軒下。降り注ぐ雨が人を包み込む。そんな中を一人の老人が見る。
「…すいません、隣失礼」
とある少女が入り込む。老人は知らない少女を何時家に入れたのかを覚えていない。
「…?もしかして、何か思い出したのですか?」
そんなことは露知らず。少女はこてんと首を傾げ、老人の双眸を見据える。老人は首を振って答えた。
「…ごめんなさいね、変なことを聞いてしまって。私、記憶力があまりないんですよ」
少女はのんびりとそう喋る。老人は黙り、静かに雨の音と少女の声を聞いている。
「その、最初に私が上がり込んできた時、言ってくれましたよね。ここにいてくれていいって。変に背負わなくていいって。私はそれに救われたんです」
少女は老人と目を合わせる。老人は何かを忘れたことを思い出した。しかしめちゃくちゃな記憶では何も思い出せない。
「…ですけど、残念ながら私は貴方のことを知っていたんですよ。それこそ、今貴方が覚えているよりも」
老人は頭痛により頭を抱える。自分の記憶が何か以降はっきりしないのだ。何かも思い出せないままに。
「ちなみにどうしてそんなことをした上で貴方を訪ねたかというと…他から奪うためですね、はい。だって貴方はどうしても他の人に優しくしてしまうんですもん」
老人は少女の言葉に耳を傾ける。決して信じれぬものとはいえ。
「貴方の記憶では貴方は『傷痍軍人』ですけど…それは違うんですよ」
雨は降り続ける。記憶が消えていった老人の耳朶を弾ませる。
「貴方は私に拷問されて記憶を失った…って設定ですね。……どうして失ったか??簡単ですよ。こういう薬を使いました」
少女は少女らしからぬ言葉遣いになり、段々と美しい美女に変化していく。そして老人の体が段々と伸びていき、やがて一人の青年となった。
「そう。それが貴方の本来の姿です。幻覚で見た世界はどうでしたか?記憶は戻りましたか?………そう、それならいいでしょう。私にそんな反抗的な目を向けるのは貴方以外いませんからね」
青年は美女の話しの途中で仕込み杖を抜く。杖の構え方は傷痍軍人だとしても違和感のない、否それ以上の構えだった。
「あぁ、そうでした。貴方は今『傷痍軍人』でしたね…こんな美女相手にも拷問官という【敵】ならば容赦なく攻撃できますよね」
美女は仕込み杖から視線を外さず、青年に濁った眼差しを向ける。その瞳には恋情、憐情が見え隠れしている。
「でも、こうすればどうでしょう?」
青年は美女の声が耳朶を打つとともに、頭の中になにかが流れるのがわかった。
存在しないはずの記憶が。
『シスコンの兄』という記憶が。それと同時にまた少し美女が若返り、美少女となる。
「どうですか?流石に【敵】ではなく【妹】を殺そうとは思えないでしょう?しかも、貴方と契りを交わしたんですよ?ほらほら、どうしたんですか?先程とは打って変わって動いてないですよ??」
青年は存在しない記憶に苛まれ、仕込み杖を持つ手が震える。されど、一歩、一歩と美少女の敵を殺そうとする。その隙を見逃さず、美少女は青年に抱きつく。
ぴちょり、ぴちょり。雨音が二人の耳に響く。
「…?あはは、まだ自分の意志に従ってるんですか?」
青年は必死に己を制御しようとする。青年の中には『傷痍軍人』と『シスコンの兄』の二つの記憶がせめぎ合っている。『傷痍軍人』の忍耐を持って、殺すために。仕込み杖を握る手は、震えている。
見かねた美少女はトドメをさそうとする。彼の意識を崩壊させるために。
「う〜ん…こういえば良いかな?
