鉄 壁 メ ス ガ キ 系 ヒ ー ロ ー 作:守られる偽物
長い長い体育祭もこの決勝戦で終わり。思えば随分と運命的なカードだったねぇ。1番楽しみなのが1番最後まで残ってるなんて!
まるでカミサマがいて、私に粋な計らいをしてくれたと思っちゃうじゃん。
『さぁ!! 泣いても笑ってもこれでラストよ決勝戦! ノア対爆豪!! 雄英1年の
ゲートをくぐるのと同時にマイクお兄ちゃんが音頭を取れば、会場は大盛り上がり。
「「…………」」
言葉は既に交わした。なら、互いに構えをとって意志を示すだけでいい。極限まで集中が研ぎ澄まされて、時間の流れがゆっくりになったとさえ思えちゃう。
『互いにやる気十分ッ!! いくぜトーナメント決勝戦!! Ready……FIGHTッ!!』
掛け声と共に───というかフライング気味に───待ちくたびれたと言わんばかりにバクゴーが掌から爆発を起こしてインファイトを仕掛けてきた。
「初めてだよバクゴー!このノア様相手に全く臆せず接近戦を仕掛ける奴なんて!!」
「俺は近づかなきゃテメェを殺せねぇからな!!」
爆破一辺倒じゃない、才能にものを言わせた体術も合わさった苛烈な攻め。あまりにも単純すぎる、常に確実に勝つ事を考えてるだろうバクゴーにしてはらしくない戦い方……なにか目的がある?
「こんな時に考え事なんざッ!! 内心自慢の盾が役に立たねぇでやられんのが怖いんじゃねぇのか? あぁ!?」
「慢心してないって、言ってほしいなっ!!」
重量にものを言わせた回し蹴りで蹴り飛ばそうとするけど、紙一重で避けられる。これを狙ってやってるというのだからコイツは恐ろしいんだ。
口では強がったけど、ぶっちゃけ余裕とは到底言い難い。バクゴーのあの目……間違いなく"できる"と確信している目だ。今まであらゆる攻撃を傷一つ付けられずに防ぎきっている私の盾を、貫こうとしている。
「そっちこそ! ご自慢の個性が私の盾を貫けるか分からなくて不安なんじゃない!?」
「ほざけ!! できるできねぇが分かんねぇのに試さねぇ弱虫バカはここにはいねぇぞ!! テメェの目は飾りじゃねぇだろぉ!!」
掌底で吹っ飛ばそうとするけど、爆破が激しすぎて姿勢が崩れ、上手く力を伝えられない。仕方なく盾のバリアで強引に防いで仕切り直すけど、押し寄せるバリアを避けられて引き剥がすまでには至らない。尾白の動きを見よう見まねでやってるだけの"なんちゃって体術"じゃこれが限界か……
バクゴーは不敵な笑みを浮かべながらまだ爆破と体術でこっちを攻め立てる。ひとつひとつが雑で乱暴なはずなのに、不思議と全部が噛み合ってこっちに鋭く牙を剥く。
これだから、油断できない。常に目の前にある勝利のみを見て、切れる手札を的確に使ってこっちを追い詰めるやり方。バクゴーは切れる手札の最適解を常に出せる才能がある。……ホントに羨ましいよ。
バクゴーの攻撃は収まるどころかよりいっそう激しくなっていく。初っ端からこんな火力を出しまくっておいてスロースターターなんだからヤバいよコイツ。
「この勝負……お前がバテるまで耐えれば絶対に勝てる!!!」
「その前にテメェをぶっ殺してやるよ!!!」
『互いに一歩も譲らない超接戦インファイト!! 果たして矛と盾、勝つのはどっちだァ!!??』
バクゴーの攻撃ひとつひとつは難なく防げる。単純な威力なら前戦った黒ダルマの方が何十倍も上だし、スピードだって比べるのも失礼だ。でも、こっちの決め手に繋がる一打を作らせてくれない。黒ダルマと違ってしっかり避けるし、こっちが攻めに転じられないように嫌らしい場所へ攻撃を置かれてる。
それがずっと続くと、流石の私でも焦りが生まれるし、耐えても更に攻めが激しくなってその焦りを強めさせられる。
「オラァッ!!」
「ッ!!」
ここで初めて、私の姿勢が崩れた。今まで何も通させなかった内側に入られ、バクゴーに一撃を入れられた。
奇策を警戒してマニュアルモードにしたのが裏目に出た。焦りによる思考の鈍化で綻びが生まれてしまったんだ。
(目がっ……!!)
