勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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おい知ってるか、夢ってのはな、時々スッゲー熱くなって、時々スッゲー切なくなる。らしいぜ。


その男には夢がない:四国撤退編.5

 明石海峡大橋を後にした烏丸達一行は、瀬戸大橋のある岡山県を目指していた。

 

 その途中、無人になったコンビニエンスストアの駐車場で再びバスを止め、グループを二つに分け、交代で三時間ずつ、計六時間の仮眠をとることになった。

 桐生はどこからか手に入れてきた複数台の携帯ラジオ機器と格闘しており、情報収集を続けていたため、烏丸は先に仮眠をとらせてもらうことにした。

 

 時刻は正午をとっくに超えていたが、未だ空は真っ暗であった。

 さっきの大阪と神戸の惨状を見て、うすうす感づいていたが、すでに四国以外は壊滅状態なのであろう。桐生は携帯ラジオ機器の周波数をこまめに変えながらそう思っていた。

 関西や中国地方のラジオ局の周波数に合わせてみても、ただノイズ音のみが聞こえてくるばかりであり、現在唯一の情報源となる、四国の主要なラジオ局はAM・FM問わずに情報発信を続けていたが、『阿倍野首相他、内閣主要幹部が四国に到着し、首都機能をすべて四国に移した阿倍野首相による四国臨時政府が発足、阿倍野首相はすぐさま国家非常事態を宣言し、特別対策本部を設立し、今後の対策を検討している』と既知の情報が確定した以外には、特に目新しい新情報はなく、ただ繰り返し避難を呼びかけ続けていた。

 

 アメリカやロシア、ヨーロッパに中国と言った外国はどうなっただろう。もしかしたら自前の軍隊で必死の防衛戦を繰り広げているかもしれない。

 そう思っていたが、日本の誇る自衛隊や在日アメリカ軍が戦闘を開始したといった情報が聞こえてこないので、もしかしたら全然歯が立たなく、敗走しているのかもしれない。

 微かに見える瀬戸内海越しの四国を見つめ、桐生はため息をついた。

 すると、近くの倒壊していない住宅のベランダに、衛星放送を受け取るパラボラアンテナが設置されていたのが目に入った。

 桐生は少しでも情報を得ようと家の中に入り、テレビの電源ボタンを押したのだが、すでに電気は通ってないらしく、何も映し出されなかった。

 動かないものは仕方がないので、使えそうなものや食料だけを持って、桐生はすごすごとバスに引き返していった。

 

 状況は刻一刻と悪くなっていく。

 四国に渡る明石海峡大橋を目の前にして引き返したことが原因なのか、乗員のストレスもさっきより増していそうだ。

 特に、あの黒シャツの男である。

 舞子トンネルから帰ってきてから何か様子がおかしい。この中でも化け物に遭遇している回数が多いとはいえ、その瞳から読み取れる感情は恐怖心や焦りだが、何か憎しみを抱えたような、そんな目をしている。

 もし、あれが爆発して自分に飛んで来たらと思うと…。桐生は内心ビクビクしていた。

 烏丸さんは運転手だから率先して喧嘩を止めれないであろうし、高嶋君や横手君にその役を担わせるのも何か違うような気がする。

 同乗者の中には職業が医者だと言って、けが人の手当てを行っていた年上の男もいたが、彼も体格がよさそうではないので、無理そうだ。

 頼むからこっちに火の粉が飛んできませんように…。

 そんなことを考えながら、ラジオの周波数をいじっていると、交代の時間がやってきた。

 

 交代の時間となり、今度は桐生が仮眠をとる番であったが、なかなか寝付けないでいた。

 

 それもそのはずこの男、携帯ラジオ機器を調達するまでは情報収集を行う術がないため、揺れるバスの中で平気で寝ていたのである。

 横手茉莉の妖怪アンテナの力をすっかり信用したのか、彼女にパソコンとマップの使い方を教えた後、自分だけぐぅぐぅと眠っていた。

 

 薄っすらと目を開けると、視界の隅では横手君がリボンを付けた少女に対してスケッチブックを広げ、なにやら絵を描いている。

 近くには仮眠を終えた烏丸さんが座っており、何やら話をしていた。

 盗み聞きは得意だ。烏丸さんや横手君の名前もそれで知った。話を聞いていると、どうやら横手君の将来の夢について語っているらしい。

 

