勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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前半は説明回。後半はあんタマ回です。
ちゃんと書けてたらいいな……。


守る理由:勇者計画編.12

 季節は変わり、秋から冬へ。

 あの厄災からもうそろそろ半年だ。

 

 物価はまだ安定しているとは言えないが、世間は例年通りクリスマスや正月の準備で大忙しだ。

 いつまでも沈んだ空気ではよくないと考えたのだろう。政府の支援もあり、数ヵ月前は闇市と化していた商店街やスーパーなどでは、きらびやかな飾りつけが行われており、クリスマス商品を景気よく振る舞う店員たちや、それを買い求める買い物客たちの姿がそこにあった。

 

 そんな中、勇者たちも久しぶりに外出の許可を得て、皆で揃って外へ出かけていた。

 情報秘匿や保護・データ取りの名目とはいえ、半年も丸亀城で軟禁扱いを受けていたのである。ストレスも溜まるだろうと桐生は判断し、大社職員や政府関係者に声をかけ、何とか勇者たちの外出許可をもぎ取ることに成功した。

 彼女たちも高嶋君主導で、クリスマスパーティーの準備をするらしい。高嶋君からタコパはどうなったかと聞かれたが、烏丸から一切返事がないのでさっぱり分からない。

 まさかアイツ、忘れてないだろうな。これは一度、烏丸に会いに行かないといけないかもしれない。

 まあ、そういう訳で、勇者たちは少し早めの冬休みが始まった。

 

 子供たちは雪の降る中、パーティーの準備ため、楽しそうに外に駆け出していったが、大人たちは、あーでもないこーでもないと顔を突き合わせて、いつもの定例会議に出席していた。

 世間はクリスマスだってのに、働き者はいるもんだ。

 

 

 

 「えー、ですから。以前私が発案した巨大大砲計画について、私なりに再検討しましたところ、巨大にすればするほど稼働させるための設備等などが肥大化、迎撃方向が限定されるといったデメリットの要素が大きくなることが判明いたしましたので、最大限メリットを生かし、製作時間を可能な限り短縮させる方法としまして、既存の通常兵器の規格に合わせた特殊砲弾を製作することを、ここに提案させていただきます。」

 以前、巨大大砲を提案していた防衛省のお偉いさんが、懲りずにまた神樹の恵みを砲弾としてブッ放す計画を提案していた。

 大艦巨砲主義なんだろうか、この人は。

 しかし今回はどうも夢物語ではなく、現実的なプランを用意してきたらしい。

 「なお、特殊砲弾の試作につきましては、既に阿倍野内閣総理大臣へ打診をしておりまして、この場で賛成多数となりましたら、班をあげて全力で取り組む次第であります。皆さま、どうかご採択をよろしくお願いいたします。」

 と言って頭を下げていた。

 まあ、この防衛省のお偉いさんがここまでこだわる理由もわかる。彼の所属しているバーテックス班は他の班と違い、これまで目立った成果を上げれていない班だ。

 すでに通常兵器などの改良や、サンプル回収としてのバーテックス捕獲プランの立案などを前々から行っていたが、その後の続報が出ていないと言うことは、どれもうまくいっていないのだろう。立場的にも焦っているのがわかる。

 

 そもそも班ごとの連携はあれども、他の班のやることに介入する権限は、どの班も持ち合わせていない。

 あくまで、『うちの班はこういった理由で、こういうことをやりますよ』と班の代表が宣言し、他の班からの意見をくみ取り、気になったことや改善点などを洗い出し、実行に移して、その成果や進捗状況を共有するのがこの定例会議の主な役割である。

 なので、せいぜい現実的ではないことに対して、学者や技術者たちが『素人質問で恐縮ですが』と言葉の暴力で、発表者に対して致命傷を与えるだけだ。

 卒論発表みたいだ。嫌すぎる。

 

 そして、その言葉の暴力をはねのけた計画が実行に移されるだけで、他の班に何かを強制するわけではない。

 なので、この防衛省のお偉いさんは、以前メタメタにされた夢物語を班の中で再検討し、現実的な物にして、政府からの許可も取り、『やります』と宣言した以上、誰も止める理由などないのである。

 そのおかげか、採択は無事に賛成多数となり、バーテックス班は神樹班からの情報提供を受け、既存兵器に対して生命エネルギーの兵器転用を行うことになった。

 

 

 

 桐生の所属する装備班も忙しくなってきた。

 生命エネルギーを一般人が使えるようにコントロールする方法がそれぞれの班からいくつか考案され、それに対して技術者が無茶ぶりを受けて、提案した班と協力して試作開発を進めるのである。