バクゴーの掌から強烈な音と光が放たれる。完全に向こうのペースに乗せられている。ここで仕切り直せないと……負ける!!
目と耳は潰されたけど、まだ動体センサーでおおよその方向くらいなら探れる。まだ、負けは決まってないんだ。私はここで諦めるような軟弱者じゃない!!
「
動体センサーでどの辺にいるかは分かっても、掌がどこに置かれているかなんて全く分からない。殆ど勘に任せてバクゴーのいる真上へ盾を向ける。私らしくない、運任せの選択。バクゴーは、この状況を仕組んでたんだ。
自分が釘になって打たれるような衝撃と共に、受けた盾から警告が送られる。多重装甲で防ぎきれなかった衝撃で中のパーツに大きな負荷がかかった。こいつ……私の盾を貫いたんだ。
……そういえば、随分と久しぶりな感覚だ。他の何を頼ることも出来ないあの場所で、盾を貫かれて傷を負った時のあの感覚。最近薄れてきたはずの、生き延びる事への執着心。
「ッ……おい。ご自慢の盾がやられた感想はどうだ?」
バクゴーの左手から血が垂れている。どうやらあっちも相当な無茶をしたみたいだね。しかも、痛みを我慢してまでこっちの感想を聞きたいみたいだ。私も、どういうトリックで盾を貫いたのかバクゴーの口から聞きたい。目が潰されてたせいで全く見れなかったよ。
「はぁ、はぁ……もう貫かれるなんて、思いもしなかったよ。100年くらいは、かかると、思ってた!!」
私はふらつきながらも盾を杖代わりにして立ち上がり、盾から送られる情報を見る。ジャイロ機能や浮遊機能とかの操作系がイカれたみたいだ。ここまで酷いとこれ以上は……って、あれ……ちょっと、頭がフラフラする。もしかして、さっきの衝撃で脳が揺れた……? 盾が、操作できない……。
「ッ!! まだ……まだ戦える!! 終わっちゃいない!! 盾を、たった1度、貫いたくらいで!! 倒せるとは、思わないでほしいな!!」
もう、あっちがバテるのを待てるような時間は無い。普段の私なら絶対に避ける、短期決戦で挑むしかない!!
「上等だ……しっかり俺がぶっ殺してやるよ……!」
『互いに小さくない傷を負ってるが、一ミリだって諦めちゃいねぇ!! どっちが勝ってもおかしくねぇぞ!!』
互いに出せる力は半分くらい……何なら盾が使えない私の方が大きく不利。だけどお互いもう後がない。一撃……たった一撃さえ入れられれば、今のバクゴー相手なら意識を刈り取って勝てる。
絶対に諦めるもんか。私が諦めるのは死んだ瞬間だけって決めてるんだ。
技術も経験も全部捨てた、力任せすぎる大ぶりな左ストレート。いつもの自分が見れば、呆れてしまいそうなほど単純な一打。バクゴーも私のように──違うのは右か左かだ。今はそんな事どうでもいい。当たれば同じだし──大ぶりなストレート。
「ああああああああぁぁぁッ!!!!!!」
「死ぃぃねぇぇぇぇ!!!!!」
体格差と個性による僅かに伸びたリーチでバクゴーの方がずっと早く攻撃が届いた。
私は顔に爆破をモロに食らって、意識の殆どが飛ぶ。それでも歯を食いしばって、バクゴーの脇腹に拳をねじ込んでやった。
そこから先は、覚えていない。
「おい、起きろよクソガキノア」
私はリングの上で目が覚めた。バクゴーからモーニングコール──お日様が眩しいから昼だけど──をもらってね。バクゴーは優しいのか優しくないのか、よく分からない。
「……あー、勝ったのどっち?」
「先に目ェ覚めたのは俺だ。当たり前の事抜かすなバーカ」
まだ頭が回ってないから勘弁してよ。そう言ったらバクゴーは何も言わずに私を担いで救護ロボへ乱暴に投げた。まったく、一応けが人なんだから丁寧に……ま、バクゴーらしいと言えばそうかも。