 絵本作家になる夢か。面白いじゃないか。

 それでどうやって食っていくのか。どんなテーマで絵本を書くのか。そもそも絵本作家というのは絵を描いてストーリーを考えるまでを絵本作家と言うのか。

 いろいろな疑問が脳裏をよぎったが、中学生に対してあまりにも無粋な疑問だったため、心の中にそっとしまっておいた。

 

 うらやましい。

 

 自分には夢らしい夢がなかった。

 ただちょっと、人よりパソコンの知識があって、情報系の学校に行き、自分にできることを増やしていったら、何で生きていきたいのか、何がしたいのか分からなくなった。

 結局、大学を卒業したはいいが、就職も大学院へ進学もせず、恩師の先生が居た古巣の工業高校へと戻り、個人事業主を名乗って、目的もなく、ただできる依頼をこなして、自由気ままに日々を過ごしていた。

 

 それに比べたら横手君は立派だ。自分みたいな『外に出るニート』とは違って、ちゃんとした目標があるんだから。

 きっと、夢に向かって絵を描き続け、努力し、もしかしたら将来は美術の学校に通って、メキメキと頭角を現して、いつしか有名な賞を取るかもしれない。

 

 楽しそうだな。面白そうだな。

 もしそうなったら、会いに行って絵本製作のコツとかを聞いてみるのもいいかもしれない。

 彼女の夢は可能性にあふれている。

 

 まぁ、その前にこの悪夢から覚めないとな。

 

 男は無粋なことを考えながら席を立った。

 

 

 

 席を立ち、バスを降りると烏丸さんと高嶋君が会話をしていた。

 

 へぇ、烏丸さんってタバコを吸うんだ。

 タバコは嫌いだ。臭いはまだ許そう。ただ、主流煙よりも副流煙の方が、有害物質が多いというそのシステムが分からない。

 しかも、ニコチンやタールと言った有害物質を抑えるための『フィルター』と言うものを通してわざわざ吸うのであるから余計に意味が分からない。

 今となっては路上などの指定された場所以外で吸う。歩きたばこや子供の近くで吸う。などと言った行為は条例で禁止されているので喫煙者は肩身が狭いであろう。

 まぁ、それらすべてに真っ向から喧嘩を売っている女が目の前にいるのだが。

 

 タバコの臭いが服に付くのも嫌なので、遠巻きに二人の会話を盗み聞きする。

 「そういえば、茉莉がお前のことを心配していたぞ。あまり戦わせたくない、とな。茉莉の言うことには一理ある。子供が大人を守るために危機を冒して戦うというのは、社会一般の常識で考えて、あまり良いこととは言えん。普通は大人が子供を守るものだが、逆になっている」

 いつの間にか、烏丸さんの横手君に対する呼び方が変わっている。さっきバスの中でそんなことを言っていただろうか。桐生は首を傾げた。

 「でも、私しかあのお化けたちを倒せないみたいですから。私だって戦うのは怖いですけど、それで他の人を守れるなら戦います」

 高嶋君は大人顔負けの回答を烏丸さんに答えていた。

 その立派な気持ちが、あの時自分を助けてくれたんだろうな、と感謝していた桐生だったが、同時に今の高嶋君の受け答えに対して若干、違和感を抱いていた。

 

 「なんでお前はこんな妙な子供になったんだろうな」

 烏丸さんが高嶋君に失礼なことを言った。この場に高嶋君の親がいたら殴られてもおかしくない。

 「妙なって…ひどいです」高嶋君は少し落ち込んで「変な子なのかな、私」とつぶやいた。

 まぁ、少し変わったところはあるが個性で片づけられる、活発でいい子なんじゃないかな、と桐生は心の中でフォローした。

 「ああ、変な子だ。」

 どうやら烏丸さんは違うらしい。

 「普通の子供には、お前みたいな行動はできないものなんだ。親とだってはぐれて、化け物がどんどん出てきて…普通は泣いたり喚いたりするくらいしかできないんだよ」

 確かにそうだ。高嶋君は見たところまだ小学生。こんな異常事態では烏丸さんの言ったように泣いたり喚いたりするくらいしかできないはずなのに、あの白いたこ焼きに立ち向かって、自分を助けてくれた。

 そういえば、高嶋君には初めて助けられたときにお礼を言ったが、横手君にはお礼を言ってなかったな。

 

 桐生は高嶋友奈から聞いた神社での話を思い出し、

 後で横手君にもちゃんとお礼を言おう、桐生はそう決心してバスに戻った。




夢ってのは呪いと同じなんだ。 呪いを解くには、夢を叶えなきゃいけない。

原作第2話が終わりました。当初予定していた10話構成なら折り返しです。



誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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