まるでTPSゲームをしているような室内戦の長回しシーンは圧巻でした。
副題にもあるように劇中、何度も『報い』という言葉が出てきたため、上映中「乃木若葉みてぇなこと言ってんな」って思ってました。
大事なものをバーテックスに奪われた乃木若葉が生太刀と拳銃を持って復讐の鬼と化す物語…? ん?それはただの原作では…?
「諏訪地方に生存者がいる?」
ここは臨時の総理官邸。
阿倍野総理大臣は昼食の弁当を食べる手を止めて、報告してきた官僚にそう聞き返していた。
「確かなのか?」
話を聞いていた内閣幹部の一人がそう訊き返す。
「はい。気象衛星の赤外画像からも熱源が観測されました。先日、制御を取り戻した情報収集衛星からの裏付けもあります。間違いありません。」
官僚からの報告に数秒ほど『信じられない』と言ったように顔を見合わせていた政治家たち。
だが、官僚はそれを遮るように、続けて一枚の写真を阿倍野総理に手渡した。
「これは……」
写真は鮮明とは言い難いほどの粗さであったが、写っていたのはバーテックスと戦う一人の人間。
写真から顔を上げた阿倍野総理に対して、官僚はキッパリと言い切った。
「諏訪地方に、勇者が居ます。」
この情報は当然、国家機密扱いとされ、自衛隊首脳部による諏訪地方救出作戦の準備が進められた。
自衛隊は『F-15』と言う、ジェット戦闘機を二機、危険を承知で約四〇〇キロメートル離れた諏訪地方へと飛ばし、パイロットによる目視での強行偵察に及んだ。
バーテックスは空を飛べる(浮かぶ?)とはいえ、流石にマッハ2.5で飛行する戦闘機には追い付けなかった。
ゆうゆうと振り切り、情報にあった長野県にある諏訪湖の南側、守屋山のふもと近くの平地上空をぐるぐると飛んでいた時、パイロットには肉眼でハッキリと見えた。
あっ、人だ。人がいる。
空から見てもわかる。明らかに人が住んでいる。
向こうもこちらに気が付いている。何人も大きく手を振っている。
子供も、老人もいる。みんなこっちに手を振っている。
信じられない。あの厄災から半年が経っても、四国の外に生存者がいる。
だが、パイロットたちには何もできない。
そもそも降りれるようなところがない。たとえ降りたところで、この戦闘機はこれ以上人間を乗せることができない。何もできないのである。
助けを求めている人たちが真下にいるのに…。
パイロットたちは悔しい思いをしながらも、情報を集めるため何度かグルグルと上空を飛行した後、『こちらは気づいているぞ』と伝えるため、機体をフリフリと何度か揺らし、貴重な情報を持ち帰るため、四国へと猛スピードで帰っていくのであった。
「あぁ~。行っちゃった…。」
藤森水都は去っていく飛行機を見送りながら、そう溢していた。
先ほど、頭の中で何かがやってくるイメージが浮かんだため、またあの化け物たちが攻めてくるのかと思っていたが、やってきたのは赤い日の丸がペイントされた二機の飛行機。
とうとう助けがやって来たのかと思い、自分でもらしくないほどに大きな声を出しながら空へ向かって手を振っていた。
だが、結果として飛行機は飛び去ってしまった。
自分たちの上でグルグルと飛び回って、去り際には機体を左右に揺らしていたので、こちらに気づいているのだろうが、それでも落胆は大きかった。
そこへ少女がもう一人。
「みーちゃん! 今の何!? ものすごいスピードでフライアウェイして行ったわ!」
ルー大〇みたいな口調で話す、この少女の名前は白鳥歌野。
ついさっき、『畑の様子を見てくるわ!』と言って飛び出していった、化け物と戦える力を持った少女である。
「うたのん! きっと自衛隊だよ! 助けが来たんだよ!」
「ホワイ? それにしてはどこかへ行っちゃったけど。」
「うっ、そうだよね……。どうして行っちゃったんだろう……」
専門的な知識がない少女たちに、戦闘機にはこれだけの人数を助ける能力を持っていないことを理解してもらうのは酷であろう。
少女たちや、生き残った人々は『見捨てられたのかもしれない』と不安になっていた。
しかし、白鳥歌野だけは違った。
「皆さん! 皆さんも見たでしょう!? ここ以外にも生存者はいたんです! あの飛行機は私たちを見捨てたわけじゃありません! 必ず助けは来ます!」
外に出て、飛行機に手を振っていた住民に、少女が檄を飛ばす。
