勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

26 / 28
お久しぶりです。ルビコンから帰ってきました。(3周目までクリアしました)


大人とは、子供とは:勇者計画編.11

私たちの戦いは過酷なものになる。軽はずみな気持ちならすぐに出て行ってほしい。

全部背負う、ヒーローだから!

覚悟って……痛いんだよ?

……分かった。よろしく頼む。友奈。

 

 

 

 数日前の君と高嶋君のやり取りを見て、桐生は言いようのない不安を感じていた。

 乃木若葉と言う少女は五人の勇者たちの中からリーダーに選ばれた、キリッとした態度を崩すことのない人物だ。

 常に気を張っているというか、明日にでもバーテックスが四国に攻め入ってくる。そんな心持ちで生活をしているようだ。

 上里君といる時は少し柔らかくなっているように感じられるが、他の勇者が近くにいるとそれも鳴りを潜める。リーダーとしての責務を果たそうとしているのだろうが、どこか危なっかしく思える。高嶋君は誰かのために自分を犠牲にする危うさがあったが、乃木君はまた別の何かに取り憑かれているような……。

 そう考えながら、桐生はうどんをすすった。

 

 あれから桐生は食堂の職員に直談判し、なんとかうどん以外のメニューも置いてもらえることに成功した。その弊害なのかはわからないが、食券制ではなく、バイキング形式のようなセルフサービスに変化した。ただし、うどんだけオーダー制である。茹でたての出来立てほやほやの美味しいうどんが食べられる。

 決してうどん以外がマズイわけではないが、明らかに力の入れ具合が違う。四国の人にとって、うどんには尋常ではないこだわりがあるんだろう。桐生はそう思うことにした。

 

 早めの昼食を取り終えた桐生は腹ごなしのため、しばらくそのまま席に座っていたが、そこに先ほど思考の中心となっていた乃木君が、うどんを持ってやってきた。

 乃木君もこちらに気づいたらしい。桐生の対面へと座る。

 「よう、乃木君。お疲れさん。授業は終わったんか?」

 「桐生さんもお疲れ様です。ええ、授業は終わりました。」

 「ほーん。他の奴らは? 上里君もおらんやんけ、珍しいやっちゃな。」

 「ええ。ひなたは今日、丸亀城にいないんです。朝から大社本庁へと行ってしまっていて、他の皆もそれぞれどこかへ行ってしまったようで、今日は私一人だけです。」

 相変わらずキリッとした態度を崩さない子だ。よくできた子と言えばいいのか、それともそういう風にふるまっているだけなのか。ちょうどいいため、桐生はこの少女と話をすることにした。

 

 

 

 「それでな、防衛省のお偉いさんが神樹の恵みをそのまま砲弾として発射するデッカイ大砲みたいなのを作るんや! って言いだしてもう大変やったわ。そんなもんどこにどうやって作るのかとか、そもそもまだ調査中で分からん事だらけやのに、そんなもん作ってる暇があるんかとか会議は滅茶滅茶やったわ。」

 「た、大砲ですか。確かにそれがあれば、もしこの四国にバーテックスが攻め入ってもある程度なら事前に数を減らして、私たちが戦いやすくなるかもしれません。」

 「う、うーん? いや、この四国以外の日本もいずれ取り戻す予定やから、動かせないものを作ってもしょうがないやろってことで話は終わったんやけどな。」

 「確かに、そうなると私たちが反撃する際には使えませんね。」

なんだか、乃木君は自分たちが率先してバーテックスと戦うことに思考が凝り固まっているようで、さっきから微妙に話がかみ合っていない。

 「なあ、乃木君。なんでそこまで自分たちが戦うことにこだわっとるんや。」

 桐生は乃木君の考えていることを知るため、少し深く踏み込んだ。

 「それは……私たちが勇者だからです。」

 「言っている意味がよくわからんな……」

 「我々、勇者が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんです。私たちが人類の矛とならなければいけません。」

 ああ、乃木君も高嶋君と同じだ。まるで呪いのようだ。

 「なあ、乃木君。前にお前たちに話したやろ? 今、人類が総出となってバーテックスに対抗できる方法を模索中だって。」

 「ええ、聞いています。」

 「その方法ってのは、君たち勇者の力を最大限強化して、君たち五人で人類の命運を背負ってバーテックスと戦ってもらうことなんかじゃない。」

 「それは……我々では歯が立たないと言っているのですか?」

 「違う、ただ……おかしいと思っとるんや、君たちだけを戦わせることに。」

 