この時、青年の二つの記憶の『傷痍軍人』が失われた。『シスコンの兄』は美少女を抱きしめ返した。『傷痍軍人』としての力で抱きしめたからか、ミシミシと音がする。
「お兄ちゃん、そんなに抱き締めなくても私は逃げないよ…♪」
美少女は変わらぬ濁った眼差しを青年に向ける。
「ほら、お兄ちゃん。私、中でお兄ちゃんと話したい。一緒に、たくさん話そ?」
青年は美少女と一緒に入っていく。
ぴちょん、ぴちょり。
軒下にあった仕込み杖は、雨に打たれる。
忘れられたまま。片付けられることもなく。
エンドWS アイの消失→『ジコ』の消失
青い空。白い砂漠。砂の上で寝る五つ子達。そして消えた紫雨。
五つ子達が昏倒したことをいいことに紫雨は遠く、遠くに行っていた。
ここではないどこかに行きたい訳では無い。
単に、外の綺麗さに憧れて探検しているだけである。手には鎖を繋ぎ、五つ子達のいる場所にペグを打ち付けて固定している。
結局安全だと判断して紫雨は飛び出した。
「〜♪」
鼻歌まで歌い、スキップもしている。
そんな紫雨に後ろから忍び寄る魚がいた。
「〜♪」
「グギヮ!?」
しかし不幸なことに、紫雨のスキップで動いた鎖に巻き込まれただけで倒れた。
この魚はゲーム内だと【ブチカマス】と呼ばれる魚であり、耐久力の低さ…HP1と引き換えにラスボスより強い力と速い素早さを手に入れた。特筆するべき技は【ブチカマシ】。相手に自身の攻撃力の十倍のダメージを与える、というぶっ飛んだスキルである。ダメージは魚の火力なら堂々とカンストダメージを出す。が、悲しいことに一ターンのタメを必要とするため、その間にブーメランで一掃する、ということがメタ戦法として使われていた。この魚の憐れな点は、その攻撃力を生かした通常攻撃をするだけでラスボスを倒せる火力を持っているのである。その為魔物としては最強格である。*1
尚、この魚には自動回復効果がついているのだがHPが1のためただの設定と化している。
紫雨はそれに気づき、とてとてと近寄る。
「グギヮ…」
「どーしたの?」
紫雨はとてとてと駆け寄り、【ブチカマス】の体に容赦なく
「うごくかな?」
紫雨は水槽を用意して、その中に水を張る。そして【ブチカマス】を中にぶち込む。
憐れ、【ブチカマス】。陸戦用の体のくせによりによって水の中に入れられたのだ。
「グギヮ‼」
慌てた様子で【ブチカマス】は外に出た。
「おさかなさん、だいじょうぶ?」
「グギヮ!!」
紫雨に心配された【ブチカマス】は大きく自身のエラを広げる。威嚇行為だった。しかしそれは不可能だ。
「……〜〜?…あ!」
紫雨はごそごそとなにかを作る。【お友達の証!】…と、今の紫雨なら言うだろうが。【お友達の証!】というのはチュートリアル用の最強の友達作り装置であり、俗に言う確定成功の【証】シリーズである。*2
「はい、どうぞ!」
紫雨は手を出して【お友達の証!】(リング)を差し出す。
「グギヮ!グギクギッ!」
【ブチカマス】はそれを自身の体に当てながら弾き飛ばそうとした。だが、其れは悪手だ。
【証】シリーズは触れることで使用された判定になる。結果、【ブチカマス】は紫雨の【お友達】になった。
【お友達】判定は公式が『初心者救済』と言う程のぶっ壊れであり、この状態になると敵対心は消えてしまう。代わりに度を越した友情が入るのである。仮に死ぬとしても動き続けるほどの。
そんなものを入れられた【ブチカマス】、無事に仲間加入する。
「グギヮ!グギャグギャ!」
「わーい!お姉ちゃん達の所まで連れてって!」
「グギャグギャ!」
【ブチカマス】は己の後ろの背中を器用にヒレで指す。乗れ、と紫雨に語りかける。
「この鎖辿れる?」
「グギャ!」
「しゅっぱーつ!」
「グギャー!」
そんな紫雨を乗せて【ブチカマス】は動き出す。元々魚の癖して人外みたいな挙動が出来るので、乗り物としては最適なのだ。
まぁ、乗り物としては身長制限と体重制限がある。流石に紫雨なら問題はないが、五つ子達には乗れないのだ。
そして紫雨は五歳の完全なる子供と化している。そんな人間の指示に従う【ブチカマス】は軽い人間兵器となる。指示には従うがそれ以外はだめなのである。