「活路が見えたんです! 助けが来るその時に備えて、私たちは力を合わせましょう!」
そうして、白鳥歌野という少女は自活を促すため、畑を耕し、魚を獲り、生き抜くために力を合わせようと呼びかけた。
あの厄災の日から今まで、白鳥歌野は同じことを繰り返し訴えていたが、それに同調するものは少なかった。
こんな狭く閉じた地域で、人類が生き残れるはずがない。いずれ自分たちは全滅する……と誰もが諦めていた。
しかし、誰にでもわかるような形で、希望がやって来たのである。
この地域以外にも人類は生き残っており、飛行機を飛ばす事が出来る。
もしかしたら、白鳥歌野の言う通り、近いうちに助けが来るかもしれない。
諦めていた住人たちの心に火をつける『着火剤』としては充分であった。
諏訪は活気を取り戻そうとしていた。
災害対策基本法第六十八条及び、自衛隊法八十三条
『災害派遣』
通常、災害派遣には都道府県知事の要請が必要となるのだが、『公共性・緊急性・非代用性』の三要素を満たす場合は、要請を受けていなくても自衛隊による自主派遣を行うことが可能なのである。
四国政府並びに防衛省は強行偵察の結果、諏訪地方は『災害派遣の三要素』に適合していると判断、自衛隊による自主派遣を決定。
そして今まさに、諏訪地方上空に輸送機が四機、南から接近しようとしていた。
以前、勇者たちの威力評価試験で登場した輸送機『C-1』である。
近くには偵察にも使われた、数機の戦闘機『F-15』が護衛として一緒に飛んでいる。
これからこの大量に積み込んだ荷物。救援物資と約六〇名の自衛隊員を諏訪地方へと無事に送り届けるのである。
機体が右へ大きく傾き、旋回を始めた。
——全機に次ぐ、こちらは航空管制機アスター1。諸君らはまもなく諏訪上空、作戦空域へと侵入する——
輸送機の中で準備を行っていた自衛隊員たちにも、それは機内スピーカーではっきりと聞こえた。
長かった。僅か数時間のフライトだというのに、どっと疲れた気分だ。
バーテックスは戦闘機の速度に追いつけないと事前に聞いてはいたが、制空権も取れていない危険空域を、わずか数機の護衛のみで飛ぶのは、精神がガリガリと削り取られる思いだった。
しかし、作戦はここからが本番。
限界まで詰め込んだ救援物資と共に、約六〇名の隊員たちはこれから空挺降下を行うのである。
機体が旋回を終えて水平に戻ると、機内に警報が鳴り響き、機体後部のカーゴドアが開いた。
チラリと仲間の隊員越しに覗くと、眼下には諏訪湖が見える。高さは約三〇〇メートル。
訓練で何度も行ってきたはずなのに、いつもよりも機体の速度が速く、高いところを飛んでいるように思えた。
『降下、一分前!』
誘導員がそう宣言した。訓練通りフックをワイヤーに引っ掛ける。
もう湖を抜けて平地に入っている。心の準備をしてきたはずなのに、今になって脈拍が上昇していた。
もう一度、開いたカーゴドアから外を見ると、別の機体からパレットに乗せられた大きな物資が次々と投下されて行くのが見えた。
自分たちが乗っている機体からも、小さな物資がポイポイと放り出されて行く。
輸送機から吐き出されるように投下された物資は、すぐさま付属しているパラシュートがパッと開き、ゆっくりと降下していった。
もう、後何秒だろう。
自衛隊員は皆、不安でいっぱいだった。
無理もない。もしかしたら二度と戻ってこれない任務なのだ。
だが、助けを求めている人たちが待っている。
自分たちが行かなければ。
しかし、足がすくむ。
動け、動け。動いてくれ。
そう自分たちに言い聞かせ、不安を押し殺しながら任務を全うしようとする。
彼らもまぎれもなく勇者であった。
『降下! 降下!』
ついにその時が来た。自衛隊員はドキリとしたが、先頭にいた仲間の隊員は訓練の時と同じようにスッと降りて行った。
えっ、そんな簡単に降りれるものなのか。
自衛隊員は仲間の度胸に驚いていたが、他の仲間も続くようにどんどん降りていき——。
気が付けば、彼も空にいた。
さて、こちらは同時刻、諏訪の地上。
先日とは違い、大きな飛行機が諏訪湖を超えていくつもやって来たのである。
しかも以前よりも低く、ゆっくり飛んでいた。
畑仕事をしていた歌野や水都、その他大勢の住人も気が付いた。