 そのまぁ、進まないこと進まないこと。

 一番、現物として出来上がっているのは、大きいタンクに砕いた神樹の恵み(大社職員が正式な儀式を行って、神樹から直々に下賜された、生命エネルギー密度の高い『有償』と呼ばれるもの)と液体を混合させ、改造した放水車につなげて、高圧で放水させるというもの。

 たったそれだけである。

 

 『一般人による、生命エネルギーの制御』と言っているが、生命エネルギーを制御しているわけではない。誰がどう見てもただの消火活動である。

 作った装備班が言うのもアレだが、誰一人こんなものでバーテックスを倒せるとは思っていなかった。

 一度、お披露目会と称して自衛隊の隊員たちや政府関係者に見せたところ、皆が首をかしげていた。

 『これが対バーテックス汎用兵器です』だなんて言われても、ピンとこないのは当たり前である。冗談はよしてくれ。

 むしろ『馬鹿にしているのか』と怒られないだけマシであった。

 

 それでも物は試しにと、消防艇と呼ばれる、水上や沿岸において発生した火災の消火や災害への対応を行う小型船舶に、これと同じ設備を搭載し、ちょうど良く数体ほど固まっていた結界外のバーテックスに向けて、恐る恐る放水活動を開始したところ、倒すことはできなかったが、明らかに嫌がるそぶりを見せ、結界周辺から撃退することに成功した。

 初めは命を捨てる覚悟で任務にあたっていた自衛官たちだったが、その効果のほどを見て、やんややんやと拍手喝采。損害を出さず、その効果を確認し、無事に母港へと帰投したのであった。

 なお、その報告を聞いた装備班たちは『えぇ…?』と困惑していた。

 

 まあ、ともかく。生命エネルギーの塊である、神樹の恵み(有償)をそのままバーテックスにぶつけても一定の効果が得られたというのは大きかった。

 技術者たちや学者たちは腑に落ちなかったが、どうやら方向性は正しいようだ。

 引き続き、生命エネルギーの凝縮や制御方法など、一般人でも使えるように様々な方法を班ごとに模索しては、装備班に無茶ぶりを吹っかけていた。

 

 

 

 さて、無事に年越しを終え、勇者たちの冬休みも終わりを迎えたころ、そんな無茶ぶりの一つとして、バーテックス班に所属している防衛省のお偉いさん経由で、桐生に対してお願いがあった。

 なんと、伊予島君の装備を優先的に研究したいらしい。

 そもそも、勇者各員は癖のある装備が多い。乃木君の太刀と、高嶋君の手甲はまだ良いとして、土居君の『旋刃盤』や郡君の『大鎌』は万人が使える武器ではない。そもそも食われてしまえば終わりな一般人がバーテックスに対し、近接戦を挑むのはあまりにも無謀。

 そういう訳で、最も遠距離から攻撃可能な、伊予島君のクロスボウが選ばれたという訳だ。

 そういう経緯を伊予島君に話したところ、その性格のせいか、初めは心配そうな顔をしていたが、一緒に話を聞いていた土居君が『タマが傍にいてやるから安心しろ』と宣言したため、不安が少し残った表情をしながらも、了承したのであった。

 

 

 

 伊予島君は勇者服に着替えて、自身の専用武器であるクロスボウを持ち、バーテックス班や装備班と対面し、さっそく精密なデータ取りが始まった。

 威力などについては以前、威力評価試験で目にしているので、そこは測定しない。

 今回のメインは生命エネルギーの流れ方である。

 武器から射出されるまでのプロセスを細分化し、どのような手続きを得て攻撃しているのかをじっくり観察するのである。

 的となるモノも用意していないので、何もない空に向かってただ撃つだけである。

 

 元は神の力を宿したこの世に一つしかない、神聖な武器。

 同じモノを作るのは不可能に近いだろうが、その原理を解析し、威力が落ちても量産品が出来ればしめたもの。

 数が整えば、バーテックスに対抗できる武器となる可能性は十分にある。

 バーテックス班はそう考えていた。

 

 が、いくら観測目的の実験とはいえ、大勢の大人にじろじろ見られるのは、分かっていても気のいいものではない。特にあの伊予島君の性格ではなおさらだ、視線を意識しだすまでは問題なく進行していたが、今となっては明らかに本来の力を発揮できていない。

 見かねた土居君が、伊予島君に激を飛ばしたり、じろじろ見ているバーテックス班に対して文句を垂れていたが、伊予島君は委縮するばかりで、ロクなデータ取りが出来ないまま、数時間が過ぎてしまった。

 

 

 

