こっちを七月三〇日に投稿したかったよ。
勇者の威力評価試験から数日後。
朝の六時前だと言うのに、烏丸がまた避難所にやってきた。例の会議が明日、再び行われるらしい。わざわざこんな時間にやってきて言うことじゃないだろう。
桐生は眠たそうな顔で烏丸を睨みつけていた。
話を聞くと、学者から、勇者の科学的な視点での評価発表と、その他・担当班分けなどを行うようだ。
その前に、高嶋や他の勇者たちと会えるらしい。
おお、やっとこれで高嶋の頼み事を聞くと言う本来の目的を達成できそうだ。引き受けるかどうかは別だが。
話は終わったと言わんばかりに烏丸が立ち上がって言った。
「よし、じゃあ行くぞ」
「行くって……まさか今からとか言わんやろうな。」
「そのまさかだ。行くぞ。」
まったくもう、こっちの予定も考えてくれよ……。
こんな朝早くから横手君を起こすのも悪いし、『烏丸に呼ばれた。今日も遅くなる』とだけ書置きを残し、この前乗った高級車に乗り込み出発した。今回は烏丸も一緒だ。
やっぱり、この前はわざと別の車に乗りやがったな。
車が出発して数分後、烏丸が何かを思い出したようだ。
「そうだ、桐生。茉莉の住む場所が決まった。愛媛だ。」
「愛媛? 何でそんな遠いところなんや。」
「土地の問題もあったが、大社がうかつに手を出せないように、ワザと遠いところに離した。学校の転入手続きや支援体制も整いつつある。今月中には全てが整うだろう。茉莉にも話を通しておいてくれ。」
「それはエエンやけど……俺の住むところはどうなるんや? 横手君と同じところか?」
「安心しろ。それをこれから見に行く。」
は? これから?
車はお城の前に着いた。『丸亀城』って言うらしい。勇者はここで寝泊まりしているようだ。
城の中に入るのかと思ったら、烏丸は敷地内に建てられた建物に入って行った。
桐生が建物に入ると、なんだか懐かしい感じがした。部屋の中には机と椅子と黒板が配置してある。
「ここは……学校か?」
思っていたことが口に出ていたらしい。烏丸が、そうだ。と返事をする。
「ここは勇者である五人と上里が勉強をするところだ。人類最後の希望と言えども、まだ子供だ。勉学には励んでもらわんとな。」
大社や政府もちゃんと考えているらしい。てっきり朝から晩まで戦闘訓練を行っていると思っていたので、少し安心した。
と、教室にチャイムが鳴り響いた。そこまでしっかりしてるのか。
一番初めにやってきたのはキリッとした顔つきの少女だった。日本刀のような剣でバーテックス(豆腐)を一刀両断していた子である。きっと剣道でもやっていたのだろう。素人目に見ても動きが洗練されていたように見えて、印象的だった。
こちらを見て、一瞬警戒したような顔をしていたが、一緒に入ってきた上里君から事情を話されたのか、納得したような顔をしている。
こちらにやってこようとしていたが、上里君から止められて、黒板のチョークを補充し始めた。
次に、おはよー! と、元気な声であいさつしながら入ってきた子。確かヨーヨーみたいなのを振り回していた子だ。この子もすごかった。
その後ろに隠れるようにして入ってきた子は、高嶋の後にバーテックス(豆腐)をボウガンの一撃で木っ端みじんにした子。確か……伊予島君だったかな。威力評価試験時も思ったが、ヨーヨーの少女と比べて大人しい性格なのだろう。明らかにこちらを警戒している。警戒している伊予島君を見て、ヨーヨーの子もこちらを警戒し始めた。
次に入ってきたのは鎌を振り回して、バーテックス(豆腐)を細切れにしていた子。一瞬こっちを見てビクッとしていたが、何も言わず、自分の席について携帯ゲーム機でゲームを始めた。なんだか避けられている気がする。
もう一度チャイムが鳴り始めた。
時計を見ると八時半を示している。始業の時間なのだろう。
すると、ドタドタと廊下で足音がして、扉が開いた。
