勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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新章スタートです。ここから先は筆者の妄想なので更新ペースが落ちるかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。


第2章:勇者計画編
新生活の幕開け:????編.1


 桐生が四国に来て、一週間がたった。

 

 あれから大変であった。持ってきたものはほぼ何もない。

 スマートフォンとパソコン、充電器にケーブル類と財布。道中で調達した携帯ラジオ機器が数台とイヤフォン。

 ついでに僅かばかりの食糧。後は己の体一つ。これだけであった。

 

 避難所となった学校の体育館に、そのままの状態で押し込められたのだ。

 物価は数倍以上に上昇していた。

 幸いにも、あのガソリンスタンドで頂いた現金が役に立った。

 配給された食糧では物足りなかったので、ほぼ闇市と化した避難所近くの商店街で様々なものを入手した。物々交換も行われていた。

 

 横手君とは同じ場所で避難生活を送っている。

 周りに知っている人がいないからか、よく遊びに来てくれる。

 もう、友達もできたらしい。楽しそうでよかった。

 ここに来た時は避難所のスタッフに、「ご兄妹ですか?」と聞かれたから馬鹿正直に「いいえ」と答えたら、別々に割り振られてしまった。

 一人ではいろいろと大変だろうと思い、闇市で買ってきたものをわけてあげた。

 ノートや鉛筆すらも手に入りづらくなっていたからか、横手君は結構喜んでくれた。

 

 人手が欲しかったのか、避難所での仕事にありつけた。

 肉体労働は苦手だが仕方がない。あのバスの中での介護に比べたら数百倍マシだ。

 食糧の配給や手伝いなどが多いが、設備のちょっとした修理・保全や別の避難所との連絡係なども割り振られた。

 報酬として配給の質が良くなった。

 

 精神に異常をきたした人たちは病院に運ばれていったらしい。どうなったかは知らん。

 ただ、聞くところによると、空を怖がる人は他にもたくさんいるようだ。

 そしてその症状を抱えた人の大半は四国外から避難してきた人であり、化け物に遭遇した回数が多く、避難が遅れた人ほど症状が重かった。

 一応、俺と横手君も精神鑑定や精密検査を受けたが、特に問題はないとして解放された。

 

 四国に来て一番生きている実感を得たのは風呂だった、

 久しぶりの風呂はさっぱりした。

 まるで体が入れ替わったようだった。

 

 そんな風にしてこの一週間を過ごしていた。

 

 

 

 「桐生さん。お客さんです。警察関係者らしいです。」

 お客さん? 警察? はて、何だろう。

 ここ四国に来てからは悪いことをした覚えがない。

 せいぜい闇市を利用したぐらいだ。わざわざ警察に怒られることでもない。

 そう考えながら廊下を進み、応接室へと向かった。

 『お客さん』とやらはそこで待っているらしい。

 道中、タバコの嫌な臭いがした。

 

 「久しぶりだな、桐生」

 おい、なんでこの女がここにいる。

 「烏丸、お前巫女じゃなかったんか。いつから警察になった。」

 「ああ、あれは嘘だ。」

 この女、相変わらずのようだ。

 「何の用だ、もう俺たちはただの一般人。お前らと関わる理由……なんて……」

 まさか……。横手君ッ!

 俺は立ち上がって体育館へ戻ろうとしたが、烏丸が止めた。

 「ッ! 離せ、烏丸! 横手君が!」

 「落ち着け、まだバレていない。上里がうまくやってくれた。茉莉は関係ない。」

 何……? バレてない? じゃあなんで……。

 「今日用事があるのはお前だ、桐生。単刀直入に言おう。ちょっと一緒に来てくれ。」

 俺に……、用事……?

 「なんだ、お前の頼みなんか聞かねえぞ。何度、お前に騙されたと思ってるんや。それに、お前自身があの時『巻き込まないでくれ』って言ったんだろうが。俺はもう知らん。サッサと帰れ。」

 「まあ、そう言うな。それに、私が頼みごとをしに来たんじゃない。友奈だ。友奈がお前に頼みごとをしたいと言っているんだ。」

 「高嶋が……?」

 「ああ、友奈が、だ。詳しくは私も友奈から聞いていないが、友奈は『勇者』だ、今はそう簡単に外出できない。だから高嶋友奈の『巫女』である、私が来たんだ。頼む、友奈の気分転換に付き合ってやると思って、一緒に来てくれ。」

