なんか書いてると勝手に4000字くらいで収まるんですよね。
バスの燃料タンクも満タンとなり、出発しようと点呼を始めようとしたところ、なんと少女が一人、行方が分からなくなってしまったという。
少女の母親が焦った様子でキョロキョロと周囲を見回しているのを烏丸が発見した。
さあ、大変である。ガソリンスタンドの周囲は民家と森林ばかり。子供が隠れそうなところはいくらでもある。
とにかく詳しい事情を聴かなければ、烏丸は母親に質問した。
「おい、その子を最後に見たのはいつだ?」
「二・三十分前くらい前だったと思います。私は怪我で休んでいたんですけれども、娘だけはバスの外に出ていって……いつまでも戻らないから、心配になって探しているんですけれども、見つからないんです。リボンを付けている五歳の子です。もしかしたら道に迷って戻れなくなったのかも…」
リボンの女の子……茉莉に懐いていた少女か。
私はバスに戻り、同行者たちに先の説明をすると、茉莉はひどく動揺した。
「すぐに探しましょう! もしあの化け物がまた来たら……」
しかし、茉莉以外の同乗者たちの反応は鈍かった。
「探すって言っても……なあ」
「自分の子供のことだろ……なんでしっかり見てねえんだよ」
「は? えらい面倒なことになったな…。えぇ…? いや、メンドクサ…。」
「ちっ……」
予想外のトラブルにより、先ほどまでの持ち直した雰囲気はどこかへ行ってしまったようだ。桐生ですら乗り気ではない。
車内のざわめく声で、眠っていた友奈が目を覚ます。
「……あの、何かあったんですか?」
「一緒に来ていた女の子がいなくなったの。一人でバスの外に出て、迷子になって帰れなくなっちゃったのかも」
茉莉が説明すると、友奈は慌てて座席から立ち上がる。
「そうなんですか!? 探さないと!」
茉莉と友奈とリボン少女の母親は、バスの外へ出て行った。
桐生は立ち上がったものの、バスの外へは出ようとせず、ぶつくさ文句を言っていたが、戻ってきた茉莉に、『何してるんですか、早く探しますよ!』と無理やり連れだされていた。
それ以外の同行者たちは座席から立ち上がらない。
寝たふりをする者もいれば、俯いて面倒事はごめんだと言わんばかりに目を合わせないようにしていた。
みんな疲れているのだろう。
だが、疲弊以外にも要因はありそうだ。
「私も探そう」
ぼそりと言って立ち上がったのは、医者の青年だった。彼の表情にも疲労が見えているが、のろのろとした動きでバスから出て行った。
青年の後に続いて私もバスから降りる。
「あんたもまだ比較的、判断力が残っていそうだ。聞きたいことがある」
医者に詰め寄って質問をする。
「バスの乗客たちが、次第に外に出なくなって来ている。カレーを食べていた時は比較的マシだったが、それでも何人かは外に出ることを嫌がっていた。疲れて動くのがつらくなっているだけかもしれんが、『外に出るのを怖がっている』と言う者もいる。あんたから見て、どう思う?」
医者は言葉を選ぶようにしばらく黙り込んだ後、口を開く。
「……そうかもしれません。体力がない高齢者だけでなく、若い人も外に出たがらなくなっていますから……。あの化け物に遭遇する度にその傾向が強くなっています。さっきのカレーの時は、あのおいしそうな匂いと温かい食べ物に釣られて、人間の三大欲求である食欲が恐怖心を上回ったのだと思います。」
やはり外に出たがらなくなっている原因は、例の化け物への恐怖心か。
一部の人間はあのカレーの匂いが漂っていても、外に出るのを嫌がった。
人間の三大欲求をも超える恐怖心だとすると厄介だな…。
「わかった。他に何か車内で気になることは起こっていないか?」
「そうですね……食べ物をもらいましたが……」
「食べ物? 桐生からか?」
「桐生…? ああ、いえ、あの人からではありません。座席の後ろに座っている黒いシャツの男性とその友人たちからです。休憩場所のお店から持ってきた食べ物を、他の人たちに分けて配っているようなんです。その時はやたら愛想がよくて、以前とは別人のようでしたが…」
私は男たちの行動の意味を考える。
横手君によってバスから無理やり引きずり出された桐生は、林側でなく民家周辺を探していた。
彼もバスの乗客の大半と同じ考えで、少女の捜索に乗り気ではなかったが、先ほど横手君に家族について語ってしまった以上、探すフリだけでもしようと考えていた。
高嶋君と横手君、それと少女の母親は『とにかく探さなければならない』という考えに取り憑かれて、アタリもつけず、とにかく探し回っている。
桐生はそんなことをやっていられないので、探しやすいところから調べていた。
周囲には林と民家しかない。どう考えても民家の方が探しやすい。
玄関や窓のカギが全て閉まっているならば、当然五歳の少女は入れない。その時は民家のまわりをぐるっと一周するだけでいい。
開いているならばお邪魔して、少女が居ないかを確認。その後、家の周りをぐるっと一周。
これの繰り返しである。
もし見つからなくても、消去法で林の中だということが分かる。
『民家側は探したけどいなかった』という情報があるだけでもかなり違うだろう。
それよりも五歳児が入り込めそうな壁などの割れ目や穴の方が重要だ。そっちの方を重点的に探した。
ついでに使えそうなものも調達しよう、桐生はそう考えていた。
民家側を全て調べ終えたが、リボンの少女は見つからなかった。壁などの割れ目や穴なども調べてみたが、特に少女が入り込んだ痕跡もなかったため、調達した荷物を置きに行くのと、探したけどいなかったという自分の頑張りを報告するため、一度バスに戻ることにした。
もしかしたらあっさりと見つかって、今度は自分が捜索対象になっているかもしれない。その時は調達したモノでも配って許してもらおう。そんなことを考えていたが、どうもバスが騒がしい。
バスに乗り込んでみると、バスの乗客の大半がリボンの少女を諦めてさっさと出発しろと怒鳴り散らしている。どうやらまだ見つかっていないようだ。怒鳴っていなくても乗客の表情はとても不満気だ。だれも止める気がないのか、どんどんヒートアップしていく。
せっかくカレーでご機嫌を取ったのに、もう逆戻りか。桐生はため息をついた。
その時、烏丸が口を開いた。
「お前ら、このバスの中において多数決は意味がない。高嶋友奈と横手茉莉と私の意見こそが絶対だからだ。
化け物と戦っているのは友奈、化け物を感知して回避しているのは茉莉、そして運転しているのは私だからだ。保護されているだけのお前たちが、私たちに何かを強制することはできないと理解しておけ。
今、茉莉と友奈があの子供を探すと言った。だったら結論は決まっている。」
え? 俺は? 俺、結構頑張ってると思うけど?