 「あんずぅ、どうしちゃったんだよ! しっかりしろ!」

 『一旦休憩にしましょう』と桐生が提案して、それぞれがバラバラに休憩を取り始めた時、土居君が伊予島君に詰め寄っていた。

 「む、無理だよ。タマっち先輩……。緊張しちゃって、うまくできないよ……。」

 これには桐生も、バーテックス班も困ってしまった。

 初めの数回だけのデータで全てを解析するのは難しい。休憩後も継続してデータ取りを行う必要があるが、肝心の伊予島君があの調子では、成果は得られないだろう。

 どうにかして伊予島君に本調子を出させるための作戦を練っていた桐生だが、そこに土居君が声をかけてきた。

 「おーい、桐生!」

 「なんやタマ坊、伊予島君は調子を取り戻したか?」

 土居君とは会うたびに、気さくに話しかけてくれたので、今では愛称で呼び合う仲だ。勇者メンバーの中では高嶋君と同じぐらい話しやすい。

 土居君は伊予島君とよく行動を共にしているから、伊予島君とも会話はしている。だが、やっぱり土居君が間に入って会話が成り立っている状態なので、まだまだ親密とは程遠そうだ。

 

 「いいコト考えたんだ! タマも勇者服を着て、あんずの攻撃を受け止めるってのはどうだ!?」

 は? 攻撃を受け止める? それが伊予島君の調子と何の関係があるんだ?

 「えぇ!? タマっち先輩に攻撃するの? 危ないよ!」

 土居君の発言に驚いた伊予島君が、慌てて反論する。

 「なあに、キャッチボールみたいなもんだって! タマと会話しながらなら、あんずも周りを気にせず普段通りにできるだろ?」

 何と物騒なキャッチボールだろうか。どっちかって言うと投球練習では? だが、案としては悪くないかもしれない。

 どうせこのまま続行したところで、さっきのようにマトモなデータは取れないだろう。伊予島君が言うように、危険かもしれないが、やってみる価値は十分にある。

 「でも…怖いよ。もし間違ってタマっち先輩に怪我でもさせちゃったりしたら…」

 「タマのことは心配するな。どんな攻撃が来ても、タマがしっかり受け止めてやる!」

 桐生はチラリと横目でバーテックス班の方を確認すると、バーテックス班も土居君の案に賛成らしく、何か話し合っていた。

 彼らも成果を求めているため、『多少のリスクを背負ってでも続行するべき』と判断したのだろう。だが、最終的に決めるのは彼女達だ。バーテックス班が茶々を入れそうになったら一旦止めることにしよう。

 そう考えていた桐生だったが、伊予島君の方が早かった。

 「……、駄目だと思ったらすぐに言ってね。タマっち先輩。」

 「おう! まったくあんずは心配性だな~。」

 そういう訳で、キャッチボールが始まることになった。

 

 

 

 土居君が勇者服に着替えている間、バーテックス班もそれに合わせて、撮影機材などの調整や準備を行っていた。

 そうしていると桐生と伊予島は暇である。端の方で並んで座っていた。

 

 やはり、土居君が居ないと会話にならない。お互い黙ったままだ。居心地は少し悪いがもう数分もすれば土居君も戻ってきて、観測実験も再開するだろう。

 そう思っていた桐生だったが、『あの…桐生さん』と伊予島君が声をかけてきた。

 「お、おう。どないした。伊予島君」

 「あの……前から思っていたんですけど。タマっち先輩は、どうしてあそこまでしてくれるんでしょうか…。私、皆さんに迷惑ばかりかけてしまっているのに、タマっち先輩はいつもなんてことない様に接してくれるんです。」

 驚いた。伊予島君からそんな相談をされるとは思ってもいなかった。

 予想外のことを相談された桐生は焦ってしまい、

 「ンなもん。俺が知るわけないやろ。そんなもん、土居君にしか分からん。君自身が土居君に聞くしかないわ。」

 と、ぶっきらぼうにそう返してしまった。

 「そう、ですよね…。ごめんなさい、変なこと聞いてしまって…」

 突き放したような言動になってしまった。と思った桐生は慌ててフォローを入れる。

 「ああ、いや。少なくとも、土居君が君を気に入っているのは確かや。伊予島君は、自分は迷惑ばかりかけてるって言ったけど、ホントに迷惑しかかけんヤツには誰も寄ってこうへん。接するとしても事務的になるはずや。俺には土居君の態度がそうは見えんから、きっと君の中にある何かが土居君に刺さったんやろ。そればっかりは土居君に聞いてみんとわからん。」

 「タマっち先輩が……私を……」

 また、会話が途切れてしまった。そこからは土居君が着替えを終えて戻ってくるまで、居心地の悪い空間が続くことになった。

 

 

 