みな、助けが来たと喜んでいたが、一部の大人たちは『何処に着陸するんだろう』と不思議に思っていた。
すると、大きな飛行機からパラシュートを付けた何かが、ゆっくりと落ちてくるのが見えた。
一つや二つではない。大小さまざまなものがパラパラと降り注いでいた。
察しのいい一部の大人たちは『車を出せ』と大騒ぎしていたが、大多数は空を見上げてそれをじっと見つめていた。
水都もその大多数の一人だったが、突然脳裏にとあるイメージが流れ込んできた。
これは、何度も見たことがある。化け物だ。いつもと同じだ。
水都はすぐさま隣にいた歌野に化け物が来たと告げる。
「えっ!? こんな時に? 間が悪いわね……。白鳥歌野! 出るわよ!」
と、自分も出撃すると言い残して、彼女自身の専用武器である藤蔓を取りに、駆け出して行った。
上空でもバーテックスが接近していたことには気づいていたが、物資投下を優先していたため対応が遅れてしまった。
これ以上は危険だと判断したのか、輸送機に対して警告が飛ぶ。
——こちらアスター1。レーダーに反応あり。方位四〇。高度は不明。距離一万二千。そちらから見て後方左から接近中。数は少ないが危険だ。キャリア1からキャリア4はすぐさま離脱しろ。方位、一九五に進路をとれ——
——こちらキャリア1、方位四〇からバーテックス接近、了解した。離脱する。方位、一九五——
物資と人員を投下し終えた輸送機は指示に従い、後方から迫るバーテックスから逃げるように進路を変更した。
——アレス1からアスター1へ。我々は少しでも時間を稼ぐ——
物資投下の邪魔にならないよう、輸送機よりも高高度を飛んでいた戦闘機のパイロットがそう答えた。
——アレス1、了解した。アレス2からアレス4までを割り当てる、各機アレス1に続け。アレス5からアレス8までは引き続き、キャリアチームの援護だ。離れるな、ピッタリ張り付け。ウェポンズオールフリー。交戦を許可する。——
ウェポンズオールフリー。つまり、全武器の使用許可。バーテックスが出現するまでは領空侵犯してきた外国機に対しても発令されなかった宣言。
それが宣言された。
——よし、聞いたな! アレス2は俺の後ろ。アレス4はアレス3を援護しろ。武装はおそらく効かん! おびき寄せるためだけに使え! 行くぞ! アレス1、エンゲージ!——
一纏まりとなっていた飛行機たちから四機の戦闘機が離れていく。
既に雲の切れ目からバーテックスの群れが確認できる。
何が「数が少ない」だ。嘘をつけ。パイロットの一人がそうつぶやいた。
下を見ると積み荷のほぼ半数が地面に着地している。
だが、仲間たちはまだ空中でパラシュートを開いたままだ。
彼らが地上に降り立つまで約三分。何とかして時間を稼がなければ。
戦闘機がバーテックスの群れに頭を向け、効かないと分かっていても機銃をばら撒く。
戦闘機はワザと速度を緩めて、追いつけない程度を維持していたが、こちらの数はたったの四機。
追いかけてくるバーテックスは、わずか十数体。
残りはパラシュートを開いて、ゆっくり降下していく自衛隊員たちに向かっていた。
降下中の自衛隊員たちにできることは何もない。
バーテックスはどんどん迫ってくる。もう、目と鼻の先だ。
先に地面にたどり着かなければ、一巻の終わりである。
だが、悲しいかな。バーテックスの方が一歩早かった。
自衛隊員は絶望に体を支配されながらも、目を瞑ることはなかった。
ただじっと、その時が来るまで、人類の敵をにらみつけていた。
そして、大きな口を開けて隊員をかみ殺そうとしたその時、一本の藤蔓が目の前のバーテックスを地面へと叩きつけたのであった。
「な、なんだ?」
死ぬと思っていたが、突然目の前からバーテックスが消え去ったのである。
何が起こったのかわからなかったが、地面が間近に迫っていたため、訓練で何度も行った着地姿勢をとり、無事に五体満足で着地することに成功した。
パラシュートを回収しようとしたところ、先ほど襲い掛かってきたバーテックスが半分ほど地面に埋まっており、薄くなって消えていくのが見えた。
「ドントウォーリー! この白鳥歌野が来たからには、もう大丈夫よ!」
声のする方向に目を向けると、白鳥歌野と名乗った少女が、農作業着を着て、鞭を持っていた。
もしかして、この少女が……。