「おはよーございまーす! 高嶋友奈、到着しました。良かった、遅刻じゃない!」とそんなことを言いながら、高嶋が教室に入ってきた。これで勇者五人と巫女の合計六人が揃ったことになる。
「あれ? 先生はどうしたんだあ? まさか……遅刻かあ? それともアイツがタマたちの新しい先生になるのかあ?」
とヨーヨーの子がこちらを指さしながらクラスメイトに向かって話しかけていた。
「タマっち先輩。駄目だよ、初対面の人に指さしちゃ……」
と伊予島君が『タマっち先輩』と呼ばれたヨーヨーの子を止めに入る。
「あっ! 久美子さん! 桐生さん! お久しぶりです。元気でしたか?」
高嶋がこっちに気づいたようだ。手を振ってこっちに声をかけてきた。
「ああ……。ひなたが言っていた『桐生さん』とは彼のことだったのか……」と納得した声を上げたのはキリッとした子。
「だからさっきも言ったじゃありませんか……もう、若葉ちゃんたら……」と苦笑いしている上里君。多分、あのキリッとした子が上里君の幼馴染なのだろう。名前は『若葉』のようだ。
ゲームをしていた子は相変わらず、こちらを見ていない。やっぱり避けられている気がする。関わらないでオーラが全開だ。
各勇者と巫女が思い思いの反応を見せる中、烏丸が教壇に立つ。
「あ~。私はそこの上里と同じ巫女の烏丸だ。そこにいる友奈とこれから紹介するコイツと一緒にこの四国にやってきた。おい、桐生。挨拶しろ。」
だから雑なんだよ……。何も考えてねえよ。
「おい、どこまで喋ってエエねん。こいつらにこの前の機密情報は喋ってエエんか?」
保険もかねて、烏丸に問い合わせる。
「問題ない。彼女たちは勇者だ。彼女たち自身が国家機密みたいなものだ。」
ああ、そうですか。桐生は気を取り直して自己紹介を始める。
「桐生静治や。この女とそこにいる高嶋と共に大阪から逃げてきた一般人や。
この女に騙されて、政府主導の『日本列島奪還計画』のプロジェクトに大社側の技術者として関わることになった。大社の神官みたいな霊的技術は無いが、科学技術ならある程度かじっとる。今日ここに来たのは高嶋の頼みごとを聞くためや。以上。」
高嶋に目を向けると、え? 私? と心当たりがなさそうな顔をしていた。
騙されたと思った桐生が烏丸の胸倉をつかむ。
「おい、烏丸。どういうことや。高嶋がポカンとしとるぞ!」
「まて、桐生。友奈は確かに頼みごとをしたいと言っていたぞ。嘘じゃない、本当だ」
「じゃあなんであんな顔をしてるんだよ……。言ってみろ、ボケ……。」
もう我慢ならん。ここではマズいから烏丸を外に連れ出して、一発殴ってやろうと考えた桐生であったが、
「あっ! 思い出した! 久美子さん、アレのことですか!?」
と高嶋が声を上げた。
なんだ、本当に忘れていただけだったのか。桐生は烏丸から手を放す。
「それで高嶋。頼み事ってのはなんや。引き受けるかどうかは別だが、話だけは聞いてやるわ。言ってみい。」
「えっと……頼み事ってわけじゃないんですけど……その……」
高嶋の歯切れが悪い。しかも頼み事じゃないと来た。どういうことだろう。
高嶋が自分の席を立ち、教壇まで近づいて小さい声で耳打ちをしてきた。
「えっと、茉莉さんのことなんですけど、ここだとみんなに聞かれちゃうので、場所を移した方がいいかな……って」
ああ、なるほど。それで歯切れが悪かったのか。
公式的には烏丸が高嶋の巫女となっているから、横手君の生を出すと不自然なのだろう。一緒に避難してきた同年代ってことでそんな怪しまれることはないはずだが、念には念を入れているらしい。烏丸の入れ知恵だろうか。用心なことだ。
烏丸に目を向けると、察したのか。行ってこい。とだけ言ってくれた。
高嶋と共に教室を出て、靴を履き替え外に出る。
辺りに誰もいないことを確認して、高嶋が喋り始めた。
