首相の演説によって開始されることとなった『日本列島奪還計画』その栄えあるプロジェクトで初めて行われたことは、なんと『名刺交換』であった。
お役所仕事と言うモノはこういうモノである。円滑に物事を進めるためには仕方がないのだ。
さて、そんなプロジェクトに集められた人間は、桐生でも知っているような人物がチラホラと見受けられた。
何しろ人類・国家存亡を賭けた一大プロジェクトである。人選は惜しまず、最優先で投入された。
桐生は名刺を持ち込んでいなかったため、受け取るだけとなってしまったが、物理学・化学・人間工学・医学・機械・電気・情報・生物・自然・考古学などと言った様々なエキスパートが集められていた。数名は外国人や一般の企業からの技術者などもいたが、誰もが皆、ものすごい経歴の持ち主であった。
そんな中、名刺も持たず、ただうろうろとしていた桐生は自分の経歴を何とか誤魔化しながらも、その場を切り抜けようと悪戦苦闘していた。
そこへ、
「桐生、どうだ。楽しんでいるか」
と、烏丸が声をかけてきた。
「おう、烏丸。ちょっと一発殴らせてくれや。」
「まあ、待て。悪かった。だが、私は嘘を言っていない。後でちゃんと友奈と合わせてやるから。これはついでだ。」
「『ついで』でこんなところに放り込むな! 説明をしろ、説明を!」
桐生は烏丸に詰め寄る。
「説明はさっき聞いたじゃないか。感動的な演説だったな。桐生、私がこうしていられるのも、お前のおかげだ。お前はなかなかの先見の目の持ち主だ。お前の言った通り、私はこうして『人類最後の希望』を間近で見ることが出来そうだ。お前の想定より人数は少なかったが、まあ誤差の範疇だ。こんな楽しいことは発案者のお前にも体験してもらわないとなあ? フフフ。」
「何が『楽しい事』や、俺をこんな厄ネタに巻き込みやがって。冗談じゃねえ。あれは、お前を説得するための根拠のない出まかせや! しかし、オカシイじゃねえか。」
「何がだ」
「さっきも見たが、高嶋や上里みたいな少女ばっかりやんけ、お前みたいな大人や、男で戦える奴はおらへんのか?」
「さあな? だが、大社が政府関係者にこうやって発表したということは、そういうことじゃないのか?」
冗談じゃない。『子供ですら戦争に駆り出すぞ』とは思っていたが、まさか子供しかいないとは予想外だ。政府は何を考えているんだ。
そうやって烏丸と言い合っていると、
「桐生さん、お疲れさまでした。大変だとは思いますが、これからよろしくお願いしますね。」
と上里が声をかけてきた。
「これから? バカ言わんといてくれ。俺は協力なんかせえへんぞ。むしろ協力できることなんてあらへんわ。」
「え? 何故です?」
何故だって? この生き残った人類の頭脳たちの中で、そもそも何ができるって言うんだ。俺はそんな特別な人間なんかじゃない。
「桐生、お前のことは少し調べさせてもらった。」
なんだ、唐突に。
「桐生静治、年齢は二十四歳、ほぼ私と同じか。
東大阪で生まれ育ち、工業高校に入学。卒業後は工科大学に入学。大学卒業後は経歴なし。専門は情報、電気・電子工学。お前、卒業後は何してたんだ? 働いていなかったのか?」
烏丸が桐生を煽る。
うるせえ、無職だったんだよ。悪いか。
上里は頬が引き攣っている。おい、上里。その目は『かわいそうな人を見る目』だぞ。やめないか。悪かったな、無職で。
「一部誤りがあるけど、概ねあっとる。なんでそこまでわかるんや?」
「四国のデーターベースにお前の経歴が残っていた。」
なんで四国に俺のデータがあるんだよ。四国なんて来た事ねえぞ。
「経歴的には問題ない。一応技術的な知識もあって、研究者だ。身元もはっきりしている。勇者である友奈とも面識があって、彼女の戦闘を間近で体験した四国外からの生き残りだ。そこらの頭のいい人間よりかは経験がある。そして私たちとも、ある程度の面識もある。だからお前を呼び出したんだよ。桐生。
とにかく、お前がさっき聞いた情報は第一級の国家機密だ。下手に口に出せば処罰されるぞ。」
ちょ! ちょっと待てよ。騙して連れてきて、無理やり機密情報を聞かせて、漏らせば犯罪者ってどういうことだ! 理不尽すぎる。
「え!? 烏丸さん。まさか桐生さんに何も説明していないんですか!?」
上里が驚いたように、烏丸を問い詰める。
そうだよ。何も聞かされてないよ。同意もしてないよ。全部初耳だ。
「困りましたね……。桐生さん。さっき烏丸さんが言ったように、この話は国家機密なんです。確かに外部に漏らすと処罰されてしまいます。申し訳ありませんが大社の人間として、桐生さんを放置することはできません……。開発チームとして参加してもらうことになってしまいます……。」
もうどうやら引き返せないらしい。烏丸め……どこまでこの女は俺を馬鹿にすれば気が済むんだ。
