、やさしく諭すように言い聞かす。

 「横手君。あのな。俺はさっき高嶋君を説得するのに失敗した。君は高嶋君についていくと言った。ホナ俺はもう知らん。

 高嶋君にこだわってるのはもう君だけや。横手君。そんなにも嫌だったら、自分で何とかしなさい。」

 

 横手君はものすごい顔をしていた。しかし、高嶋君を取り戻そうと、烏丸の方へ叫びながら駆け出して行った。

 だが、高嶋君ですらもねじ伏せられたのだ。力を持たない横手君は烏丸によって、赤子の手をひねるように関節技を決めていた。

 「い、痛っ……!」

 「弱いなあ、凡人」

 「うぅ……」横手君は今にも泣きそうだ。

 「私と友奈とお前。お前は友奈を自分と同じ側だと思って、私だけが外れていると思っているようだが、まったく違う。友奈はもともと私と同じ側だ。外れているのはむしろお前だ」

 「ボクが……ゆうちゃんや久美子さんと違って、平凡だってことは分かってます……! 化け物に立ち向かえる力もない……」

 「違う、これは精神性の問題だ。お前と友奈は精神性が離れすぎている。その証拠に、今までお前が友奈にかけてきた言葉は、何一つ友奈に届いていなかった。」

 「…!」

 「お前と、友奈や私との最も大きな違いは、この世界を受け入れているかどうかだ。化け物どもが蔓延り、化け物どもが人を殺し、そして私たちは化け物どもと戦っていかなければならない。そんな世界を受け入れているか否かだ。ある意味での化け物どもとの共存を想定できているか否か。友奈はそれができているぞ。だからこそ、泣き言一つ言わず、化け物どもと平然と戦うことができる。しかし、お前は化け物どもと共存する世界を受け入れることができるか、茉莉? お前は化け物どもがいない世界を望むだろう?」

 

 ああ、なるほど。

 それで、自分は横手君を説得することに成功したのか。

 それで、自分は高嶋君を説得することに失敗したのか。

 流石にそれは気づかなかった。気づけるわけがなかった。

 

 突然、烏丸がうめき声をあげた。横手君が反撃したらしい。

 追撃のため、すかさず横手君が烏丸の顔に平手打ちを食らわせた。

 横手君は止まらない、普通に生きることを悪いみたいに言うな! と叫びながら、その小さな体で当たりをし、烏丸を地面に押し倒し、馬乗りになって襟首をつかむ。

 

 だが、そこまでだった。烏丸に反撃され横手君は悲鳴を上げる。

 二人の上下が入れ替わり、横手君は首を絞められる。

 

 横手君を殺されるのはマズイ。桐生は烏丸の注意を惹く。

 

 「おい、烏丸。流石に首はマズイ、横手君を殺されたら困る。」

 「フッ、今はコイツと喧嘩をしているんだ。口を挟むな」

 「大人が子供の首を絞めるのを喧嘩とは言わん」

 駄目だ、もっと注意を惹く何かを……

 

 「そうだ、烏丸。ちょっと聞いてくれ。なあに聞き流してくれてもいい。ただ、ちょっと考えてほしいんや」

 「ふん。勝手にしろ。」

 勝手にしろと言われたので桐生は独り言のように喋る。

 

 「烏丸、お前食料はどうすんねん。高嶋君の分もお前が用意せなならんのやぞ。」

 駄目だ。見向きもしない。

 「あのトゲトゲおったやんか。瀬戸大橋で見たアレ、実は大阪で既に似たようなの見たんやけどな」

 ま、マズイ。何かないか。

 

 「高嶋君や横手君みたいな特別な力を持った人間って、果たしてこの世で二人だけなんかなあ」

 

 ピクリ、と烏丸が反応し、こちらを見た。食いついた。この話題で続けろ、桐生!

 

 この国には一億三千万人の人間がおる。今は何人か知らんけど、そんだけおったんや。

 例えばやけど、特別な力を持った人間が百万人に一人ずつおったとしたら『ヒーロー』と『妖怪アンテナ』が百三十人!

 まあ、そのうち何人が四国に逃げ込めたか知らんけど、仮に十パーセントとしたら十三人や。全体の一千万分の一、そんなモンやろ!

 

 どうや! 烏丸! 四国に行って、コイツら『人類最後の希望・十三人』を見学するのも悪くないんとちゃうか! 特にお前は高嶋君と面識がある! かなり近いところで見れる可能性もあるぞ! どうや!? 興味はあるか!?

 

 「ああ、お前の妄想じゃなかったら、喜んで飛びついたかもな!」

 

 あらら、妄想扱いされてしまった。

 でも、注意は引いたぞ。横手君。

 

 このチャンスをどう生かす……。横手君はボールペンを構えていた。

 あれ、そこまでするの?

 

 そこからはもう、横手君のターンだった。

 ボールペンを烏丸の腕にブッ刺して、形勢逆転。

 叫びながら、烏丸の顔面を殴る。殴る。殴る。

 平手打ちじゃない。拳でだ。

 二人の体の上下が、もう一度入れ替わる。

 血が苦手なはずなのに、殴る。殴る。

 

 人間ってのは、振り切れると怖いもんだなあ……。

 

 とうとう横手君は烏丸の喉元にボールペンを突き付けて脅し始めた。

 とんでもない大番狂わせだった。

 

 「もう……もういいじゃないですか、久美子さん……四国へ行きましょう」

 烏丸は答えない。

 「安全な場所でいいじゃないですか。平和な世界でいいじゃないですか……」

 「私は」烏丸が口を開く「お前のことが羨ましいと思った。普通に生きることを幸せだと思えるなら、それが一番なんだ。私は……お前のようになりたかった。お前のように、普通に生きることを幸せだと思える人間に」

 

 桐生静治は横手茉莉の『夢』を

 烏丸久美子は横手茉莉の『普通』を

 

 この二人の歪な大人は、横手茉莉を『羨ましい』と思っていた。




逃げるなァァ! 執筆から逃げるなァァァ!

もうちょいで原作が…終わる…
頑張れ……



誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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