名刺交換も終わり、政府関係者・大社職員・政府が集めた専門家たちは大きな会議室でそれぞれ自分の割り振られた席に座り、今度こそ人類の未来を賭けた、一大プロジェクトの具体的な方針を決めることとなった。
初回なので、とりあえず各陣営が現在分かっていることを順に発表することとなった。
軍服を着て、勲章を幾つかつけた、いかにも軍人といったような人が前に立つ。
彼はどうやら防衛省のお偉いさんらしい。
「え~。我々防衛省は先日、七月三〇日。突如として現れたバーテックスに対し、政府の要請を受け、首都機能を防衛するため、東部方面隊を緊急招集。
横田、厚木の在日米軍と協力し、多摩川・荒川を最終防衛ラインとした防衛ラインを構築、迎撃態勢へと入りました。しかし、歩兵戦力、装甲車両、戦車、航空機など様々な通常戦力で攻撃を試みましたが、どれも決定的なダメージを与えることはできませんでした。
状況開始から三時間後、荒川側・最終防衛ラインが突破されたとの報告があり、首都最深部にバーテックスが侵入。それと同時に、四国を担当している中部方面隊・第十四師団から被害軽微の報告あり。これを受け、政府は首都・東京を放棄し、四国へと政府要人を避難させることに決定。羽田へと総理を避難させ、そこからは相模湾沖で横須賀基地へと停泊予定であった米海軍・第七艦隊と合流。
二時間後には、東部方面隊との通信が途絶。五時間後には米海軍・第七艦隊と共に総理が四国へと到着することに成功しました。以降は中部方面隊・第一四師団を主軸とし、瀬戸内海を防衛線とすることに成功しています。以上です。」
話を聞いていた学者の中から、ちょっと待ってくれ。と声が上がる。
「お前ら自衛隊は、国民の避難すら行わず、ただ自分たちだけがここに逃げて来たって言うんか!?」
思想の強そうなおじいさんが防衛省のお偉いさんに噛みつき始めた。
「おい、やめろ」
「落ち着け」
「やかましい! いざって時に何も活躍できないんじゃ、どうしようもないじゃないか!」
「終わったことを言ってる場合か」
「この場はそういう場じゃないだろ。いい加減にしろ」
周りが必死に止めようとしているが収まりそうにない。
とうとう思想の強いおじいさんはさっき俺がやられたように、スーツ姿の強そうな人たちにつまみ出されて行った。
今度は大社側の神官職員が前に立つ。
「え~皆様、バーテックス対策組織・大社からは四国の現在の状況と判明している霊的技術についてお話いたします。先日……」
すると喋りだしていきなり、ちょっと待った。とストップが入る。
ちょっと待ったコールが早すぎやしないか? まだ何もしゃべってないぞ?
今度はさっきと違い、若い学者が立ち上がる。
「あんた達、大社って言ったか? とにかく、そんな格好しているから宗教絡みだと勝手に思わせてもらうが、いつからこの国は神頼みになったんだ?
それに、さっき見せられたが、あんな少女たちが敵と戦う? バカも休み休み言え。子供を戦争に駆り出すだなんて反対だし、そもそも彼女たちが戦えるだなんてそんなことを言われても信じられるわけがない。
あんたたちはいったい何なんだ? 少なくとも私には、国家を巻き込んだカルト宗教にしか見えないね。」
この意見に関してはさっきとは違い、多くの学者がそうだそうだ。と同調している。
「なんだよ『勇者』って?」
「『巫女』もさっぱりだ。お前たち正気か?」
「そもそもバーテックスってなんだよ」
「おい、だから落ち着けってば」
「なんだよ。お前もさっき、信じられないって言ってたじゃないか」
「今は話を聞くのが優先でしょう?」
「そんな怪しい宗教話なんて真面目に聞いてられるか」
「これがホントの『困った時の神頼み』ってヤツだ」
「聖書でも読むのかな」
とまあ、もう滅茶苦茶である。
取っ組み合いの喧嘩にはなっていないが、学者たちや技術者の中でも意見が割れている。政府関係者も同じようで、どこも一枚岩じゃなさそうだ。
「やっぱり……皆さん、そう簡単には信じてもらえませんよね……」
隣に座っていた上里君が、悲しそうに大人たちを見つめている。
まあ、確かに四国外から来た人たちはバーテックスという脅威は目にしたことがあるだろうが、それに対抗できるのは少女たち『勇者』と『巫女』だけだと言われても、そう簡単に納得出来るわけがない。おまけに大社とかいう謎の組織が今から胡散臭いことを言う。もう怪しさのハッピーセットである。
「じゃあこの現象にどう説明を付けろって言うんだ。」
「そんなのあり得るわけがないだろ!」
すると、今まで黙っていた中年の男性が声を上げた。
「ありえない?」
彼の声は大きくはなかったが、会議室中に響き渡ったように感じた。
あちこちで論争を行っていた学者たちの言い合いがピタリと止まる。
「誰が証明した? 僕に言わせれば、すべての現象には必ず理由がある。君たちが超常現象と認識しているものは科学の集合体だ。それらを解き明かしていくのが僕たち科学者じゃないのか?」