しかし、彼女にも危険が迫っていた。
遅れてきたバーテックスが大きな口を開けて少女に噛みつこうとしていたのである。
あっ、危ない。
隊員は咄嗟のことで声が出なかった。
しかし、少女は気づいていたのか、恐れることなく手に持った鞭を振るうと、バーテックスは数体纏めて消し飛んでしまった。
間違いない。以前見た少女たちと同じだ。
「やああああっ!」
通常の人間ではありえない跳躍を平然と行い、降下中の隊員を狙ったバーテックスを次々叩き落している。
なるほど。彼女がこの諏訪地方の……。
「これで! ラストよ!」
とうとう襲い掛かってきたバーテックスを全て倒してしまった。
助けに来たはずなのに、逆にこちらが助けられることになってしまった。
「助かりました! 君がこの地域の勇者様ですか?」
自衛隊員が歌野に質問をするが、彼女は首を傾げ、
「ん? ゆーしゃ? なあに、それ?」
「えっ」
「へ?」
どうやら、ファーストコンタクトはうまくいかなかったようだ。
それよりも! と歌野は声を上げ、
「あれは放置していいのかしら?」
と空を指さす。
歌野が示す先は、残ったバーテックスに追いかけられている戦闘機たち。
何時までも終わらないイタチごっこを続けている。
パイロットたちは振り切ったとしても、バーテックスがこちらに矛先を向けることを恐れているのだろう。
しかし、こちらにはバーテックスに対抗できる存在がいる。
隊員はすぐさま歌野に声をかけた。
「君! 白鳥さん。でいいのかな? あの戦闘機に張り付いているバーテックスを倒すことはできるか!?」
「ば、バーテっ? えぇ! 可能よ! だけど、あの高さまでは流石にジャンプできないわ。」
「よし、分かった。ならば向こうから来てもらおう。」
そう言って、自衛隊員は無線を手に取った。
——クソっ。どうすればいいんだ!——
——アレス3! バーテックスが付いてきていないぞ! 引き寄せろ!——
——無理だ! 奴ら、もう追ってこない!——
空では戦闘機たちが苦戦していた。
肝心のバーテックスが追いかけてこないのである。
散り散りになってしまったバーテックスを引き寄せようと、反転しては機銃をばら撒いていたが、今ではもう無視されている。
まだ二分も経っていない。もう一度だ。
アレス1と呼ばれたパイロットはバラバラになったバーテックスの群れへと飛び込んだ。
だが、バーテックスは彼を罠にはめた。
——アレス1! 全部そっち行ったぞ! ブレイク! ブレイク!——
嵌められた。
奴ら、バラバラになったと思ったら、一斉に囲んできやがった。
絞るように前後左右から迫ってきたバーテックスを避けるため、機体は急降下。
地面から僅か一〇〇〇フィート上空で囮となっていたのに、そこから急降下したのである。
地面が近い。手を伸ばせば届きそうだ。
機体を立て直す。速度で振り切らねば。
——アレス1! そのまま直進だ! まっすぐ飛べ!——
何? 突如、仲間から無線で『まっすぐ飛べ』と言われ、困惑するパイロット。
何故そんな指示を仲間が出したのか、その時は分からなかった。
住宅街を高速で抜け、今度は畑が眼下に入った。
一人の少女が立っていた。
グワォッ! と鼓膜が破れるほどの轟音を立てて、歌野の僅か数メートル上を戦闘機が高速で通り過ぎて行った。
「オーケー! この高さなら行けるわ!」
歌野はそう言うと、先ほど超低空飛行して行った戦闘機と同じ高さまで飛び上がった。
すると、ちょうどいい具合に、戦闘機を追いかけてきたバーテックスの大群と鉢合わせることになった。
これにはバーテックスも驚いたが、『こいつを食い殺してやろう』と狙いを戦闘機から変更した。だが、
「ウェルカム! 諏訪へようこそ!」
歌野の渾身の横なぎに振り抜いた鞭によって、バーテックスはまとめて消し飛ぶのであった。
アニメでは活躍の無かったうたのん。
許さねぇ…これも全部大赦ってヤツの仕業なんだ。
実際の航空無線は全て英語ですし、航空用語なども飛び交います。
そんなの書けねぇよ(憤怒)
誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。
文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。