勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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めっちゃ書きたかったところです。

書きたかったところは人によっては思い出させてしまうかもしれませんので、注意してください。


その男の名は:四国撤退編.3

 奈良県を出発した烏丸たちの道のりは順調とは程遠かった。

 避難する車や人であふれているだろうと桐生は考え、なるべく大通りは避けるように烏丸に提案した。何なら、大阪に向かうのではなく、和歌山県へ向かい、和歌山湾から船を調達し、直接四国へと海路で向かうことも提案していた。

 しかし、和歌山湾で船を調達できるかどうかが分からないこと、調達できたとしても運転は誰がするのか、もし海上で襲われた時はどうするか、不確定要素が多いことは桐生も想定していたのであろう、あまりこのルートを進めては来なかった。高嶋友奈も海の上では戦えないと進言したため和歌山からの海上ルートは没となった。

 同じ要素で関西国際空港などの空港からの直接四国への空路も没。

 結果的に陸路で四国と本州を結ぶ一番近い橋、明石海峡大橋へとこのままバスで向かうことになった。

 

 奈良県を出るまでは順調であった。しかし、生駒山脈を越え、大阪に入り都市部が近づいてくると道路が破壊されていたり、乗り捨てられた車のせいで道がふさがれていたため、回り道や道を引き返したりを何度も繰り返すこととなった。

 本来、高速道路などを使えば奈良県からわずか二時間ほどで明石海峡大橋にたどり着けるのだが、高速道路やビルなど、かつて人が多く存在した場所は化け物によって破壊しつくされ、今となっては四国へ向かう一行を妨害するだけの、ただの障害物となり果てていた。

 

 途中、工業地帯に差し掛かると真っ赤な火柱が天にまで上るほどの大きさで、いくつも立ち上がっていた。しかもただの火柱ではなく、ぐぅるぐる、と竜巻のようにとぐろを巻き、まるで生きているかのように大地を舐め回し、人々の営みであった住居や工場などを飲み込みながら移動しているのである。

 この現象は『火災旋風』と言われ、内部では秒速百メートル以上もの突風が吹き、風の温度は千度を超えるといわれている大災害である。

 当然、この火災旋風に巻き込まれた者はもれなく、高温のガスや炎を吸い込み、呼吸器が損傷、窒息死。たとえ呼吸器が損傷していなくても重度のやけどが体を襲い、ショック死することは間違いないであろう。

 一九九五年一月十七日に兵庫県神戸市などの都市部を直撃した戦後最大の直下型地震、阪神淡路大震災でもこの火災旋風が発生し、未曽有の大災害を記録した。

 

 そんな光景がまさに今、窓の外で起こっているのである。

 

 昔、学校などで防災訓練の際に見せられたあのモニター越しでの映像が、過去に起こった悲惨な災害としてではなく、バスのガラス窓をスクリーンとして、今起こっている現実としてまざまざと映し出されているのであった。

 

 バスに乗っている乗客たちはそれを見て言葉を失っていた。無理もない、一九九五年に地震を体験した先人たちも同じ気持であっただろう。

 しかし、何よりも問題なのはこの光景が大阪・神戸だけでなく日本全土、さらには全世界規模で同時に起こっているかもしれないということである。

 乗客たちは、この世の地獄、この世の終わりのような光景を見て、心の中の何かがぽっきりと折れて、もう二度と戻らないのではないかと感じてしまっていた。

 

 今、数十名を乗せた定員ギリギリのマイクロバスは壊れた駅のロータリーに停車し、小休憩を行っていた。

 高嶋友奈の傷の手当てをしていると、桐生が近寄ってきてこう言った。

 「烏丸さん、ダメです。通信が途絶しました。」

 「何?」

 桐生が言うにはインターネットとモバイル通信が完全にダメになったらしい。試しに自分のスマートフォンを見てみると都市部の真ん中だというのに『圏外』と通知が出ていた。

 「通信が途絶するギリギリまで情報を収集していたんですが、日本政府の公式発表がありました。あと一〇分ほどで阿倍野首相による記者会見が始まる予定だったのですが、ネットワークが遮断されてしまった今、これ以上はインターネットから政府の公式情報を主とした最新情報を取得することが出来ません。」

 「くそっ…」

 とうとうインフラが途絶してしまった。このままでは四国すらも時間の問題かもしれない。私の中で焦りが見えてきた。

 「ただ、まだ生きている通信があります。ラジオ電波です。」

 桐生は続けた。

 「四国は未だ情報発信を続けており、四国放送、西日本放送、FM徳島、高知放送、NHK徳島第一放送などの主要なラジオ局はAM・FM問わず、今も最新情報を発信し続けています。つい先ほど、非公式情報ではありますが、阿倍野首相他、内閣幹部が四国に到着、四国内で阿倍野首相による臨時政府が発足し、四国に首都機能を全て移して、特別対策本部を設立するとのことです。」

 桐生の報告を聞き、私は国家機能がまだ完全に崩壊していないことを認識した。

 

 四国はまだ、生きている。

 

 「幸いまだ、GPSなどの衛星通信は生きています。位置情報や経路選択はまだ何とかなるでしょう。ですが…」

 と、桐生はバスの中の乗客を見て言葉を止める。

 先ほどの光景がよほど堪えたのだろう。乗客は皆、しんとして心が沈んでいる。

 いくらこまめに小休憩を行っているとしても、このままずっとバスに閉じ込めているようでは、ストレスでおかしくなる者もでそうだ。

 「お前は平気そうだな。」

 私は桐生に対してそう言った。

 「何がです?」

 桐生は何が平気なのかと言わんばかりに聞き返してきた。

 「お前もあの光景を見ただろう、流石の私でも少し堪えたぞ。それに、家族がいるだろう、連絡はとれたのか?」

 

 嘘だ。確かに少し堪えたのは事実だが、私は横手茉莉に指摘されたように、この状況を楽しんでいる。

 

 「いやぁ…まぁ、堪えたかと言いますと、そりゃ俺も堪えましたわ。けど、今はそれどこじゃないでしょ。親とは一時間前に連絡が取れて、大丈夫だ~と連絡が返ってきましたけど、こんな状況やからね、もう連絡しようにも、どーしよーもないですって。」

と桐生は繋がらなくなったスマートフォンを振って、ヘラヘラと笑っている。

 「それに…、まさかこの世の終わりをこの目で見れるとは思わんかったでしょ。まるで映画を見てるというか、実際に体験してるようですわ。ホンマに、こう言っちゃ不謹慎ですけど、なんかワクワクしてきまへんか?」

 

 驚いた。この男、こんな状況でもヘラヘラしているかと思ったら、まさか楽しんでいるとは。

 さっきは気の迷いだと否定したが、もしかしたらコイツと私は同類なのかもしれない。

 この桐生と言う男に興味が湧いてきた。

 

 「そういえば、下の名前を聞いていなかったな。」

 「あ? 自分、名乗ってませんでしたっけ。いやぁ、面目ない。自分、静治(せいじ)。」

 

 「『桐生(きりゅう) 静治(せいじ)』 って言います。」

 

 そうか、静治。 桐生 静治。

 

 君とは

 

 本当の友達になれるかもしれないな。




え、書きたいこと書いてたら原作2・3ページも進んでないんだけど。

誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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