そうやって恨みのこもった目を烏丸に向けると、
「桐生。お前には悪いとは思っている。だが、お前も友奈の性格や戦い方を知っているだろう。
あの時はバーテックスを避けて戦っていたが、それでも友奈はあれだけ傷ついたんだ。今後、奴らが四国に侵攻を始めたとき、今のままでは反撃どころか太刀打ちすらできない。それほどまでに四国は脆弱なんだ。
それに、さっきお前もあいさつしたと思うが、政府や大社が集めた学者たちのほとんどはバーテックスに対抗できる勇者や巫女の力を信用していない。何なら私たちのことを『大嘘つき』とまで呼んでいるほどだ。お前みたいに友奈たち勇者の力を間近で見た人間は少ないんだよ。桐生。」
理屈は分かった。政府も大社も必死なのだろう。この力の入れ具合は本気のそれだ。だが肝心の頭脳となる人間がそれを信用していない。
勇者や巫女の力を知っていて、その力を認めており、おまけに外からの生き残りで、ある程度の技術的知識を持ち、勇者や巫女とも面識がある俺が呼ばれるのも分からなくはない。コイツのやった手段は卑劣だが。
「……話は理解したわ。だが俺に見返りがないやんけ。政府や大社は俺に何をしてくれるんや」
「安心しろ、職を用意してやった。無職のお前にはピッタリだ。」
アホ。そんなことで俺が喜ぶか。
「冗談だ。少なくとも、住むところや金銭の支援。その他、様々なことを政府にバックアップさせる。ついでに、茉莉もお前と一緒に逃げてきた避難民として、支援の対象だ。これなら文句ないだろう?」
確かに、何時までも避難所生活は横手君も辛いだろう。
そろそろ職を見つけて、身寄りの居ない横手君を少しでもキラキラした未来のために支援してあげようと思っていたが、具体的にどうするかまでは決めていなかった。条件としては悪くないだろう。
桐生は考え始めた。
烏丸はあと一押しと思ったのだろう。言葉を続けた。
「それにこれは……友奈と茉莉のためなんだ。友奈は民衆のために心身をすり減らしながら戦うだろう。たとえそれがどれだけ不利な戦いだとしても……。」
確かにあいつは……高嶋はそういうやつだ。
「それに、お前はあの時、最後まで生き残るために足掻いていたな。
私を見捨てても生き残るために、より可能性の高い方へと動いていた。
どんな状況でも、勝てる試合を作ろうと動いていた。
桐生。今の人類にはそれが必要なんだ。一パーセントでも勝てる可能性を上げなければいけないんだ。そうじゃないと、友奈が守ろうとしている人類の日常が、茉莉の夢や目標が失われてしまうんだ。頼む。桐生。このプロジェクトを成功に導いてほしい。」
この女から、何度頼まれるんだろう。
この女から、何度騙されたんだろう。
それでも、今の言葉は、あの時の……
橋の上での上里に対しての『お願い』と同じように……
嘘には、聞こえなかった。
「……しゃーない、わかった。協力するわ。」
「よかった。なら、話は早い。お前は他の学者と違い、大社側が選抜した技術者として参加してもらう。なに、大社は霊的技術の専門家だが、科学技術については素人同然だ。『一番科学知識のあるやつを選んだ』と言うことにしてしまえばあの中に混じっても違和感はない。頼んだぞ。桐生。」
「私も若葉ちゃんたち……。あっ、私の幼馴染なんですけど、彼女も勇者なんです。私は巫女ですが、勇者たちのサポートを仰せつかっています。今後、色々とご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いしますね。」
なるほど、それで俺は『大社関係者』のネームプレートを渡されたのか。合点がいった。
トンデモなく厄介なことに巻き込まれたが、人類のため、横手君のキラキラした夢のためだと思うと、悪い気はしない。
しかも、人類の存亡を賭けた国家プロジェクトだ。こんな経験は今後一切できないだろう。一度受け入れてしまえば、なんだか面白そうに感じてきた。
こうして、桐生は大社側の技術者として、『日本列島奪還作戦』に参加することとなったのであった。
あれ? そういえば俺、大社側の人間なのに、霊的知識が全く無いけど良いのか?
先行きは暗そうだ。
桐生さん、勇者計画に参加することになりました。
第2章は西暦時代の『勇者システム』の開発裏話がメインとなっていきます。
どうやって作られて行ったのか。どんな風に機能が追加されていったのか。
そういったことを今後、描写していきたいと考えております。
もちろん、横手茉莉も引き続き登場させる予定です。
誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。
文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。