 以前、防衛省のお偉いさんも定例会議で話していた。

 あの時、自分たち大人や、国や、自衛隊は何もできず四国へ逃げることしかできなかった。首都であった東京を放棄し、国民の避難すらも優先することができず、ただ惨めにこの箱庭へと逃げ込んだ臆病者だと。

 国民の九割以上を見殺しにし、今度は幼い少女たちに、生き残った人類の命運を押し付ける?

 だって仕方がない? その方法が一番確実? 力があるものが率先して戦うべき? それは果たして本当に幼い少女に背負わせていいものなんだろうか。

 そんなわけがない。そのために我々大人が、国が、組織が存在するはずなのだ。

 一刻も早く、彼女たちの負担をやわらげ、彼女たち勇者頼みではなく、我々人類が一丸となってバーテックスに対抗するすべを見つけるのが最優先ではないか。と皆に論じていた。

 それの結果が神樹の恵みを砲弾とした、巨大大砲の設置になるのは、いささか発想が飛躍しすぎている気がするが、国家という大きな組織の一員である彼が、自分の主張を堂々と発表するその心持ちに、桐生はとても強く感心したのだった。

 

 「俺は、運命なんかに縛られて、君たちがやりたいことを制限されるだなんておかしいと思っとる。『仕方がなかった』で済ませてエエわけない。人類の存亡だなんてそんな重責を君たちだけに背負わせてエエわけない。そうは言っても、今は対抗策が君たち五人しかおらへんのも確かや。

 でもな、今は目先のことでいっぱいかもしれんけど、俺の知り合いの女の子みたいに、眩しい夢を持って、それに向かって突っ走ってほしいと思ってる。人類の命運なんてそんなもん簡単に背負うな。そんな重たいもの降ろせ、降ろせ。

 二年後までには必ず、俺たちが対バーテックス兵器を完成させて、軍に配備させたる。だから、必ず君たちが戦うだなんて思わず、もうちょっと気楽にしといてくれ。そんなんじゃ精神が参っちまうぞ。」

 ポンポンと乃木君の肩を、軽く叩く桐生であったが、

 「それでも……私は戦わないといけません。バーテックスは私の友達を殺しました。罪のない多くの人々の命を奪いました……。必ずバーテックスに報いを受けさせる。そして奪われた世界を取り戻すんです。」

 と、乃木君は首を縦に振らなかった。

 

 どうやら乃木君は頑固者で、自分でケリを付けたいらしい。

 何にとらわれているのかと思ったが、復讐心だったのか。

 うーん。これは説得するのはなかなか大変そうだ。

 

 幸いにも四国に来るまでの高嶋君や自分とは違い、今回はまだ時間的猶予がある。

 二年以内に自分たちが対バーテックス兵器を完成させ、その間に乃木君を説得すればいい。説得できなかったとしても勇者たちをお払い箱にするよう、無理やりにでも働きかければそれでいい。そうだ、あの防衛省のお偉いさんにも頼んでみよう。きっと協力してくれるはずだ。

 そうすれば横手君が望んでいた、子供が先頭に立って戦う必要もなくなる。高嶋君も戦う必要がなくなり、彼女の望んだ、『横手君に謝りたい。四人でどこかに遊びに行きたい。』という願いも叶えることができるだろう。

 桐生はひとしきり考えた後、『そうか……。でもまだ時間はあるからゆっくり考えてくれ。』と言い残し、食べ終わった食器を持って、回収場所へと運んで行った。

 

 

 

 桐生静治という男は変な奴だ。お気楽な奴かと思えば、意外と頭が回るところを見せる。このおかしくなってしまった世界を受け入れているかと言えばそうではない。茉莉みたいにどこか今までと同じような普通を求めているように感じた。

 だから、しまなみ海道の上で『茉莉をよろしく頼む』と任せたし、私が友奈を大社に連れて行った。だというのに、今では桐生の方が茉莉と友奈の両方の面倒を見てるのだから不思議なものだ。