勿論、そんなことなんて全く思ってもいないのが紫雨である。だってまだ五歳の精神年齢。そんな行動の後始末なんて考えずに突っ走る年齢である。結果、どういうことがおきるのかというと…
「とまってー!」
「グギャ!」
ご存知、停止距離を無視した走行である。【ブチカマス】には急に止まるなど自殺に等しいので、可能な限り減速しながら緩やかなカーブを描いて止まる。当然紫雨には頓着しない。だって、頓着なんてしてたら死ぬもん、死にたくないのよ、魚だって。
「うわぁ!」
当然紫雨は転がり落ちる。当然だが五歳児に、受け身など取れるはずもなく。ゴロゴロと体を転がし。やがて一つのものに侵入した。
「!?」
咄嗟に紫雨は体ごと空中に投げ出し、五つ子達のいない布団に収まる。柔らかい布団が紫雨を包み込み、眠りの世界へと誘う。
「すぅ…すぅ…」
そしてそのまま眠りに落ちる。紫雨は五歳。動き回ったら眠くなるのだ。
あの人がもう来た。まだ、客人を迎える準備なんて出来てないのに。
「全くもう、困るなぁ…」
そう愚痴りながら、幾つかの要素を用意しておく。
子供が好きな海と砂浜とか。
黒い空と竜巻とか。
平和に寝れる場所とか。
「でも、あの子達は頂けないなぁ…」
あの何処か人一倍執着が強い彼女達。
罪を背負っているあの子達。
欲望を実行することに躊躇がない彼女達。
何よりも、意志が堅い彼女達。
私にとっては邪魔でしかないのだ。しかも今はしーくんの体はめちゃくちゃ可愛いのにあの子達がいるのでイチャイチャ出来ない。羨ましいなぁ。
「私のこと、認識できるのかなぁ…」
しーくんのことだし約束だけ覚えて後は忘れてる、っていうのもありそうだし。別に覚えてなくてもいいけどね。
「だって、私のことを綺麗ってまた言ってくれるんでしょ?」
純白で穢れすらない羽。
何一つ縫い目のないこの衣。
頭の上の眩く輝くリング。
優しすぎる性根。
つくづく思う。
─
悪魔は黒くあるべきだ。
黒い一対の翼。
恐怖を感じる見た目。
弄ぶような性根。
その全てと合わなかった私は、一度別の場所にまで逃げたんだ。
『こすぷれ』って思われたから私のことも気合いが入ってる人、だけで済んだみたい。しーくんはその時に話しかけてきた。
「そこの綺麗な天使さん、一緒にお茶でもしない?」
「?…私の、こと?」
「うん。理想的な天使にしか見えないよ?」
私はしーくんの言葉で全部吹き飛んだ。今まで抱えていたことなんてどうでもいい。
ただ、しーくんを助けられたら。
しーくんを溺れさせれたら。
それで充分満たされる。
だから、しーくんと一つの約束をしてからこっちに呼んだ。
私としーくんが結ばれるために。
しーくんが私に依存させる為に。
そして最も悪魔に近いものの近くに来れるようにした。したのに…
しーくんは彼女達のところに行ってしまった。
「奪えばいいだけだよね」
私は天使なんだ。しーくんを奪おう。
奪ってもユルシテクレルヨネ?
私のモノにナッテクレルヨネ?
ずっと一緒にイテクレルヨネ?
私の唯一の幸せ。それが仮に悪魔だったとしてもいいだろう。
しーくんはダレニモ、ダレニモワタサナイカラ。
聖魔反転をやりたかったから書いた。天使が自分のこと悪魔と思って葛藤するのが面白いと思ってる。(傲慢)
エンドルートって…
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毎話毎の最初に書く。
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区切りの良い回で書く。
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作者の都合に合わせる。
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そんなことより投稿しろ。
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そもそもいらない。