「その……茉莉さんについてなんですけど、桐生さんは茉莉さんが今、どうされているか知っていますか?」
「ああ、今は同じ避難所で一緒に避難生活をしてるわ。もうじき政府からのバックアップがついて引っ越すんやって。学校への転入手続きや支援体制も進んでいるらしいわ。烏丸からは今月中には整うと言われたから問題はないやろ。」
「そっか……よかったです。」
高嶋は心の底から安心したようだ。
「茉莉さんとは橋の上で別れてからそれっきりで……あの時は、茉莉さんを守るからと言いましたけど、やっぱりあんな別れかたしちゃったから……。茉莉さんには悪い事しちゃったなって思ってたんです。」
そりゃあ、横手君はあの橋の上で高嶋を守れなかったんだ。俺も横手君を止めてしまったことは悪かったと思っているが、今でも間違ったことをしたとは思っていない。
「話ってのはそれだけか? なんや、えらい事でも頼まれるんかと思うてたけど、全然そんなことはなかったな。」
「久美子さんにも聞いてみたんですけど、桐生さんに聞けってそれしか言わないので……肝心の桐生さんにも会えないので、忘れちゃってました。」
やっぱり烏丸が原因じゃないか。
「あの……桐生さん。」
「なんや。高嶋」
「その……私は勇者になっちゃったので、茉莉さんとは全然会えないと思うんです。多分、この先、もしかしたらずっと……。もし行けるようになったとしても、茉莉さんにあんな顔させちゃったので、たぶん会いに行く勇気がすぐには出ないと思うんです。
だから……、私の勇気が出るまで、茉莉さんの様子を見ていてくれませんか? もし、私の勇気が出たらちゃんと謝りたいんです。ちゃんと謝れたら、その時は、私と茉莉さんと久美子さんと桐生さんの四人で、どこか遊びに行きたいです。」
高嶋……高嶋君のお願い。
彼女は活発そうで、誰とも接することができる優しい子だとは前から思っていた。
でも、その主体性の無さと自分を顧みず、出来るはずもないのにみんなを守ろうとするその姿勢は嫌いだ。そんな見ていて痛々しいことを自分はやめさせたい。でも、高嶋君はそれをやり遂げようとする。
そんな高嶋君の年相応な、お願い。
あんな別れかたをしてしまった横手君への謝罪。
そして、四人でどこかに遊びに行きたいと言う彼女自身の願い。
高嶋君の『やりたいこと』を聞けたかもしれないということに、桐生は少し涙した。
もう少し早くそれに気づいてくれれば、こんな事にはなっていなかったかもしれない。
でも、あの事があったからこそ、気づいてくれたのかもしれない。
いや、多分高嶋君は気づいていないのだろう。まだ無意識の段階なのかもしれない。
それでも、桐生は高嶋友奈の『本当にやりたいこと』の片鱗を聞けた気がして、嬉しかった。
「分かった。横手君の様子は俺が見る。いつか、横手君に謝りに行こう。そん時は俺も烏丸もついてってやる。そんで、四人で遊びに行こう。高嶋君。絶対や。約束や。」
「はい! ありがとうございます! 桐生さん!」
桐生と高嶋は約束のためのおまじない、指切りをしようと小指を出した。
「おーい、二人とも~。そろそろ話は終わったか~?」
「タマたちをいつまで待たせるんだ~? はやく帰ってこ~い。」
「若葉ちゃーん。タマちゃーん。ごめーん。すぐ行くー! ……さあ、桐生さん戻りましょう!」
なんだ、指切りはしなくていいのか? 約束になっていないじゃないか。
……でもそうだな、……戻ろう。
辛く苦しい思い出ばかりだったけど、四人が揃っていたあの頃に。
桐生は高嶋に見られないように、流した涙を拭ったのであった。
勇者の紹介が全然できとらんやん。
誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。
文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。