鉄 壁 メ ス ガ キ 系 ヒ ー ロ ー 作:守られる偽物
控え室で見た第3試合は……前の試合とは別の意味で可哀想だった。純粋さが度をすぎてる飯田は、対戦相手のはずである発目の口車に乗せられてサポートアイテムを装備。ミッドナイトも彼の深い、ふかーい訳を聞いて許可……したまではいいんだけど、発目は速攻で飯田を騙した。
発目は自身が作ったサポートアイテムを宣伝するためだけに、ただただ飯田と場の空気を掻き乱して、満足したら自分から場外に出ていた。……ある意味ではこの学校で1番『自由』な生徒かもね。
さて…次は私の試合だ。勿論、負ける気はしないけどね。
『B組からの刺客ッ!! キレイなアレにはトゲがある!? ヒーロー科塩崎 茨!!』
いかにも清廉潔白そうな雰囲気を纏いながら、塩崎がリングに上がる。戦い方も何もかもこの目で見ていない以上実力は未知数。こいつはどうやってこの盾を攻略してくるかな……?
『ヴァーーーサスッ!! 煽りと守りは超一流!!! 2位1位と好成績!! ヒーロー科ノア!! さぁさぁ!! 今回も!! ド派手なヒーローバトルを────』
「あの!! 申し立て失礼します。刺客とはどういう事でしょう……わたくしはただ、勝利をめざしてここまで来たのであり────「はいはいはーーい!!」」
塩崎はしょうもない理由でなんだかこれは長くなる予感。待ってるのもつまらないし、ちょっと軽く小突いてやろうかな。
私は大声を上げて塩崎の声を遮り言ってやった。バクゴーでも乗らないレベルの安い挑発だ。
「刺客がどうとか、そんなのどうでもいいじゃん。簡単な例えすら理解出来ないの? 何の役にも立たない事ばかり気にしてるから君らは弱いんだよ?」
「……おお神よ…この哀れな子羊にどうか救いを……!」
ちょっと、そんな反応は1番無いと思うんだけど? どこをどう聞きとったらそうなるのさ。……ま、いいや。さっさと蹴散らそっと。これ以上追求しても無駄だろうし、ここで突っついたらなんか負けた気分になる気がする。
『Ready……FIGHTッ!!』
「「…………」」
塩崎は私に背を向けてそのまま棒立ちだ。私も待ちの姿勢を解かずに待つ。攻めを全て受けきってカウンターをするスタイルだから、攻めてこなければ困るのはこっちなんだよ。
まぁ当然、周囲も困惑している。お互い大真面目にやってるんだけどね……どうしても絵面が地味を超えた何かだ。
『オイオイ、これタイマンなんだぞ!? 殴り合えよ!!』
『……こりゃ戦闘スタイルの噛み合わせが悪かったな。お互い待ちを得意とする戦い方なんだろう』
……いや、だから攻めてきなよ。ほら、マイクお兄ちゃんも急かしてるよ? こっちはわざわざ攻める必要無いんだし。それとも、我慢比べってワケ?……でも我慢比べも面倒だなぁ。
私は試しに塩崎へ照準を向ける。すると、ちょっと髪が動いた。動き方を見れば風が吹いたとかじゃないとすぐに分かる。……なるほどね。あの髪が動いたらそれを撃ち抜こう。
『おっとぉ!? 痺れを切らしてノアが動いたァ!! それとも何か策があるのかァ!?』
私は一気に駆け出して塩崎に接近する。予想通り塩崎の髪がうねり、意志を持ったように襲いかかる。残念だけど、それは悪手だよ。髪の毛が植物状に変異しているならよく燃えるよね?
「ほら、頭をスッキリさせてあげるよ!」
私はあえて盾の排熱機能をオフにし、エネルギー弾を襲いかかる塩崎の髪の毛に放つ。やはりと言うべきか、エネルギー弾の高熱にやられて塩崎の髪が燃えた。慌てて火を消すために髪を地面へ潜らせるけど、もう遅い。放熱を間に合わせなかった先端が赤熱した盾を塩崎の頭付近で振る。本来ならなまくら同然の切れ味だけど、赤熱させたことで容易く塩崎の髪を切断できた。
「なっ!?」
髪の毛を切断されるとまでは思ってなかったのか、塩崎は狼狽してこっちを振り向く。そして目の前にあるのは私の両足。どんな馬鹿でも、この先起きることは予想できる。地面に刺した髪の支えもなくなった塩崎は、私のドロップキックで呆気なく場外に吹き飛んだ。
「ほら、スッキリしたでしょ?」
「塩崎さん場外! ノアさんが2回戦進出!!」
「ほら。手貸してあげるからさっさと起きなさい。次がつかえてるのよ? ……ま、予想してたよりも手強かったね」
「は、はぁ……」
痛そうに頭を撫でながら起き上がる塩崎に、私は手を差し伸べる。観客達は意外そうな目で見てるけど、全力で戦った者に敬意を表するのは当然だよ?