結局、その後私は精密検査を受ける事になって───中に機械がたっぷり詰まった盾の応急修理を隠すのもある──表彰式は出れなかった。その代わり保健室のテレビで見た表彰式でオールマイトが十字に組まれた木に───これ完全にお墓でしょ。私はまだ死んでないってば───銀色に輝くメダルを掛けて、カメラ目線でこう言った。
『見てるかいノア少女!! 君の最後まで欠片も諦めず戦うその執念は実に素晴らしい!! 君と爆豪少年の決勝戦は我が雄英高校の校訓を体現していた!! しかし、予想外な事に弱いのは治さないとね!!! 世の中何が起こるか分からない!! 咄嗟の事への対応力はヒーローにとって必須スキルだぜ!?』
その後バクゴーが自信満々、鼻高々に金メダルを受け取った。めちゃくちゃ満足そうだねぇ。最後にオールマイトが締めて、表彰式は終わ────
「「「プルス…「お疲れ様でした!!!」」」」
………………締まってないじゃん。
ホームルームも終えた後、私は自室でバクゴーに貫かれた盾のオーバーホールをしていた。簡易修理キットと雄英の機材で何とか直すことはできそうだ。明日と明後日は休みだから時間も大丈夫。余裕をもって修理に専念できる。
傷跡からの推測に過ぎないけど、直径数ミリ程度の円錐状に貫かれている。何らかの方法で爆破の指向性を強めたから、貫けたんだ。ただひたすらに負荷をかける点を細くしていったバクゴーの爆発に、多重装甲が耐えきれなかった……ん? ……おかしい。バクゴーの爆破の威力を考えれば、これだけ細めたところで完全に貫くまでは出来ないはず。最表層とその2層下までは貫けても、それより下はさすがに貫けないはず。最初は削れても、途中で止まってないとおかしい。いったいどうやって、下層の高硬度金属を貫いた……?
修理をしつつ、トリックの種を明かそうと考えているうちに気がついた。
バクゴーはこの貫通攻撃をする前まで、過剰なほど爆破で攻撃を重ねていた。バクゴーの起こす爆破は熱を持つ。そこまで熱量はないと思ってたけど……まぁ、努力したんだろうね。バクゴーは何でもできるし、必要だと思えば出来るまでやり続ける。
熱量に比重を傾けて、ひたすらに装甲材を柔らかくする。今までより体術の頻度が上がっていたのも、どれだけ柔らかくなっていたかの確認と考えれば説明がつく。
(……あーあ。これだから天才サマはヤなんだよねぇ……)
パズルのピースがどんどん嵌っていく。
こっちに焦りを生ませ自分は火力を上げる長期戦を仕込ませて、隙と言えない僅かな隙を確実な隙に変える閃光に寄せた爆破、確実に貫く為に汗腺への負荷を度外視した一撃、それを行える度胸と頭脳……何から何まで、計算尽くで嵌められた。完全に私をメタる為の技を並べられてそれをまともに食らってしまった。
死ぬ気で努力をすれば天才にも並べるとは言うけど、その天才にも死ぬ気で努力をされたら敵わない。
今回の敗北は、するべくしてしたものなのかもしれない。
私はバクゴーよりちょっと長く努力をしていただけの凡人で、その差を天才のアイツが埋めて、ギリギリ手が届く位にまで上り詰めて、勝利への凄まじい執念と、私に勝つ為の切り札を使って、壁を越えた……そういうシンプルな理由。最後の執念では勝ってたと思いたいけど、何を並べようと負けは負け。言い訳に過ぎない。
(…………次は、負けない)
そう胸に刻みながら、私は盾の修理を進める。パーツの強化やプログラムの改善も怠らない。
天才のアイツが百の努力をして才能でかけて千を得るなら、凡人の私は1万努力して1万を得てやる。もう、負けるものか。バクゴー…私はお前の何十倍も諦めが悪いんだよ。そうしなきゃ死んでたから、さ……。
努力に終わりなんてものは無い。……あ。でも、もし努力に終わりがあるとするなら……それは死んだ時だ。
……って、これじゃやっぱり終わりがないのと変わんないか。