彼の言葉に学者たちは次第に落ち着きを取り戻す。
どうやら会議は再開できそうだ。
近くに座っていた、大社の職員がぼそぼそと話し合っている。
「流石、帝都大学の水川先生だ。」
「ああいうのを本当の天才っていうんでしょうなあ。」
どうやら水川先生と言うらしい。科学に疎い大社職員でも知られている人のようだ。
偶然、とある事件の調査のため、警察関係者と一緒に四国に来ていたらしい。運のいい人だ。
前に立った大社職員が発表を再開する。
「我々大社は、日本神話に登場する土地神を信仰する者たちであり、簡潔に説明しますと神道を軸としております。我々は政府から組織として公認される前から活動をしており、このような事態が起こることもある程度は想定しておりました。
しかし、神樹様と呼ばれる神がこの現世に顕現されたことはまったくの想定外でありました。我々はこの神樹様から土地神の力を授かり、天から現れし者たち、すなわちバーテックスに対抗し得るものを『勇者』と呼んでおります。また、神樹様のお声を聞くことができるものを『巫女』と呼び、崇め奉っております。神は穢れをお嫌いになられます。ですので、『勇者』や『巫女』は無垢な少女のみが選ばれるのであります。」
学者のみならず、政府関係者にも動揺が走った。
今言ったことが本当であれば、この事態を大社はある程度予想していたというのだ。
そんな馬鹿な。流石の桐生もこの発言には疑問を抱いたが、問題はそこだけではない。
『神が顕現した。』神様なんておとぎ話の中だけでのモノであって、概念としては受け入れられていたが、人としての道徳や倫理を説くときに多用されていただけで、実在するとは考えられていなかったからだ。
そして勇者と巫女。神樹と呼ばれる神様から無垢な少女のみが選ばれるとのことである。
無垢……? あの烏丸が? 桐生は大笑いするところだったが、必死で笑いをかみ殺した。
巫女は無垢な少女が選ばれる…? よくそれで烏丸の『お願い』が通ったな。どうやら大社は目が節穴らしい。
そうは言っても、この隣に座っている上里君もいったいどうやって大社を納得させたのか。しまなみ海道の橋の上でも思ったが、やっぱり上里君は巫女の中でも特に重要視されているに違いない。そうでなければ烏丸を巫女にするだなんて、到底できないだろう。もしかしたら分かっていて泳がされているのかもしれない。フフフ、実に面白い。
いかん、また笑いそうになった。
そんなことを考えながら百面相をしている桐生を、隣に座っている上里は不思議そうに見ていた。
とにかく話は分かった。総理が『霊的技術と科学技術の融合』というのも理解した。
この場にいる大勢がそう理解したようだ。
さきほど各陣営から発表された事柄について、政府関係者の一人が前に立つ。
「お互いの情報が出たところで、質問タイムと行きましょう。」
それからはもう凄かった。
日本語なのはわかる。だが、言っている意味が分からない。
科学者は科学的な観点から霊的要素についての質問を大社職員にぶつけ、大社職員は霊的な要素をどう科学的に落とし込むかを科学者にぶつけ合った。
科学者は慣れない神秘的用語に阿鼻叫喚し、大社職員は慣れない科学的用語に阿鼻叫喚していた。どっちもどっちであった。
時間がどんどん過ぎていく。
休憩を何度も挟んでいたが、お互いに疲れたのだろう。どちらからも手は挙がらなくなった。
政府関係者が再び前に立った。
「それでは……お互いに意見も出尽くしたようなので、今後の方針を、私からまとめに入らせていただきます……。
まず一つ目、バーテックスとはそもそも何なのか。これをまずは科学的観点から調べ上げ、霊的・科学的対抗策を見つけること。
二つ目、神樹とは何なのか。これをまずは霊的観点から調べ上げ、既存の科学技術に応用する方法を見つけること。
三つ目、神樹と勇者の関係性を調べ、『お借りする力』について、これの制御方法を霊的・科学的技術と共に確立すること。
そして四つ目、これら三つを統合して、科学的観点に落とし込み、すでに判明している『対バーテックス』となる勇者様の装備更新および、新機能などの追加を行うこと。もしくは『対バーテックス』となる防衛軍の新規創設または自衛隊の装備更新を行うこと
以上で間違いはないでしょうか。」
大社・政府関係者・専門家から異論はなさそうだ。ざっくりとだがまとまった。
要は『敵を知り、己を知り、未知なる新技術を駆使し、外敵を打ち滅ぼす』ということである。
朝から続いた長い会議が、日が暮れてようやく終わった。
水川先生「ハハハッ、さっぱりわからない。」
誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。
文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。