教室に戻り、勇者たち五人から自己紹介をしてもらった。
乃木若葉・土井球子・伊予島杏・高嶋友奈・郡千景、この五人が人類最後の希望らしい。巫女も戦うのかと思っていたのだが、どうやら巫女は神のお告げ(?)を聞く立場なので、前線に立ってバーテックスと戦うわけではないらしい。
つまり、バーテックスと戦うのはこの五人。人類は彼女たちをどこまでサポートできるのか。
桐生の予想では一年。その間に少なくとも未知の力を解明し、彼女たちの力をシステム化して、誰でも使えるようにしなければ奴らが結界を突破して攻めてくる。そうなれば人類に逃げる場所はもうない。
バーテックスの総数は分からない。目的もわからない。正体もわからない。四国に来るまでに新種も大勢見た。生き残った人類、約一三〇〇万人が一丸となって、総力戦を展開しても勝てるかどうかは分からない。
分からないことだらけだ。今のままでは勝負にすらならない。
やはり、それらを押しとどめている神樹の結界とやらがカギになりそうだ。
明日の会議で議題に上がらなければ提案してみよう。
間に合わなければ負けだ。戦力が拮抗すれば消耗戦だ。ジリ貧になることは目に見えている。押し返すことのみが人類が生き延びるすべなのである。
さて、高嶋君のお願いは聞いた。横手君の様子を見ることも約束した。勇者たちとの顔合わせも終わった。自己紹介も済ませた。
初回としてはこんなもんだろう。差し迫った予定としては明日の会議だけだ。
早朝から来たから、まだ昼にもなっていない。横手君に遅くなると書置きを残して来たが要らなかったな。桐生はそんなことを考えていた。
「よし。ホナ、烏丸。車回してくれ。俺はそろそろ帰る。」
「は? まだやることは残っているぞ。」
やること……? なんだっけ。
「お前の住むところだろうが、さっきも話したじゃないか。」
そういえばそんなことを言っていた気がする。確か、これから見に行く。とか言っていたような。もしかして一軒家だろうか。いや、流石にマンションだろう。
「そー言われればそうやったな。よし。ホナ、車回してくれ。そうやな……スーパーから近いところがエエな。歩いて行けるトコだったら最高や。」
「ここだ」
「………?」
……は? ……ここ? ……え?
「おい、烏丸。冗談キツイやろ。いくらなんでも…」
「ここだ」
ここらしい。
お城で暮らす……? 戦国武将かな?
「なんでココやねん! 近くにマンションとかあるやろ!」
「ない。満杯だ。空き家など一つもない。」
「なんでやねん! 政府がバックアップするんとちゃうかったんか!」
「ここら一体の土地の値段が馬鹿みたいに跳ね上がった。地上げ屋でもいるのかもしれん。」
「ホナ、遠くてもええわ! せめてマシな物件を探さんかい!」
「いや、お前にはここで勇者たちの調整をしてもらうから無理だ。」
いや、だから聞いてないんだってば、そんなこと。
「ちょ、調整?」
「ああ、いずれ勇者の力が解析されて、だんだんと確立されていくだろう。その時、大社側の職員としてお前が立ち会え。
言っただろう? 大社の職員は霊的技術の専門家だが、科学技術に関しては素人同然だと。そのためにお前を徴発したんだ。
学者どもの話を分かりやすくかみ砕いて、大社職員や勇者たちに伝える。勇者たちのご機嫌を取って、常に最高のパフォーマンスを引き出させ、学者どもが用意した実験に参加させる。お前の仕事はたったそれだけだ。頑張ってくれ。」
んな……何……?
あの学者どもの話を理解して、分かりやすくしろ……?
勇者のご機嫌取りをしろだと……?
「ああ、安心しろ。勇者たちの先生となる人物は既に存在するし、鍛錬や訓練などの実践を想定した訓練の教官も既に存在している。その時間、お前はフリーだ。フフフ、最高の労働環境だな。桐生。」
やってることが四国に来るまでのバスと変わらんぞ!