 だけど、巫女たちの授業中だというのに、いきなり教室の戸を開けて、ずかずかと入ってきたこの男は、どう考えても普通ではないと烏丸はそう思っていた。

 

 「おい! 烏丸ァ! ちょっと頼みたいことがあるんだが!」

 「なんだ桐生、見て分からないか。今は授業中だ。とっとと出て行け。」

 見ろ、最近は上里のおかげで雰囲気がマシになった巫女たちがポカンとしている。

 いきなり知らない男性が入ってきたらビックリもするだろう。その意味も込めて桐生に出て行くように促したのだが、桐生はそんなことお構いなしのように話し始めた。

 「やかましい。さっきチラっと見た時から、ずっとそこで気だるげに座ってるだけやないか。黒板にもナンも書いてないこの状態が授業中なわけないやろ、アホウ」

 「アホはお前だ、桐生。ここにいる巫女は学年がバラバラだ。全員一律の授業が出来るわけがないだろう。勇者たちの授業風景もこんな感じだろうが。」

 桐生は烏丸と違い、教壇に立つ先生ではなく、あくまで学者たちが用意した実験などに参加させる際の、勇者たちのコンディション維持が主な仕事のため、授業中はほぼノータッチだったのだ。痛いところを突かれた桐生はしどろもどろとしている。

 「あー。えーっと、ほな自習みたいなもんやろ? ならちょっと廊下まで来てくれや。ちょっと聞きたいことと、頼みたいことがあるんや。」

 「私は今、授業中だ。忙しい。」

 そうバッサリと切り捨てると、桐生は嘘つけと言いたげな目でこちらを見ていた。

 よく見ると安芸や花本ですら同じような目で私を見ている。なんだお前ら、揃いも揃って。しかし、何時までもここに居座られても困る。用件だけ聞いてさっさと帰ってもらおう。

 「ハァ…で、聞きたいことってなんだ、聞くだけ聞いてやる。」

 「おうおう、最初っからそう言えばいいんや。実はな、たこ焼き機を探しとるんや。烏丸、お前持ってないか?」

 わざわざ教室に乱入して言うことがたこ焼き機? 

 頭が痛い。コイツの頼みごとを聞いた私が馬鹿だった。

 「持ってない。用件は済んだな。じゃあ帰れ。」

 「オイオイオイ、待てや。話はここからや。お前さんから大社に頼んで、二台ほどホットプレートごと用意してくれるように頼んでくれへんか。」

 「何故私がそんなことのために頭を下げなければならないんだ。自分で探してこい。」

 「探してなかったから、こうやって頼み込んでるんやろうが。なあ、頼むって。今までお前の頼みごとを聞いてやったんだから、その分だと思ってよぉ。高嶋君がタコパやったこと無いって言っとるんや。大阪人として見過ごせん。なあ、どうにかならんか?」

 友奈がタコパを……?

 「なんだ、友奈の願いだったのか。それなら聞いてやろうじゃないか。」

 「こ……、このアマァ……」

 桐生が額に青スジを浮かべているが無視だ。この男の願いを聞くのは癪だが、友奈が望むのなら話は別だ。

 「で、二つでいいのか?」

 「お、おう。多分一つじゃ勇者全員で囲むと足りん。二つあれば十分や。」

 「よし分かった。手に入り次第連絡するから、今日はもう帰れ。」

 「ケッ、なんだい。せっかく会いに来てやったのに冷たいでやんの。」

 桐生はそう言い残して教室を出て行った。

 

 ポカンとしたまま固まっていた巫女たちだったが(上里だけは苦笑いしていた)一番初めに口を開いたのは安芸であった。

 「なんだか……すっごい変な人が来ましたね。」

 やはり桐生の第一印象はそれなのだろう。続いて花本が口を開く。

 「彼があの桐生さんですか? あんな人が郡様のお近くで、勇者様たちのお世話をされているのですか?」

 とまあ、だんだんと正気に戻った巫女たちから質問攻めを食らうことになった烏丸は、『面倒くさいことになったじゃないか』と心の中で桐生に対して暴言を吐いていた。




ACVIも一通り攻略しましたので、この創作活動もゆっくり進めて行きます。



誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。