 なるほど。そりゃ『人類最後の希望』さんはそう簡単には外出できないよな。

 「うーん。高嶋には悪いが『俺にはちょっと荷が重い』って言っといてくれ。俺も今、結構忙しいんや。日銭稼ぐためにも、嫌やけど仕事探しもせないかんし。」

と、烏丸にお断りのメッセージを伝えるように頼んだ。

 なんだか、面倒くさいことに巻き込まれそうな気がする。

 すると、烏丸がつぶやいた。

 「お前、私を見捨てて茉莉と友奈で逃げようとしてたんだってな?」

 ……なぜ……それを。

 「友奈が喋ってくれたぞ。大事な『巫女』を見捨てて逃げようだなんて、ひどい奴だなあ?」

 「お前は厳密には『巫女』とちゃうやろうが、それにあの時は、お前が勝手にどこかに行ったからや。生き残るための最善を尽くしたに過ぎん。文句あっか。」

 「ああ、大ありだ。何しろここは法治国家、化け物共がうようよする外じゃなくて、人間が住むところだ。そして私は今や国家の重要人物だ。意味がわかるな?」

 クッソ……こいつ脅してきやがった。やっぱりあの時、横手君を助けずに、高嶋を連れて行ってもらえばよかった。

 「……ハア……。今回でチャラにしろよ。」

 「ああ、決まりだな。大丈夫だ。私は約束を守る、安心してくれ」

 

 嘘つけ。どこが安心できるんだ。

 

 学校の前には今まで見たことのないような高級車が数台停まっていた。

 烏丸は別の車に乗るらしい。広々とした車内には自分以外に誰もいない。

 一応、横手君には事情を説明してから出てきた。

 「ボクも行きます!」と言っていたが、本当の巫女としてバレたらマズい、今回は我慢してもらった。

 車は進み始めた。

 

 

 

 着いたところは、テーマパークみたいな場所だった。テンション上がるぜ~。建物からガラス張りの円筒タワーがせり出している。

 烏丸は巫女服(?)を着ているため、場違い感がすごい。いくら正装とはいえ、着替えてきた方がよかったんじゃないか? 今更どうしようもないが。

 烏丸は俺を奥に通し、控室みたいなところに案内する。

 「ここで待っててくれ。すぐに友奈を呼んでくる。」

 と、俺を置いて出て行ってしまった。

 部屋には机と椅子しかないが、ご丁寧にお茶とお菓子が用意されていた。

 桐生はヒマなので、椅子に座ってバリボリとお菓子を食べながら茶を啜って高嶋を待った。

 

 しばらくするとドアを『コンコンコン』とノックされたので「どうぞー。」と返事をする。

 「久しぶりだな。高嶋、今日は何の……」

 「いえ、あの、私です。上里です。」

 現れたのは高嶋じゃなくて、巫女服姿の上里だった。

 「上里…君? あれ? 高嶋は?」

 「友奈さんなら、裏で準備をしていますけれども……」

 「準備? なんの?」

 「えっと、発表のためですけど……」

 なんだか話がかみ合っていない気がする。

 「発表? そんな大勢の前ですることなのか?」

 「ええ、だって、政府関係者の前で私たち『大社』が正式に『勇者』と『巫女』を紹介するんですから。」

 

 あの野郎。また騙しやがったな。

 

 

 

 『大社』あの化け物に対抗するため、四国政府が創設した政府機関である。『勇者』と『巫女』が所属し、しまなみ海道で出会った神職たちが主な構成員となっているようだ。具体的に何をやっているのかはわからない。謎の組織である。

 

 「おい、上里、今すぐ烏丸を呼んで来い。あのバカを一発殴らんと気が済まん。」

 「呼んで来いって……、もうすぐ始まるので無理ですよ。桐生さんも準備しないといけませんし。」

 「準備? 俺が? おい、勘弁してくれ。俺は帰るぞ。お前らなんかと関わってたまるか。」

 「ちょ、ちょっと待ってください。誰か! 誰か来てください!」

 あ、マズイ。そう思った時にはもう手遅れだった。

 ガチャリとドアが開き。スーツ姿のいかにも強そうな人たちが数人入ってきた。

 そこは和服じゃないのかよ。

 「その人を会場までお連れしてください」

 バカ、やめろ、上里。

 「ちょ、やめ……離せ! 離せコラ!」

 ヤメロー! シニタクナーイ!

 

 無理やり、コンサート会場みたいなところへ連れてこられてしまった。

 舞台に一番近い手前側が、自分のような一般的な洋服やスーツ姿の人たちがバラバラに座っており、後ろ側には『大社』の職員らしき和服正装した人たちが固まって座っている。

 中央はスーツ姿のいかにも政府関係者らしき人が座っている。迷彩服を着た人や軍服に勲章を付けた人、テレビで見たことのある政治家も座っていた。

 上里からは「これを首からかけてください」と『大社関係者』と書かれたネームプレートを渡してきた。

 え、もしかして、この和服正装の中に座るの?

