勇者どころか巫女でもない   作:伊織ん

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いい薬です。(太●胃散)

この二次創作のプロットを書いてる際、絶対やりたいと考えていた展開を練りこみました。


ありがとう:四国撤退編.7

 休憩時間を終え、再びバスは走り出した。

 よほど温かい食事が嬉しかったのであろう。車内の雰囲気は見違えるほどに明るくなっており、この状況を改善した功労者である桐生は、これでまたしばらくは大丈夫だろう。と胸をなでおろしていた。

 

 四国へ向かって走っていたバスは、先の休憩から一時間もたたないうちにまた停車した。

 今度の場所はガソリンスタンド。当然、車にもメシは必要なのである。

 

 給油機の前でバスは止まり、何人かはバスを降りたが、なぜか給油は一向に始まらなかった。

 それもそのはず、電気が通っていないため、給油機のタッチパネルはだんまりを決め込んで、一行たちを困らせていた。

 全く給油が始まらないことにバスの中の同行者たちも気づいたのか、ざわざわと不安が伝染していく。

 せっかく雰囲気が持ち直したのに、このままではまた逆戻りとなってしまう。

 見かねた桐生がバスを降りて、給油機ではなく、店舗の方へ駆け寄って行ってしまった。

 また何か思いついたのだろうか。黒シャツの男とその取り巻きたちも桐生に気づいて後を追うように店舗へと入って行った。

 

 しばらくすると、ゴウゥンと鈍い音がした。その瞬間、真っ暗だったガソリンスタンドに、パッと明かりが灯った。電気が戻ったのである。

 バスの中では、ワッと拍手喝采。

 店舗からは、やったやった。と言いながら、桐生と黒シャツの男たちが出てきた。

 

 このようなガソリンスタンドは『中核サービス・ステーション』または『住民拠点サービス・ステーション』と呼ばれ、災害などで停電した場合でも、問題なく給油が行えるよう店舗に自家発電設備を備えている特殊なガソリンスタンドなのである。

 これは二〇一一年三月十一日に起こった、あの『東日本大震災』から反省を踏まえたものであり、翌年の二〇一二年八月には石油備蓄法を改正、これによって災害時には石油の安定供給を確保することが可能となったのである。

 ちなみに、二〇二三年二月二十八日の時点で、全国約三万箇所のサービス・ステーションのうち、約半分の一万五千箇所に『住民拠点サービス・ステーション』として自家発電機設備が備えられている。

 

 機転を利かせた桐生と黒シャツの男たちはニコニコしながら給油機のタッチパネルを操作し始めたが、ここでまた問題が生じた。

 

 そう、金である。

 

 桐生はあまり現金を持ち歩かない性格だったため、財布の中にはお札が一枚も入っていない。御所市でも遺体を物色していたが成果は無かったようで、せいぜい小銭が数十枚である。

 黒シャツの男も持ち合わせていなかったらしく、

 「おい、お前出せよ。」

 「俺だって無いっスよ」

 「カードならありますよ」

 「バカ、こんな状況で使えるわけないだろ」

 と大騒ぎ。

 ひとしきり口論になった後、らちが明かないと判断したのか、また店舗内へと戻って行った。

 

 直後、グワシャァン! と大きな音がした。

 ビックリしたのか、隣で寝ていた茉莉が飛び起きた。

 友奈は飛び起きた茉莉を心配して、ペットボトルのミネラルウォーターを渡している。

 視線を店舗に戻すと、桐生と黒シャツの男がホクホク顔で札束を数えながら店舗から出てきた。あれは絶対、レジを壊したな。

 

 世紀末となっても、お金はお金。おしりを拭く紙にはならなかった。

 

 

 

 「へへへっ、儲かった、儲かった。」

 茉莉と一緒にバスを降りると、余った分は黒シャツの男たちと山分けしたのか、桐生は気持ちの悪い笑みを浮かべてお札を数えていた。

 茉莉は状況を理解したのか、まるでダメな大人にジト目を向けていた。

 

 視線に気づいたのだろう、桐生がこちらに視線を向けた。

 「お、横手君、起きたんか。どや、体調は。」

 「はい…大丈夫です…。」

 茉莉の顔はまだ青ざめているが、桐生に弱音を吐きたくないのだろう。ぶっきらぼうにそう答えた。

 「茉莉。起き抜けで悪いが、あの化け物どもはこのあたりにいるか?」

 「あ…えっと、いないと思います。多分…」

 茉莉がそう答えたので、私は友奈に可能な限り休むよう伝えた。

 「茉莉も休んだ方がいいんじゃないのか? まだ顔色が悪いぞ。」

 「いえ、ちょっと外の空気を吸いたくなったので、こうしてます…」

 「そうか、バスの中にいる人間たちが、外に出るのを怖がっているらしいから、お前も大丈夫かと思ってな。」

 「そうなんですか…?」

 茉莉は楽しそうにお札を数えあっている黒シャツの男とその取り巻きたちを見て、そうは見えないと感じていた。

 「あいつらは別かもしれんが、御所市を出たばかりの頃には、そんなことはなかったのにな。人間のメンタルというものは予測ができん。心理学や精神医学が研究の一大分野になってしまうのも仕方がないな。お前が両親の死について嘘をついたのも、どういう心理だったのかわからんしな」

 「……ゆうちゃんから、聞いたんですね。」

 「ああ。友奈はあまり話したくなさそうだったが、私が強く訊き出した。両親を目の前で殺されたんだって?」

 桐生もその話は盗み聞いて知っていた。だが、変に口をはさむと何を言われるかわからないので、初耳ということにして黙っておくことにした。

 茉莉はぽつりぽつりと話し始めた。

 