 「よし! あんず! いつでもいいぞ!」

 と、土居君は旋刃盤を盾のように構えて、伊予島君に合図を送る。

 「い、いくよ! タマっち先輩!」

 伊予島君は威勢よく返事を返していたが、腰が引けているし、全然撃たない。

 「…? あんず、どうした? 早く撃ってこい!」

 なかなか撃ってこない伊予島君にしびれを切らしたのか、土居君が声をかけたその時。

 「う…えい!」

 と、覚悟を決めたのか、伊予島君が引き金を引いた。

 発射された弾丸(?)は、土居君が構えている旋刃盤に命中……せずに、見当違いなところへ飛んでいき、木々をへし折り、丸亀城の立派な石垣に命中した。

 もうもうと立ち込めた土煙が晴れたころには、石垣は一部崩れ落ちており、土台となる盛り土が見えてしまっている。

 これには伊予島君は真っ青になり、その場にへたり込んでしまった。

 観測していたバーテックス班も、流石にマズいと思ったのだろう。

 『中止だ! 中止!』と取り乱しながら、機材を守るものもいれば、崩れた石垣の写真を撮り始める者とさまざまだ。後者は危機管理が無さすぎる。

 桐生も『これはアカン』と観測実験の中止を宣言しようと息を吸い込んだその時。

 「待ってくれ!」

 と土居君が叫んだ。

 「あんず! タマは大丈夫だ! もう一度だ!」

 「無理だよ……。できないよ……。タマっち先輩……。できないよ……。」

 もう、伊予島君のメンタルはボロボロだ。

 「安心しろ! タマは問題ない! さあ!」

 土居君が励ましの言葉を投げかけるが、とうとう伊予島君の気持ちが溢れてしまったようで、

 「勝手なことを言わないでよ!」

 と彼女らしからぬ大声を上げた。

 「どうして!? どうしてそんなことを平気で言えるの? 怪我するかもしれないんだよ!? 今の、見たでしょ!? あんな威力が出るものをタマっち先輩に向けたくない! なのに、なんでそんなに平気そうな顔をしているの!? どうして!? いつもタマっち先輩は平気そうな顔で、私を助けてくれるのはどうして……。どうして……?」

 最後の方は尻すぼみだ。声の勢いが全くない。それでも、普段声を荒げない少女が叫んだからか、誰も言葉を発しなかったため、桐生にもバーテックス班にも、そして土居君にもしっかりと聞こえた。

 グスグスとすすり泣いている伊予島君に土居君が近寄って、

 「ごめんな。あんず」

 と、やさしく声をかけ始めた。

 「なんで……なんでタマっち先輩が謝るの……? 私が謝らなきゃいけないのに……」

 「タマがあんずを不安にさせちゃったからな。タマは……、タマはな。初めてあんずと会った時から、決めていたんだ。何があってもあんずを守ろうって。あんずはこんなにもかわいいんだ。タマが守ってやらないとって思ったんだ。タマがあんずを守る理由はそれだけだ。」

 「理由になってないよ……。タマっち先輩……」

 「えぇっ!? 今ので駄目なのか!? 難しいな……。タマはこれ以上説明できないぞ……どうしよう。」

 今度は土居君が尻すぼみとなってしまった。何をやっているんだ。

 うんうん唸りながら、必死に言葉を紡ぎ出しているが、話す内容がまるで変わっていない。

 

 「んがーーー!! とにかく、決めたんだ! あんずはかわいい! だからタマが守る! ついでに世界を救ってやるんだ! これで十分だ!」

 とうとう訳が分からなくなったのか、土居君は三段論法じみた論調で、伊予島君に自分の気持ちを説明していた。

 そのころには伊予島君は泣いておらず、むしろ言葉の出ない土居君を微笑ましそうな目で見ており、三段論法を聞いた後にはクスクスと笑いだしていた。

 「な! なんだよ。笑うなんて酷いぞ! あんず!」

 突然、笑い出した伊予島君に土居君は、初めは困惑していたが、最終的にはつられて一緒に笑っていた。

 

 

 

 「もうちょっと頑張ってみるね、タマっち先輩」

 「おうよ! タマがついてる! 安心しタマえ!」

 二人の間では絆が深まったらしい。

 傍から見ていた桐生は『アレでいいのか?』と首をかしげていたが、理由なんてそんなものでいいのだろう。当人同士はニコニコしている。問題はなさそうだ。

 伊予島君と土居君に一応、問題がないか確認を取ってから、実験は再開されることになった。

 「タマっち先輩! いくよ!」

 「おう! ドーンとこい!」

 その後の実験は問題なく行われ、バーテックス班はホクホク顔でデータ取りを行っていた。

 

 ちなみに、文化財を保護しているところから、石垣の件について、バーテックス班と桐生は後でものすごく怒られた。

 トホホ……。




あんタマはいいぞ。




誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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