塩崎まで意外そうな目で見てたけど、困惑しながらも私の手を握って起き上がる。
「これぞ青春! いいわぁ〜〜〜〜!!!」
出たわね、ミッドナイトの癖が……私にはよく分かんないんだよねぇ、青春のよさってやつ。何がいいんだか……。
後で聞いんだけど、塩崎の髪はすぐ伸ばせるんだってさ。あーあ、なんだか損した気分だなぁ……。
観客席に戻った私は、バクゴーと今の試合はどちらが勝つのかを予想しあっていた。
今回は芦戸と上鳴の試合。賭けは無し。私はそんなに私物を持ってないし、そもそもただの予想対決だ。そんな本気になるほどのものでもない。
「そーだねぇ……私は上鳴が勝つと思う。流石に芦戸は相性悪すぎでしょ」
「アホ面が勝つに決まって……おい、被ったら対決にならねぇじゃねぇかよ」
「それもそうだねぇ……」
バクゴーは軽い文句を垂れたけど、これはどう考えても芦戸が大きく不利だ。芦戸の肌は、ほぼ常に酸性の体液を纏っている。風呂に入らなくても綺麗なままだと本人が自慢していたし、これは間違いない。芦戸はこんなので嘘をつくような奴でもないし。
実は、本来人間の身体って電流が流れにくいんだよね。でも、塩化ナトリウムみたいな電解質……つまり電気を流しやすい物質を浴びると面白いくらい通る。本来ピリッとする程度のしょぼい電流で致死量になるくらいにはね。芦戸が纏ってる酸性の体液も当然電流を流しやすい。
無策で挑めば上鳴がちょろっと電気を漏らして触れるだけでも、芦戸は大ダメージに繋がっちゃう。
「あばば…ばば…」
「うぇ〜い?(大丈夫か〜?)」
「芦戸さん戦闘不能! 上鳴くん2回戦進出!」
『なんか締まらねぇけど、とにかく上鳴が2回戦進出だァ!!!』
ただそれも直接流した場合の話。今回は空気を通して流れたおかげで、上鳴の放つ高圧電流でも殆ど減衰した。芦戸も警戒して離れていたおかげで、ところどころ肌が焦げる程度で済んだみたい。あれくらいならリカバリーガールの治療で元通りだろう。
「…八百万……うーん、いや常闇か……? ……でも八百万なら……うーん……やっぱ常闇で」
「カラス……チッ、また被ったじゃねぇか」
次は八百万と常闇の試合。本来ならあれこれ出来る八百万が有利なんだろうけど……う〜ん…………怪しい。八百万の方は悩むような顔をしている。悩んだ末に常闇と予想。またバクゴーと被ったけど、仕方ないじゃん。曲げたら曲げたでアンタ怒るでしょ。
確かに八百万の『創造』は強力だ。扱えるかは別として、構造さえ覚えてしまえば私の盾だって作れる。要求されるコストも精度も桁違いだけどね。でも、それは時間をかければの話。立ちっぱなしの状態じゃ常闇に攻められ放題。そんな状態に持ち込まれる時点で考えがまとまらないだろうし、大きなものを作るには時間がかかるのは騎馬戦で分かっている。
「八百万さん場外! 常闇くん2回戦進出!!」
『惜しかったぞ八百万! そして常闇が2回戦進出!!』
予想通りというべきか、常闇に速攻を決められて八百万は場外負け。これは相性というより、
お次は鉄哲徹鐵と切島の試合。……なんかあの二人を見てると、双子かってくらい雰囲気が似てるように思える。
バクゴーは控え室に向かったけど、『切島が勝つ』って即答した。やっぱりバクゴー、切島と私はある程度信頼してるみたいだね。バクゴーは同い年に対して名前呼びしてるのも私と切島だけだからね。
そりゃあもう泥試合だった。個性の性質もタフネスも何もかもダダかぶりどころか同レベル。片方が殴って1ダメージ与えたらもう片方も殴って1ダメージ与えるものだから、全く同じタイミングにダウン。結局予想も出来ないような腕相撲で勝負が決まることになった。
「根、性〜〜〜〜!!!!」
んで、切島が粘り勝ち。鉄哲と固い握手をしてこの試合は終わる事になった。……もしかして、バクゴーはこれすらも予想してた? まさかね……うん、ない。というかそう思いたい。
そして1回戦も最後になり、バクゴーと麗日の試合だ。……私情を挟むならバクゴーの圧勝だと願いたい。でも、相手は麗日だ。騎馬戦とは打って変わってこの戦いは浮かせれば勝ち確の麗日有利……に見せ掛けた麗日不利。相手がセンスの塊かつ、無尽蔵かと思うほどのタフネスを持つバクゴーだからね。勝ち目はゼロではないけど……はっきり言って厳しい。
仮に麗日がバクゴーの衣服か身体に触れて『
見方を変えれば、麗日が攻め続けられるならこの試合は五分五分。一瞬の油断も許されない勝負なんだよ、これは。
とにかく、今麗日がやってるみたいに触れて飛ばそうとするだけじゃ……ん? ……影が増えている?
「へぇ……麗日もやるじゃん」
私は増えていく影に気が付き、空を見て…ちょっと予想を修正した。この戦い、麗日が勝つ可能性も十二分にあるみたいだ。
「おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
「そーだそーだ!!」
でも、周囲の観客共はそう思わなかったみたいだ。どちらも油断できない接戦であることも見抜けない節穴は帰れば? あぁイラつく。撃てばちょっとは黙るかな?
『一部からブーイングが! しかし正直俺もそう思……肘っ!?何SOON『今遊んでるっつったのプロか? プロになって何年目だ? シラフで言ってるならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ。さっきも言ったが、ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してるんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろうが』
……私は盾の照準を下ろして、再びバクゴーと麗日の戦いを見る。 相澤が言ったんだし、ここで私が熱くなる必要は全くない。
ボロボロの麗日が立ち上がる。どっちが勝つのかも決まる。麗日が無重力を解除したことで、瓦礫が雨霰の如く降り注ぐ。それを見たバクゴーは……巨大な爆発を起こして全て吹き飛ばした。真正面から全て、挑戦者を打ち砕いたんだ。
「……惜しかったね、麗日。もう戦えはしても、勝てない」
麗日に闘志は残っていても身体が限界。キャパオーバーでぶっ倒れて救護ロボットに運ばれていく。……私は1人の勇敢な挑戦者に、小さな拍手を送った。