悲しいかな、桐生の頑張りは認められていなかった。
引き続き、リボンの少女を捜索することになったが、積極的にそれを手伝おうとするものは少なかった。
桐生は自分の頑張りを丁寧に、丁寧に皆に伝え、民家周辺はくまなく探したがいなかった。
という情報を共有した後、『ホナ、自分はラジオで情報収集するんで、後は頑張ってもろて。』と言おうとしたが、何かを察知したのか横手君がジロリと睨みつけてきた。
横手君の妖怪アンテナは自分の心すら察知するのかもしれない。
仕方がないので、引き続き林の中を皆で探すことになった。
どれだけ探しただろう。もう足が棒のようだ。
リボンの少女の名前を大きな声で呼びかけながら、暗くて足場の悪い、夏の林の中を長時間歩き続けるのは想像以上に体力を消耗する。
ヒイヒイ言いながらも探し続けると、どうやら高嶋君がリボンの少女を見つけたようだ。
よかった。やっと終わった。
少女が見つかった事よりも、この終わりの見えない捜索が終了した事の方が桐生にとっては嬉しさを感じたのであった。
合流すると、横手君がリボンの少女と話をしていた。
少女は、家に帰りたい。と横手君に駄々をこねている。
横手君は困った顔をしていたが、少女を優しく抱きしめながら、諭すように言葉を紡いだ。
「大丈夫、帰れるよ。きっとすぐに家に帰れる。今はいろいろなことがおかしくなっているけど、いつか全部もとに戻るよ。きっと家に帰れるから……だから、今は行こう? 少しの間だけ、安全な場所に行っていようね。」
やっぱり横手君は強い子だ。リボンの少女にはまだ母親という家族がいる。横手君の家族は死んでしまった。もう誰もいない。もう出迎えてくれる人がいない。
なんなら、横手君が励まされるべき立場であろう。それなのに、誰かのために励ましの言葉をかけている。
横手君。やっぱり君は、特別な子だよ。
桐生はそう思った。
バスは瀬戸大橋へ向けて走り出した。
居なくなった少女は無事に見つかったが、車内の雰囲気は最悪だ。カレーをふるまった時よりも酷いかもしれない。
バスの中にいる者たちの視線は険しくなっており、特に主要メンバーの三名には特別疎ましそうな視線を向けていた。
幸いまだ自分にはその矛先が向いていない。
さっき烏丸さんが自分の頑張りを認めていなかったことが幸いしたのか、それとも今までの行いでプラスマイナスゼロになっているのか、桐生にはわからなかった。
少なくともこのままだと四国にたどり着く前に不満が爆発するのは明らかだ。
これ以上余計なトラブルは起きないでくれ、早く四国にたどり着いてくれ、と桐生は周波数の違う複数の携帯ラジオ機器からつないだイヤフォンを、代わる代わる耳に当てながら、情報収集をしてそう思っていた。
すると、突然運転席の近くから苦しげな声が聞こえ始めた。
言ったそばからこれである。もう勘弁してくれ。
今度は何だ。と顔を上げると、先ほど『バスを出せ』と怒鳴っていたうちの一人である、茶髪の女性が青ざめた顔で、目じりに涙を浮かべながら、うわ言のような声を漏らした。
「怖い…………空が……怖い……」
後に『天空恐怖症候群』、通称『天恐』と呼ばれることになる精神疾患が、バスの乗客を襲い始めたのであった。
原作第3話が終了です。
見直してたらオリ主君、ほぼ喋っとらんし、何の活躍もしとらん。
大丈夫かこの二次創作。
誤字脱字など、一応投稿前にチェックしてますが、もしあれば遠慮なくお願いします。
文体や表現方法、視点描写、その他読みづらいなどのご指摘がありましたら、こちらも指摘していただければ極力反映しようと考えております。