 上里に、嘘だよな…? と目を向けると、「どうぞ♪」と舞台から一番遠い後ろ側、つまり大社の職員側を手で指した。

 

 スイマセーン、前、失礼しますぅ~。(小声)

 あ、スイマセーン。どうも~。(手刀の構え)

 

 ……メッチャ居心地が悪い。周りから変な目で見られている。

 しょうがないじゃないか。『大社関係者』って書いてんだし。俺が聞きたいぐらいだし。

 

 そうしていると、明かりがゆっくりと落ち、舞台上が一層際立った。

 誰かが舞台袖から出てくる。

 客席から拍手が始まった。

 その人は桐生も見たことがある人だった。

 四国臨時政府・内閣総理大臣、『阿倍野晋三』その人であった。

 

 拍手が止んで、総理が皆を見渡しながら喋り始める。

 「皆さま、四国政府、内閣総理大臣、阿倍野晋三でございます。本日、皆さんには日本国民を代表として、お願いをしに参りました。

 ですが、その前に本日のメインゲストをお招きいたしましょう。『大社』所属の勇者様と巫女様です。どうぞ、こちらにお越しください。」

 また拍手が鳴り響く。

 スポットライトに照らされて、数名が舞台袖から出てきた。

 色とりどりの衣装を着て、手には武器を構えている。

 あ、高嶋だ。ということはこの五人が勇者なのか?

 少女ばかりじゃないか。どうなってるんだ?

 

 続いて、舞台袖から数名が出てきた。烏丸と上里もいる。

 すると、こっちが巫女か。四人しかいない。

 

 どうやら『人類最後の希望・十三人』説はハズレだったらしい。

 『人類最後の希望・九人』だ。しかも一人は巫女じゃない。

 烏丸以外は勇者も巫女も、幼い少女だ。

 こんな子たちに戦ってもらうのか。

 

 総理が演説を再開する。

 「皆さん、我々は今、大きな危機に直面しております。

 先の大戦や自然災害などでは多くの人命が失われましたが、今回我々が遭遇したものはそれをはるかに超えております。

 死者の数は測定不可能と言わざるを得ません。多くの避難者が、この四国へと無事にたどり着きましたが、それでも多くの尊い命が失われました。

 先日、我々四国政府は避難民を集計し、約九〇〇万人と推定いたしました。四国の住民と合わせると、約千三百万人が生き残りました。

 しかし、一億千七百万人は、この国の九十パーセント以上もの命が! 突如現れた怪物たちによって失われたのです。

 

 我々、四国政府はこの事態に対抗するため、新たな機関を設立いたしました。それが、『大社』です。

 我々四国政府と大社は先の怪物を『バーテックス』と命名いたしました。

 二〇一五年七月三〇日『バーテックス』は突如として出現し、我々人類を襲い、文明を崩壊させました。

 政府は自衛隊を出動させ、通常戦力によってこれを迎え撃ちましたが。残念ながら歯が立たず、私たちは敗走し、この四国まで追いやられてしまいました……。

 ですが、今! 『バーテックス』に対抗できる方法が発見されました。

 ここにいらっしゃる、『勇者』五名と『巫女』四名が唯一! 人類がバーテックスに対抗できる可能性を秘めた者たちなのであります。

 『大社』の発表によりますと、霊的な力を秘めた『神樹』と呼ばれる樹木の力をお借りすることによって、勇者と巫女がバーテックスに対抗する力を得るとのことです。

 ですが、彼女たちが扱える力は現代の科学ではまだ解明されていないことが多く、我々四国政府や大社ですら! その力を十全に発揮することができておりません。

 ですから! ここに集められた皆さんに! 国民を、人類を代表して、お願いを申し上げます!

 どうか皆様のお力をお貸しいただけないでしょうか! 

 

 ここにいる皆様は、政府関係者だけでなく、日本の誇る科学技術のエキスパートたちです。残された時間は多くはありません。それでも! 我々人類は、バーテックスを討ち果たし、また以前のような生活を取り戻せるはずです!

 私は! 日本国政府を代表して! 人類を代表して! ここに宣言いたします!

 日本の科学技術と神樹による未知の新技術。これら二つを融合した新しい、人類の技術の結晶を用いた日本列島奪還計画を! ここに宣言いたします!

 皆さん! 日本を、世界を取り戻しましょう!」

 

 こうして、日本国政府・バーテックス対策組織『大社』主導による、霊的技術と科学技術を融合させた前代未聞の戦闘部隊を完成させ、バーテックスを殲滅し、日本本土を奪還する壮大な計画、のちに『勇者計画』と呼ばれる。国家・人類存亡を賭けた一大プロジェクトが、こうして幕を開けたのであった。

 

 

 

 さて、集められた日本の誇る科学者や技術者・その他、政府関係者はコンサート会場から場所を移し、隣の広い会議室へと移動した。

 これから人類の未来を賭けた、一大プロジェクトの具体的な方針を決めるためである。

 

 そこで初めて行われたことは……そう。

 

 

 

 名刺交換である。




名刺交換なぞ、やっとる場合かーッ!!(バシィ!)

いや、でも実際やると思いますよ。お役所ですし……。



誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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