桐生は丸亀城に住んで、勇者と学者たちのおもりをすることになった。
翌日。先日と同じ、例のテーマパークみたいな場所で会議が始まった。
なんと学者側から分かったことがあるらしい。
まず、勇者の力について。
彼女たち勇者の肉体が人間離れしているわけではないことが分かった。そして、それは武器や勇者服についても同様。ただの古ぼけた遺物と普通の服ということが分かった。
しかし、武器と勇者が組み合わさることで圧倒的な力を得ることができる。
武器を取り換えてもある程度は力が出るらしいが、各々の専用武器よりかは力が劣るらしい。要は相性があるとのことだった。
次に神樹について。
神樹のサンプルを回収し、どの樹木に一番近いかの調査を行ったようだ。サンプル採取時には大社神官たちに止められたのだが、ちょっとだけ! ちょっとだけだから! と言って御神木を調べまくったらしい。大社神官は、罰当たりだ。と怒っていたとかなんとか。
さて、回収したサンプルを調べたところ、どうやら神樹の正体は『桃の木』ということが判明した。ただの何の変哲もない桃の木らしい。
一つだけ挙げるとするなら、この時期になると桃の実が成っているはずだが、一つも実がついていないことが不思議だ。と学者たちは言っていた。
しかし『まあ、桃・栗三年、柿八年と言いますし。三年後に期待しましょう。』とおどけた様に締めくくっていた。
ちなみに、柚子は九年で成り下がり、梨のバカめは十八年である。(映画『時をかける少女』(一九八三年公開)挿入歌・『愛のためいき』より)
さて、そんな報告を聞いた皆はそろって同じことを思っていた。
だからどうした。
勇者の武器を取り換えたり、神樹の正体が桃の木だと言うことは初めて知ったが、それが何になる。その情報をどう取り扱えばいいのだ。
「あ~、つまり、現状は何もわかっていないということでよろしいですかな?」
見かねた政府関係者(司会)が学者側の意見をバッサリと切り捨てる。
「そうとも言えますが、これからは勇者様と武器の親和性と身体能力向上時の変化などを調べていくつもりです。また、神樹につきましても、現在四国を囲んでいる結界。すなわち物理的な壁と同材質なのかも現在調査中であります。」
学者たちは何か手ごたえがあるらしい。うろたえてはいなかった。とにかく学者側の報告はこれで終わった。
続いて大社側から。
巫女の神託により、ここ数か月はバーテックスの襲撃が無いことが確実らしい。
引き続き、勇者の力の引き出し方を霊的な視点から調べていくこと、学者と協力して武器や装備の強化を進めることに異論はないと発表した。
最後に政府関係者から。
避難民の身元の照会はまだ続けているようだ。さらに、食料や物資が圧倒的に足りていないことを発表した。配給制を行っているが、混乱は続いており、治安維持にも支障が出ているとのこと。
これを打開するため、四国政府は阿倍野総理が率先して新しい経済政策を展開しており、余裕がない。そのため、当初の予定通り、対バーテックス関係は大社に一任することに決定したようだ。
大社と学者側には引き続き支援を行うが、国内情勢の安定が優先されるため、率先して表に立つことは難しいと述べ、政府関係者側の発表は終わった。
さて、バーテックス関係は大社が一任することとなったので、大社側の職員が前に立ち、学者と技術者たちの担当班分けを始めた。
大きく分けて、勇者班・神樹班・バーテックス班・装備班の四つである。
『勇者班』は主に勇者の力を研究・解明する班である。医学分野の学者や大社関係者が主に主体となっている。
『神樹班』は主に神樹について研究・解明する班である。自然分野の学者や大社関係者が主に主体となっている。
『バーテックス班』は主に敵の詳細について研究・解明する班である。生物分野の学者や大社関係者・防衛省のお偉いさんはここに割り振られた。
『装備班』は主に勇者の武器や装備について研究・解明する班である。技術分野の学者や政府関係者が主に主体となっている。
厳密には『勇者班』の下部組織みたいなものだが、謎が解明されるにつれて負担が増加されると予想されたため、あえて別の班として独立させた。
先の三つの班から得られた情報をもとに勇者の装備のアップデートや、科学技術への応用・フィードバックを行うことが主な役割だ。
桐生は『装備班』へと配属されたが、『勇者班』のサポートも行うことになった。
皆、持ち場が確定したため、それぞれ班ごとに集合し、今後の進め方を話し始めた。
とは言っても、装備班は現状あまりやることはない。せいぜい勇者たちの使用している武器や勇者服について調べるだけだ。
何もしないという訳にはいかないので、勇者を管轄している大社職員に、『どんな装備が欲しいのかを、ある程度でいいから纏めておいてくれ』と要望を出した。
一応、勇者班にも話を通したところ、『分かり次第、情報を流していくからそれまでは装備班は好きに動いてくれ』とのお達しが出た。
装備班たちは『もし、自分たちが勇者だったらどんな装備が欲しいかな』とお題を決め、それぞれ欲しいものと、それらを既存の科学技術で補うためのアイデアを出し合ってその日の会議は終了した。
数日後、装備班たちは要件定義をまとめて持ってきた大社職員に、鬼のような形相で詰め寄っていた。
その要件とは次のようなものである。
・勇者服にはすぐに着替えれるよう、持ち運べるようにすること。
・着替えはどのような状況でも対応できるよう、一瞬で行えるようにすること。
・もちろん、武器も持ち運びができるようにすること。
・これら要素をまとめたものをシステム化し、勇者様方が簡単に操作できること。
・操作には特殊な方法を用いず、携帯機器のようなもので完結すること
・システムは勇者様の戦闘の邪魔にならないよう、小型軽量化すること
等々であった。
これを見た装備班たちは、装備を収めたスーツケースでも持ち運ぶのかな? と一瞬考えたが、この文章のニュアンスではまるで『変身』をすることを想定されているようだ。
流石に自分たちの誇大妄想だろうと思い、要件定義を纏めてきた大社職員に聞いてみると、そうですよ? と帰ってきた。
それからはもう大変である。聞くに堪えない罵詈雑言が技術者たちから飛び出した。
「なんだこの要件定義は!」
「ふざけるな!」
「バカにしてるのか!」
「冗談も大概にしろ!」
「漫画やアニメの世界じゃないんだぞ!」
「頭おかしいんじゃねえのか!」
「DHA足りてないんだろ!」
「にぼしでも食ってろ!」
とまあ、非難囂囂。
しかし、大社側の職員は意見を変えず、『霊的技術を用いれば可能』と言ってのけた。
どうやら大社(運用)側と技術者(開発)側での致命的な認識の差があるようだ。
このままだと勇者の装備開発なんて夢のまた夢。
というわけで、大社側から技術者たちに対して、霊的技術に関することについて『勉強会』が開かれることになったのであった。
ん? なにこれ? こんなの作りたくないよだ(装備開発ゴ●リ)
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