 地震の後、自分は避難場所を確認しに行こうと両親に提案したこと。

 一度は反対した両親だったが、自分の説得に根負けして、三人で外に出たこと。

 避難場所の近くで化け物が現れたこと。

 自分を庇った父親が目の前で化け物に食べられたこと。

 母親は自分に逃げるよう伝え、助かるわけがないと分かっていても父親を助けようとしたこと。

 

 茉莉は苦しそうに声を震わせながら、彼女たち家族に何が起こったのかを話してくれた。

 「結局、ボクだけ生き残りました…。お父さんとお母さんは、ボクに付き添っただけなのに…あの夜、ボクが外出しようとしなければ……お父さんとお母さんは死ななくてよかったかもしれないのに……ボクのせいで……」

 茉莉が友奈と出会ったのは、その後だったのだろう。

 「あの夜は全国各地に化け物が出てきていた。別にお前に同行しなくても、お前の両親が化け物に遭遇していた可能性は高い」

 茉莉は俯いている。

 「友奈の手甲、あれを身に着けた時、友奈は身体能力も高まっているようだ。私も試しに身に着けてみたが、何も変化は起こらなかった。あれは友奈専用ということだろう。友奈が使うからこそ、化け物に致命的なダメージを与えることができる。あの手甲を見つけたのはお前だったんだろ、茉莉?」

桐生は高嶋から手甲を借りた時のことを思い出していた。

 「両親のおかげでお前が生き残ったから、友奈に手甲を渡すことができた。友奈が化け物を倒すことで、多くの人間の命が救われている。バスの中にいる人間や御所市のスーパーマーケットにいた者は、友奈とお前に命を助けられたんだ。お前の両親の犠牲で、多くの人間が救われた」

 「でも……」

 「納得できない、か? 人間は命の重さを、単純に数で考えることはできないからな」

 茉莉は俯いたまま、

 「……ボクだけが化け物に殺されていればよかった……」

 そう小さくつぶやいた。

 

 

 

 「横手君!」

 突然桐生さんがボクの正面に立ち、大きな声を上げた。

 ボクはびっくりして肩を震わせたけど、桐生さんははそのまま喋り始めた。

 「冗談はよしてくれ。確かに君の両親のことは残念やった。でも終わってしまったことはもうしょうがないんや。君の両親は横手君を庇って君を助けた。立派な人たちや。親ってのはそういうもんや。どんな時でも子供を守るもんや。」

 こんな桐生さんを見たのは初めてだ。

 「烏丸さんも言ったように、君がいなかったら高嶋君が、高嶋君がいなかったら俺が死んでたんや。あのバスのみんなもそうや。みーんな死んでたんや。何をうじうじしとんねん、元気出せ!」

 「で、でも…実際化け物と戦ってるのは、ゆうちゃん一人だけですし…」

 

 ボクは凡人だ。

 

 「そんなことない! 確かに戦っているのは高嶋君一人や。せやけども、高嶋君が必要以上に戦わなくて済んでいるのは、あのタコヤキどもの場所を察知できる、横手君のおかげや。」

 「でも…ボクはゆうちゃんみたいに化け物を倒せないし、久美子さんみたいに的確に立ち回れる頭脳と運動能力は持ってないし、桐生さんみたいに色々なことを知っているわけでもありません…。」

 

 ボクはゆうちゃんや久美子さん、桐生さんみたいに特別じゃない。

 

 「ホレ、見てみい。」

 桐生さんはバスの中にいるゆうちゃんを指さした。

 「疲れて眠っとる。こんだけ下道やせっまい道路走ってあのタコヤキどもを回避してもコレや。たとえ君が高嶋君を見つけなくても、高嶋君は生き残って戦ったかもしれん。やけどな、ちょっと進んだら戦って、ちょっと進んだら戦っての繰り返しや。いくら高嶋君と言えど持たん。きっと大阪すら出られずに食われてお陀仏や。」

 

 視線を戻すと、桐生さんはボクの目をじっと見つめている。

 ボクのこの力はゆうちゃんを…みんなを助けている…?

 

 「横手君、君は特別や。自分ではそうは思ってないかも知らんけどな。俺はそう思っとる。だから高嶋君と一緒に、俺を四国まで連れて行ってくれ。出来る限りサポートはするから。な? 頼むわ。横手君。」

 

 ボクは凡人だ。

 

 でも、それでもいいのかもしれない。

 

 ボクは特別だと、そう言ってくれた桐生さんに、ありがとうございます。とボクは感謝の言葉を口にした。

 「あ、せやせや。『ありがとう』で思い出した。ちょっと待ってな。」

 桐生さんはそう言って、一度バスの中に戻って何かを持って戻ってきた。

 「ホレ、こんなモンしかなかったけど、よかったら使(つこ)うてくれ。」

 そう言って差し出したのは、新品のノートと色鉛筆のセットだった。

 こんな物をどこから持ってきたんだろう。

 もう一度、ありがとうございます。と言ってそのセットを受け取る。

 「おう、こっちこそありがとな。これからもよろしく頼むわ。」

 

 桐生さんは優しくて良い人だ。

 「せや、さっき横手君が寝てるときにカレー作ったんやけどな。よかったら食べるか? まだ温かいで。」

 ちょっとやることはアレだけど。それでもボクは桐生さんを…。

 

 「娘が…いなくなったんです」

 「は? えらい面倒なことになったな…。えぇ…? いや、メンドクサ…。」

 

 さっきボクに対して、家族について熱く語っていた桐生さんはどこに行ったのだろうか。

 ボクはさっきの感謝を取り消したくなった。




ボクが悪いんだよ…。ボクの両親が化け物に食われたのは、ボクのせいだ‼︎

助けてユウナアアアアア!!!!

この小説は横手茉莉を応援しています。



誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。

文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。
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